AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 4 2014, Vol.344


デザイナーズ染色体(Designer Chromosome)

合成生物学の究極の目的の1つに,設計された生物体をゼロから作ることがある。DNA合成の急速な進展により,細菌のゲノム全体を組み立てることが出来るようになってきた。真核生物は,一般的により大きく,より複雑なゲノムを有しており,合成生物学者にとっては,課題がさらに大きなものとなる。Annaluruたちは (p. 55, 3月27日発行電子版),酵母菌の染色体III(yeast chromosome III)をテンプレートとし,真核生物の合成染色体を設計した。安定性の低い転写RNA遺伝子やトランスポソンを含まないよう設計されたこの染色体は,野生型のテンプレートより約14%小さく,簡単に除去できるようどの遺伝子もタグ付け(標識化)され、完全に機能する。(MY,ok,nk)
Total Synthesis of a Functional Designer Eukaryotic Chromosome

胚をあつらえるもの(Designer Embryo)

多数のシグナル伝達経路が、脊椎動物の初期胚形成の制御に関係づけられてきた。P.-F. Xuたち (p. 87)は、胚になるかどうか不明な段階の細胞を完全な胚に組織化するために必要な因子の最小の一組を同定している。in vivo、in vitroの双方で、成長因子であるNodal及び骨形成タンパク質のこの二つの逆向きの勾配だけで、ゼブラフィッシュの胚の多能性細胞を完全な胚へと組織化するよう導いた。これらの知見は、培養された多能性細胞からin vitroで組織や器官の構築を目指す再生医学の研究における手引きを与えるであろう。(KU,nk)
Construction of a Vertebrate Embryo from Two Opposing Morphogen Gradients

深部の駆動温度(Deep, Driving Temperatures)

地球のマントルの対流は、密度や粘性等のマントルの物性に大きく影響を受けている。これらの要素は温度や組成の双方に影響を受けているために、マントル対流の主因を一原因に帰することや、、中央海嶺に関連する長波長域の重力異常特性を説明することは困難であった。地震波速度の全地球モデルと、中央海嶺の地球物理および地球化学的な特性と深度とに付けた拘束条件との間の関係を調べることによって、Daltonたちは (p. 80; Kelleyによる展望記事参照)、上部マントルにまで延びた大きな温度の変化によって、地球物理的・化学的な観測結果の殆どが説明できると提案している。さらに、この解析は深部から湧き出るマントルプルームがホットスポットの火山活動の源泉であるという考えを支持する結果を与えている。(Uc,ok,nk)
Geophysical and Geochemical Evidence for Deep Temperature Variations Beneath Mid-Ocean Ridges

より大きなDNA構造体を設計する(Engineering Larger DNA Structures)

現在,自己組織化でDNAをナノ構造化する幾つかの試みがなされている。例えば,3つの腕を持つ DNA三脚構造は,より大きなワイヤーフレームの多面体に組織化することが可能である。しかしながら,複雑な形状の多くは,組織化の収率が低くなることがある。明らかに,これは,組織化単位となる小さな三脚構造が柔らかいことで,不正な組織化が生じるためである。今回,Iinumaたちは (p. 65, 3月13日発行電子版),腕の長と腕間の角度が制御された,より大きくて硬い三脚構造から、色々な形の中空ワイヤーフレーム多面体を形成できることを示している。ここには,稜の長さが100nmの四面体,立方体,六角柱が含まれている。(MY,nk)
Polyhedra Self-Assembled from DNA Tripods and Characterized with 3D DNA-PAINT

エンケラドゥスの内部(Inside Enceladus)

土星の衛星であるエンケラドゥスは、しばしば、土星探査機 Cassiniの接近飛行の目標であった。土星の最も大きい衛星タイタンのおおよそ1/10しかない小さな衛星であるが、エンケラドゥスは複雑な内部構造を有し、液体の水が豊富な兆候がある。Iess たち (p.78) は、探査機 Cassiniによって収集された遠距離からのデータを用いて、エンケラドゥスの重力モデルを構築した。結果として得られた重力場は、大きな質量異常が南極地方に存在することを示している。この重力データから慣性モーメントと静水平衡を計算すると、その地域の表面下30〜40 km の深さには大きな地下海が存在していると推定される。(Wt,nk)
The Gravity Field and Interior Structure of Enceladus

破壊のための創成(Constructed for Deconstruction)

リグニンは木材に強度を持たせるが,しかしまた、木材をバイオ燃料として用いる場合には,効率的な分解を阻害する。Wilkersonたちは (p. 90),より分解しやすいリグニンを産出するポプラを遺伝子操作で作った。より分解性の高いリグニンモノマーを含有する一握りの植物の中から,トウキ(Angelica sinensis)を選択し,そのモノリグノール転移酵素の活性を分析した。含まれている酵素のコニフェリルフェルラートフェルロイルl-CoA(coniferyl ferulate feruloyl-CoA)モノリグノール転移酵素を,その後,ポプラで発現させた。この操作を受けたポプラは,温室条件下での成長習性に変化は見られなかったが,産出されたリグニンの生分解率に改善が見られた。(MY)
Monolignol Ferulate Transferase Introduces Chemically Labile Linkages into the Lignin Backbone

運動神経の制御に応用される光遺伝学(Optogenetics Applied to Motorneuron Control)

病気や怪我で損傷を受けた神経は、神経は回復しない場合もある。そのようなケースでは、幹細胞移植を含む治療がいくらか効果を示す。しかしながら、移植細胞由来の新しい神経細胞は、通常運動を制御している中枢神経の制御系とは情報伝達できない。原理証明研究において、Brysonたちは(p. 94; IyerとDelpによる展望記事参照)、そのような情報伝達の必要性を回避するため、運動神経の分化と移植に光遺伝学による制御を加えた。マウスにおいて、このように操作された神経細胞は損傷した坐骨神経の中で結合を回復することが可能で、局所的な光刺激で活性化することにより筋肉を収縮させることができた。(Sk,nk)
【訳注】
・光遺伝学:光活性化チャネルを利用して光で神経活動を制御する研究分野、技術
Optical Control of Muscle Function by Transplantation of Stem Cell?Derived Motor Neurons in Mice

着用できるモニター(Wearable Monitors)

マイクロエレクトロニクスの進展に伴い、大量の信号を収集・伝送できる高機能デバイスが生み出されてきた。S.Xuらは (p. 70)、伸び縮みする回路基板のように作られた、柔らかな着用できるシステムの作製法について報告しているが、そこでは電子素子が、高粘弾性ポリマー中に浮かぶ薄い、曲がりくねった配線によって電気的に結合されている。極めて柔軟性のある回路は肌に密着することができ、複数の生体センシングを行うことが可能であり、健康管理や新生児ケアといった用途が期待できるという。(NK,KU,ok,nk)
Soft Microfluidic Assemblies of Sensors, Circuits, and Radios for the Skin

移動の監視(Migration Monitor)

季節移動では、数多くの動物たちが、はるかな距離を移動することが多い。そのような移動は、ある領域から別の領域へ大量のバイオマスを移動させることになるが、おそらくより重要なことは、多様で遠く離れた系の中で、食物を摂取し、排泄し、そして時には死んでしまう動物たちが移動することであろう。そのような移動は、しばしば思いがけない形で、これらの生態系のコミュニティー、栄養構造、及び機能に強い影響を与える。BauerとHoyeは(10.1126/science.1242552)、種々の分類群にまたがって移動を調査し、このような長距離の移動が果たす重要な生態系での役割や、我々のますます変化しつつある世界で動物たちが直面する特有の危険な兆候を確認した。(Sk,KU,ok)
Migratory Animals Couple Biodiversity and Ecosystem Functioning Worldwide

画像セットを完成する(Completing the Set)

Gタンパク質-結合受容体 (GPCRs)は、多様なシグナル伝達経路活性化するために細胞外シグナルを伝達する膜タンパク質である。GPCRsの機能における重要な洞察は、4つのクラスの GPCRsのうちの3つ、すなわち A、Bおよび Frizzledの構造から得られた。Wuたち (p. 58, 3月6日号電子版)は、代謝型グルタミン酸受容体 1であるクラスC GPCRの構造を報告することで、4つの画像を完全なものにしている。その構造は、クラスCと他のクラスとの間の7つの膜貫通(7TM)領域における差異を示している;しかしながら、全体的な折り畳みは保存されている。クラスC GPCRは、細胞外領域を通って二量体を形成していることが知られている;しかしながら、その構造は、コレステロールによって仲介される 7TM領域間の付加的相互作用を示唆している。(KU)
Structure of a Class C GPCR Metabotropic Glutamate Receptor 1 Bound to an Allosteric Modulator

シアン化イオンのヒッチハイク(Cyanide Hitches a Ride)

シアン化イオンは、植物におけるエチレン生合成の副産物であるが、触媒作用のある鉄中心への配位によって酵素経路を閉鎖する前に、そのイオンがどのようにして安全に除去されているのかは、いささか不可解な謎であった。提唱されてきた機構では、初期産物として、その寿命は不確かであるが、本質的にはシアン化物と二酸化炭素との弱い付加体であるシアノギ酸(cyanoformate)イオンが関与していることを示すものだ。Murphyたちは、従来とらえどころのなかったこの付加体を結晶化し、その溶液相の安定性が、媒質の誘電性と逆比例的に変化していることを発見した(p. 75; またAlabuginとMohamedによる展望記事参照のこと)。この結果は、より極性の強い水溶性環境にシアン化イオンを遊離する前に、その付加体は、酵素の疎水性領域から離れてシアン化イオンとの間を行き来している図式を支持するものである。(KF,KU,ok)
A Simple Complex on the Verge of Breakdown: Isolation of the Elusive Cyanoformate Ion

古い時代の勾配(Old Gradients)

温暖な西部太平洋赤道域と寒冷な東部太平洋赤道域との間の表面海洋温度勾配は、中間の期間やラニーニャ現象期間中よりもエルニーニョ現象の期間でより小さい。過去〜300万年前の期間(periods)を含む太平洋の海表面温度 (SST)に関するいくつかの復元考察では、永続的なエルニーニョ現象に類似する状態であったことを示唆していた。Zhangたち (p. 84; Leaによる展望記事参照)は、SSTに対するバイオマーカー由来のプロキシからのデータを報告している。そこには過去1200万年間にかなり大きな東西勾配が存在していたことが示されており、永続的なエルニーニョに類似する状態という考えに矛盾している。(TO)
A 12-Million-Year Temperature History of the Tropical Pacific Ocean

後方へか前方へか(Backward or Forward)

陸上の動物は一般に前方に歩行するが、道の前方に障害物や危険を感知すると、後方への歩行にすぐに切り替える。そうした切り替えには、脳から局所性の運動性回路へ送られる神経のシグナルが関与していて、それら運動性回路に指示して、特定の脚の筋肉を活性化する位相を変化させるようにしている。Bidayeたちは、ショウジョウバエにおいて、そのようなニューロンを同定し、それを MDN(moonwalker descending neuron;ムーンウォーク下行性ニューロン)と呼んでいる(p. 97; またMannによる展望記事参照のこと)。MDNからのシナプス伝達をブロックすると後方歩行は抑制され、逆に、人工的にMDNを活性化すると、ハエは後方に歩いたのである。(KF,nk)
Neuronal Control of Drosophila Walking Direction

SRPを解剖する(Dissecting SRP)

分泌性経路における、膜貫通性の分泌タンパク質の疎水性細胞膜中への挿入は、高度に保存されたRNAとタンパク質を含む分子機械、シグナル識別粒子(SRP)によって促進される。Grotwinkelたちは、タンパク質 SRPのサブユニット SRP68の RNA結合領域 (RBD)に結合するヒト SRP RNA(7SL RNA)のX線結晶構造を、SRP19サブユニットの存在下と非存在下の双方において決定した(p. 101)。この 7SL RNAは、RNAの1つの領域を屈曲させ、ループを再構築する SRP68-RBDによって再構築され、リボソームとの直接の相互作用を可能にする2つのヌクレオチドを曝すことになる。この知見は、このSRP RNAが、膜挿入にとって必要となる翻訳伸長の停止をどのように促進しているかを説明するものである。(KF,KU)
SRP RNA Remodeling by SRP68 Explains Its Role in Protein Translocation
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