AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 3 2014, Vol.343


グリコシル化の理解(Understanding Glycosylation)

グリコシル化---共有結合によるタンパク質への炭水化物の付加---は多くの生物学的過程の中で中心的な位置を占めている。最近における多糖類の役割に対する理解の進展---例えば,タンパク質の折りたたみや免疫調節---により,多糖類がガンから微生物感染に至る,多くの病状に関与していることも明らかにされた。Dalzielたちは (p. 10.1126/サイエンス.1235681),病原体侵襲,ガン,自己免疫,先天性疾患における現在の多糖類の知見についてレビューしている。(MY)
Emerging Principles for the Therapeutic Exploitation of Glycosylation

明るい光(Bright Lights)

γ線の明るい閃光であるγ線バースト(GRB)は、質量の大きな星の崩壊と関係していると考えられている。GRB 130427Aは2013年4月27日に検知され、それは今日まで観測された中で最も長いγ線の持続時間を持ち、またバーストが等方的と仮定したなら最大のエネルギー放出を示した中の一つである (Fynboによる展望記事参照)。Ackermannたち (p. 42, 11月21日号電子版)は、Fermi Gamma-Ray Space Telescopeを用いて得られたデーターについて報告しているが、そのデータは標準的な外部衝撃波シンクロトロン放射モデル(standard external shock synchrotron radiation model)では説明できないような高エネルギーのスペクトル成分を明白にしている。Vestrandたち (p. 38, 11月21日号電子版)は、極端に明るい可視光の閃光の検出と、可視光と最高エネルギーγ線の起源が共通であることを示唆する両者の時間変動の予期せぬ類似性を報告している。Preeceたち (p. 51, 11月21日号電子版)によるGRB 130427Aの最初のパルスの詳細な解析結果は、既存のモデルでは観測されたスペクトルと時間的挙動の全てを同時に説明できないことを示唆している。Maselliたち (p. 48, 11月21日号電子版)は、スウィフト観測衛星と連続観測ができるよう地球上に配置されたいくつかの地上望遠鏡によって観測されたバーストの残光と共に、バースト期放射のx-線と可視光の光度変化を報告した。 (KU.nk)
Fermi-LAT Observations of the Gamma-Ray Burst GRB 130427A
The Bright Optical Flash and Afterglow from the Gamma-Ray Burst GRB 130427A
The First Pulse of the Extremely Bright GRB 130427A: A Test Lab for Synchrotron Shocks
GRB 130427A: A Nearby Ordinary Monster

簡素なアジリジン(Unadorned Aziridines)

多用途の合成中間体として機能するアジリジン (歪んだ三角形の炭素-窒素-炭素からなる環構造体)を作る触媒方法が多数開発されてきた。しかしながら,その多くは,その後の取り外しが厄介なスルホニル基で窒素前駆体を保護することが必要となる。Jatたちは (p. 61; TurkmenとAggarwalによる展望記事参照),窒素源としてヒドロキシルアミン誘導体を既存のロジウム触媒と一緒に用いて,窒素が単に水素やメチル基に結合しているだけで保護基のない, 広範囲なアジリジン類を合成した。(MY,KU,nk)
Direct Stereospecific Synthesis of Unprotected N-H and N-Me Aziridines from Olefins

かくれんぼ(Playing Hide and Seek)

癌細胞のみを狙い撃ちする標的治療は、患者に有望な結果をもたらしているが、このような薬剤が長期的な効果を与えるものはほとんどない。それは腫瘍細胞が急速に薬剤耐性を持つためである。Nathansonたち (p. 72, 12月5日号電子版)は、神経膠芽腫細胞がエルロチニブ(上皮増殖因子受容体 (EGFR)を標的とした薬剤である)に対し変異したEGFR遺伝子の染色体外コピーを除去することで耐性となることを示している。休薬の期間の後に、変異したEGFR遺伝子は染色体外DNAに再出現し、そしてその腫瘍細胞は再び薬が効くようになる。癌細胞がこの「かくれんぼ」メカニズムによって薬物療法を逃れているというこの発見は、神経膠芽腫患者におけるエルロチニブの最適な投薬スケジュールに役立つであろう。(KU,nk)
Targeted Therapy Resistance Mediated by Dynamic Regulation of Extrachromosomal Mutant EGFR DNA

大麻を中和する(Counteracting Cannabis)

麻薬に溺れる際のステロイドホルモンの役割とは何なのだろう? Valleeたち (p. 94)はげっ歯類を用いた研究から、主要な依存性薬物 (モルヒネ、コカイン、アルコール、ニコチン)の全てが神経ステロイドのレベルを高め、中でも大麻(cannabis)の活性成分 (THC)は特に大きな増加を誘発していることを見出した。THCや他の薬物はプレグネノロン(昔から下流の活性なステロイドの不活性な前駆物質であると考えれていた)のレベルを高めていた。プレグネノロンはTHCの既知の行動性と体細胞性の影響のほとんどを中和した。(KU,nk)
Pregnenolone Can Protect the Brain from Cannabis Intoxication

全ゲノムスクリーン法を改善する(Improving Whole-Genome Screens)

ゲノム-スケールの機能的スクリーンにおいて個々の遺伝子のノックアウト(機能を完全に止めること)に対して改善方法が必要とされている。Wangたち (p. 80, 12月12日号電子版) と Shalemたち (p. 84, 12月12日号電子版)は、細菌の CRISPR/Cas9系を用いて、低分子干渉RNA (siRNA) スクリーン法に付随する欠点の幾つかを回避できるパワースクリーンプロトコールを開発した。この方法によるゲノム編集は完全に標的遺伝子を破壊し、かくして転写物の量が siRNAにより部分的に減少した際に生じるシグナルの減少を回避できる。更に、CRISPR系による遺伝子ターゲッティングは、既存の方法よりもより正確、かつ本質的により少ないオフターゲット効果(off-target effect)を生み出している。(KU)
【訳注】
・オフターゲット効果:siRNAによる非特異的な遺伝子の発現抑制効果
Genetic Screens in Human Cells Using the CRISPR-Cas9 System
Genome-Scale CRISPR-Cas9 Knockout Screening in Human Cells

画像をコンピュータで(Computing an Image)

レーザパルスのバーストを照射して後方-反射光子を検知することは、三次元 (3D)画像形成のために広く使われている方法である。Kirmaniたち(p. 58, 11月29日の電子出版)は能動的な画像形成法について述べているが、その方法においては、レーザ光パルスにより対象物をラスタースキャンし、そして単一光子検出器によって後方-反射レーザ光の第1番目の光子を検知する。対象物のいろいろな個所から散乱する光子の空間相関を取ることによって、3D画像のコンピュータ作成が可能となる。生物学的応用に関して、最も重要なことは、この技術が画像品質を犠牲にすることなくレーザパワーを低減させることを可能にしたことである。(hk,KU)
First-Photon Imaging

親しみは軽視を生むのではない(Familiarity Does Not Breed Contempt)

メスの交配相手に関する好みは、魚から霊長類までのさまざまな種において、社会的な親しさによって影響されている。Okuyamaたちは、ニホンメダカにおいて、メスが見慣れないオスよりよく見慣れたオスと交配したがること、そしてこの好みがメスの脳の特異的な神経調節性ニューロンによって仲介されていることを明らかにした(p.91)。(KF)
A Neural Mechanism Underlying Mating Preferences for Familiar Individuals in Medaka Fish

励起子液体(Exciton Liquid)

励起子は,電子と正孔(電子が空になった状態)が結合した状態であり,半導体で知られていて,十分に大きな密度と低温の条件で相関相(correlated phases)を形成することが昔から予想されていた。Sternたちは (p. 55),空間的に分離されているものの相互作用している量子井戸中に存在する電子と正孔から構成される空間的間接励起子の挙動を研究した。このような励起子は,光励起と電気的ゲーティングを組み合わせて生成された。十分低い温度で十分パワーの高いレーザが照射されると,蛍光の特徴が明確に異なる新しい相が出現した。この相は,蛍光挙動が古典的な励起子液体と一致していた。(MY)
Exciton Liquid in Coupled Quantum Wells

導電体にするゲスト(Guests for Conductors)

金属有機構造体(MOF)化合物の薄膜は,一般的に電気伝導性に乏しい。それは,接続役割を果たしている有機基が,π軌道共役性をほとんど持たず,通常,絶縁体であるためである。Talin たちは(p. 66,12月5日発行電子版),銅ベースのMOFであるHKUST-1に,共役性有機分子である7,7,8,8-テトラシアノキノジメタンが浸透した膜が,空気中で安定で,7S/m(ジーメンス/m)もの大きさの伝導率を持つ物質となることを示している。(MY)
Tunable Electrical Conductivity in Metal-Organic Framework Thin-Film Devices

Y染色体の本質(Why, Oh Y?)

哺乳類のY染色体は、雄性のシンボルであって、オスをつくるために重要な遺伝子をコードしている。Y染色体の多様な欠失は、精子の欠損や不妊症という結果をもたらす。一倍体の雄性生殖細胞が直接卵母細胞に注入された場合、Y染色体の寄与がほんの2つの遺伝子だけに制限されている雄性マウスから、生きた子孫が生まれることを、Yamauchiたちは発見した(p. 69, 11月21日電子版; またCapelによる展望記事参照)。その2つの遺伝子とは、精巣決定要因因子 Sryと精巣増殖因子 Eif2s3yである。(KF)
Two Y Genes Can Replace the Entire Y Chromosome for Assisted Reproduction in the Mouse

染色体の凝縮(Chromosome Condensation)

真核細胞の細胞分裂の際にみられる高度に凝縮した細胞分裂中期の染色体の構造を形成する力は、いまだに殆ど分かっていない。試験管内での証拠からは、ヒストン H4の尾と H2A-H2Bとの相互作用などのような、ヒストンのアミノ末端の複数の尾が染色体の超凝縮において重要な役割を果たしていることが示唆される。Wilkinsたちは、パン酵母のヒストンにおける紫外線−誘導のクロスリンカーであるアミノ酸を用いて、有糸分裂の初期に Haspinキナーゼによる H3スレオニン3のリン酸化によって染色体パッセンジャー複合体 (CPC)が補充されることを示している(p. 77)。これに引き続いての H3セリン10の CPCによるリン酸化が、ヌクレオソームへの脱アセチル化酵素 Hst2pの補充を可能にしている。Hst2pは H4リジン16の脱アセチル化を駆動し、隣接したヌクレオソームにおける H4と H2A-H2Bとの相互作用の進行を促し、クロマチン凝縮を促進するのである。(KF)
A Cascade of Histone Modifications Induces Chromatin Condensation in Mitosis

DNA損傷の修復(DNA Damage Repair)

ヒト癌において、癌遺伝子の活性化はDNA複製を妨害し、DNA複製ストレスとDNA二重鎖切断 (DSB)をもたらす。 Costantinoたちは、DNAポリメラーゼδの2つのサブユニット、POL3とPOL4をヒト細胞におけるDNA複製ストレスを生き延びるのに決定的なものとして同定した(p. 88, 12月5日電子版)。双方のサブユニットは、或る特異的なタイプのDSBのの修復に必要な切断誘導型複製(break-induced replication:BIR)に必要であり、また、双方のサブユニットは、BIR中の進行性DNA合成におそらく必要となっている。ヒトの乳癌や卵巣癌に見られるのと同様な、直列型の頭部から尾部への複製と折り返し反復(fold-back inversion)が、複製ストレス細胞に見られることから、癌細胞における損傷したフォークを修復するのに、BIRが重要であることが示唆される。(KF,KU)
【訳注】
・切断誘導型複製:遺伝子組み換えの反応機構を説明するモデルの一つ
・折り返し反復:一本鎖DNAが折り返って水素結合セグメントを作る
Break-Induced Replication Repair of Damaged Forks Induces Genomic Duplications in Human Cells
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