AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 27 2012, Vol.337


タイプ2免疫への洞察(Insights into Type 2 Immunity)

病原体が異なれば、それが引き起こす免疫応答もそれぞれ特徴的である。多くの細菌やウイルス、菌類に対する免疫応答は比較的よく分かっているが、タイプ2応答(type 2 response)と名付けられた寄生虫に対する免疫応答については、分かっていることがずっと少ない。興味深いことに、タイプ2応答はまた、アレルゲンやアレルギー性喘息への応答を仲介している。PulendranとArtisは、タイプ2免疫を引き起こすシグナルと、それら応答が惹起する細胞応答との理解における進展をレビューしている(p. 431)。(KF,nk)
New Paradigms in Type 2 Immunity

雄性の神経系の配線図(The Male Wiring Diagram)

神経系の機能は、そのネットワークの結合性の創発的な特性( emergent property)を表わしていると考えられている。しかしながら、現実の神経系内でのニューロン間の全ての物理的な関係(つなぎ)に関する完全な説明はほとんどない。Jarrellたち(p. 437; Chklovskii とBargmannによる展望記事参照)は、 線形動物の交配行動を支配している尾部神経節の完全な神経回路地図(単独の化学的シナプスとギャップ結合シナプスのすべて)を同定した。(hk,KU,nk,ok)
【訳注】創発的な特性( emergent property):創発(そうはつ、英語:emergence)とは、部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れることである。局所的な複数の相互作用が複雑に組織化することで、個別の要素の振る舞いからは予測できないようなシステムが構成される。(wikipedia:emergent propertyから)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%B5%E7%99%BA  
The Connectome of a Decision-Making Neural Network

ねじれたファイバー(Fiber with a Twist)

光ファイバーは、通信網の根幹となっている。ファイバー中の光伝搬を制御することは、情報の流れの容量を最大化するカギとなる。Wong たちは(p.446)、フォトニック結晶ファイバーに文字通りのねじれをもたせることにより、コアを囲むクラッドに光学異性が付加され、光の伝達を操作する別の方法が可能な事を示した。ねじれたクラッドとコアの間の結合は、伝達スペクトルの凹みを生じ、それはファイバーに導入されたねじれ角に依存する。そのようなねじれた微細構造を持つファイバーは、光に対して、結合やフィルタリング、あるいは制御できる可能性を提供するかもしれない。(Sk,nk,ok)
Excitation of Orbital Angular Momentum Resonances in Helically Twisted Photonic Crystal Fiber

星の相棒(Star Partners)

太陽より8倍以上重い星はまれで、短寿命である。にもかかわらず、それらは宇宙に存在する、鉄、ケイ素、カルシウムのようなすべての重たい元素を作り出すため、基本的に重要である。Sana たちは(p.444)、我々の銀河の近くにある6つの星団中の70個の重い星のサンプルの特徴を調べた。サンプルの星の半分以上が連星系であり、寿命に至るまでの過程で、これらの連星の星の大部分が質量を合体したり交換することにより、もう一方と相互作用していると思われる。連星の相互作用は、このように、大部分の重い星の進化に影響を与えているであろう。(Sk)
Binary Interaction Dominates the Evolution of Massive Stars

ナノフォトニクスによる緑の発光(Going Green with Nanophotonics)

プラズモンは、光学的に誘発され、金属(ここでは金属として銀を選択している)の表面に強く閉じ込められた電子の集団的励起である。波長以下の閉じ込めにより、オプトエレクトロニクスの回路をナノメートルスケールまで縮小可能となる。しかしながら、金属内部での散乱プロセスにより、ロスが生じる。Luたち(p. 450)は、シリコン基板上にエピタキシャル成長させた銀の原子レベルでの滑らかな層を形成するプロセスを開発した。銀の層における空洞は絶縁性のSiO層で覆われ、そしてAlGaNのナノロッドを用いて、低閾値で緑色の光が放射した。(KU,nk)
Plasmonic Nanolaser Using Epitaxially Grown Silver Film

充填状態(Getting Packed)

特異な相互作用が無い場合、類似した形状の物体の充填はその特定の形状のみに依存する。Damascenoらは(p.453;GraafとMannaの展望記事参照)、単純なものから複雑な形状を持つ複数の多面体が、熱平衡条件下で結晶相から液晶相を介してアモルファス相へと多様な構造で充填される際の挙動をコンピューターシミュレーションにより調べた。最初の形状は様々であるが、充填挙動は体積と表面積の関数として粒子の形状および最近接の粒子の数という2つのパラメーターで定量的に記述可能である。(NK,KU)
Predictive Self-Assembly of Polyhedra into Complex Structures

タイタンを知ること(Getting to Know Titan)

重力場の計測は、惑星とその月の内部構造に関する情報を与えてくれる。Iess たち (p.457; 6月28日付電子版) は、2006年から2011年の間の カッシーニ土星探査機による土星の衛星、タイタン への6回の接近飛行からの重力データを解析した。そのデータによると、タイタンの内部は潮汐の時間スケールで柔軟性を有しており、その観測された潮汐変形の大きさは、タイタン表面下にその全球におよぶ水の大洋の存在とつじつまが合っている。(Wt,KU)
The Tides of Titan

ずるがしこいトリパノソーマ(Tricky Tryps)

ヒト睡眠病の原因であるアフリカトリパノソーマ(鞭毛虫類)は、免疫回避、特に抗原変異という強力な戦略を持つことで知られている。Salmonたち(p. 463,6月14日号電子版;表紙参照)は、感染初期に、これらの寄生中は骨髄系細胞内の腫瘍壊死因子-αの合成を抑制することで先天性の宿主防御の最初のラインを破壊していることを示すことで、この適応能力へ別の一面を付与している。これは貪食作用を受けた寄生虫(トリパノゾーマ)による、ストレス誘発性のサイクリックAMP合成と遊離を通じて起こるのである。この発見は、サルバリア類トリパノソーマにおける豊富な、かつ多様なアデニルサンシクラーゼに関する長い間探し求められていた機能に関する知見を与えるものである。更に、この利他的な宿主のコロニー形成戦略(そこでは、トリパノソーマの一部の犠牲により、生き残ったトリパノソーマが繁栄する)は、また感染症における集団的挙動の選択優位性に脚光を当てるものである。(KU,nk)
Adenylate Cyclases of Trypanosoma brucei Inhibit the Innate Immune Response of the Host

自殺を助けるSarm(Sarm-Assisted Suicide)

神経変性疾患や神経病変は、ウォーラー変性(Wallerian degeneration)(これは能動的「軸索死プログラム」に関与している)として知られるプロセスにより、軸索やシナプスの分解をもたらす。Osterloh たち(p. 481,6月7日号電子版、Yu と Luoによる展望記事参照)は、ショウジョウバエのdSarmにおける機能損失変異体を同定したが、この変異体はそのハエの一生の間、重篤な軸索の変性を防ぐことができる。マウスのSarm1の欠損により、損傷を受けて数週間、重篤な軸索を同様に保護する。このことは、Sarmはが太古からの軸索死シグナル伝達カスケードの一部であることを示唆している。(TO,KU)
dSarm/Sarm1 Is Required for Activation of an Injury-Induced Axon Death Pathway

ヒ素に耐性(Resisting Arsenic)

カリフォルニアのMono Lakeの極端な条件下で生きている細菌の発見は、ヒ素のみで成長可能であり、そしてDNAを含めて、重要な巨大分子でリンの代わりにヒ素が置き換わっている可能性があると主張されたために、多くの論議を呼んだ。GAFJ-1として知られている同じHalomonas spp 細菌と極めて純度の高い試薬を用いた研究により、Erbたち(p. 467,7月8日号電子版)は、細菌が少しでも成長するには低濃度のリン酸塩(1.6μM)を必要とすることを見出した。その細菌を40mMの高濃度のヒ素中で成長させても、有意な量の特異的ヒ素の取り込みは無く、その核酸は痕跡量のヒ素を獲得したにすぎない。同様に、Reavesたち(p. 470,7月8日号電子版)は、GAFJ-1がリン酸塩の非存在下で成長できなかったこと、そして更に、痕跡量のヒ素がDNA中でも検出されたが、細菌の成長はヒ素の添加で刺激されなかったことを見出した。このように、GFAJ-1はリン酸塩が限られている時に、リンの代わりにヒ素を用いるという特殊な能力は無いが、高濃度の毒に耐えて、リン酸塩を効率的にかき集めることができるということなのである。(KU,nk)
GFAJ-1 Is an Arsenate-Resistant, Phosphate-Dependent Organism
Absence of Detectable Arsenate in DNA from Arsenate-Grown GFAJ-1 Cells

ナトリウムポンプの図(View of a Sodium Pump)

植物、原虫、細菌、古細菌において見出された膜-複合的ピロホスファターゼ(M-PPases)は、ピロリン酸の加水分解、あるいは合成をナトリウムポンプ、あるいはプロトンポンプに結びつけ、そして膜の両側間の電子化学的ポテンシャルの生成に寄与している。Kellosalo たち (p. 473) は、生成物が結合したままで休眠状態にある好熱菌(Thermotoga maritima)からのナトリウムポンプM-PPaseの構造を報告している。この構造から、ピロリン酸の結合に伴う構造変化が明らかになり、そしてイオン-ポンプ機構に関する洞察が与えられる。(Ej,KU,nk)
The Structure and Catalytic Cycle of a Sodium-Pumping Pyrophosphatase

悪いやつらを一網打尽(Netting the Bad Guys)

抗菌ペプチドは、腸中にある自然免疫のうち、進化的に保存されてきた成分である。αディフェンシンというファミリーは、典型的に、その抗菌効果を細菌に対する殺菌活性を通じて発揮している。ヒトは、ヒトディフェンシン5(HD5)とHD6という、2つのαディフェンシンだけを発現する。HD5は殺菌活性を示し、腸内細菌叢の組成を整える役割を果たしている。一方、HD6は殺菌活性を示さず、腸中でのその機能は不明なままである。このたび、Chuたちは、HD6が病原性微生物から保護していることを示している(p. 477、6月21日号電子版; またOuelletteとSelstedの展望記事参照)。HD6はそれらを直接殺すのではなく、細菌の表面タンパク質に結合し、自己組織化のプロセスを通じて原繊維とナノネットを形成する。そしてこれが侵入してきた病原性微生物を無力化するのである。(KF,nk)
Human α-Defensin 6 Promotes Mucosal Innate Immunity Through Self-Assembled Peptide Nanonets

古いのに新しい?(New for Old?)

対象物や光景などの視覚刺激に直面すると、脳はそれが新らしいもので新たな記憶としてコードするに値するのか、古いもので以前コードされた記憶を引き出す作業を開始すべきかを、決める。古い記憶と同一ではないけれど似たものを含む一連の刺激を見せられると、コード化と検索プロセスの間での行ったり来たりの切り替えが必要になってくる。人間の被験者を使った行動課題を用いて、Duncanたちは、切り替えに1ないし2秒かかるという事実を利用することで、切り替えが起きる前に次の対象が提示された場合、直前の対象が新しかった場合にはそれを新しいと、直前の対象が古い場合には古いと、同定されやすいことを発見した(p. 485)。(KF,nk,ok)
Memory’s Penumbra: Episodic Memory Decisions Induce Lingering Mnemonic Biases

砕け散る(Cracking Up)

高圧流体による水圧破砕は、深部の岩石内の裂け目に沿って破壊や破損を引き起こすが、この過程はある条件で地震の原因となる。この過程は水文学的条件が整ったときに自然に起こりうるが、もしくは深部の帯水層に高圧で流体を送った時など人為的にも誘発される。1999年に台湾で起こったマグニチュード7.6のChi-Chi 地震に沿った断層(この大きな地震以後、現在では地殻応力が低い)を研究することによって、Maたちは(p.459)通常では起こりえないタイプの、自然に発生した水圧破砕が原因となる現象を観察した。(Uc,KU,nk)
Isotropic Events Observed with a Borehole Array in the Chelungpu Fault Zone, Taiwan
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