AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 28 2013, Vol.340


転写進行の持続(Keeping Transcription Going)

細胞においては,DNAの二重らせん(dsDNA)は主に、巻き不足(足りない)か、あるいは巻きすぎ状態のスーパーコイル形状になっている。RNAポリメラーゼ(RNAP)は,このスーパーコイル状態のDNAを通して転写を行う必要がある。転写には二重らせんがほどかれ,分断されたDNA鎖を酵素によって縫合する過程が含まれるが、その結果としてRNAPの前と後ろにスーパーコイルが形成される。Maたちは (p. 1580)単一分子法を用いて,大腸菌 RNAPの上流側と下流側のトルク力を測定した。上流側のトルク力は,dsDNA構造を壊すのに十分な大きさであり,そしてまた,静止していたRNAPはDNAに沿って逆戻りすることも可能であった。捩じれ応力の解放により,試験管内で RNAPは転写を再開することが可能となった。(MY,KU,ok,nk)
Transcription Under Torsion

解明された翻訳(Revealed in Translation)

リボソームは,トランスファーRNA (tRNAs)の助けにより,メッセンジャーRNA (mRNA)の三塩基遺伝コードをタンパク質へと変換する。コドンの解読に際しては,次のコドンが読みとられるために,mRNAおよび関連する tRNAsがリボソームを移動する必要がある。この際,新たにアミノ酸を担持した tRNAがA(アミノアシル-tRNA)サイトに取り込まれ,新たに伸長したペプチジル-tRNAがP(ペプチド-tRNA)サイトへと移動し,脱アシル化した tRNAがリボソームの出口から取り除かれる(Rodninaによる展望記事参照)。Tourignyたち (1235490),PulkとCate (1235970),Zhouたち (1236086)から示された結晶構造は,この移動段階での原核生物のリボソームを幅広く捉えていて,この過程での tRNAsのハイブリッド構造と30Sリボソームサブユニットの実質的な動きと伸長因子 Gの役割を明らかにしている。また,mRNAが読み取られる方向性と読み取り領域がどのように保持されているのかを示唆している。(MY)
Elongation Factor G Bound to the Ribosome in an Intermediate State of Translocation
Control of Ribosomal Subunit Rotation by Elongation Factor G
Crystal Structures of EF-G?Ribosome Complexes Trapped in Intermediate States of Translocation

チタンチタン包丁(Titanium Cleaver)

窒素からアンモニアを製造するハーバーボッシュ法は、肥料の製造法としてその発見から1世紀以上にわたって採用されてきた。しかしながら、同手法は高温高圧が必要であり、化学者たちは常温常圧条件下で窒素分子の3重結合を切断できる微生物のニトロキナーゼ酵素反応を模倣する方法について研究を行ってきた。多くの研究はアルカリ金属の還元力を活用するものであった。Shimaたちは (p.1549;Fryzukの展望記事参照)、水素化チタンクラスターの反応性に着目している。同クラスターは室温下で窒素分子を切断でき、分解された窒素原子をそのクラスター骨格内に取り込むことができるという。この手法はアンモニアを生成するまでには至っていないが、温和な条件下での窒素還元触媒発見の可能性を開く結果といえる。(NK,ok)
Dinitrogen Cleavage and Hydrogenation by a Trinuclear Titanium Polyhydride Complex

容量不足における新方式(A Twist on the Capacity Crunch)

光ファイバー中を伝わるデータの転送レートは、非線形光学効果のために限界に近づきつつある。多重化は、データを、偏光、波長、振幅、位相のような光の異なるモードで符号化し、光ファイバー中を並行して送ることを可能にする。光学的角運動量(OAM)は、光子に対して明確に定義されるツイストまたはヘリシティーを与えることで、もう一つの自由度を提供できる可能性がある。Bozinovic たちは(p. 1545)、長距離の光ファイバーにおいて、 OAM モードを用いて高帯域幅のデータを伝送することに成功した。それは光ファイバーネットワークに、さらに大きな容量を持たせることのできる方法を提供している。(Sk)
Terabit-Scale Orbital Angular Momentum Mode Division Multiplexing in Fibers

月のマスコンの説明(Lunar Mascons Explained)

月の表側と裏側両方の重力地図上に雄牛の目玉の目立つ模様として現れる、月の質量集中(マスコン)の起源は、1968年の最初の発見以来、謎のままであった。最先端のシミュレーションコードを用いて、Melosh たちは(p. 1552, 5月30日号電子版; Montesi による展望記事参照)、衝突によるクレーター形成、地殻運動による変形、そして火山噴出のプロセスを結びつけて、マスコンの形成を説明するモデルを開発した。(Sk)
The Origin of Lunar Mascon Basins

海沿いまで(By the Sea Side)

北アメリカの大西洋沿岸の平野部は、主に堆積した地層の重さに反応するだけの非活動的縁辺部として考えられてきた。その結果、その地層の詳細なスケールの層序学は、新生代を通じた地球規模の海水面の変化を推測するために用いられてきた。しかしながら、昨今の研究では沿岸の平野部は地球マントルの流動に応じて、変形してきたことが示されている。Rowleyたちは(p. 1560, 5月16日号電子版)マントルの流動モデルを用いて、フロリダからバージニア州に至る合衆国沿岸部の地形が過去500万年間に渡って 60mあるいはそれ以上に変化したことを示した。(Uc,KU,nk)
【訳注】非活動的縁辺部(passive margin):プレート同士が衝突する活動的縁辺部との対語
Dynamic Topography Change of the Eastern United States Since 3 Million Years Ago

洗練された呼吸(Respiration Refined)

細胞は、電子伝達系を形成するミトコンドリアの酵素が仲介する酸化還元反応からエネルギーを得る。その酵素は、超複合体として知られる大きな複合体を形成するが、その機能については議論の的になってきた。Lapuente-Brun たちは(p. 1567)、超複合体アセンブリー因子I(SCAFI)と呼ばれるマウスのタンパク質が、呼吸鎖複合体の超複合体中へのアセンブリーを特異的に変化させることを見出した。超複合体の形成は、それがどんな基質から形成されたかにより、電子が様々に処理される原因となるらしい。(Sk,KU,nk)
Supercomplex Assembly Determines Electron Flux in the Mitochondrial Electron Transport Chain

B細胞の綱引き(B Cell Tug of War)

B細胞によって作られる高親和性の、防御的抗体は、再感染を長期に渡って防御するうえで必須のものである。抗体を作るために、B細胞は最初に抗原に結合し、そして抗原提示細胞から抗原を抽出する必要がある。B細胞が抗原積荷(antigenladen)の、可とう性膜への結合が可能なin vitro系を用いて、 Natkanskiたち (p. 1587,5月16日号電子版 )は、抗原抽出が、抗原提示細胞膜を引き寄せるミオシン IIA-介在の収縮力に依存していることを示している。このような力は、親和性が低い場合には抗原-受容体の結合を切断し、結果としてB細胞は高親和性の抗原のみを抽出し、自らの中に取り込んで(internalize)、そしておそらく応答する(KU,ok,nk)
B Cells Use Mechanical Energy to Discriminate Antigen Affinities

穴の底の水(Water at the Bottom of a Well)

地震が地下の断層帯を伝播する際に、多数の亀裂が生じる。これらの亀裂は地表下の水の流れる進路に強い影響を与え、そして断層帯の透過性は亀裂形成の程度を知る指標としてしばしば用いられている。中国中央部における2008年の Mw 7.9の四川省Wenchuan地震の後で、その地震のメカニズムを理解するために、いくつかの穴が断層帯とその周辺で掘られた。これらの深い試掘孔の底はオープンであり、穴の中の水のレベルは周囲の岩石に作用する潮汐力に敏感であった。1.5年に渡る水レベルの継続的な測定により、Xueたち(p. 1555)は、水が試掘孔中に注入されたり、吸い出される速度が断層帯の透過性に比例することを見出し、このことは巨大地震の後に続く断層帯の水理学的特性の進化を調べる直接的な方法を与えるものである。透過性はその期間にほぼ25%減少したが、断層帯に発生した亀裂が比較的速く修復したことを示唆している。(KU)
Continuous Permeability Measurements Record Healing Inside the Wenchuan Earthquake Fault Zone

ボルネオの古水文学(Borneo Paleohydrology)

最終氷期の周期に関する気候の記録は、高緯度と中緯度で気候がどのように変化したかという優れた描写を与えてくれる。しかし、利用可能な熱帯地方の記録は少ない。Carolinたち (p. 1564, 6月6日号電子版)は、ボルネオからの一連の正確に年代決定された石筍からのデータを報告しているが、そのデータは100,000年前と15,000年前の間で(世界の他の部分で多くの異常な気候変動が起こっていた時期)、西側の熱帯性太平洋地域(western tropical Pasific region)がどのような振る舞いをしたのかを明らかにしている。ボルネオの水文学的気候は歳差運動による日射量変動力(precessional forcing)に応答して変化したが、一方地球全体の氷期-間氷期の変化をもたらした地球規模の気候強制力には わずかしか応答しなかった。(KU,ok,kj,nk)
Varied Response of Western Pacific Hydrology to Climate Forcings over the Last Glacial Period

砂漠の土壌の混ぜ合わせ(Desert Soil Shuffle)

土壌微生物は世界的なバイオマスのかなりの割合を構成しており、炭素や他のキーとなる栄養素を大規模に転がす。土壌は日々の温度変動からいくぶんか微生物を保護しているが、彼らのコミュニティーの分布は、おそらく緩やかな気候変化に応答しているであろう。Garcia-Pichelたち (p. 1574, 表紙参照;Belnapによる展望記事参照)は、北アメリカの砂漠における一連の土壌で細菌の多様性、言い換えれば生物学的地殻を調査した。それは光合成細菌が土壌の肥沃度を支配し、そして侵食や水の保持といった物理的な土壌の性質をコントロールしている生態系である。その土地のほとんどは二つの藍藻種の一つによって支配されていたが、両者の相対的比率は温度に関係した因子によって大きく制御されていた。様々な温度で二種の藍藻の一種が優勢となっていたが、二つの種のラボでの集積培養からも、細菌の多様性に関する一義的な決定因子として温度が示された。温度が他の土壌微生物の分布に影響するのかどうかは不明であるが、これら二つの要となる細菌種が温度によって顕著に勢力をシフトさせので、これらの繊細な生態系には今後更なる変化が待ち構えているであろう。(KU,ok,kj,nk)
Temperature Drives the Continental-Scale Distribution of Key Microbes in Topsoil Communities

通り抜ける(Threading Through)

タンパク質抗生物質(bacteriocins:バクテリオシン)は、競争相手と戦うためにしばしばグラム陰性菌によって配置、展開されるが、これは、大腸菌やペスト菌、緑膿菌、キサントモナス・カンペストリス、クレブシエラ肺炎などの病原体に共通な形質である。結果として、バクテリオシンは種特異的な抗菌物質として進化している。バクテリオシンは細胞内に転位置するために、細菌の外膜にトランスロコンを確立しなければならない。大腸菌を研究して、Housdenたちは、DNA分解酵素であるコリシン E9がポリンをくぐって細菌の細胞膜を越える様子を記述している(p. 1570)。(KF,KU,kj,nk)
【訳注】 ・バクテリオシン:ある細菌株によって作られ、他の細菌株を殺す抗菌性物質。大腸菌から産生されるものはコリシンという ・トランスロコン:小胞体膜上にあるタンパク質輸送のための装置 ・ポリン:グラム陰性菌の主要な外膜タンパク質で、細胞膜の小孔を形成するタンパク質
Intrinsically Disordered Protein Threads Through the Bacterial Outer-Membrane Porin OmpF

転写を止める(Stopping Transcription)

どのような生物学的過程も、開始することと同様、終結させることが重要である。遺伝子にコードされた情報をRNAにコピーする転写には、正確でタイムリーな終結が必要である。Nielsenたちは、真核生物におけるRNA分子の大部分を合成する酵素、RNAポリメラーゼIIIによる転写の終結の仕組みを提示している(p. 1577)。このシナリオでは、ポリメラーゼによって高度に構造化された転写物へと転写される際のRNAの折り畳みが、その合成の終わりに終結を引き起こしている。この仕組みは、RNAポリメラーゼIIIによって合成される構造性あるいは触媒性のRNAの、固有の折り畳みを制御するように働いている可能性がある。他の生物との比較によって、この仕組みが細菌と真核生物の分岐以前に出現していたことが示唆される。(KF,kj)
Mechanism of Eukaryotic RNA Polymerase III Transcription Termination

非反応性の死(Unreactive Death)

すべての殺菌性抗生物質は、活性酸素種(ROS)によって殺すのであり、それらの主要細胞標的によって殺すのではない、とする議論を引き起こす提案が、最近になってかなりの反論を浴びている。ROSによる死の経路という考えは、呼吸鎖における電子伝達による過剰刺激を含意している。それは、Fe-SクラスターからのFeの遊離をもたらし、そしてFenton反応による細胞死を引き起こすROSによる機能不全である。Ezratyたちは、電子伝達系とFe-Sクラスターとがアミノ配糖体抗生物質による殺菌作用の鍵であるが、ROS理論で思い描かれた理由とは違うことを明らかにしている(p. 1583)。Fe-Sクラスターは殺菌作用にとって必須なものだが、それは、Fe-Sクラスターが呼吸鎖を成熟させ、アミノ配糖体の取り込みを活発にさせるために必要となる水素イオン輸送力を産み出すという理由からである。結果的に、鉄キレート剤はアミノ配糖体からの保護を行なうが、それはFenton反応から鉄を除去するからではなく、アミノ配糖体の取り込みをブロックするからなのである。(KF,KU)
Fe-S Cluster Biosynthesis Controls Uptake of Aminoglycosides in a ROS-Less Death Pathway

星形成を理解する(Understanding Star Formation)

宇宙年齢を通じて銀河系や宇宙の化学組成がどのように進化してきたかを理解することは、およそ140億年の宇宙史にわたる星形成の歴史の解明に委ねられている。Mac Low (p.1229229) は、ガスから星への転換を決定づける小さなスケールの物理に焦点を当てて、銀河系における星形成の条件をレビューしている。これらの過程の理解とモデル化、および、はるか初期の時代の銀河の観察技術の進歩は、モデルによる予測と観測とを合致させて、宇宙年齢にわたる星形成の完全な理解につながると期待されている。(Wt,ok)
From Gas to Stars Over Cosmic Time

脳中の直結線(Direct Line in the Brain)

何十年もの間、神経科学者たちは、新皮質には「基準となる微小回路(canonical microcircuit)」があって、そこでは、興奮が視床からの結合に沿って皮質4層へ、それから2/3層、5/6層へ、最終的に他の脳領域へと連続的に伝播する間に、情報が変換されると想定していた。皮質の各層は、感覚性シグナルを変換して、行動に有益な情報を抽出すると考えられてきた。このたび、ConstantinopleとBrunoは、このドグマに挑戦している(p. 1591)。生体内での細胞丸ごとの記録は、感覚性刺激が、皮質の深い層にあるニューロンを、層4にあるニューロンと同時に活性化していること、また、視床の多数のニューロンが深い錐体神経細胞上に収束し、おそらく感覚情報が上位層を完全にバイパスするのを可能にしていることを明らかにした。層4を一時的に遮断すると、深い皮質層へのシナプス入力が全体的に視床から来ていて、上位の皮質層からは全く来ていないことが明らかになった。この視床由来のシナプス入力は、生きた動物において、確かに層5の錐体神経細胞に働き掛けて活動電位を放電しているのである。それらの深い層のニューロンは、多くの高次脳領域に結び付き、直接的に行動を媒介できるのである。(KF)
Deep Cortical Layers Are Activated Directly by Thalamus
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