AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 10 2011, Vol.332


内毒素が明らかに(Endtoxin Revealed)

ネマティック液晶は剛い棒状の分子からなり、局所的なスケールで同じ方向に配向しようとする。或る幾何学的構造内に閉じ込められると、この分子秩序は系の境界条件を満足させることが出来なくなる。代わりに、点欠陥の形で低い規則性の領域が形成され、この領域は光学顕微鏡で容易に観測される。I.- H.Linたち(p. 1297,5月19日号電子版)は、リピドAが液晶の液滴中でその欠陥と相互作用し、細菌の作る内毒素の必須成分であるこの糖リン脂質の極めて高感度の検出を可能とすることを示した。(KU,nk)
Endotoxin-Induced Structural Transformations in Liquid Crystalline Droplets
p. 1297-1300.

変化を理解する(Understanding Change)

人間活動の結果、生態群集は機能的にかけがえの無い種を失いつつも、新しい機能的な種を得つつある。しかし、この二つのプロセスの研究は殆ど独立に行われてきた。Wardleたちは(p.1273)、これら二つのトピックスを評価し、地上と地下のプロセスの変化を通じてどのように種の交換が生態系を変化させているかを調べ、そして地球システムが世界規模の変化にどのように対応しているかを理解するに必要な普遍化と統合的な原理に関して探求している。(Uc,KU)
Terrestrial Ecosystem Responses to Species Gains and Losses
p. 1273-1277.

マクロファージがその場で拡大する(Macrophages Expand in Place)

マクロファージは感染の間、病原体の除去に重要な役割を果たしている。マクロファージは、血液からの単球(次にマクロファージに分化する)の補充により感染した組織内で数が増加する。これは、古典的な「1型」応答に関与する炎症性マクロファージに対するケースであるが、Jenkinsたち(p. 1284,5月12日号電子版;表紙参照;Randolphによる展望記事参照)は、「2型」応答(この応答は、しばしば寄生虫感染に応じて生じる)の際に組織内でのマクロファージの蓄積に関する異なるメカニズムを報告している。組織常在性のマクロファージはフィラリア性線形動物の感染に応じてその場で増殖する。増殖中のマクロファージは「別の活性化された」表現型を持っており、そしてその増殖に対して2型サイトカインであるインターロイキン4を必要とした。マクロファージ増殖に関するこのメカニズムは、炎症細胞の補充と通常結びついている免疫病理の非存在下での寄生虫の隔離と組織修復を促進しているのであろう。(KU)
Local Macrophage Proliferation, Rather than Recruitment from the Blood, Is a Signature of TH2 Inflammation
p. 1284-1288.

フィリピンにおけるマイクロクレジット(Microcredit in the Philippines)

マイクロクレジットは、通常の銀行などによる貸与に支障のあるグループや個人への小額ローンの保証を行うことであり、その狙いの一つは、特に女性によって運営される小規模なビジネスの着手と成長を奨励することである。KarlanとZinman(p. 1278)は、フィリピンでの個人向けマイクロローンを評価するための、ランダムに基づく方法論を作成した。マイクロローンについては、これを利用できることで個人が受ける借金の総額が増加させたが、彼らのビジネスは成長することなく、実際は縮小していることがあった。しかし、マイクロクレジットの場合は、個人と共同体との関係を育成し、ビジネスのリスクを管理可能にして、インフォーマルな貸与の利用を増やしていた。(TO)
Microcredit in Theory and Practice: Using Randomized Credit Scoring for Impact Evaluation
p. 1278-1284.

グラフェンの形質変換と集積回路(Graphene Transformation and Integrated Circuits)

メタマテリアルと変換光学は、自然界の物質の機能を超える機能を有する回路や素子の設計を可能とする。Vakil と Engheta は(p. 1291)、グラフェンの光電子特性が、ほんの一原子の厚みで二次元状に広がる形態の中に、そのような設計された回路構成を実現する可能性をもつことを数値的に示した。グラフェンにおける電荷キャリアの高い移動度は、それを高周波用途で用いられる高周波デバイスの理想的な候補にする。高周波の電界効果トランジスタは実証されているが、二つの入力周波数から和や差の組み合わせ周波数を作り出す混合機のようなデバイスは、他の構成要素を必要とする。Y.-M.Lin たちは (p.1294)、電子ビームリソグラフィーを用いて、炭化ケイ素上に成長させたグラフェンに混合機の成分を作り上げた。(Sk)
【訳注】メタマテリアル:光を含む電磁波に対して、自然界の物質にはない振る舞いをする人工物質
Transformation Optics Using Graphene
p. 1291-1294.
Wafer-Scale Graphene Integrated Circuit
p. 1294-1297.

攪拌中の超流動体(Superfluids in a Stir)

液体を攪拌すると渦を形成したり、或いは液体の特性(そこでは相転移が誘発される)を変えたりする。もし、液体が超流動体であるならば、量子力学的理由から、渦の角運動量が制約されるので、渦は量子化された値をとり、そしてその液体は“正常(normal)”液体となる。幾分かは現象論的な記述により、或る与えられた条件で渦がどのように発達するか、また発生し得る異なった状態については良く理解されているが、全体の進展を説明する普遍的理論が欠如していた。Bulgacたち(p. 1288)は時間依存性密度汎関数理論について述べているが、これはフェルミ超流動体の複雑な相互作用に関連するダイナミクスと相転移に関する一般化された記述を提供し、そしてこのような系を記述する強力なツールとなるであろう。(hk,KU,nk)
Real-Time Dynamics of Quantized Vortices in a Unitary Fermi Superfluid
p. 1288-1291.

あべこべのトンネルを通って(Through a Topsy-Turvy Tunnel)

量子力学の直感に反する結果の一つは、関連する原子の転位を引き起こすに必要なエネルギーが不足している系において、化学反応が時には進行することである。この現象はトンネル効果と呼ばれており、そこでは分子が生成物へ向かってエネルギー障壁を越えていくのではなく、障壁を通り抜けていく。Schreinerたち(p. 1300;Carpenterによる展望記事参照)は、トンネル効果によりその予期される分子の転位の方向性を逆転させる反応系に関して記述している。低原子価の中心の炭素に結合したOH基とCH3基を持つ不安定なカルベン分子(HO-C-CH3)において、1個のH原子が中心の炭素に移動して、より安定な異性体を作る。しかしながら、競合するCH3基からのH原子の移動の障壁よりもより高い障壁を越えなければいけないにもかかわらず、そのH原子はOH基から転位した。(KU)
Methylhydroxycarbene: Tunneling Control of a Chemical Reaction
p. 1300-1303.

地球へ落下した有機物(The Organic Who Fell to Earth)

炭素質コンドライトは、太陽系における地球や他の惑星が形成された物質のサンプルを提供する太古の隕石である。それらは有機物を含有しており、太陽系の原始惑星円盤内部、或いは太陽形成以前の星間媒質中で形成されたと考えられてはいるが、隕石の元となる小惑星内部において、変質を受けた可能性がある。Herd たち (p.1304) は、良い状態で保存された炭素質コンドライト隕石である Tagish Lake の4つの隕石破片中に存在する有機化合物を研究した。そのデータによると、母天体の熱水的変質が有機分子の保存と生成にある役割を果たしていることを示唆している。(Wt,KU,tk)
Origin and Evolution of Prebiotic Organic Matter As Inferred from the Tagish Lake Meteorite
p. 1304-1307.

熱を見る(Seeing the Heat)

薄暗い光のもとでの視覚には、光に対して高感度であり、かつ熱活性化の確率が低い視覚系が必要である。そうであっても、熱による色素ノイズは生じてしまう。Luoたちは単一細胞記録を用いて、多様な桿体や錐体視物質に対する光異性化反応の活性化エネルギーとノイズの比率を測定した(p. 1307)。それによって、ある色素の光活性化エネルギーとそのピーク吸収波長との間に、定量的な関係が観察された。この関係を用いた統計力学的な分析と熱活性化のモデル化によって、色素のノイズ比率を予測することができたのである。(KF,KU)
Activation of Visual Pigments by Light and Heat
p. 1307-1312.

喫煙と体重(Smoking and Body Weight)

喫煙者は非喫煙者に比べ平均して痩せており、そして多くの喫煙者は禁煙すると体重が増加する。しかしながら、摂食に対するニコチン薬剤の効果に関係の深いニコチン受容体の明確な細胞メカニズムは得られていない。今回 Mineur たちは、視床下部のプロオピオメラノコルチンニューロン活性を増進させる(そして摂食行動と体重を減少させる)ニコチン性アセチルコリン受容体を含有する、α3β4を通じてニコチンが反応していることを示している。このように、ニコチン受容体刺激薬は禁煙後の体重増加を抑えるのに有効であり、またニコチン薬は肥満や関連する代謝異常を制御することの手助けとなるかもしれない。(Uc,KU)
Nicotine Decreases Food Intake Through Activation of POMC Neurons
p. 1330-1332.

哺乳類のDNA損傷応答(Mammalian DNA Damage Response)

哺乳類のDNA損傷応答系の従来認識されていなかった要素を同定するために、Cotta-Ramusinoたちは、ヒトの癌化細胞株における低分子干渉RNAの大規模なスクリーニングを利用した(p. 1313)。損傷したDNAが有糸分裂へと進まないよう守るために必要な、およそ100遺伝子からなるグループが同定された。DNA損傷が生じた部位に局在化するタンパク質のうち2つは、CLOCKとRHINOであった。CLOCKは、概日時計の部品として機能する転写制御因子で、RHINOは、細胞周期の停止とDNA修復のためのシグナルを伝播するタンパク質キナーゼATRの活性を一緒になって刺激しているタンパク質複合体の1成分である。(KF)
A DNA Damage Response Screen Identifies RHINO, a 9-1-1 and TopBP1 Interacting Protein Required for ATR Signaling
p. 1313-1317.

明らかにされたmTOR基質(mTOR Substrates Revealed)

タンパク質キナーゼmTORは、増殖因子やインスリンなどのエージェントに応答して活性化されるタンパク質複合体(mTORC1やmTORC2)中で機能し、そして細胞増殖や繁殖、新陳代謝、細胞生存など多くの生理応答の制御において重要な役割を果たしている(YeaとFrumanの展望記事参照のこと)。Hsuたち(p. 1317)とYuたち(p. 1322)は、プロテオミクス・スクリーニング法を実施して、mTORC1キナーゼとmTORC2キナーゼの基質を同定した。新しいmTOR基質であるGrb10など、直接基質らしい多数のタンパク質が同定された。Grb10は、増殖因子受容体チロシンキナーゼに付随するシグナル伝達複合体の形成において機能するアダプター分子である。(KF)
The mTOR-Regulated Phosphoproteome Reveals a Mechanism of mTORC1-Mediated Inhibition of Growth Factor Signaling
p. 1317-1322.
Phosphoproteomic Analysis Identifies Grb10 as an mTORC1 Substrate That Negatively Regulates Insulin Signaling
p. 1322-1326.

風土、それは変化しつつある(The Climes, They Are a-Changing)

生物種は、気候変動による生息地や活動範囲における変化に対して、どのように適応していくのだろうか?環境に関する様々な変化の度合いをシミュレートするために、塩濃度勾配中に置いた酵母集団の集合(ensemble)を使い、BellとGonzalez(p. 1327)は、空間的に構造化された個体群において、環境悪化に続いて起こる適応を説明する、分散と進化の役割を調査した。高い適応が進んだのは、局所的な分散があったとき、かつ環境が緩やかに悪化するとき、かつ過去に高いストレスを経験したことがない個体群と比較して環境悪化に対する過去の適応が起こったときである。(TO,KU)
Adaptation and Evolutionary Rescue in Metapopulations Experiencing Environmental Deterioration
p. 1327-1330.

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