AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 26 2012, Vol.338


始めに魚を見つけよ(First, Find Fish)

鮭、鱈、鰹の漁業が定期的に監視・アセスメントされている一方、世界中で獲られている魚類種の約80%はこの限りではない。Costelloたちは(p.517;9月27日号電子版;Pikitchによる展望記事参照)、漁獲高、個体数、そして生態学的データを統合するモデルを利用して、定期的にアセスメントされている漁業の生態学的な類似性に基づいて、未だアセスメントされていない漁業の状態を把握した。一般的に、アセスメントされていない漁業は定期的にアセスメントされているそれと比べると、魚の資源減少を伴う、より悪い状態となっている。(Uc,KU)
Status and Solutions for the World’s Unassessed Fisheries

ミエリン形成の復活(Myelination Redux)

ミエリンの崩壊は、事故、病気、通常の加齢によって生じ、患者を激しく衰弱させる。Goldman たちは(p. 491)、軸索のミエリン形成を行う細胞であるオリゴデンドロサイトについての情報を再調査し、損傷したり衰弱した場合に、それらを置き換える可能性について述べている。(Sk)
【訳注】ミエリン:神経細胞の軸索を取り囲む物質(電線の被覆の役割)
Glial Progenitor Cell?Based Treatment and Modeling of Neurological Disease

蛍光発光のホットスポットの構築(Building a Fluorescent Hotspot)

二つの金のナノ粒子がごく近くに接近すると、それらの重なり合ったプラズモンの場がナノアンテナとして作用する領域を形成し、分子の蛍光発光を強める。Acunaたち(p. 506)は表面に強く結合したDNA折り紙構造を用いて、その構造内にトラップされた色素の近傍に1個、あるいは2個の金のナノ粒子を構築した。色素分子が100nmの2個の金のナノ粒子の間の23nmのギャップ内に置かれると、100倍を超える蛍光発光の増強が観測された。(KU)
Fluorescence Enhancement at Docking Sites of DNA-Directed Self-Assembled Nanoantennas

派手な羽毛(Fancy Feathers)

過去数十年で、羽毛を持っていたことが判明した恐竜の数が増えてきた。羽毛自身は、おそらく温度調節のために進化したのであろうと思われるが、翼のもともとの機能が何であったのかは明らかになっておらず、議論が続いている。オルニトミムス属の三体の獣脚類の標本の調査に基づき、Zelenitsky たちは(p. 510)、羽毛を持った翼は移動のためや獲物を捕らえるためでなく(それらの動物は草食であった)、求愛の誇示のために発達したと結論付けた。調査された全ての個体は短い糸状の羽毛で覆われていたが、性的に成熟していたと思われる成体の標本は、さらにその前脚に羽軸の長い羽根(long shafted feathers)を持っていた。(Sk,KU,nk)
Feathered Non-Avian Dinosaurs from North America Provide Insight into Wing Origins

原因、あるいは、相関?(Cause or Correlation?)

3世紀前、Bishop Berkeley により 1710年に著わされた古典、「A treatise on the nature of human knowledge」は、初めて「相関と因果関係」のジレンマについて詳述したものである。Sugihara たち (p.496, 9月20日付け電子版) は、この難問に対する取り組み方法を与え、そして弱から中程度の結合(生態系のような)を持つ動的な系の因果関係に関する近年の議論にまで拡張している。その結果得られた収束クロスマッピングという方法は、時系列間の因果的なつながりを検出することが可能である。(Wt,KU)
Detecting Causality in Complex Ecosystems

類人猿のように木に登る(Climbing Like an Ape)

近年、いろいろな初期の人類の脚や足の化石の研究から、いくつかの初期の種においては-人類が二足歩行になった後でさえ-木に登ることが依然として重要だった可能性が指摘された。しかしながら、重要な補足的情報をもたらしてくれそうな肩の骨は、ほとんど見つかっていない。わずかな例の一つがアウストラロピテクス・アファレンシスの骨格(DIK-1-1)であり、それには両方の肩甲骨が含まれている。Green と Alemseged は(p. 514; Larson による展望記事参照)、その化石の肩の解析を行い、現代の人類と違って、彼らは木に登る類人猿では一般的ないくつかの形質を保持していることを示した。そのことは、アウストラロピテクス・アファレンシスは活発な木登り名人であったことを意味している。(Sk.KU)
Australopithecus afarensis Scapular Ontogeny, Function, and the Role of Climbing in Human Evolution

初期胚の分裂を支配する(Mastering Early Divisions)

通常の有糸分裂細胞のサイクルの制御はよく理解されているが、胚における速くて、同期した初期の有糸分裂は謎のままである。初期胚は、チェッポイントとしてのキーとなる制御因子、後期促進複合体/サイクロソーム(APC/C)-抑制タンパク質Emi1、およびサイクリン依存性キナーゼ1(Cdk1)の抑制性リン酸化を欠いている。アフリカツメガエルの胚の研究から、Tischerたち(p. 520,9月27日号電子版)は、初期の有糸分裂に必須の有糸分裂APC/C-抑制因子としてXErp1/Emi2を同定した。XErp1の有糸分裂APC/C-抑制の活性化は、プロテインキナーゼA(PKA)とプロテインホスファターゼⅡA(PP2A)によってプラスに制御されて、これはXErp1に関するCdk1の抑制効果に拮抗する。このように、Cdk1とPP2A/PKAはXErp1の活性を制御するために拮抗的に作用しており、このことが、高速、かつ同期した有糸分裂に必要なAPC/Cの周期的な活性化と不活性化をもたらしている。(KU)
The APC/C Inhibitor XErp1/Emi2 Is Essential for Xenopus Early Embryonic Divisions

HIVの切り替え(Switching on HIV)

新たに構築されるヒト免疫不全ウイルス(HIV)粒子は、未成熟な粒子として宿主細胞から成長して出てくる。Gagタンパク質(このタンパク質はウイルス膜の下で構造的な格子を形成している)のタンパク質分解が、成熟した感染性のHIVの形成に導く。成熟したHIV粒子と標的細胞の融合は、粒子の表面にある三量体の「スパイク(spikes)」中に存在するウイルスのエンベロープ(Env)タンパク質によって仲介される。Chojnackiたち(p. 524)は回折限界以下の顕微鏡を用いて、このスパイクが未成熟な粒子上では分散していたが、成熟した粒子上では1か所でクラスター形成していたことを示している。クラスター形成は感染力に関して重要であった。Gagのタンパク質分解とクラスター形成の結合により、粒子の内部が侵入モードに切り替えられた粒子のみが膜融合の能力を確実にするらしい。(KU)
Maturation-Dependent HIV-1 Surface Protein Redistribution Revealed by Fluorescence Nanoscopy

活動する(Making a Move)

染色体の構造維持(SMC)複合体は、生命のすべての領域での染色体のプロセシングにおいて至る所で作用しているが、しかし生細胞中でのそれらの作用モードは謎のままである。Badrinarayanan たち(p. 528)は、非侵襲性のミリ秒での単一分子イメージングを用いて、生きている細菌細胞中のSMC複合体分子を超分解能の空間精度で調べた。大腸菌のSMC複合体(染色体分配に重要である)は、二量体を形成し、アデノシン三リン酸(ATP)依存的様式でDNAに結合し、そしてATP加水分解により遊離される。ペアで機能することで、この複合体はDNAから遊離されずに何回ものATP-加水分解に耐えることができるらしい。(KU)
Vivo Architecture and Action of Bacterial Structural Maintenance of Chromosome Proteins

Tregによる免疫応答の制御(Treg-ulating Immune Responses)

免疫系が狂って暴走するのを防ぐために、さまざまな抑制と均衡が存在している。もっとも決定的なものの1つは、調節性T細胞(Tregs)と呼ばれる特殊化したT細胞集団である。それがないと、ヒトにおいてもマウスにおいても、致死的な自己免疫疾患が発生する。Tregsは、その自己免疫性応答抑制機能によってよく知られているわけだが、それらがいかにして感染病原体への応答を制御しているかはあまりわかっていない。Tregs欠失に誘導されたマウスを用いて、Paceたちは、TregsがCD8+T細胞の結合活性を形成するのに重要であることを明らかにした(p. 532)。Tregsがないと、CD8+T細胞応答は結合活性が低く、より親和性の低い抗原に対して、より応答性があった。Tregsがないときは、T細胞と抗原提示細胞との間の安定した相互作用が、リンパ節におけるケモカイン発現の量が増加した結果として、増加したのである。Tregsの枯渇はまた、病原性微生物リステリン菌による感染への、CD8+T細胞の低結合活性の応答をもたらした。(KF)
Regulatory T Cells Increase the Avidity of Primary CD8+ T Cell Responses and Promote Memory

Cpに不斉反応を強いる(Forced Asymmetry in Cp)

シクロペンタジエニル (Cp) リガンド(炭素5員環)は、遷移金属触媒におけるありふれた配位子であるが、しかしこの構造体のキラル変異体は不斉反応において用いられたことはほとんどない。二つの研究が異なるアプローチで直鎖の炭素-水素活性化-閉環反応(オレフィンとベンズアミドのカップリング反応)において、Cp-誘導ロジウム触媒にエナンチオ選択性を付与できることを実証している(Wang and Gloriuによる展望記事参照)。Hysterたち(p. 500)は、Cpリガンドにビオチン誘導体を結合し、キラルなストレプトアビジン タンパク質の空洞内にドッキング可能にし、次いで更なる触媒性能を最適化するように設計された。YeとCramer (p. 504)は、金属センター周囲の残余の配位環境を高めるために、Cp骨格にキラルな置換基を付加した。(KU)
Biotinylated Rh(III) Complexes in Engineered Streptavidin for Accelerated Asymmetric C-H Activation
Chiral Cyclopentadienyl Ligands as Stereocontrolling Element in Asymmetric C-H Functionalization

受け手側において(On the Receiving End)

ニューロンの1つの型、海馬の錐体神経細胞は、下流に2種の違ったパートナーをもつ、2つの異なったタイプのシナプスを形成する。パートナーが多型-網状分子層(O-LM)介在ニューロンのときは、錐体神経細胞は低い確率でシナプス小胞を遊離するだけである。受け手側の細胞がパルブアルブミン(PV)陽性介在ニューロンのときは、シナプス小胞遊離の確率は高い。シナプス後細胞は、どのようにして、シナプス前細胞の遊離の特性を変化させられるのだろう? SylwestrakとGhoshは、シナプス後のOLM介在ニューロン中の、細胞外ロイシンリッチ反復配列、フィブロネクチン含有1(Elfn1)タンパク質が、シナプス前錐体神経細胞における小胞遊離確率に影響を与えていると記述している(p. 536,10月4日号電子版; またMcBainによる展望記事参照)。PV介在ニューロンにおけるElfn1の異所性発現は、小胞遊離をOLMパターンへと転換した。つまり、シナプス後細胞中に位置する制御装置は、シナプスの機能を調節できるのである。(KF,ok)
Elfn1 Regulates Target-Specific Release Probability at CA1-Interneuron Synapses

線虫における社会性に関わる神経ペプチド(Social Neuropeptides in Nematodes)

神経ペプチド、オキシトシンとバソプレッシンは、哺乳類における、母親らしい、生殖に関わる、攻撃的な、そして親和性のある行動を刺激するものである。それは、ヒツジの雌ヒツジと子ヒツジの関係からハタネズミにおけるつがい関係までの広範囲の行動に関係している(Emmonsの展望記事参照)。このたび、Garrisonたち(p. 540)とBeetsたち(p. 543)は、こうした社会性に係わる神経ペプチドの進化的範囲を無脊椎動物の線虫にまで拡張した。似たような神経ペプチドが交配に関与していること、また前の経験に基づく塩味覚の好みの調整をしていることも明らかにされたが、これは連想的学習における古くからの役割を示唆するものである。(KF,KU,ok)
Oxytocin/Vasopressin-Related Peptides Have an Ancient Role in Reproductive Behavior
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