AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 15 2013, Vol.339


遺伝子の編集(Genome Editing)

クラスター化した規則的に配置した短い回文配列の繰り返し体(CRISPR:Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)は、広範囲の原核生物における適応免疫系の一部として機能している:侵入したファージやプラスミドDNAは、CRISPR-付随のエンドヌクレアーゼに結合した相補的CRISPR RNAs(crRNAs)による切断の標的とされる(van der Oostによる展望記事参照)。Congたち(p. 819, 1月3日号電子版) と Maliたち(p. 823, 1月3日号電子版)は、この防御系を真核細胞における遺伝子操作ツールとして機能するように改良した。(TO,KU,ok)
Multiplex Genome Engineering Using CRISPR/Cas Systems
RNA-Guided Human Genome Engineering via Cas9

生物体の構成要素(The Building Blocks of Life)

生物組織ではその構造物質を形成する材料の供給源の面でしばしば制約を受けている。主要な構造要素は,無機化合物や生体高分子のように弱いか、もろい材料で,構造要素に組み込む通常の加工条件は穏やかでなければならない。にもかかわらず,貝殻,骨,羽柄,繊維のような強くて頑丈な構造が広範囲に存在している。Meyers らは(p. 773),強くて頑丈な材料の形成に対して,自然界で用いられている素材と構成様式について広範囲にレビューしている。また,人間が作り出した材料や構造では,どの位多くこのような設計原理が用いられ,あるいは考慮されているかについて示している。(MY,nk,ok)
Structural Biological Materials: Critical Mechanics-Materials Connections

DNAにおけるアロステリック効果(Allostery Across DNA)

転写制御因子やRNAポリメラーゼ等のタンパク質は、DNA上でお互いに接近して結合し、彼らの機能を協調して作用する。Kimたち(p. 816;Crothersによる展望記事参照)は、単一分子での実験に関して報告しているが、ある一っのタンパク質のDNA結合親和性がその近傍に結合した第2のタンパク質によって大きく変化することを示している。その影響の結果、結合強度は不安定性と安定性の間を、DNAのらせんピッチに等しい周期性で変調する。転写抑制因子とRNAポリメラーゼ間のアロステリック結合により、生きた細菌における遺伝子発現が変化した。(KU,nk)
【訳注】アロステリック効果:タンパク質において見出されたもので、酵素タンパク質がある物質と結合することで立体構造が変化して基質との酵素反応が制御されること。DNAにおいてもこのような効果があることを本論文が示した。
Probing Allostery Through DNA

DNA検知はcGASが(DNA Sensing Is a (c)GAS)

DNAは通常、核に局在しているので、それが細胞質に局在化しているとすれば、ウイルスが侵入した可能性があることを示すので、免疫系に警告が伝えられることになる。しかし、免疫系は実際にはいかにしてDNAを検出するのだろうか(O'Neillによる展望記事参照)? Sunたちは、細胞質のDNAに直接結合でき、サイクリックGMP-アデノシン一リン酸 (cGAMP)の産生を触媒する、cGAMP環化酵素(cGAS)を同定した(p. 786,12月20日号電子版)。産生されたcGAMPは、次に二次メッセンジャーとして作用し、抗ウイルス性免疫のトリガーとなる下流のシグナル制御イベントを活性化する。Wuたちは、cGAMPが、細胞質のDNAへの応答として産生され、シグナル伝達アダプタータンパク質STINGに結合し、活性化することを示している(p. 826,12月20日号電子版)。(KF,KU,ok)
Cyclic GMP-AMP Synthase Is a Cytosolic DNA Sensor That Activates the Type I Interferon Pathway
Cyclic GMP-AMP Is an Endogenous Second Messenger in Innate Immune Signaling by Cytosolic DNA

巨視的な不確かさ(Macroscopic Uncertainty)

ハイゼンベルグの不確定原理によれば、微視的粒子の位置と運動量を、完全な正確さをもって同時に知ることは不可能である。位置を正確に計測すれば速度に不確かさが生じるが、それはその後の位置の不確かさにつながる。今回、Purdyたちは(p.801;Milburnによる展望記事参照)、微小物体(小さいが、肉眼で視認可能な、光共振器内部で浮遊する膜)の位置計測を低温で行い、計測に用いられた反跳光子によってもたらされる位置の不確かさを観察した。(Uc,KU,nk)
Observation of Radiation Pressure Shot Noise on a Macroscopic Object

結晶の孔の規模拡大(Crystalline Pores Writ Large)

多孔性無機物質は分子鋳型を用いて作製されることが多いが、この鋳型は合成時に内部流路(channel)を保持するのに役立つ。オングストロームサイズの流路を持つマイクロポーラスなゼオライトや関連材料を作るための小サイズの分子を用いた巧みな方法が,ベシクル(vesicle:小胞)のような分子集合体を用いるまでに拡張され、ナノスケールの流路を持つメソポーラス材料を形成するのに用いられている。しかしながら,このようにして形成された材料の壁面は,大抵は非晶質である。Lin らは (p. 811, 1月24日号電子版)鋳型として長鎖アミンを用いることで,非常に大きな流路(径3.5ナノメートルの72員環まで)を持つ結晶性のメソポーラス亜リン酸亜鉛ガリウムエステルの形成が可能であることを報告している。これらの材料は熱安定性が低く鋳型の除去は困難であるが,発色団を適切にドープし、含有させることで広帯域の光ルミネセンスを示すようになる。(MY,KU,nk)
Crystalline Inorganic Frameworks with 56-Ring, 64-Ring, and 72-Ring Channels

すごく違うが、すごく似ている(So Different and So Similar)

火星起源と分かっている隕石の大部分は、その特性が同じで一種類に分類される。Agee たちは(p. 780, 1月3日号電子版; Humayun による展望記事参照)、隕石NWA 7034 について、それが他の火星からの隕石といくつかの特徴を共有しているが、通常の分類では納まりきれないと述べている。NWA 7034 は火星表面の組成と一致しているが、同時に他の火星からの隕石より水を多く含んでいる。また酸素同位体の組成も異なっており、火星には複数の酸素同位体の蓄積場所が存在することを示唆している。その放射線年代が21億年ということから、この隕石は火星のアマゾン代からの水を多く含む唯一の標本である。 (Sk,nk,ok)
【訳注】アマゾン代:クレーター密度から火星の年代を三つに区分したうちの最後の年代で、30億年前から現在に至る。
Unique Meteorite from Early Amazonian Mars: Water-Rich Basaltic Breccia Northwest Africa 7034

意図しない抗うつ剤の服用(Unintended Recipients of Antidepressants)

医薬品は、多様なヒトの病気や状況に対処するために用いられる。ところで、多くの動物種は、その生理、受容体、反応経路において共通の性質を有し、おそらくヒトに対する医薬品化合物の作用を受けるだろう。医薬品はますます天然の水生環境で検出されるようになってきた。医薬品によるそうした汚染は、水生生物の死亡の原因となり、その発生や生殖を変化させてしまうことがある。Brodinたちは、排泄された薬剤もまた、より微妙なしかし最終的には重大なインパクトを自然界に与えることがある、と報じている(p. 814)。人間の不安を減少させるベンゾジアゼピンは、魚類の社会的な活動、捕食活動を変化させる。オキサゼパムに曝されたヨーロッパのスズキは、より大胆、活動的になり、社会行動性が少なくなり、より素早く餌を食べるようになった。(KF,nk,ok)
Dilute Concentrations of a Psychiatric Drug Alter Behavior of Fish from Natural Populations

量子力学の計算能力(Computing Power of Quantum Mechanics)

あるタスクを古典的なコンピュータよりもずっと速く実行したり、古典的コンピュータでは手に負えないタスクを実行するために、量子コンピュータの開発に対して大きな関心が持たれている。しかしながら、一般的な量子コンピュータは、多くの量子論理素子を作り上げたり、働かせたりする必要がある。(Franson による展望記事参照。)Broome たち(p. 794,12月20日号電子版)とSpring たちは(p. 798,12月20日号電子版)、古典的なコンピュータでは非常に困難な(行列のパーマネントの)計算の実行に、単一の光子と量子干渉を用いた実験について述べている。ランダムウォークと同様に、グラフ上の量子ウォークは、あらかじめ決められた何個かの経路の上でのウォーカーの軌跡を描く。各点でどちらに進むかを決めるためにコインをはじき上げるのではなく、量子ウォーカーは同時にいくつかの経路をとることができる。Childsたちは(p. 791)、複数の相互作用するウォーカーの量子ウォークに基づく、量子コンピュータのアーキテクチャを提案している。そのシステムは、演算の複雑さに応じて最適化された大きさのノードサブセットを用いてどのような量子演算の実行も可能である。 (Sk,nk)
Photonic Boson Sampling in a Tunable Circuit
Boson Sampling on a Photonic Chip

量子臨界散乱(Quantum Critical Scattering)

電気抵抗の温度依存性は、キャリア挙動の研究に重要な役割を果たす。銅塩系と 有機系の超伝導体、および重フェルミオン材料など量子臨界を示す系において観測されている電気抵抗の線形的温度依存性は謎の多い観察の一つであり、その原因については未だ結論が出ていない。Bruinらは(p.804)、ルテニウム酸塩であるSr3Ru2O7が量子臨界点近傍で電気抵抗の線形的温度依存性を示すこと、そしてケルビンあたりの散乱率が、プランク定数とボルツマン定数から導かれる固有時間の逆数で近似できることをを見出した。高温状態での通常の金属などその他電気抵抗の線形的温度依存性を示す系を網羅的に調べた結果、それらの散乱率は一様に、ケルビンあたり固有時間の逆数という大きさで変化することが示唆された。各種材料はミクロな散乱メカニズムは異なるが、温度による散乱率の変化が類似していることは、背後に普遍的な挙動が存在することを示唆している。(NK,KU,nk,ok)
Similarity of Scattering Rates in Metals Showing T-Linear Resistivity

加速されたプロトン(Accelerated Protons)

宇宙線の最初の検出は百年前に遡るが、その起源については、今なお、充分な理解が得られたとはいえない。宇宙線は、ほとんどプロトンからなる高エネルギー粒子であるが、それらは外部宇宙から地球に照射されている。われわれの銀河内部に起源を有する宇宙線の大部分は、大質量の星の爆発、すなわち、超新星爆発からの衝撃波の内部で加速されると考えられている。超新星残骸中で加速されたプロトンは、星間物質と衝突して、素粒子の一種であるπ中間子を発生させ、そして、次にそれはガンマ線に崩壊する。Ackermann たち (p.807) はフェルミ ガンマ線宇宙望遠鏡を用いて、100MeV から 60MeV までのエネルギー範囲におけるわれわれの銀河中の二つの超新星残骸である IC443 と W44 のエネルギースペクトルの測定結果を与えている。このスペクトルは、加速されたプロトンの特徴である π中間子崩壊の特徴を示している。(Wt,nk)
Detection of the Characteristic Pion-Decay Signature in Supernova Remnants

人間の記憶を上書きする。(Overwriting Human Memory)

固定化した恐怖の記憶は、その再活性化時に一過性の不安定な相に入る。それに続くタンパク質合成-依存的な再安定化に関する薬理学的遮断は、記憶障害をもたらす。予測エラー(現実と期待した事象との間の矛盾)が、被験者の恐怖記憶の再固定化のための必要条件であることを、Sevensterたち(p. 830)は見つけた。たとえば、無条件刺激を与えずに条件刺激を行うようなネガティブな予測エラーが切っ掛けとなる回復は不安定な結果となり、引き続いての再固定はプロプラノロール薬剤(不整脈や狭心症の薬)によって阻害された。しかしながら、もし条件刺激と有害な無条件刺激が同時に与えられたことで予測エラーが存在しなかったならば、その記憶は不安定状態に入ることはなかったし、またその再固定化が阻害されることもなかった。(hk,KU,ok)
Prediction Error Governs Pharmacologically Induced Amnesia for Learned Fear
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