AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 15 2013, Vol.342


すぐに乾く地域(Quick-Dry Region)

サハラ砂漠は、地球上で最も乾燥している地域の一つである。しかしながら、11,000〜5,000年前には、サバンナ緑地や湿潤な熱帯森林を有する比較的緑豊かな地であった。この時代、すなわち完新世初期のアフリカ湿潤期の期間は、もちろん終わっているが、乾燥が急速に、もしくはゆっくりと進んでいたかどうかについては、よく分かっていない。TierneyとdeMenocalは (p. 843, 10月10日号電子版; Bardによる展望記事参照)アフリカの角(the Horn of Africa)から得られた証拠について報告しているが、その報告は、湿潤な時代に入って、そして終わったその移行期が、千年以上というより数百年以内に終了しており、急速に起こったことを示している。(Uc,KU,ok)
【訳注】アフリカの角:アフリカ大陸東端のソマリア全域とエチオピアの一部などを占める半島
Abrupt Shifts in Horn of Africa Hydroclimate Since the Last Glacial Maximum

二回の転写で作る単層グラフェン(Monolayer Graphene via Two Transfers)

多少の二層領域を含む配向したグラフェンの単層は、炭化ケイ素結晶表面に形成することが可能であるが、費用効率の面から、炭化ケイ素結晶を再利用できるように、グラフェンを剥離して他の基板上に転写する必要がある。Kimたちは(p. 833, 10月31日号電子版)、シリカ基板に転写するためのグラフェン層を剥離する「道具」として、特定の表面歪みを発生させるような厚みに成長させたニッケルフィルムを用いた。その後、金の層を用いて二層領域から過剰な単層を除去して、エレクトロニクスへの応用に適した単層膜を作り上げた。(Sk,nk)
Layer-Resolved Graphene Transfer via Engineered Strain Layers

エキソームからのアンサー(Answers from Exomes)

エキソームの配列決定(これはゲノムのタンパク質翻訳領域のみを標的とする)は、稀な遺伝病の根底にある遺伝子的原因を同定できる可能性を持っている。Anguloたち (p. 866, 10月17日号電子版; Conley and Frumanによる展望記事参照)は、重篤な, 反復性の 呼吸器感染症を持つ無関係な7家族の人たちのエキソームの配列決定を行った。患者たちは、ホスホイノシチド3キナーゼ δ(PI3Kδ)の触媒サブユニットをコードしている遺伝子に同じ変異を持っていた。このキナーゼは免疫細胞のシグナル伝達にキーとなる役割を果たしているが、変異はキナーゼの異常な活性化を引き起こしていた。PI3Kδを抑制する薬品は、既に他の病気対する臨床治験中である。(KU.nk)
Phosphoinositide 3-Kinase δ Gene Mutation Predisposes to Respiratory Infection and Airway Damage

流転する森林(Forests in Flux)

世界中の森林は絶えず変化している。すなわち、ある地域では喪失が加速しており、また、他の地域では増大している。Hansenたち (p. 850) は、地球規模の30mの空間分解能の Landsat のデータを用いて、2000年から2012年の森林の広がりや喪失、増大の特徴的な様子を調べた。全地球的には、この12年の間に、230万平方kmの森林が失われ、80万平方kmの新しい森林が増大した。熱帯地方は、喪失も(再成長と植林による)増大もともに最も大きく、そしてそこでは喪失が増大を上回っていることを示している。(Wt,ok,nk)
High-Resolution Global Maps of 21st-Century Forest Cover Change

長寿命のドナー(Long-Lived Donors)

シリコンのような材料中で量子コンピューティングを実現できれば、既存の電子部品との融合が容易になると期待されている。しかし、キュービットのコヒーレンス時間は、固体中のざわざわした環境との相互作用により、特に室温中では大きく影響を受けてしまう。シリコン中の中性リンの核スピンに基づいたキュービットで観測されたように、同位体不純物を基材から取り除くとコヒーレンス時間が長くなることが知られている。Saeediらは (p. 830)、この系の中性リンドナーを荷電リンドナーに変更した事例について報告している。ドナーの状態を光学的に操作し、また動的デカップリングを活用することで、キュービットのコヒーレンス時間を極低温で3時間、室温で39分にすることに成功している。(NK,ok,nk)
【訳注】動的デカップリング(dynamical decoupling)については、Science誌 Vol.330, October 1 pp.60-63,2010の抄録記事「量子系での損失を防ぐ(Avoiding Loss in a Quantum System)」を参照されたい。
Room-Temperature Quantum Bit Storage Exceeding 39 Minutes Using Ionized Donors in Silicon-28

紡錘のサイズを調節する(Scaling Spindle Size)

in vivoで細胞のサイズを調節することが難しいために、小器官が細胞発生の間でサイズを合わせるという仮説を実証することを困難にしている。この目的に向かって、Hazelたち (p. 853)と Goodたち (p. 856)は微小流体系を開発したが、その中には、細胞質の抽出物が明瞭なサイズを持った仕切り内にカプセル化されている。無細胞の抽出物内部で構築された紡錐体のサイズは、紡錐体が組み立てられる仕切りの容積に合わせて変化した。この発見は、細胞質の成分、特にチューブリンの使える量が、細胞サイズの減少に伴って低下したことが、紡錘体のサイズの縮小をもたらしていることを示唆している。(KU,kj,nk)
Changes in Cytoplasmic Volume Are Sufficient to Drive Spindle Scaling

ネットから逃れる(Slipping the NET)

細菌に感染された時の注目に値する応答の1つに,多形核白血球のDNAから作られたNETs(好中球細胞外トラップ)の放出がある。NETsは病原体の働きを停止し,マクロファージの食作用を抑制する機能を持つ。黄色ブドウ球菌は,多形核白血球のDNAをデオキシアデノシン(dAdo)へ分解することでNETsから逃れている。Thammavongsaたちは (p. 863),dAdoが免疫細胞の死をも促進していることを見出した。これにより,細菌の生存場所である膿瘍中心からのマクロファージの排除がなされるものと思われる。(MY,kj)
Staphylococcus aureus Degrades Neutrophil Extracellular Traps to Promote Immune Cell Death

イヌの家畜化(Dog Domestication)

イヌの家畜化や家畜化されたイヌの最初の祖先が正確にどのようであったかは明確でない。Thalmannたちは (p. 871; 表紙参照),現在生息するイヌとオオカミ,および1,000年〜36,000年前の旧大陸と新大陸のイヌ科動物の18の化石に対して,完全なミトコンドリアのゲノムを解析した。そのデータから,現在絶滅した中央ヨーロッパの古代オオカミ集団が家畜化されたイヌの直接の祖先であることが示唆された。さらに,古代のイヌの幾つかは家畜化に失敗した例である可能性が示されている。(MY,nk)
Complete Mitochondrial Genomes of Ancient Canids Suggest a European Origin of Domestic Dogs

シリコンを安定にする(Stabilizing Silicon)

太陽光による水分解は、太陽光から電力への直接変換を補うエネルギー貯蔵メカニズムとしての潜在力を有している。光を吸収し、反応を触媒するような水中の集積素子が提案されてきたが、安定性に問題があった。Kenneyたちは(p. 836; Turner による展望記事参照)、ニッケルコーティングが、十分に光を透過させる薄さで、リチウム/カリウム・ホウ酸塩電解質のアルカリ環境下でシリコン吸収体を保護できることを見出した。また、ニッケルは酸化触媒として機能し、リチウムイオンはその場で保護フィルム構造を形成する手助けとなった。(Sk,kj)
High-Performance Silicon Photoanodes Passivated with Ultrathin Nickel Films for Water Oxidation

枯れた樹木(Dead Wood)

樹木は,昆虫や菌類,他の病原体からの広範な病害に侵される。このような病害はしばしば大ニュースとなる--特に人々にとって象徴的な意味合いを持つ樹木種が病害にやられた場合には--。現在,ヨーロッパ中に広がっているトネリコ立ち枯れ病や,アメリカクリノキを荒廃させているクリ胴枯れ病がその例である。しかしながら,自然および管理生態系中の樹木が果たす生態系の貢献に対して,これらの病害がもたらす影響はどのようなものであろうか? Boydたちは (10.1126/サイエンス.1235773),樹木病害の拡散をグローバル化と気候変動の結果としてレビューし,樹木病害の結果生じる木材や果実の生産への損害,気候調整への損害,公園や森林への損害を分析した。(MY,ok,nk)
High-Performance Silicon Photoanodes Passivated with Ultrathin Nickel Films for Water Oxidation

P450のpKa(The pKa of P450)

チトクロム P450酵素は、ヘム鉄中心での酸素の活性化を介して炭化水素を酸化する。しかしながら、タンパク質骨格は、酸化に対する感受性のある多様な部位(とりわけチロシン残基)を有しているので、その酵素は、骨格自身を攻撃することなしに、いかにして、基質を急速に酸化できるのだろうか?Yoscaたちは、基質酸化と自己酸化の競合におけるエネルギー力学を、酵素の鉄(IV)水酸化物モチーフのpKaを測定することによって、探求した(p. 825)。P450構造中の鉄へのシステインチオラートの配位により、pKaがおよそ12と上昇し、これによって鉄のオキソを他のヘム環境中の類似のモチーフよりもはるかに塩基性にしていた。これと対応するように、基質からの水素原子移動の電子的環境は、酵素骨格の残基からの電子移動よりも相対的に起こりやすくなった。(KF,KU,kj,nk)
【訳注】pKa:酸解離指数
The Consequence of Tree Pests and Diseases for Ecosystem Services

[2+2]環化付加反応における非対称性([2+2] Asymmetrically)

熱反応における触媒は、結合した基質(反応中間体)のエネルギー障壁を下げ、それによって、所定の温度での生成物へと進む試薬の割合を増すように作用する。光化学反応において、光はその障壁を越えるエネルギーを提供する。それゆえ、与えられた試薬が光を吸収するとき、触媒が結合していないかもしれないので、触媒作用によって選択性を変化させることは大きな課題である。BrimioulleとBach (p. 840)は、結合した基質の吸収波長を変えるような触媒を使うことでエノンの光誘導分子内 [2+2] 環化付加反応においてこの問題を乗り越えた。このように、光は主に基質-触媒複合体によって吸収され、触媒により非対称性が誘導され、鏡像異性体の濃縮された生成物が得られた。(hk,KU,kj)
【訳注】 ・エノン:不飽和ケトン、特にエチレンと共役したカルボニル構造をエノンと呼ぶ ・[2+2] 環化付加反応:エチレン(2電子系)の光二量化反応による四員環形成反応
Enantioselective Lewis Acid Catalysis of Intramolecular Enone [2+2] Photocycloaddition Reactions

遺伝子の量を正しく保つ(Getting the Dosage Right)

性染色体が進化するにつれ、それは差示的遺伝子量(differential gene dosage)、とくに非-性特異的遺伝子のそれを補償しなければならなくなる。しかしながら、性染色体になろうとするプロセス中にある染色体は比較的稀れであるので、結果として遺伝子量補償につながる進行中の進化過程は、はっきりしていない。EllisonとBachtrogは、進化的に新しいショウジョウバエ(Drosophila miranda)のネオ-X染色体上に、オスにおける遺伝子量補償に関与する特異的転位因子を同定した(p. 846; またChuongとFeschotteによる展望記事参照)。この転位因子の特別のコピーが、雄性特異的な致死的複合体に結合するネオ-X染色体上のクロマチン侵入部に挿入されていて、これによって、ひとつの染色体上でのクロマチンサイレンシングの伝播が促進され、遺伝子量補償がもたらされるのである。(KF,kj,nk)
Dosage Compensation via Transposable Element Mediated Rewiring of a Regulatory Network

問題の根(The Root of the Problem)

根の成長点中の静止中心(QC)は、根の幹細胞ニッチを維持するための幹細胞オーガナイザとして、鍵となる役割を果たしている。QC細胞は2つの役割を果たす。隣接する幹細胞の分化の予防と、ときたま生じるだけの細胞分裂を介しての根構造の維持である。QC細胞の増殖率が低いことを説明する仕組みは、不明であるが、後期促進複合体/サイクロソーム(APC/C)E3ユビキチンリガーゼがQC細胞の分裂を抑制していることが知られている。 APC/C-同時精製(copurifying)タンパク質の系統的機能解析を通じて、Heymanたちは、転写制御因子ERF115を、QC細胞の分裂の律速因子として特徴付けた(p. 860)。ERF115はQC細胞を静止状態にしておくために破壊される必要がある。ERF115はブラシノステロイド依存的な様式で作用し、QC細胞の分裂を、フィトスルフォカイン・シグナル伝達の転写活性化を介して制御しているのである。(KF,KU,kj)
【訳注】 ・ブラシノステロイド:植物ホルモンの一つ、成長促進ホルモン ・フィトスルフォカイン:5アミノ酸からなる生理活性ペプチドで、植物に普遍的な成長制御因子
ERF115 Controls Root Quiescent Center Cell Division and Stem Cell Replenishment

はじめの状態を解析する(Dissecting Initiation)

リボソームはタンパク質を作る。タンパク質合成の開始段階には開始因子(IF)が関与しており、メッセンジャーRNA(mRNA)の開始コドンとイニシエータ転移RNAの位置を定めるのを助けている。開始因子 eIF5Bは普遍的に保存されているもので、開始の最終段階に際して、リボソーム大サブユニットの補充を促進している。Fernandezたちは低温電子顕微法を用いて、酵母の eIF5B開始複合体の構造を決定し、真核生物の翻訳開始の最終段階のスナップショットを提供している(10.1126/science.1240585,11月8日号電子版)。(KF,KU,ok,kj)
Molecular Architecture of a Eukaryotic Translational Initiation Complex
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