AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 15 2011, Vol.333


山の雪解け水が脅かされている(Threats to Mountain Runoff)

北アメリカ西部の山脈の積雪は、暖期における河川の水の主要な源となっている。この積雪の大きさと暖かな気候の暑熱の時期と程度の変化は、このように、流域内の地域における河川の流れと水の供給に大きい影響を及ぼす。Pedersonたちは(p.322,6月9日号電子版)、過去50年間の積雪の減少を更に長い歴史的な記録と比較するために、コロラド・コロンビア・ミズーリの河川に水を供給する山脈の800年間の長期の積雪状態を再構成した結果を描写している。近年の減少のひどさは歴史上例を見ないものであり、それは自然の変動性と人為的な温暖化の組み合わせによって生じたものである。気候温暖化が継続する状況において、過去半世紀にわたる積雪量の減少は、その積雪量における主要な影響を及ぼす要素が、降雨量から温度へと変化したことの証拠であろう。そして、このことは地域的な水の供給を潜在的に脅やかしている。(Uc,KU)
The Unusual Nature of Recent Snowpack Declines in the North American Cordillera
p. 332-335.

手に負えない静電気(Too Much Static)

風船を髪の毛で擦ったり、あるいは絨毯上を歩行する際の電荷の蓄積は、接触帯電の例として良く知られている。エボナイト棒を羊毛で擦るという見慣れたラボ実験では、羊毛から棒へ電子が移動していると一般的に信じられていた。即ち、羊毛にはプラス電荷そして棒にはマイナス電荷がチャージされていると。ケルビン力顕微鏡(表面電位顕微鏡)を使って、Baytekinたち(p. 308、7月23日号電子版)は、一緒に擦られた対象物上の局所的な電荷のチャージ状態を調べた。擦られた対象物のどちらにも、物質表面状態のゆらぎによってプラスとマイナス帯電した領域がランダムなモザイク状に並んでいた。ただし、全体としては各々の対象物は正負反対の電荷を保持するのである。(hk,KU,nk)
The Mosaic of Surface Charge in Contact Electrification
p. 308-312.

スポットライトの下の太陽黒点(Sunspots Under the Spotlight)

太陽黒点の強い磁場が内部からの対流熱流束を抑制するために、太陽黒点は暗い。しかし、対流が完全に抑制されることはない。そうであったなら、太陽黒点はもっとずっと暗かったであろう。特に、ペナンブラ(黒点の中央部の暗い斑点を取り囲むフィラメント状の領域)は、最近の数値モデルによると、対流のひっくり返るところという観点で説明されてきた。スウェーデンの 1-meter Solar Telescope の観察に基づき、Scharmer たち (p.316, 6月2日付け電子版) は、太陽黒点のペナンブラ内部に暗い下降流が存在する証拠を与えている。これらの下降流は、対流による流れパターンのある部分をなしており、その検出はモデルの予想を確認するものとなっている。(Wt,nk)
Detection of Convective Downflows in a Sunspot Penumbra
p. 316-319.

私の報酬は何処?(Where Is My Reward?)

報酬-探索を効率的に行うには、報酬の得られる時期や場所を予測するために環境からの刺激が適正な前後関係の中で解釈される必要がある。脳の中では、腹側被蓋野とそのドーパミン放出が、報酬-探索の制御に決定的な重要性を持っている。この腹側被蓋野系が、他の前後関係の情報(例えば、報酬は何処で得られるのか)とどのように関係しているかは不明なままであった。Luo たち(p. 353) は解剖学的、生理学的、行動学的な手法を組合せて、海馬のCA3領域から腹側被蓋野への多シナプス経路を明確にした。その結果、前後関係の手掛かり処理に関連した構造である背側海馬と、動機づけされた行動制御に含まれる構造の腹側被蓋の間の関係が明らかになった。(Ej,KU,nk)
Linking Context with Reward: A Functional Circuit from Hippocampal CA3 to Ventral Tegmental Area
p. 353-357.

哀れむべきはボス(Pity the Boss Man)

社会的階層において、トップランクの生物は、多くの食料や交尾相手などに近づける利点を有している。その結果、社会が不安定で上位ランクの個体が地位や社会的グループを守る必要がある場合を除いて、ランクが上であることはその代償に勝るものと、一般的に考えられてきた。多くの霊長類の種において、安定な社会の高順位の個体は、低位の個体に比べ低ストレスの証拠を示し易い。Gesquiere たち(p. 357; および、Sapolskyによる展望記事参照)は、それ以上の物語が隠されていることを示した。野生ヒヒ集団の9年間に渡る研究から、優位ランクの役割と、ストレスホルモンとテストステロンのレベルを調べた。個々のランクを別個に見る限り、最上位のオスは社会が安定であっても、彼らより下の高位のオスよりも高いストレスホルモンを発していた。驚いたことに、彼らのストレスレベルは低位のオスと同程度である。彼らは地位や交尾相手をライバルから守るためのエネルギーや心理的ストレスに耐える必要があるためと思われる。(Ej,hE)
Life at the Top: Rank and Stress in Wild Male Baboons
p. 357-360.

幼少期は重要である(Early Years Matter)

幼少期の教育を向上させる努力は、育児クラスから専任の保育に至るありとあらゆることに及んでいると思われる。どのようなプログラムが何を達成し、そしてその効果はどのくらい重要なのかは、未解決の問題である。Reynolds たちは(p.360,6月9日号電子版;Melhuishによる展望記事参照)、シカゴの就学前の専任の教育プログラムに参加した子供達のその後の生活について研究した。約25年後、就学前プログラムに参加した者は、参加しなかった者に比べて全部ではないが幾つかの要素について優れていた。考慮された要素は、収入・教育・育児の状態・個人的な健康のケア・薬物乱用・犯罪への関わりである。就学前の教育が、低い教育レベルやより大きな貧困に陥っている人々からの子供に対して最も大きい違いをもたらしていると考えられる。(Uc,KU)
School-Based Early Childhood Education and Age-28 Well-Being: Effects by Timing, Dosage, and Subgroups
p. 360-364.

チューブを捩じる(Twisting Tubes)

多様な動物の器官は左右 (LR)非対称な形態を有しており、これら器官の元となる管(tube)を形成する必要がある(Horne-BadovinacとMunroによる展望記事参照)。ハエの後腸は、胚形成時に左方に捩れた上皮性管から成っている。この捩れが生じる前、この管の上皮細胞はその内側(尖端)平面にLR非対称(キラル)な細胞形状を採用している。Taniguchi たち(p. 339)は、この新規な細胞の挙動を「平面的な細胞形状キラリティ」(PCC=Planar Cell-Shape Chirality)と呼んでいる。 接着タンパク質であるショウジョウバエのE-カドヘリンやミオシンIDは、非対称的に分布し、そしてPCCを産生する原因である。正常な発生の際に、肺管(lung tube)は遺伝的に制御された形状変化を経て、肺機能の基礎となる気道構造を形成する。Tang たち(p. 342) は、RASに制御されたERK1/2のシグナル伝達が、胚性肺上皮細胞中の紡錘体角度に影響を与えることで、このような形状変化の制御に中心的役割を果たしていることを実証した:即ち、ERK1/2活性の増加が、気道管の縦軸に平行的に分割する細胞の割合を減らしていること。(Ej,hE,KU)
Chirality in Planar Cell Shape Contributes to Left-Right Asymmetric Epithelial Morphogenesis
p. 339-341.
Control of Mitotic Spindle Angle by the RAS-Regulated ERK1/2 Pathway Determines Lung Tube Shape
p. 342-345.

栄養の脈動効果(Trophic Ripple Effects)

栄養のカスケードは、一つの種の消費がより低い栄養レベルにある種の存在量と分布に影響する時に生じる。このようなカスケード効果は陸生と水生の生態系双方に渡って記述されており、そしてその頂点に立つ消費者(肉食動物や大型の草食動物等)が、過去数千年に渡る人間活動によって消滅してきた。Estesたち(p. 301)は、これらの頂点に立つ消費者の消滅が病気のダイナミクス、野火の頻度、及び生物地球化学的サイクルにもたらす想定外の影響をレビューしている。大型動物の消滅、或いはコントロールは生態系の機能や弾力性、そして健康に深遠な影響をもたらす可能性があり、このことは種の保存と管理の決定において考慮されなければならない。(KU)
Trophic Downgrading of Planet Earth
p. 301-306.

ファンコニ貧血タンパク質の結晶化(Crystallizing Fanconi Anemia Proteins)

ファンコニ貧血(FA)は、DNAストランド間の架橋結合薬剤への過敏症によって特徴付けられている。その結果としてのゲノムの不安定さは、この病に見られる早発性の癌や骨髄機能不全、及び他の問題の基礎であると考えられている。FA DNA修復経路の中心は、DNA修復部位に局在化しているFANCD2とFANCIタンパク質から作られるFAI-FAD2(ID)複合体である。Jooたち(p. 312)は、マウスのID複合体と単離したFANCIタンパク質の結晶構造を決定した。その複合体はIDの界面内部にモノユビキチン化の部位を持つV字形の形状を有しており、電気的にプラスのV字形の谷の底部において、溶媒の通りやすい二つのトンネルがあり、その各々はユビキチンの尾部を受け入れることが可能である。そのV字形は一連の溝を形成しており、FANCIに関して、Y形状したDNAフラグメントに結合することが出来、このことはDNAクロスリンク部位で停止した複製点にこのID複合体がどのようにして結合しているかを示唆している。(KU)
Structure of the FANCI-FANCD2 Complex: Insights into the Fanconi Anemia DNA Repair Pathway
p. 312-316.

薄膜中の複雑な相互作用(Complex Interactions in Thin Films)

薄膜として材料を閉じ込めることで、量子井戸構造を形成することができる。量子井戸は伝導電子のスピン、電荷、軌道自由度に影響を与え、バルクとは異なる物性を示すことが知られている。Yoshimatsuらは(p.319)、電子の相関相互作用に由来する金属的特性を示すことが知られているSrVO3の超薄膜をNb:SrTiO3基板上に成長させ、角度分解光電子分光法によりその電子構造を調べた。フェルミレベル近傍の異なるバナジウムの3d軌道に対応する一連のサブバンドが観測され、そのバンド構造は膜厚に依存して変化することを見出した。(NK,KU,nk)
Metallic Quantum Well States in Artificial Structures of Strongly Correlated Oxide
p. 319-322.

ルールとして、安定した成長(Steady Growth,as a Rule)

ネットワークにおける繋がりは、しばしば閾値的挙動を示す。結合が少ししかない時、孤立した結合の島が存在し、そして最も大きく結合したグループはそのネットワークにおける全メンバーの内の小さな割合である。しかしながら、ある点で、たった数個の結合を付加するだけで、そのネットワークのかなりの割合が結合するようになる。古典的なErdosとRenyiの成長モデルやその変形モデルにおいて、存在するネットワークのランダムサンプリングと段階的な形での結合ルールの適用により成長が生じる。幾つかの最近のシミュレーションによると、このような転移は本質的に非連続的であると主張されている。Riordan and Warnke(p. 322;Jansonによる展望記事参照)は、非連続的であるような爆発的な成長の転移が、これらのモデルの多くで課される束縛の全てを満たすことは出来ない、という数学的な根拠を提示している。(KU,nk)
Explosive Percolation Is Continuous
p. 322-324.

酸素格子の近藤効果(Kondo Effects of an Oxygen Lattice)

局在化したスピンからの電子散乱を生じる近藤効果は、多くの場合、非磁性金属中の磁性体不純物からの散乱のような単一部位での現象と考えられている。Jiang たちは(p. 324)、低温下の金の表面において、2個の不対スピンを有する O2 分子によって構成される近藤格子を調べた。O2 分子は列に沿って吸着し、走査型トンネル顕微鏡と分光測定により、反結合状態による相互作用で引き起こされるであろう2個の O2 分子間の局在化した近藤シグナルだけでなく、非局在化した近藤液体についてもそのしるしが明らかになった。(Sk)
Real-Space Imaging of Kondo Screening in a Two-Dimensional O2 Lattice
p. 324-328.

ゼオライトの調整(Tuning Zeolites)

ゼオライトはアルミノケイ酸塩無機質のファミリーからなっていて、そのミクロ多孔性によって濾過や触媒作用にとって有益なものである。長期的な目標は、その構造に手を加えて、ゼオライト・チャネル壁に固有なミクロ多孔性にメソ多孔性のネットワークを付加することである。特別に設計された二機能性の鋳型分子を用いて、Naたちは、双方の空隙率スケールをもつゼオライトを製作した(p. 328; MollerとBeinによる展望記事参照のこと)。界面活性物質の一部は壁の結晶化に向かい、別の部分は狭いチャネルの形成を導いた。界面活性物質の化学的性質を調整することで、空隙率、孔の規則的配列、ゼオライトの壁の厚さの調整が可能になった。メソ多孔性構造とゼオライトの枠組みの強い酸性度は、嵩高い分子を含む多様な有機反応に対する触媒活性を有意に改善する結果となったのである。(KF)
Directing Zeolite Structures into Hierarchically Nanoporous Architectures
p. 328-332.

生命のない海(Deadly Oceans)

海洋の大きな領域は低酸素状態であるが、その意味は、そこでの溶存酸素濃度が低すぎて、ほとんどの海洋生物が生き延びられないということである。低酸素である海洋の容積は、気候が温暖化するにつれ増えていて、それは、海水温度が上昇するにつれ、酸素の溶解度が低下するからである。海洋の低酸素の起源と広がりをよりよく理解するために、Deutschたちはモデルを使って、太平洋中の世界最大の低酸素ゾーンにおける過去50年にわたる低酸素層の時間変動を再現しようと試みた(p. 336、6月9日号電子版)。低酸素ゾーンの容積は、主に、温度が急激に低下する温度躍層(thermocline)の深さの変化に応答して、2倍程度変化していた。そうした変化は、窒素循環や海洋光合成の量へ、大きなインパクトをもつに違いない。(KF,KU,nk)
Climate-Forced Variability of Ocean Hypoxia
p. 336-339.

細菌の電気生理学研究の導入(Introducing Bacterial Electrophysiology)

細菌の電気生理学は、単一細胞の膜電位を測定することができなかったため、制限されていた。Kraljたちは、電位感受性をもつ蛍光性膜タンパク質のクラスを遺伝子工学的に作り出し、個々細菌を傷つけずに電気生理学的測定を実施した(p. 345)。そうした測定によって、大腸菌が、ニューロンにおける活動電位の存在を暗示する、電気的スパイクを生み出していることが明らかになった。細菌における電気的スパイクという応答は、広範囲の物理的、化学的動揺への応答において認められ、流出活性と相関していた。将来このプローブは、種々の医学的、環境的、また産業的に重要な細菌の、膜電位の役割を決定するのに有益であるに違いない。(KF,nk)
Electrical Spiking in Escherichia coli Probed with a Fluorescent Voltage-Indicating Protein
p. 345-348.

合成生物学(Synthetic Biology)

新しい生物学的機能を与えてくれる合成ゲノムの設計と作成は、生命の基礎的な限界を検証し、生物工学にとっての技術的ブレイクスルーを与えてくれるものになる。しかしながら、大規模なゲノムの新規合成は、骨の折れる、高価なものであって、失敗しがちである。Isaacsたちは、進化的な並行ゲノム編集と、遺伝子工学的な接合とを組み合わせて、4.6-メガベースの大腸菌ゲノムを再設計した(p. 348)。この方法は自然なゲノムを生きた鋳型として用い、非機能性のゲノムを連続的に消滅させていき最終的に機能性の合成ゲノムを残して行くのである。この、生体内での鋳型によって仲介されるゲノム作成アプローチは、TAG終止コドンの314個の出現のすべてを、同義のTAA終止コドンによって系統的に置き換え、32個の大腸菌系統に導入するよう多重に用いられた。それらが次に、遺伝子工学的接合によって、80個の正確な変化をもつゲノムへと階層的に構築されたのである。この戦略によって、314個のTAGコドンすべての置換の機能へのインパクトが測定できるようになったのである。(KF,nk)
Precise Manipulation of Chromosomes in Vivo Enables Genome-Wide Codon Replacement
p. 348-353.

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