AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 13 2012, Vol.337


バイオフィルムの拡大(Biofilms Up Close)

多くの細菌感染症には、バイオフィルムの形成が関与している。バイオフィルム外を浮遊する細胞に比べ、バイオフィルム内の細胞は免疫クリアランスや抗生物質に対する抵抗性がかなり高い。Berkたち(p. 236)は光学顕微鏡による超高解像度の解析方法を用いて、ナノメートルスケールの精度で、生きた細菌がバイオフィルムを形成している様子を可視化した。コレラ菌のバイオフィルムは、細胞、細胞のクラスター形成およびクラスターの集合化という異なる3っのレベルの空間的な組織形成を行うことが観察された。個々の細胞クラスターは柔軟な、弾力のある外被で包まれていた。いくつかのコレラ菌のマトリックスタンパク質(RbmA, RbmCや Bap1)は、バイオフィルム成長の際に相補的な構築上の役割を果たしていた。RbmAは細胞間の接着を行い、Bap1は成長中のバイオフィルムを表面に接着させ、そしてVPS(ビブリオ属で発現している多糖類),RbmCおよびBap1の不均一な混合物が、細胞クラスターを包む動的な、柔軟性のある、かつ規則的に整列した外被を形成した。(KU,ogs,nk)
Molecular Architecture and Assembly Principles of Vibrio cholerae Biofilms

タイムリーに構造形成(A Timely Structure)

ほとんどの生物の生理と行動は、昼と夜のサイクルと密に結びついている。哺乳類において、このような日常のリズムは、転写活性化因子と抑制因子によってコードされた概日時計によりもたらされる。この概日時計はほぼ24時間で完了するフィードバックループで操作されている。このループのキーとなる要素はCLOCKとBMAL1からなるヘテロ二量体の転写活性化因子である。Huangたち(p. 189,5月31日号電子版;Craneによる展望記事参照)は、各々のタンパク質からのPAS領域(タンパク質間の相互作用に関係する)と基本的なへリックス-ループ-へリックス領域(DNA結合に関与する)を含む複合体の結晶構造を決定した。CLOCKとBMAL1は異常な非対称性の構造において強くお互いに絡み合っており、これがこの複合体の安定性と活性に寄与しているらしい。(KU)
Crystal Structure of the Heterodimeric CLOCK:BMAL1 Transcriptional Activator Complex

MMS19はCIAに結合している(MMS19 Joins the CIA)

鉄-硫黄(Fe-S)タンパク質は細胞代謝に、特にDNA修復と複製に重要な役割を果たしている。真核生物の遺伝子MMS19に変異を生じた細胞はDNA損傷薬剤に特に鋭敏となり、このことはMMS19がDNA修復に関与していることを示唆しているが、しかしこの遺伝子の変異は、また細胞に広範囲の別の影響をもたらす(Gottschlingによる展望記事参照)。Stehlingたち(p. 195,6月7日号電子版)とGariたち(p. 243,6月7日号電子版)は、酵母とヒトの双方において、MMS19がサイトゾルのFe-Sタンパク質の組み立て(CIA)機構の一部として機能していることを示している。MMS19は、細胞質基質におけるFe-Sタンパク質の組み立ての終わりに役割を果たす特殊なCIAターゲッティングタンパク質の一部であり、CIA足場複合体からFe-Sタンパク質(DNA代謝と関係するメンバ-を含む)のサブセットへとFe-Sクラスターの移動を指令する。(KU,ogs,nk)
MMS19 Assembles Iron-Sulfur Proteins Required for DNA Metabolism and Genomic Integrity
MMS19 Links Cytoplasmic Iron-Sulfur Cluster Assembly to DNA Metabolism

インフルエンザの隠れた制約(Influenza's Cryptic Constraint)

良く知られているようにインフルエンザウイルスは大流行する可能性ゆえに、ウイルスとその宿主との間の分子相互作用の範囲を理解することは重要である。ウイルスに関する何年もの集中的研究にもかかわらず、Jagger たち(p. 199, および、6月28日号電子版、更に、YewdellとInceによる展望記事参照) は、A型インフルエンザウイルスが、その小さなマイナスセンス鎖RNAゲノム内にある遺伝子を隠し持っていることを見つけた。重複したオープンリーディングフレーム(翻訳領域)がウイルスRNA依 存性RNAポリメラーゼ(PA)遺 伝子中に含まれていることが見つかった。この遺伝子はリボゾームのフレームシフトによりアクセスされると、PAのN末端にmRNAエンドヌクレアーゼドメインと、C末端にXドメインをもつ融合タンパク質を生成する。得られるポリペプチドPA-Xは宿主のmRNAを選択的に分解し、感染モデルマウスでは細胞の免疫応答を調節し、かくしてウイルスの病原性を制限する。(Ej,hE,KU,ogs)
An Overlapping Protein-Coding Region in Influenza A Virus Segment 3 Modulates the Host Response

スピンに依存した発光(Spin-Dependent Light Emission)

スピントロニクスデバイスはスピン偏向した電流を用いるものであり、それは他より1スピン分だけ超過している電流である。このスピン偏向を検出する方法として、スピン偏向に強く依存する発光ダイオードを実現することが期待されている。Nguyenらは(p.204)、有機半導体を2つの強磁性体電極で挟み込んだ双極性デバイスを創った。相対的なスピン偏向は印可磁場によって制御可能であるという。バイアス電位-3.5Vを印加した場合、1%の磁気エレクトロルミネッセンス効果が観測された。重水素化有機高分子中間層を用いることで、水素の側鎖を持つ高分子よりもスピン輸送効果が向上し、フッ化リチウムのバッファー薄膜を強磁性正極に付加することで電子注入効率が向上するという。(NK,ogs,nk)
Spin-Polarized Light-Emitting Diode Based on an Organic Bipolar Spin Valve

移動する転位(Moving Dislocations)

結晶性材料の機械特性は、結晶格子中の過剰な、または欠損した原子によって生じる欠陥の存在および動きにより制限される。材料の塑性変形により、転位として知られるこれらの欠陥が移動したり増大したりする。三次元での転位の挙動については多くのことが分かっているが、二次元ではあまり分かっていない。Warne たちは(p.209; Bonilla と Carpio による展望記事参照)モデル材料としてグラフェンを用い、リアルタイムで転位の挙動を調べた。グラフェンシート中のひずみ場がマップ化され、転位の挙動が個々の炭素結合の伸長、回転、切断と関連していることが示唆された。(Sk,KU,ogs)
Dislocation-Driven Deformations in Graphene

火星の非生物的有機物(Abiotic Martian Organics)

火星の有機炭素化合物の源とその形成を理解することは、火星の炭素サイクルを理解するという意味合いも有している。Steele たち (p.212, 5月24日付け電子版) は、11個の火星からの隕石中の有機物質の測定結果を与えている。これには Tissint 隕石も含まれており、これは2011年7月にモロッコの砂漠に落下したものである。10個の隕石は火山性の鉱物中に閉じ込められた複雑な炭化水素を含んでいる。その結果は、それらの有機物が溶けたマグマが冷えて結晶化する際に形成されたものであり、それゆえに非生物的起源であることを示唆している。(Wt,nk)
A Reduced Organic Carbon Component in Martian Basalts

もっと溶けていた(More Melting)

約12万5千年前の最終間氷期は、現在より1〜2℃暖かく、海水面は4〜6m高かったと考えられていた。しかしながら、 Duttonと Lambeck (p. 216)は今回、海水面がおそらく現在よりも10mは高かったことを示している。このような大過剰の海水量は、グリーンランドや南極の氷床が従来考えられていたよりもはるかに多く溶けていたことを意味しており、そしてこのことは、人為起源の地球温暖化に関して我々がどの程度海水面上昇を予期すべきなのか、という点に関しての示唆を有している。(Uc)
Ice Volume and Sea Level During the Last Interglacial

海洋酸性化の危機(Acidification Blues)

大気中の二酸化炭素の濃度が高まることによって、その結果としての海洋の酸性化と炭酸塩の飽和状態の低下が引き起こされ、海洋の生態系の健全性を脅かされる。Gruber たち(p. 220, 6月14日号電子版) は地域的な海洋モデルを使用して、カリフォルニア海流系( California Current System)において、数多くの海洋生物が生成する炭酸カルシウムの一形態である、アラレ石(aragonite)の飽和状態が、どのように変化するかを2050年まで予測した。カリフォルニア海岸の多くの局地にそった海床は、次の20年から30年以内にアラレ石の飽和状態が年中低下するようになり、海洋の貝類(shellfish)の生息地の範囲が深刻に縮小する状況になる。(TO,KU)
Rapid Progression of Ocean Acidification in the California Current System

共に歩んだ(They Walked Together)

オレゴン州にあるペイズリー洞窟では、北アメリカにおける最も初期の人類の証拠が見つかっている。Jenkins たちは(p. 223)、初期の人類がこの場所に住みついたという多種多様な追加の証拠を提示した。それには、放射性炭素年代でほぼ12,500年前(暦年代で約14,500年前)にさかのぼる、一連の放射性炭素年代測定が含まれている。発見には、放射性炭素年代で約11,100年前にあたる the Western Stemmed Tradition を代表する尖頭石器の標本が含まれている。The Western Stemmed Tradition は、支配的であったクローヴィス文化の技術の後に発展したと考えられてきたが、この発見は二つの文化が年代的に重なっていたことを示唆している。(Sk)
【訳注】the Western Stemmed Tradition :古代パレオインディアンの文化
Clovis Age Western Stemmed Projectile Points and Human Coprolites at the Paisley Caves

種の絶滅に向けた歩み(Growing Extinction Debt)

絶滅を予測し、できうるならば防ぐことが、保全生物学の中心的目標である。Wearnたちは、生息地を失ってから絶滅に至るまでの時間差を予測する数学的アプローチを記述している(p. 228; またRangelによる展望記事参照のこと)。このモデルが、高度に生物多様性に富んだブラジルのアマゾン領域に対して適用され、絶滅の空間的および時間的パターンと、1970年から現在に至るまでの絶滅に向けての負債(extinction debt、絶滅までのタイムラグの減少)の蓄積とを再構築するため、また4つの森林伐採シナリオのもとでの2050年までの状況を外挿するために利用された。アマゾン川流域はいまや臨界点にきている。いままでに絶滅した種はほとんどないが、絶滅に向けての負債は急速に高まり、今後40年間での絶滅速度の増加がもたらされうる状況である。(KF)
Extinction Debt and Windows of Conservation Opportunity in the Brazilian Amazon

Gタンパク質共役受容体のクローズアップ(GPCR Close-Up)

過去1、2年で決定されたグアニンヌクレオチド-結合タンパク質共役受容体(GPCR)の構造は、膜タンパク質中のこの重要なファミリーの機能についての洞察をもたらした。Liuたちは、タンパク質工学的手法を用いて、ヒトのA2Aアデノシン受容体(A2AAR)の高分解能の結晶構造解析が可能となった(p. 232)。その高分解能構造は、およそ60個の内部の水の位置を明らかにしたが、これは、GPCR中にほとんど連続的なチャネルが存在することを示唆し、リガンド結合に関するNa+のアロステリック効果、およびコレステロールがいかにしてGPCRの安定化に寄与しうるかを説明するものである。(KF,ogs)
Structural Basis for Allosteric Regulation of GPCRs by Sodium Ions

一端から別の端へ(Pole to Pole)

分裂酵母細胞は、いつ細胞の一端で成長すべきか、それとも両端を成長させるべきか、をどのように決定しているのだろうか?Dasたちは、細胞の先端における活性型small Gタンパク質Cdc42の蓄積が、数分間周期で振動していることを発見した(p. 239,5月17日号電子版)。一端が成長している細胞では、その周期的変動はおもにその端で生じ、両端が成長する場合には、対称的かつ相関のない振動が観察された。複数の成長領域の間でのCdc42を求めての動的な競合が、細胞増殖を非対称的に制御する柔軟な仕組みを表している可能性がある。(KF,ogs)
Oscillatory Dynamics of Cdc42 GTPase in the Control of Polarized Growth
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