AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 15 2010, Vol.330


超高速な畳みこみを追跡する(Following Folding Fast)

多くのタンパク質の機能は、数十マイクロ秒からミリ秒の間の時間で起きるコンフォメーション変化によって実現されている。このことは、より短かい時間スケールに対して適用される全原子分子動力学シミュレーションの有用性を制限していた。Shaw たち(p. 341)は、明示的に示される溶媒中でミリ秒スケールの、全原子分子動力学シミュレーションに関して報告している。WWドメインの折り畳みのシミュレーションは明瞭な折り畳みの経路を示し、ウシの膵臓のトリプシンインヒビターの動力学シミュレーションは、異なる立体構造間の相互変換が生じていることを示した。(Ej,hE,KU,nk)
Atomic-Level Characterization of the Structural Dynamics of Proteins
p. 341-346.

ショックを与える名残の電波(Shocking Radio Relic)

電波領域の名残(radio relics)は、銀河団の外縁に位置する、拡散し長く伸びた電波源である。このrelicsは銀河団の間の衝突によって生成された衝撃波の痕跡であると考えれている。粒子は、拡散した衝撃波による加速機構によって衝撃波内で加速される可能性がある。このメカニズムは、また、超新星爆発によって生み出された衝撃波中の粒子の加速機構でもある。Van Weeren たち (p.347, 9月23日電子版) は、数百万パーセクの大きさの名残の電波放射を検出したことを報告している。この放射は、電波帯で予測されている拡散した衝撃波加速のあらゆる特性を示すものである。その結果は、この加速機構は超新星残骸よりも大きなスケールで作用しており、銀河団の融合が超新星残骸で到達するエネルギーよりもずっと高いエネルギーまで粒子を加速する可能性があることを示唆している。(Wt,nk)
Particle Acceleration on Megaparsec Scales in a Merging Galaxy Cluster
p. 347-349.

生きている色の炎症応答(Inflammation Response in Living Color)

我々の免疫系は微生物の感染に応答するだけでなく、例えば、外傷とか器官の壊死における無菌の傷害にも応答する。マウスモデルにおける無菌の肝臓炎症において、McDonald たち(p. 362)はin vivoでの動的イメージング法を用いて、好中球(neutrophil)に支配される自然免疫反応の振る舞いを可視化した。好中球は急速に血管内チャネルを通して炎症部位に補充された。アデノシン三リン酸は傷害部位での壊死細胞から産生され、そしてNlrp3インフラマソーム(inflammasome)は好中球が血管内皮中に循環して出て行くのに必要であり、その場所で好中球はインテグリンを用いて接着している。血管内のケモカインの勾配により、傷害部位に向けてインテグリン-依存性の血管内移動がガイドされる。最後に、ホルミルペプチド類(formyl peptides)がケモカイン勾配に打ち勝つシグナルを出し、傷害部位に好中球を引っ張ってくる。(Ej,hE,KU)
Intravascular Danger Signals Guide Neutrophils to Sites of Sterile Inflammation
p. 362-366.

シスチンを取り除く(Taking the Cystine)

L-シスチン結晶から出来ている腎結石は、より一般的なシュウ酸カルシウム一水和物による腎結石に比べずっと珍しく、慢性腎疾患の原因となる。その結晶成長速度を抑えることが治療の第1ステップになる。Rimer たち(p. 337; 表紙、および、Coe and Asplinによる展望記事参照) は、L-シスチンに構造に似た2つの代替物質をデザインした。原子間力顕微法で調べたところ、低濃度においてこの代替物はL-シスチンの性質を変え、全体の結晶成長速度を抑えることが分かった。従って、この代替結晶がシスチン尿症の治療に希望を与えるであろう。(Ej,hE)
Crystal Growth Inhibitors for the Prevention of L-Cystine Kidney Stones Through Molecular Design
p. 337-341.

温度上昇へ(Turning Up the Heat)

地球のエネルギー収支における大気中二酸化炭素の物理的影響、すなわち温室効果は100年以上前から知られている。しかし未だに、この気候温暖化に対するその役割は普遍的に受け入れられているとはいえない。Lacisたちは(p.356)、種々の温室効果ガスの大気温度への影響度を明らかにするために、それらの量を増減させた大気において、一連の理想化された気候モデルの実験を行った。この実験で得られた知見によって、水蒸気の放射効果は二酸化炭素のそれより大きいにも関わらず、二酸化炭素は明らかに最も地球気候に影響を及ぼすガスであること、その存在量によって大気中の水蒸気量が決まること、が分かった。(Uc)
Atmospheric CO2: Principal Control Knob Governing Earth’s Temperature
p. 356-359.

見るに十分な熱さ(Hot Enough to See)

ここ十年、個々の分子からの蛍光の検出により、生化学反応メカニズムをより深く調べるようになってきた。蛍光検出の最もよい点はバックグラウンドの存在しないことである;蛍光信号は空虚な空間内の輝点として見えるのである。しかしながら、すべての分子が蛍光を発光するわけではなく、それ故に代替の検出方法が必要とされる。今回Gaidukたち(p. 353)は、光熱検出法によって、蛍光収率の低い色素分子による吸光作用を個々に分解して検出できることを示している。この技術は、光吸収後の周囲の溶媒への各分子の熱放出、すなわち蛍光収率が減少するとエネルギー散逸は増大するという現象、を利用している。溶媒の温度上昇は、プローブビームの一部を後方散乱させるのに丁度よいほどに、局所的な屈折率を変化させ、光の吸収が起きたことをを明らかにする。(hk,KU,nk)
Room-Temperature Detection of a Single Molecule’s Absorption by Photothermal Contrast
p. 353-356.

核に詰め込む(Packing the Core)

地球の固体の内核における原子のパッキングや配置は、核の成長や回転のような過程に影響し得る。地震学とモデル化は、内核が主に鉄からなることを示唆しているが、その構造は地震波が異方性をもって分離されるためあまりはっきりしていない。Tateno たちは (p.359)、内核で見られるような極度に高い圧力と温度での純粋な鉄の静的圧縮実験を行い、鉄が立方構造とは全く異なる六方最密充填構造を取ることを見出した。この結果は観察される地震波の異方性を説明するのに役立ち、更に核の中の個々の鉄の結晶は、その長い結晶軸を地球の自転軸に平行になるように整列する傾向が強いことを示唆している。(Sk,nk)
The Structure of Iron in Earth’s Inner Core
p. 359-361.

減数分裂の停止(Arresting Meiosis)

哺乳類において、卵母細胞の減数分裂の成熟は排卵と正確に協調して、受精にとっての正しい時に発生的にふさわしい卵子を産生する必要がある。では、このような協調はどのようにして達成されるのか?濾胞性の顆粒膜細胞は卵母細胞における減数分裂の早熟性の再開を防ぎ、排卵前期のホルモン急増時まで減数分裂の停止を維持する。顆粒膜細胞はサイクリックGMPを産生するが、サイクリックGMPは卵母細胞に運ばれ、そして卵母細胞のサイクリックAMPの分解を抑制することで減数分裂の進行を停止する。しかし、サイクリックGMP(cCMP)の産生がどのように制御されているのかは不明である。今回、Zhang たち(p. 366)は、壁在性顆粒膜細胞で産生されるNPPC(c型ナトリウム利尿ペプチド前駆物質)とその受容体のNPR2 (卵丘細胞によって発現するグアニリルシクラーゼ) が、一緒になって卵丘細胞によるcGMPの産生を促進する。これがマウスの卵母細胞の減数分裂停止の維持に必須である。(Ej,hE,KU)
Granulosa Cell Ligand NPPC and Its Receptor NPR2 Maintain Meiotic Arrest in Mouse Oocytes
p. 366-369.

ストップ、機能していない(Stop, No-Go)

真核生物のリボソームによるメッセンジャーRNA (mRNA) のタンパク質への解読は、エラーを防ぐために常に監視されている。中途終止コドンによってメッセージを検出し、分解するメカニズムと同様に、no-go decay (NGD:機能不全による分解)というmRNAに対する監視システムは、抑制的二次構造や化学的損傷によってmRNAの分解を生じさせる。Shoemakerたち(p. 369)は、出芽酵母中のDom34 とHbs1の間に形成されるタンパク質複合体がNGDに関与していることを示した。この複合体は翻訳のリセットボタンとして作用し、誤翻訳を認識して流産プログラムを開始し、その結果、立往生のmRNAを破壊する。(Ej,hE,KU)
Dom34:Hbs1 Promotes Subunit Dissociation and Peptidyl-tRNA Drop-Off to Initiate No-Go Decay
p. 369-372.

時間と温度(Time and Temperature)

環境温度の一日のサイクルは、多数の生物にとって内に有する概日時計を同期化するのに重要な合図になっている。しかしながら、哺乳類はこのような合図に反応していない。ネズミの組織を調べることによって、Buhrたちは (p.379;Ederyによる展望記事参照)、環境の温度変化に同調されないという機能は、視交叉上核 (SCN:体の主要な時計として機能する哺乳類の脳の領域) の特徴であることを発見した。一方、例えば肺や肝臓のような末梢組織の時計は温度変化に対応して完全にリセットされ、また熱ショック経路を含むメカニズムによってリセットされる。このSCNは体温の一日のリズムを制御しており、SCNによって制御された温度変化は体の末梢組織の時計を同調させている可能性もある。もし、このような環境の温度変化に対する内因性の抵抗力が無ければ、SCNは分裂的なフィードバック効果を受けるであろう。(Uc,KU,nk)
Temperature as a Universal Resetting Cue for Mammalian Circadian Oscillators
p. 379-385.

BDNFとドパミンとコカイン報酬(BDNF, Dopamine, and Cocaine Reward)

側坐核(nucleus accumbens)は、依存性薬物の報酬効果を仲介する重大な役割を演じている。側坐核投射ニューロンの別々の亜集団は、互いにバランスの取れた、しかし拮抗性の影響をその下流の出力や行動に対して示している。しかしながら、報酬行動の制御におけるそれらの役割はいまだに不明である。Loboたちは、コカイン報酬における側坐核投射ニューロンの2つのサブタイプ、すなわちドパミンD1かD2の受容体を発現するもの、の役割を評価した(p. 385)。脳由来神経栄養因子であるTrkBをそれぞれの細胞型で選択的に除去し、光遺伝学的(optogenetic)技法を用いてそれぞれの細胞型の発火を制御することで、D1を含むニューロンとD2を含むニューロンがコカイン報酬で逆の効果を生むことが確認できたのである。(KF)
Cell Type-Specific Loss of BDNF Signaling Mimics Optogenetic Control of Cocaine Reward
p. 385-390.

サルモネラによる見えない爆弾(Salmonella Stealth Bomber)

サルモネラ属は病原性因子SipAを分泌していて、それはサルモネラが腸の上皮細胞に侵入ことを助けている。侵入に際して、宿主細胞はアポトーシス性酵素カスパーゼ-3を合成し分泌するようにさせられる。Srikanthたちはこのたび、宿主細胞がプログラム細胞死へと陥っていくにつれて消滅させられるのではなく、感染の初期段階でサルモネラ属は宿主の酵素を自分が使えるように転換していることを明らかにしている(p. 390)。SipAタンパク質は、カスパーゼ-3によって認識されるアミノ酸モチーフをもっているが、このカスパーゼ-3が、細菌のタンパク質を切断して活動的な複数の病原性エフェクター-を作り出している。あるものはアクチン重合を刺激して細胞侵入を助け、別のものは炎症を誘発するのだ。もしこのカスパーゼ・モチーフがひとつでも点変異を含んでいれば、感染のマウスモデルでは、病原性は失われる。逆に、カスパーゼ欠損マウスは、サルモネラによって誘発される胃腸炎にはかかりにくいのである。(KF)
Salmonella Pathogenesis and Processing of Secreted Effectors by Caspase-3
p. 390-393.

ブロック共重合体の組織化(Block Copolymer Assembly)

単体では単純な構造を持つブロック共重合体ではあるが、その集合体は複雑で驚くべき構造をとることが知られている。Leeらは(p.349;PetercaとPercecの展望記事参照)、二元ブロック共重合体および4元ロック共重合体がfrustrated self-assembled spherical microdomainsから新しい秩序相を形成することを示した。注目すべきは、この構造が一格子あたり30球体からなる正方晶を含んでおり、また12方晶の準結晶構造に関係があるという。この構造は50年前にFrankとKasperによってシグマ相として予言されたものであり、いくつかの金属合金で発見されただけであった。(NK)
Discovery of a Frank-Kasper Phase in Sphere-Forming Block Copolymer Melts
p. 349-353.

選択と変動(Selection and Variation)

適応と進化を理解するには、自然の表現型多様性と集団遺伝学との関連性を理解することが必要である。Rockmanたちは、線虫(Caenorhabditis elegans)の2つの系統の比較を介して、遺伝子発現に影響する遺伝的分散のレベルを検討した(p. 372; またCharlesworthによる展望記事参照)。驚いたことに、それぞれの系統の形質で観察された変動は、形質それ自体についての選択よりも背景選択のゲノムパターンによって、よく説明できるものだった。つまり、密接に連結された中性あるいはほとんど中性な部位では、選択による集団からの有害変異の除去は、遺伝的変異が原因で生じる表現型の可変性を減少させることになり、遺伝子発現の定量的可変性は、配列多様性に似たパターンを示し、遺伝的組換えの局所的比率と効率的な個体群サイズとによって影響されているのである。(KF)
Selection at Linked Sites Shapes Heritable Phenotypic Variation in C. elegans
p. 372-376.

非ランダム歩行(Nonrandom Walks)

RNA配列の適応度景観(fitness landscape)は、すべての可能な表現型とすべての可能な遺伝子型の結合を調べる助けになる。分子進化においては、適応度景観は、配列空間中の適応度の分布として定式化され、驚くべき複雑さをもった超高次元の対象である。こうした複雑なプロセスを理解するため、PittとFerre-D'Amareは大規模シークエンシング(deep sequencing)を用いて、あるRNAリガーゼ・リボザイムの変異体の集団の組成を、試験管内での選択1ラウンドの前後で分析した(p. 376; またKluweとEllingtonによる展望記事参照)。集団中の個々の配列をそれに対応する適応度の値に関連付けることで、経験的データから進化性適応度景観の詳細な図が提供されることになった。(KF)
Rapid Construction of Empirical RNA Fitness Landscapes
p. 376-379.

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