AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 25 2011, Vol.334 


地球上の動物の命(Animal Life on Earth)

化石の記録は、カンブリア紀の初期にあたる約5億4000万年前に動物が非常に多様化したことを明らかにしているが、この出来事のそもそもの起源はダーウィンの時代から謎のままである。最近の化石の発見や向上した年代測定の結果に基づき、Erwin たちは(p.1091)、初期の動物の関連や発生時期の分子的な見積もりを示した。主要な動物のクレードは、カンブリア紀の何千万年も前に分岐したらしく、分化が起きる前の動物の共通祖先が最後に存在したのは約8億年前と思われる。カンブリア紀初期の環境の変動により新たな生態系の出現が可能となった際に、おそらく多様化には新しい形の遺伝子調節が関与していたであろう。(Sk,KU,nk)
【訳注】クレード:共通祖先から進化した生物種
The Cambrian Conundrum: Early Divergence and Later Ecological Success in the Early History of Animals

小胞体に注目(Endoplasmic Reticulum in the Spotlight)

小胞体(ER)は新たに合成された膜や分泌タンパク質の輸送系であり、そして、例えば細胞が外部の世界と情報伝達する際のキーとなる要である(表紙参照)。Smithたち(p. 1086)は、ER-付随した分解(ERAD)と呼ばれる厳密に制御されたプロセスにおいて、細胞がER内でのタンパク質のフォールディングをどのようにモニターしているのか、そしてミスフォールドしたタンパク質をどのように始末しているかをレビューしている。しかしながら、READが十分でない時もあり、ER内でミスフォールドタンパク質を処理するために、細胞は付加的なプレーヤーの助けを借りる必要がある。Walter とRon(p. 1081)は、READのような正常な品質コントロール経路が崩れて、アンフォールドタンパク質やミスフォールドタンパク質がER内に蓄積し始める際に刺激されるアンフォールドタンパク質応答(UPR)経路に関してレビューしている。(KU)
Road to Ruin: Targeting Proteins for Degradation in the Endoplasmic Reticulum

もう一つのアミノ化反応(Alternative Amination)

アミンは、一般的に窒素センターでのその反応性に関して知られている。McNallyたち(p. 1114)はめずらしいモードの反応を発見したが、その反応では、窒素に隣接するアルキル (C-H) 基がシアノ脱離基の効率的置換によりアリール環に結合する。シアノアレーン化合物とのアルキルアミンのカップリング反応は、広範囲の珍しい試薬の組合せから可能性の高い反応をスクリーニングするためのプロトコルの過程で見出された。(hk,KU)
Discovery of an α-Amino C?H Arylation Reaction Using the Strategy of Accelerated Serendipity

銀河系のスーパーバブル(Galactic Superbubble)

宇宙線は、宇宙から地球に浴びせられる高エネルギーの陽子や電子等の亜原子の粒子である。それらは一般に、大きな星の爆発によって引き起こされる衝撃で加速されると考えられている。もう一つのシナリオは、大きな星や複数の星の爆発に由来する強い恒星風によって星団の周囲に生じた高温の希薄なガスで満たされた宇宙のスーパーバブル領域中での加速によるものである。Ackermann たちは(p.1103; Binns による展望記事参照)、激しい星生成で特徴付けられる我々の銀河のある領域の、フェルミ広域望遠鏡で得られたガンマ線画像を提示した。そのガンマ線放出は銀河のガンマ線の背景放射を上回っており、スーパーバブル内部で新たに加速された宇宙線の存在を示唆している。(Sk,KU)
A Cocoon of Freshly Accelerated Cosmic Rays Detected by Fermi in the Cygnus Superbubble

同一原子による極性(Elementally Polar)

化学者たちは、既に窒素分子の様に同一原子からなる分子(非極性分子)とフッ化水素のような異種原子からなる分子(極性分子)の違いを明らかにしている。ある元素が他よりもより強力に電子を引き付けるために二つの原子を結合させたときに分極が生じ、電界中では非対称な挙動を示すのである。Liらは(p.1110)、近年発見された基底状態のルビジウム原子と高エネルギーのリュードベリ準位に励起された価電子を持つもう一つのルビジウム原子との間の準安定ペアに関する研究について報告している。驚くべきことに、この分子は同じ原子によって構成されているにもかかわらず、固有の極性を示すという。(NK,KU,nk)
A Homonuclear Molecule with a Permanent Electric Dipole Moment

古代の漁業(Ancient Fisheries)

初期のホモ・サピエンスは、最初沿岸の海洋資源を開拓したが、しかし--彼らは50,000年前頃までには外洋を航行していたに違いないとしても(例えば、オーストラリアにたどり着いていた)--本格的に沖合いで漁業していたと言う証拠は少ない。O'Connorたち(p. 1117)は、東チモールにて42,000年前頃の年代を示す岩陰からの多様な深海種の骨や漁業用具を含む遺跡に関して記述している。全体として、魚類がこの岩陰での動物化石の大半を占めており、その内の半分ぐらいはマグロのような遠洋種である。この遠洋漁業、特に初期のそれがどのように行なわれたかは明らかでないが、骨で作られた幾つかの釣り針がより若い堆積層で見出されている。(KU,bb,nk)
Pelagic Fishing at 42,000 Years Before the Present and the Maritime Skills of Modern Humans

生物多様性の偏りは?(Biased Biodiversity?)

化石記録は、地球の歴史全体を通しての生物多様性の再構築に向けての基礎を提供する。しかしながら、今日存在する堆積岩が様々な地質年代に渡っての幅広く十分な堆積岩を提供しているのだろうか、或いは保存中に加えられた固有の標本抽出のバイアスがあり、生物多様性の傾向を歪めているのではないのか?Hannisdal と Petter(p. 1121;Cramtonによる展望記事参照)は、様々な環境因子--海水面、海洋化学、及び気候等を含めて--が、古生代カンブリア紀以降(この5億3000万年間)全体を通して海洋の無脊椎動物の生物多様性の記録とどのような相関があるかを調べた。化石記録は、実際に地質学的時代を通して外部の環境圧力によって影響を受けていたらしい。(KU)
Phanerozoic Earth System Evolution and Marine Biodiversity

マウスの肥満にニューロン移植を行なう(Applying Brainpowor to Mouse Obesity)

神経細胞の補充療法--ドナーニューロンが外傷や神経変性疾患によって損傷した脳を修復させると言うアイデア--は、かなりの関心を引きつけている。しかしながら、このような治療は大きな課題を含んでおり、と言うのはその成功にはドナーニューロンが分化し、そしてホストにおける適切なニューロンとシナプス結合を形成することが必要になるからである。Czuprynたち(p. 1133)は、野生型のドナーマウスの視床下部由来の未成熟なニューロンを、レプチン(視床下部にシグナルを伝達する代謝性ホルモン)に対する受容体の遺伝的欠損のために病的に肥満した変異マウスの視床下部中に移植した。ドナーニューロンは機能的なシナプスを形成する4っの異なるニューロン型に分化し、結果としてレシピエントマウスにおいて、視床下部のレプチンシグナル伝達の修復と部分的に肥満と代謝欠損の改善に結びついた。(KU)
Transplanted Hypothalamic Neurons Restore Leptin Signaling and Ameliorate Obesity in db/db Mice

死を刺激する(Primed for Death)

臨床に細胞障害性の化学療法剤を導入して数十年経つが、この薬剤は依然として癌患者の看護にとって頼みの綱である。何故に、化学療法剤が幾つかの腫瘍には効果があり、他の腫瘍には効かないのかは十分には分かっていない。Ni Chonghaileたち(p. 1129,10月27日号電子版;Reedによる展望記事参照)は、化学療法剤の効果の違いは、治療開始前の段階で腫瘍細胞がアポトーシス(細胞死の一つのタイプ)しやすくなっているかどうか、それは彼らが「ミトコンドリアプライミング」と呼ぶ測定可能な性質であるが、で決まると仮定した。この考えと一致して、このプライミング度の高い癌を有する患者では化学療法の効き目がよかった。in vitroにおいて、腫瘍細胞におけるミトコンドリアプライミングを増強する操作により、化学療法への感受性が促進された。(KU)
Pretreatment Mitochondrial Priming Correlates with Clinical Response to Cytotoxic Chemotherapy

流れと共に進む(Go with the Flow)

線虫の接合体における極性化は、形態変化を定めるためのパターン形成の生化学的ネットワークと機械的プロセス間の重要な結合事例である。しかしながら、分配-欠損(PAR)分極タンパク質に関する20年来の研究にもかかわらず、我々は未だこの機械化学的結びつき、或いはPARの極性化に関する根底となるメカニズムを理解していない。Goehringたち(p. 1137,10月20日号電子版)は、活発に発生する流体の流れによる受動的な移流がPARタンパク質の非対称性を促すのに十分であり、それによってパターン形成のトリガーとして作用することを示している。(KU)
Polarization of PAR Proteins by Advective Triggering of a Pattern-Forming System

父系性のミトコンドリアを始末する(Getting Rid of Mr.Mitochondrion)

殆どの多細胞生物において、ミトコンドリア--いわゆる細胞の発電所--は、もっぱら卵母細胞に由来する。しかしながら、胚形成中に精子に由来する父系性のミトコンドリアが細胞質からどうして選択的に消滅するのか不明である(Levine and Elazarによる展望記事参照)。Sato and Sato(p. 1141,10月13日号電子版)とAl Rawiたち(p. 1144,10月27日号電子版)は、線虫において受精後直ちに侵入した精子により自己貪食が誘発されることを見出した。自己貪食は胚における父系性のミトコンドリアを選択的に除去し、そしてミトコンドリアの母系性遺伝にとって必要とされる。更に、マウスの胚の調査から、自己貪食はこれらの種の中で保存されたメカニズムであることが明らかになった。(KU)
Degradation of Paternal Mitochondria by Fertilization-Triggered Autophagy in C. elegans Embryos
Postfertilization Autophagy of Sperm Organelles Prevents Paternal Mitochondrial DNA Transmission

拡大の波に乗って(Riding the Wave)

人類は世界の大部分を支配するまでに広まったが、この人口拡大の遺伝的影響はわかっていない。Moreauたちは、教会の信者登録簿をもとに、ケベック州(Quebec)のコロニーの1686年から1960年までの拡大を検証した(p. 1148、11月3日号電子版)。人口拡大の波の先頭にあった人たちは、そのコロニーの中心にいる人たちよりも、有意に高い適応性(出生成功率)を備えていた。波の先頭にあった女性たちは、中心にいる女性よりも平均して1年早く結婚し、出産のポテンシャルを高めることとなったし、波の先頭にあった家族は、中心にいた家族に比較して、子孫により広い土地を与えられることになったのである。(KF,bb)
Deep Human Genealogies Reveal a Selective Advantage to Be on an Expanding Wave Front

ストレスを受けた脳(The Stressed Brain)

動物実験では、ストレス因子が、ストレス関連の神経調節物質の遊離をもたらす神経化学的カスケード反応の引き金を引くことを示している。そうした修飾因子は、大規模神経細胞集団の結合性を変化させることによって、脳の認知状態を変化させる。ヒト被験者において、Hermansたちは、機能的な脳の活動に対する急性ストレス因子の影響と、それと同時の情動に関する被験者のレポート、及び神経内分泌および自律神経活性の生理学的測定の変化を中立的なパラダイムと比較した(p. 1151)。いわゆる脳領域の特徴ネットワーク内での機能的神経の活性と結合性におけるストレス因子関連の変化が観察され、それは、被験者の唾液内のコルチゾールやαアミラーゼの増加だけでなく、被験者による悲観的な気持ちの報告の増加と相関していた。(KF,KU,nk)
Stress-Related Noradrenergic Activity Prompts Large-Scale Neural Network Reconfiguration

ウイルスの鎧を突き抜けて(Piercing the Viral Armor)

グリカンの保護的シールドで遮蔽することは、ウイルスが抗体認識から逃れるために用いる戦略である。しかしながら、最近、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)を広く中和する抗体が、エンベロープタンパク質gp120のグリカン被膜に直接結合するらしい、と同定されてきた。Pejchalたちは、グリコシル化されたgp120の外側領域に結合する、この強力な広く中和する抗体、PGT 128の抗原結合性領域の構造を報告している(p. 1097、10月13日号電子版)。抗体は、2つの高度に保存されたグリカンとタンパク質表面のある部分とに結合することによって、グリカン・シールドに浸透する。2つのグリカン鎖による接触は、その抗体の、大きなグリカン・エピトープへの高い親和性を説明するものである。(KF)
A Potent and Broad Neutralizing Antibody Recognizes and Penetrates the HIV Glycan Shield

新規鋳造パルサー(Newly Minted Pulsar)

球状星団は、数十万から数百万の密集した星の集まりである。約200個がわれわれの銀河の周りの軌道を周っていることが知られており、そのいくつかは、γ線を放射していることが判っている。この放射は、これらのクラスターに存在しているミリ秒パルサー群に起源を有していると考えられているが、これらのパルサーは電波領域の波長で検出されているだけである。Freire たち (p.1107, 11月3日電子版) は、球状星団中のある個別のパルサーがγ線波長域で検出されたことを報告している。そして、星団のγ線放射はこのひとつのパルサーに起因することを示した。このパルサーは、従来検出されたミリ秒パルサーよりもはるかに明るい。これは、そのパルサーがこれまで検出された中では最も若いことを示唆している。(Wt,nk)
Fermi Detection of a Luminous γ-Ray Pulsar in a Globular Cluster

岩場と陸地の間で(Between a Rock and a Hard Place)

生物への気候変化の影響の研究は、単一の効果に焦点を絞る場合が多い。たとえば、気温上昇の種の生息範囲への影響など。Harleyは、潮間帯におけるある捕食者(ヒトデのPisaster ochraceus)とその餌(ムール貝あるいは他の海洋性無脊椎動物)との相互作用に対する、上昇した気温の、空間・時間を越えての影響に着目した(p. 1124; またNogues-BravoとRahbekによる展望記事参照)。気温が上昇するにつれ、ムール貝の寝床の、高潮のラインより上での垂直方向での生息範囲は、温熱性ストレスのせいで狭くなった。これは、捕食者のいない空間の量を減らし、生息範囲の収縮、ひいては、ある場所での局所的な絶滅をもたらした。捕食圧力を実験的に減らすと、餌になる種は、境界外の場所を占めることが可能になり、種の豊かさも増加したのである。(KF)
Climate Change, Keystone Predation, and Biodiversity Loss

メスに偏っている(Biased Toward Females)

多くの種が、局所的に1匹ないし少数の孕んだメスが介卵して、そこから娘たちが散っていくことに貢献するタイプの生活史をもっている。そうした種はしばしば、局所性配偶者競合(LMC)の理論研究をもとに予期される通り、極度に雌性に偏った性比によって特徴付けられる。Mackeたちは、LMCへの応答として性比が調整された古典的な事例であるハダニTetranychus urticaeの性比を調査した(p. 1127,11月3日号電子版)。同じ基礎集団から始めて、LMCの強さを3段階にして、独立した複数集団を2年間にわたって進化させ、理論に完璧にフィットするそれぞれの選択ラインでの性比が示されたのである。(KF)
Experimental Evolution of Reduced Sex Ratio Adjustment Under Local Mate Competition

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