AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 21 2014, Vol.343


人工筋肉を目指して(Toward an Artificial Muscle)

人工筋肉のための材料設計における最終目標は、大きなストローク、高効率、長いサイクル寿命、低ヒステリシス、そして低コストを併せ持つ材料を見つけ出すことにある。今回、Haines たちは(p. 868; Yuan と Poulin による展望記事参照)、これが可能であることを示した。釣り糸や縫い糸に用いられるポリマーのような高強度で簡単に入手できるポリマー繊維に、コイル状になるまで撚りをかけることにより、いくつかの刺激により作動開始可能な高効率の駆動装置を作成することができた。(Sk)
Artificial Muscles from Fishing Line and Sewing Thread

ケイ素のくっつく場所(Silicon Siting)

医薬用や農薬用の化合物の合成には、芳香環の骨格上の複数の異なる部位への選択的な機能の付与が必要である。最初に付加された置換基の大きさや電子状態は、次の置換基が付加される場所に影響を与える。Cheng と Hartwigは(p. 853, Tobisu と Chatani による展望記事参照)、特に大きさに対して高い感度を有するロジウム触媒反応を発見した。それは、すでに芳香環上にある最も大きな基から、可能な限り離れた位置にケイ素置換基を配置する。ケイ素置換基は、その後必要に応じて、炭素、酸素、窒素、ハロゲン化物などの置換基で置き換えることができる。(Sk,KU)
Rhodium-Catalyzed Intermolecular C?H Silylation of Arenes with High Steric Regiocontrol

恐れ、記憶、場所(Fear, Memory, and Place)

文脈依存的恐怖条件づけ(CFC: contextual fear conditioning)は、海馬-依存性の古典的条件付けタスクとして、ヒトのエピソード記憶をモデル化するために広く用いられている。Lovett-Barronたち (p. 857)は、 in vivo イメージングを薬理学、薬理遺伝学、光遺伝学(optogenetics)と組み合わせて調査した。彼らは、海馬領域CA1において、ソマトスタチン発現性の、樹状突起-ターゲティングγ-アミノ酪酸-放出性の介在ニューロンが、CFCに必要とされることを発見した。CFCの際に、有害イベントの感覚的特徴は、興奮性大脳皮質の求心性神経を通って海馬の出力ニューロンに到達し、そして海馬が条件刺激を排他的にコード化することを確実するように、積極的な抑制フィルタリングを要請するのである。(TO,KU,nk)
Dendritic Inhibition in the Hippocampus Supports Fear Learning

3次元グラフェン?(A 3D Graphene?)

刺激的な電子特性を示す材料の発見は、過去10年の間に凝縮系物理学を大きく進展させた。2つの代表的材料であるグラフェンとトポロジカル絶縁体には、ある共通点がある。2次元(2D)の電子状態において運動量とエネルギーの線形性を示す点であり、ディラック分散と呼ばれている。トポロジカル絶縁体の場合、バンドギャップによって特徴づけられる電子構造のありふれた特性も併せ持つことが知られている。もう一つの興味深い材料系として、トポロジカルディラック半金属があげられる。同材料はバルクディラックコーンと呼ばれる3っの運動量全ての方向に沿って線形分散を示すと予言されていた。さらにこの材料は、興味深い電子特性を示しかつ量子相転移に起因する特異な状態と相関があると予測されている。Liuらは (p. 864、1月16日号電子版)、光電子分光によりNa3Bi化合物においてこれら状態を実測することに成功している。(NK,nk)
Discovery of a Three-Dimensional Topological Dirac Semimetal, Na3Bi

注入ヒドロゲルを最適化する(Optimizing Injectable Hydrogels)

注入ヒドロゲルは液体の形で注入でき,また,その場でゲル状態に転換できるため,再生医療用の足場材料として有望であることが示されてきている。しかしながら,体内にあるようなイオン性の溶液に曝されると,体積が倍に増えることがあり,こうなると材料的に弱くなってしまう可能性がある。Kamataたちは (p. 873)ヒドロゲルに熱応答性の成分を加え、加熱の際に熱応答性成分がしぼんでヒドロゲルの膨張を相殺するようにした。実際,得られたゲルは,生理的溶液に浸漬した後も,膨潤前の体積を保持し,伸張や圧縮を繰り返しても機械的強度を維持した。(MY,KU,nk)
"Nonswellable" Hydrogel Without Mechanical Hysteresis

成果の高い組織修復に向けて(Toward Successful Tissue Repair)

成長因子を組織修復治療に用いることに対して,安全性や有効性の点で課題が生じている。Martinoたちは (p. 885),成長因子の潜在能力が達成されていないのは,非生理的輸送であるためと考え,細胞外マトリックスタンパク質に強く結びつく成長因子を遺伝子工学的に作製した。野生型タンパク質と比べ,これらの改変型では優れた組織修復性を引き出すことができた。さらには,好ましからざる副作用が低減した:例えば,野生型の血管新生増殖因子 VEGFの治療効果を限定化する課題である血管透過性について,遺伝子工学的に作製されたVEGFでは,透過性が低減することが示された。(MY)
【訳注】 ・成長因子:特定の細胞の増殖や分化を促進する内因性のタンパク質の総称 ・細胞外マトリックスタンパク質:細胞外の空間に存在するタンパク質で,骨格形成、細胞接着の足場、細胞増殖因子などの保持等の役割を担う
Growth Factors Engineered for Super-Affinity to the Extracellular Matrix Enhance Tissue Healing

二つの表面を持ったウイルスのタンパク質(Two-Faced Viral Protein)

フラビウイルスは、ウエストナイル熱やデング熱といったヒト疾患を引き起こす。フラビウイルスの非構造タンパク質 1(NS1)は、フラビウイルスの生物学において複数の機能を持っており、そしてワクチン開発に対する標的である。二量体の NS1は、宿主細胞内でのウイルスゲノムの複製に必須であり、一方六量体の NS1は分泌され、免疫系の回避にある役割を果たしている。Akeyたち (p. 881, 2月6日号電子版; Shiによる展望記事参照)は、ウエストナイルウイルスとデングウイルスからの全長のグリコシル化 NS1の結晶構造を報告している。その構造は3っの二量体からなる六量体を示している。リポソーム、および変異性の研究を構造解析と併用した結果、二量体の一方の側は膜と相互作用する表面であり、他方の側は免疫回避の表面であると同定された。(KU,nk)
【訳注】リポソーム(liposome):脂質の二重層膜からなる小胞で、人工膜の一種
Flavivirus NS1 Structures Reveal Surfaces for Associations with Membranes and the Immune System

おっと、それは正しくない(Oops, That's Not Right...)

我々の行動を評価して過ちを検知することは、適応行動において極めて重要である。この根本的な実行機能は、認知的そして社会的な神経科学で重点的に研究されてきたが、解剖学的な根拠(basis)はまだ十分に特徴づけられていない。てんかん手術を行う患者の事前検査として行われる脳波検査を用いて、Boniniたち (p. 888)は、広く想定されていたことに反し、前帯状皮質(Anterior cingulate cortex)ではなく、補足運動野(supplementary motor area)が、これらのプロセスの主導的役割を果たしていることを発見した。そのデータは、行動を見張ってエラーを処理する機能の根底にある、大脳皮質神経回路の正確な空間的-時間的記述を提供している。(TO,nk)
Action Monitoring and Medial Frontal Cortex: Leading Role of Supplementary Motor Area

変化への頑強さ(Robust to Change)

転写制御因子の結合を決める遺伝的配列における変化は、進化に関する重要な一側面であると信じられている。しかしながら、ゲノムがどの程度頑強であるのか、即ち、変化に抵抗できるのか、そして頑強さが進化にどのように影響を与えているかははっきり分かっていない。PayneとWagner (p. 875)は、マウスと酵母のゲノムにおける転写制御因子 (TF)の結合を調べることで、変異に対する頑強さに関して経験的な方面ではどのくらい支持できるかを研究した。変異の程度に関するネットワーク解析は、TF結合に関する最高の親和性を持つ部位は、ヌクレオチド置換に対して最大の抵抗性を示し、一方低親和性の部位は変異により大きな感受性を示すことを明らかにした。このように、変異の頑強さと進化能力(evolvability)は、遺伝子型のレベルでは拮抗するが、表現型のレベルでは相乗的である。(KU,nk)
The Robustness and Evolvability of Transcription Factor Binding Sites

モルフォゲンのパイプライン(Morphogen Pipeline)

モルフォゲンの発生上の効果は、しばしば、細胞からのある種のシグナル伝達タンパク質の遊離の結果であって、これが次に拡散し、遠くの標的細胞上の受容体と結合することによって作用する、と考えられている。しかし、そのようなコミュニケーションには、もう一つ別の仕組みが存在するという証拠が蓄積されつつある。ショウジョウバエの血管内皮細胞は、細胞から長い距離にまで達する長くて細い伸長部分があって、これら「cytoneme」は、離接する細胞からモルフォゲンを吸収しうるのである。そうした構造にシグナル伝達の役割がある、ということを支持するキーとなる実験は、cytonemeを破壊するとシグナル伝達も破壊されることを示すことである。Royたちは、そうした証拠を提示し、ハエの、デカペンタプレジック(トランスフォーミング増殖因子βの親戚)として知られるモルフォゲンが、気管の適切な発生を促進するためには、cytonemeを通じて輸送されねばならない、と結論付けている(10.1126/science.1244624, 1月2日電子号版; またRorthによる展望記事参照のこと)。(KF)
【訳注】モルフォゲン:局在する発生源から濃度勾配がある形で遊離され、形態形成を支配しているとされる物質
Cytoneme-Mediated Contact-Dependent Transport of the Drosophila Decapentaplegic Signaling Protein

膜内の触媒作用(Catalysis in the Membrane)

内在性膜タンパク質内の UbiAスーパーファミリの酵素は、ユビキノンやクロロフィル(葉緑素)のような脂溶性芳香族化合物を合成するが、これらの化合物はミトコンドリアと葉緑体の膜におけるエネルギー貯蔵とエネルギー移動に機能する。ChengとLi (p. 878)は、アポ状態と基質と結合した状態の双方における古細菌の UbiA タンパク質の構造について報告している。この構造は側面に出入り口(a lateral portal)を持つ大きな活性部位を示しており、これが長鎖のイソプレノイド基質への出入りを可能にしているらしい。この発見は、基質認識と触媒作用についての或るメカニズムを示唆しており、また真核生物の同族における疾患関連の変異体を説明することができる。(hk,KU)
【訳注】アポ状態:複合タンパク質におけるタンパク質の部分
Structural Insights into Ubiquinone Biosynthesis in Membranes

嗅内細胞のクラスター(Entorhinal Cell Clusters)

内側嗅内皮質(medial entorhinal cortex)の層2中のニューロンの機能を理解すること、またそれらが、事実や過去のイベントの想起において重要となる独特の発火パターンをどのように産生しているかについて、かなりの関心が集まっている(Blairによる展望記事参照)。Rayたちは、覚醒し、自由に動く動物における免疫反応性や突起のパターン、微小回路解析、時間的放電特性の評価によって、層2中の主細胞を調べた(p. 891, 1月23日号電子版)。接線断面では、錐体神経細胞は六方晶の格子に配列された複数のパッチ状にクラスター化されていて、これは、格子細胞の空間的発火において観察されるパターンに非常に似ている。それらのパッチは、格子細胞の活性の持続にとって重要な、選択性のコリン作動性の神経支配を受けていた。Kitamuraたちは、それら細胞が、海馬のCA1領域に直接突起を伸ばし、異なるクラスの抑制性ニューロンとシナプス結合することで、海馬回路の1つを駆動していることを発見した(p. 896, 1月23日号電子版)。この回路は、内側嗅内皮質の層3からの入力と組み合わさって、フィードフォワードの抑制を提供し、CA1錐体細胞へと突起を伸ばして、時間的関連性の入力の強度と時間窓を決定している。(KF,KU)
Grid-Layout and Theta-Modulation of Layer 2 Pyramidal Neurons in Medial Entorhinal Cortex
Island Cells Control Temporal Association Memory
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