AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 24 2015, Vol.348


塵を吹き飛ばせる?そんなに速くは無理(Zap the dust away? Not so fast)

塵を気化させて取り除ければすばらしいだろうが、星の爆発による強力な爆風でさえも、これはできそうにない。超新星は莫大な量の塵を生み出すが、その塵がどのようにしてその後に続く過酷な条件を生き残るのかは謎である。Lauたちは SOFIA 望遠鏡を用いて、超新星の残骸であるいて座 A イーストに関連する塵を観察した。彼らは、この塵が予想したよりもはるかに長い間持続してきたことを見出した。それは、宇宙最初期の銀河中の塵もまた、超新星に起因している可能性があることを示唆している。(Sk,kh,nk)
Old supernova dust factory revealed at the Galactic center (Science, this issue p. 413)

何が凝集同位体を支配しているのか?(What controls clumped isotopes?)

安定な同位体分子は、その質量に応じていくつかの組み合わせで凝集同位体を形成する。単純な分子である酸素分子であっても(酸素-16、酸素-17、酸素-18の種々の組み合わせを含んでいる)、凝集同位体はその分子が形成された温度を知る手がかりとなりうる。しかし、平衡状態から遠い場合、凝集同位体のパターンは複雑な凝集過程を反映するものになる。Yeungらは、光合成中に生成される酸素の場合、生物学的要因が凝集同位体の特徴に影響を与えることを高分解能ガス質量分析法により明らかいにしている(Passeyの展望記事参照)。同様に、Wangらは、平衡状態から遠い場合、凝集同位体を形成する反応速度論効果が、微生物によるメタン生成温度の過大評価の原因となることを示した。(NK,KU)
Biological signatures in clumped isotopes of O2 (Science, this issue p. 431; see also p. 394)
Nonequilibrium clumped isotope signals in microbial methane (Science, this issue p. 428; see also p. 394)

エボラウイルス用ワクチン候補(Ebola virus vaccine candidate)

エボラウイルス (EBOV)を防ぐ薬やワクチンの可能性は少ないために、我々はより多くの選択肢を必要としている。Marziたちは、必須のウイルス遺伝子(VP30)がノックアウトされているウイルスの欠損型に基づいた、有望な全エボラウイルスワクチンに関するサルでの初期研究を報告している。ウイルス不活性化をさらに確実にするための欠陥ウイルスに対する過酸化水素処理を行った場合と行わなかった場合の夫々で、この欠損型ウイルスの1回、または2回の接種は、EBOVの致死的な攻撃からサルを守った。限られた免疫学的解析において、防御は EBOVエンベロープへの抗体産生と関係していた。(KU,kh,nk)
An Ebola whole-virus vaccine is protective in nonhuman primates (Science, this issue p. 439)

ホモ接合性の変異を産生する(Generating homozygous mutations)

機能欠失型変異は、その遺伝子の双方のコピーが変異しているときだけに、変異型の表現型を産生する可能性がある。Gantzと Bierは、変異原性連鎖反応 (MCR)と呼ぶ或る方法を開発したが、それは自己触媒的にホモ接合性変異を産生する。MCRは最初の変異対立遺伝子を用いて、対立する染色体上の対立遺伝子に変異を引き起こし、こうして形質のホモ接合性を生み出す。MCRの技術は多様な生物において幅広い応用が期待される。(KU,kh,nk)
The mutagenic chain reaction: A method for converting heterozygous to homozygous mutations (Science, this issue p. 442)

重度インフルエンザの遺伝子的原因(A genetic cause for severe influenza)

ほとんどの子供は,インフルエンザウイルスの感染をチキンスープや十分な休息で切り抜けるが,入院が必要な子もいる.Ciancanelliたちは,転写因子 IRF7用遺伝子が機能喪失型の変異をしているため,インフルエンザにひどく苦しんだ一人の子供について報告している.この患者から単離された細胞は,インターフェロンと呼ばれるウイルス複製を停止させる抗ウイルスタンパク質を十分に分泌することができなかった.IRF7に必要な要件はかなり特殊らしい.というのは,この患者は,子供に対する他のありふれたウイルス感染からは正常に回復するからである.(MY)
Life-threatening influenza and impaired interferon amplification in human IRF7 deficiency (Science, this issue p. 448)

患者自身の腫瘍細胞中で薬の試験を(Drug testing in a patient's own tumor cells)

動物モデルや培養細胞を用いて、化学療法に対する患者の応答を予測することは難しい。応答特性に関する真の試験には、人腫瘍内での薬の活性評価を必要とする。二つの研究において、JonasたちとKlinghofferたちは、微量の薬を腫瘍内に直接送り込む装置を考案した。処置後に、研究者たちは腫瘍組織を切除して、癌細胞の死を定量した。双方の研究において、化学療法への局所的応答は、実験的な新薬と同様に、既知の薬の場合も全身性の投与に対する応答と対応していた。しかしながら、培養細胞中では検知されなかった薬感受性がこの 実験では検出された。(KU,kh,nk)
An implantable microdevice to perform high-throughput in vivo drug sensitivity testing in tumors (Sci. Transl. Med. 7, 284ra57 (2015))
A technology platform to assess multiple cancer agents simultaneously within a patient's tumor (Sci. Transl. Med. 7, 284ra57 and 284ra58 (2015))

リボソームは、念入りなタンパク質の折りたたみを助ける(Ribosomes help careful protein folding)

試験管内でのタンパク質の組み立ては、小さな分子の研究に役立つが、しかしより大きな、より複雑なタンパク質の組み立てを研究するには問題である。Kimたちは、嚢胞性線維症コンダクタンス制御因子(CFTR)の変異しやすいヌクレオチド結合領域の生物発生を解析した(Puglisiによる展望記事参照)。新しく合成されたポリペプチドは、リボソームから比較的ゆっくりと出現し、そして正確なタンパク質の折りたたみを確実にする調節された経路を通って折りたたまれた。タンパク質鎖の幾つかの部分は、合成と同時にすぐに折りたたまれたが、一方他の部分はかなりゆっくりと折りたたまれた。この複雑なタンパク質に対する正確な高次構造の獲得には、リボソーム自身によって部分的に導かれているようだ。(KU,kh)
Translational tuning optimizes nascent protein folding in cells (Science, this issue p. 444; see also p. 399)

心臓を正しい大きさに保つ(Keeping hearts at the right size)

処置されないままでいると,高血圧は異常な心臓肥大(病的肥大と呼ばれる状態)や心不全を引き起こす可能性がある.心不全や幾つかの癌治療用に,プロテインキナーゼC(PKC)イソ型の阻害剤が開発中である.Withalたちは,PKCイソ型の幾つかの阻害剤が、心臓疾患を悪化させる可能性があることを報告している,阻害剤開発の際に、関連した2つの PKCイソ型である PKCδと PKCεを欠いたマウスは,異常に心臓肥大していて,また,大抵,子宮中で死んでしまった.このため,PKCδとPKCεを阻害する薬剤は,心臓に有害な副作用をもたらす可能性がある.(MY,KU,kh)
Combined cardiomyocyte PKCδ and PKCε gene deletion uncovers their central role in restraining developmental and reactive heart growth (Sci. Signal. 8, ra39 (2015))

より直接的なスチレン合成方法(A more direct way to synthesize styrene)

発泡体のコップ,発泡体のペレット,プラスチック製の食器:全てポリスチレンでできており,そしてポリスチレンはスチレンから作られている.膨大な生産規模のこの汎用化学品では,その合成効率が重要である.現在の工業的反応経路は,ベンゼンとエチレンからスチレンを作るのに3段階を要している.Vaughanたちは,酸化剤として再生利用可能な銅塩を用いることにより,カップリング反応を1段階で達成するロジウム触媒を提示している.この触媒は,工業用途としては反応速度が低いが,より直接的なプロセスの実現可能性を明示している.(MY,KU,kh,nk)
A rhodium catalyst for single-step styrene production from benzene and ethylene (Science, this issue p. 421)

裸にされて追い出された銀河(Galaxies stripped down and evicted)

比較的小さく高密度のコンパクト楕円銀河は、かつてはもっと多くのものを有していたと容易に想像できる。特に、それらコンパクト銀河から物質を奪ったと考えられる、大質量銀河が近隣に見られるときはそうである。しかし、時には、そのような近傍の銀河が存在しないこともある。Chilingarian と Zolotukhin は、探査データを掘り起こし、様々な環境下で周辺部を剥ぎ取られた銀河が見出され、見るからに破壊の加害者らしき銀河が傍に存在する場合もあるし、見当たらない場合もあることを示した。近くに剥ぎ取り屋の銀河がいないこれ等の孤立銀河でも、以前にもっと混み合った近隣環境にいて、潮汐作用で引き剥がされ、そして、そこから放り出されたのかも知れない。(Wt,kh,nk)
Isolated compact elliptical galaxies: Stellar systems that ran away (Science, this issue p. 418)

単一細胞中での多種RNAの画像化(Multiplexed RNA imaging in single cells)

細胞機能の基礎は、タンパク質がどこでいつ、どれだけの量、発現するかである。単一分子蛍光 in situハイブリダイゼーション(smFISH)実験は、mRNA分子のコピー数と位置を数量化する。しかしながら、smFISHによって同時に測定できる RNA種の数は、限られていた。エラーに強いコード化図式による組み合わせ標識法を用いて、Chenたちは、単一細胞中の100個から1000個の RNA種を同時に画像化した。こうした大規模な検出法により、調節性相互作用がトランスクリプトームの規模で解析可能となる。(KF,KU,kh)
【訳注】
・in situハイブリダイゼーション:スライドガラス上に展開した染色体や細胞標本に標識したプローブを加えて特定の配列を持った核酸を検出する方法
・トランスクリプトーム:ゲノムDNAから転写によって作られるRNAの全体
Spatially resolved, highly multiplexed RNA profiling in single cells (Science, this issue 10.1126/science.aaa6090)

普通でないナノ構造を作り出す(Creating unusual nanostructures)

異種分子の断片を共有結合により強制的に結合させると、しばしば自己組織化が生じる。界面活性剤とブロック共重合体は、二つの一般的な例である。Huangたちは、一つの四面体のコアの4つの頂点上に、わずかに異なる組成を有する多面体シルセスキオキサンオリゴマーに基づく、4個の異なるナノ粒子を接合した(Yangによる、展望記事参照)。ナノ粒子の種類に応じて、彼らは様々な合金と同様に、明瞭な、秩序を持った、様々な超分子の格子を作り上げた。これらは、球体を充填した状態で普通に見られるよりも、高い配位数を持った相を含んでいる。(Sk,kh,nk)
【訳注】
・シルセスキオキサン:新素材として注目されている無機-有機複合体の一種シリカとシリコーンの中間体(RSiO1.5)
・超分子:複数の分子が共有結合以外の結合や比較的弱い相互作用により秩序だって集合したもの
Selective assemblies of giant tetrahedra via precisely controlled positional interactions (Science, this issue p. 424; see also p. 396)

ピアレビューが有望な提案を選ぶことの証明(Proof that peer review picks promising proposals)

科学の経済学(技術進歩への影響力等)における重要な課題は、技術革新のための効果的なメカニズムを見出すことである。研究助成金やその他の研究開発補助金についての懸案は、公的機関がどのプロジェクトに資金を提供するかということについて、お粗末な意思決定をする可能性があることである。その重要性、特に基礎科学や初期段階の科学の進歩に対して、にもかかわらず、政府が研究投資案件をどの程度うまく選んでいるかについての、大規模な実証的証拠は現在存在していない。LiとAghaは、1980年から2008年の間の米国国立衛生研究所(NIH)によって資金を提供された13万件以上の助成金を分析し、特に競合性の高い案件間での高い影響力のあるものを識別するために、ピア評価(ピアレビュー)が明確な利点を持つことを見出している。(hk,KU,nk)
【訳注】
・ピアレビュー:専門性の高い同じ分野の研究者による評価
Big names or big ideas: Do peer-review panels select the best science proposals? (Science, this issue p. 434)

SARM1が促進する軸索変性(SARM1-driven axon degeneration)

軸索は、神経細胞の長く突起した部分であって、発生やストレス、病気などの際に生じる、ある種の条件下で自己破壊するようプログラムされている。Gerdtsたちは、そうした軸索変性を制御している生化学的機構の概要を記述している。著者たちは、細胞中で活性化されたり、あるいは抑制される複数の SARM1のいくつかのバージョンを設計した。彼らの実験は、培養されたマウスのニューロン中で軸索の破壊を引き起こすのに、SARM1の活性化が必要かつ十分であることを示した。SARM1によって仲介される破壊は、細胞由来の代謝性補助因子である NAD+の枯渇を伴うものだった。(KF,KU,kh,nk)
【訳注】
・SARM1:ミトコンドリア上に局在する、TIRドメインをもつToll-like receptor(TLR)アダプタータンパク質の1つ
・NAD+:ニコチンアミドヌクレオチドおよびアデノシンからなる物質で、全ての真核生物と多くの古細菌、真正細菌で用いられる電子伝達体の酸化型の状態のもの。
SARM1 activation triggers axon degeneration locally via NAD+ destruction (Science, this issue p. 453)

詰まったリボソームを取り除く力(Force to unblock a clogged ribosome)

リボソームによる mRNAからのタンパク質合成は、高度に制御されている。しかし、新たに合成されたばかりのタンパク質鎖が、リボソームの出口トンネルを塞いで、タンパク質合成を遅くさせることもある。Goldmanたちは光学ピンセットを用いて、動けなくなったタンパク質鎖を引っ張ることで、詰まった出口トンネルを開けることができることを示した(Puglisiによる展望記事参照)。生体内でトンネルのすぐ外側での新生タンパク質鎖の折り畳みだけで、障害物を取り除くのに十分な力が生じ、これは、リボソームとペプチドの相互作用がタンパク質合成を微調整していることを示すものでもある。(KF,KU)
Mechanical force releases nascent chain-mediated ribosome arrest in vitro and in vivo (Science, this issue p. 457; see also p. 399)

マトリカインが内皮性漏出を制御する(Matrikine regulates endothelial leakage)

マトリカインであるアセチル-プロリングリシン-プロリン(N-α-PGP)は、炎症性疾患において、内皮の透過性を制御している。Xuたちは、炎症を特徴づける、内皮の関門機能の損失について探求した。漏出性は、修飾されたペプチド N-α-PGPおよび関与する CXCR2によって惹起されるシグナルカスケードによって刺激される。N-α-PGPは組織の損傷によって産み出される細胞外基質の断片である。N-α-PGPは血管漏出を引き起こし、それを除くと、リポ多糖によって誘発される漏出は低下した。N-α-PGPは、新規のマトリカインであり、新たな治療標的になりうるものである。(KF,kh,nk)
【訳注】
・マトリカイン:異化作用を持つ基質分解産物
The matrikine N-α-PGP couples extracellular matrix fragmentation to endothelial permeability (Sci. Adv. 10.1126/sciadv.1500175 (2015))

単一種への途上にある共生生物(Symbionts on the road to a single species)

植物や動物の種のほとんどは,他の生物体との共生的関係の中で生きている.例えば,多くの昆虫は,細胞中で栄養を提供する細菌---内部共生体---に依存しており,また,エンドウ類やマメ類は,根粒菌と呼ばれる細菌と不可欠な関係を持ち,大気の窒素を固定化している.共生関係の中で何故,関係が強くなり続ける方向へと進み,最終的に新しい1つの生物体を形成するものがあるのだろうか? KiersとWestは展望記事で,生命体の個別性に関し、進化過程でそのように大きな移行を促す条件は何であるかを検討した.1つの大きな要因は,共生生物の遺伝様式である;他の要因は,共生が行われる生態学的な状況である.ひとたび結びつきが,依存性が高く,対立の少ないレベルに到達すると,遺伝的浮動だけで,合体がさらに進行する.しかしながら,この種類の主要な移行が起こるには,厳格な条件が満たされることが必要で,そのため,稀にしか起こらないのである.(MY,kh,nk)
Evolving new organisms via symbiosis (Science, this issue p. 392)

薄膜の作成(Thin-film fabrication)

複数の材料による薄膜形成は、ある種の材料製造工程に欠かせない。逐次積層法は、互いに物理的に結合する二種以上の材料を、順次に成膜していく工程を含んでいる。Richardson たちは、順次の浸漬塗工法、スプレー法、電気化学的成膜法を含む、薄膜の作成に用いられる技術や材料のいくつかについて調べている。成膜可能な方法の多様性や材料の範囲にもかかわらず、工業化への拡張における課題のため、技術は主に実験室レベルに限られたままである。しかし、多層膜の構造や特性の微調整に対してはまだまだ大きな余地があり、これらの技術の利用の拡大に関心が集まっている。(Sk,kh)
Technology-driven layer-by-layer assembly of nanofilms (Science, this issue 10.1126/science.aaa2491)
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