AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 14 2012, Vol.338


長い非翻訳RNA(Long Noncoding RNAs)

過去5年間に、数千個の長い(>100ヌクレオチド)非翻訳RNA(lncRNAs)が見いだされたが、それらがゲノムの制御でどう機能し、そのメカニズムが何かという問題に関する我々の理解を上回る速度で新しい lncRNAs の発見が続いている。Leeたち(p. 1435)は、これらの興味深い分子が局所的に、或いはかなりの距離において遺伝子発現を制御している方法を、既知のものやそうではないかと疑われているものを含めて、レビューし、そしてlncRNAsに関する潜在的な普遍的役割を考察し、かつその多様性を考慮すると、これらの興味深い分子を分類することが極めて難題であると警告している。非常に長い非翻訳RNAであるAirnは、哺乳類に刷り込まれた遺伝子クラスターIgf2r (insulin-like growth factor 2 receptor)をサイレンスする。Latonたち(p. 1469)は、マウスの細胞において、このサイレンシングをもたらすのが、その遺伝子座位を抑制するためのヒストンを修飾する補充酵素ではなく、Airnの転写(Airn遺伝子の生成物ではなく)の作用であることを示している。(KU,nk)
Epigenetic Regulation by Long Noncoding RNAs
Airn Transcriptional Overlap, But Not Its lncRNA Products, Induces Imprinted Igf2r Silencing

記憶すべき場所(Spots to Remember)

においのマーキングは、殆どの哺乳類にとって情報交換のための必須の成分である。個々の動物はにおい付けの場所を記憶しており、定期的にその場所を再訪問し、おそらくはマーキングしているその動物のコンディションやステータスを調べている。個々の動物はにおいやフェロモンの勾配を嗅ぎ取って、他の個体の位置を突き止めることができるが、しかし付着される揮発性成分が少量であり、かつそれらの化学的性質が受動的であることから、におい付けの場所を再度突き止めることは極めて困難である。マウスにおいて、Robertsたち(p. 1462)は、オスの尿の不揮発性成分であるタンパク質フェロモンのダルシン(darcin)が空間的好みと学習を刺激していることを示している。メスのマウスは、オスの尿(あるいは合成ダクリン)が見いだされた位置を好み、そしてにおいを嗅いだ後2週間この空間的位置を記憶していた。(KU,nk)
Pheromonal Induction of Spatial Learning in Mice

圧力下での強度(Strength Under Pressure)

下側カットオフ値以上では、金属の結晶粒度を小さくすると強度が増す傾向にある。これは全体的な粒界の増大が、物質が塑性変形を生じる際の転位活性を制限するためである。Chen たちは(p. 1448)、金属が高圧下に置かれた場合、この転位活性の制限が生じるのかどうかという問題を探索した。異なる大きさの粒子から作製したニッケル箔が、ダイアモンドアンビルセルの中で高圧下に置かれた。圧力の増大により転位活性がより小さな結晶粒度でも生じるようになり、圧力が小さな体積での転位活性の制約を埋め合わせていることを示している。(Sk)
Texture of Nanocrystalline Nickel: Probing the Lower Size Limit of Dislocation Activity

C=CからC=Oへ(From C=C to C=O)

白金触媒を用いたヘック反応(Heck reaction)は、アリール環とオレフィンとの炭素-炭素結合を形成するために広く用いられており、この反応の後で水素原子の除去によりオレフィンの二重結合が回復する。Werner等は(p.1455;Gilbertsonの展望記事参照)、このヘック反応を大きく変えた合成法について報告している。水素原子は分子中に存在するアルコールセンターから除去され、ケトンとアレーン(arene)が結合している部位でキラル中心を生成するという。この反応は高いエナンチオ選択性を示すとともに適法範囲が広い:このアルコールはオレフィンから1〜3炭素原子離れた場所に配置することができるという。(NK,KU)
Enantioselective Heck Arylations of Acyclic Alkenyl Alcohols Using a Redox-Relay Strategy

こんなに違う。でも、こんなに似ている(So Different Yet So Similar)

ガンマ線バースト(Gamma-ray bursts GRBs) は、恒星が崩壊してブラックホールになる現象に付随したものである。ブレイザー(blazars)は活動銀河の一種であり、これは、中心にある百万倍から十億倍の太陽質量を有するブラックホールへの降着で駆動エネルギーを与えられている。Nemmen たち (p.1445) は、光度とブラックホール質量が非常に大きく異なるにもかかわらず、GRB やブレイザーで発生している相対論的ジェットでは、加速粒子により輸送された単位時間当たりの運動学的エネルギー出力と、ジェットで放射されたエネルギーとの間に同じ相関性があることを示している。これは、相対論的ジェットを生みだす単一のメカニズムがあることを示唆している。(Wt)
A Universal Scaling for the Energetics of Relativistic Jets from Black Hole Systems

ナノスケールのDNA組み立てのスピードアップ(Speeding Up Nanoscale DNA Assembly)

興味深い一連の3次元(3D)ナノスケールの物体は、長い、一本鎖のDNA骨格を短いDNAホッチキスの結合により折りたたまれて構築されていた。しかしながら、このプロセスは時間がかかり、かつ非効率的となりがちである。Sobczakたち(p. 1458)は、蛍光色素を用いてこの折り畳みのプロセスを調べ、折りたたみプロセスにおける2本鎖DNAの形成と、或いはアンフォールディングにおける一本鎖DNAの形成を測定した。折りたたみプロセスを数桁スピードアップし、かつ3Dナノスケール物体の収率をほぼ100%に近くになる様な反応条件が同定された。(KU)
Rapid Folding of DNA into Nanoscale Shapes at Constant Temperature

指の本数の決定(Digit Determination)

5本指は四足動物の大昔の、急速な革新的出来事であった。Shethたち(p. 1476)は、機能的なモルフォゲンシグナル伝達経路のない場合に、遠位に発現するHox遺伝子の急激な減少が、マウスにおいて極端な多指をもたらすことを報告している。変異した指は魚のひれの内骨格に似たパターンを示し、このことは遠い祖先のパターン形成メカニズムがその後の進化でも深く保存されてきたことを示唆している。(KU,nk)
【訳注】モルフォゲン(morphogen):細胞や組織の成長と分化を誘発する物質
Hox Genes Regulate Digit Patterning by Controlling the Wavelength of a Turing-Type Mechanism

這い回る虫を評価する(Assessing Creepy Crawlies)

節足動物は最も多様な陸生動物種のグループであり、未だに節足動物種の総数の推定は、特に熱帯雨林において大きく異なっていた。Basset たちは(p. 1481, 表紙参照)、今回、パナマの熱帯雨林における全節足動物種の豊富さについての、より信頼できる見積もりを示している。0.5 ヘクタールの森での集中的なサンプリングにより、優に 6,000 を超える節足動物種が得られた。この結果をその森全体に広げると、種の多様性の総数は 17,000 から 40,000 種の間にあると思われる。(Sk,KU)
Arthropod Diversity in a Tropical Forest

重複を解決する(Resolving Redundancy)

サルモネラ属やレジオネラ菌、クラミジアなど、多くの細胞内病原性微生物は、宿主細胞の空胞中をその棲家としている。これら細菌によって分泌されるエフェクタータンパク質の多くとそれらによる宿主細胞経路への個々の影響はカタログ化されているが、それらエフェクターがいかに呼応しながら細菌の増殖を最適化しているかは、はっきりしていない。O'Connorたちは、この複雑さの問題について、レジオネラ・ニューモフィラ菌(在郷軍人病菌)で取り組んだ(p. 1440)。この病原体は、レジオン=軍団または多数、という名前にふさわしく、明らかに重複するエフェクタータンパク質の例外的に長いリストを有していて、実際、初期のスクリーニングで、細胞内増殖にとって重要な、678個のレジオネラ遺伝子のライブラリーが生み出されたほどだ。細菌の変異原性を用いて、宿主細胞内のエフェクタータンパク質とRNA干渉を操作し、特異的な細胞の膜-輸送経路を抑制することによって、細胞内増殖にとって必要な共通の標的とともに、細菌タンパク質の集合についてのクラスター分析による体系的な予測が可能になった。(KF)
Aggravating Genetic Interactions Allow a Solution to Redundancy in a Bacterial Pathogen

金クラスターの触媒作用(Gold Cluster Catalysis)

種々の金塩と金錯体はいろいろな有機反応の触媒として使われていた。しばしば、これらの反応に対する触媒の反応速度は類似している。Oliver-Meseguerたち(p. 1452; Hashmiによる展望参照)は、種々の金塩と金錯体に対してアルキンのエステル-アシスト水和反応のような有機反応の触媒反応開始に必要な誘導期間を観測した。質量分析と吸収分光法から、小さな金クラスター(3〜10個の原子)が、これらの誘導期間中に形成され、そして触媒活性を示すことが明らかになった。触媒の反応速度は極めて高く、一時間当たり105触媒回転数にまで到達する。(hk,KU,nk)
Small Gold Clusters Formed in Solution Give Reaction Turnover Numbers of 107 at Room Temperature

EZH2の別の役割(Alternative Role for EZH2)

後成的な制御因子は癌進行に関係しているとされ、治療標的としても提案されている。Xu たちは、従来、主にポリコーム(polycomb)抑制複合体の一部として発癌機能に作用すると従来考えられていた因子、EZH2 (zeste相同体2のエンハンサー)が、性腺摘除-抵抗性の前立腺癌の細胞において別の仕組みによって作用していることを報告している(p. 1465; またCavalliによる展望記事参照)。もっぱらヒストンメチル化を介して遺伝子発現をサイレンシングする、というのではなく、EZH2は転写共役因子として作用している。EZH2の機能の活性化は、性腺摘除-抵抗性の前立腺癌細胞の増殖において決定的役割を果たしており、これは将来の薬剤開発において意味あることかもしれない。(KF)
EZH2 Oncogenic Activity in Castration-Resistant Prostate Cancer Cells Is Polycomb-Independent

生殖腺と命の長さ(Gonads and Life Span)

動物は逐次的な生命段階を経て成長し、その寿命は遺伝子と環境によって決定されている。しかし、生命段階の構造の根底にある分子回路網がどのように生命段階の長さと関連しているかは良くわかっていない。Shenたちはこのたび、線虫の発生上のタイミングに用いられるステロイド受容体-ミクロRNAスイッチの成分が、生殖系からのシグナルに応答して成体期間の長さの制御にもも用いられていることを明らかにした(p. 1472)。つまり、生殖腺は、発生上の時計を介して後生動物の寿命に結び付いている可能性がある。(KF,KU,nk)
A Steroid Receptor?MicroRNA Switch Regulates Life Span in Response to Signals from the Gonad
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