AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 9 2010, Vol.329


多細胞性に向かって(Going Multicellullar)

緑藻類のvolvocine algaeは単細胞のクラミドモナスと多細胞のボルボックスの両者を包含しており、お互い5千万年から2億年前に分岐した。Prochnikたち(p. 223)は、多細胞性への移行に関係した可能性のあるゲノム上の変革を同定する目的で、ボルボックスのゲノムをクラミドモナスのゲノムと比較した。ボルボックスにおいて、サイズの変化が幾つかのタンパク質ファミリーで観測されたが、しかしながら全体的に、ボルボックスのゲノムと予期されるプロテオームはクラミドモナスのそれと極めて類似していた。このように、生物学的な複雑性はゲノムの中身やタンパク質領域における大きな変化を伴わずに生じている。(KU,nk)
Genomic Analysis of Organismal Complexity in the Multicellular Green Alga Volvox carteri
p. 223-226.

オールトの雲の外(Out of the Oort Cloud)

長周期彗星はオールトの雲にその起源がある。このオールトの雲は、氷からなる天体の巨大な貯蔵庫であり、太陽系を取り囲んでいる。この長周期彗星は、太陽系形成における残骸であると考えられている。しかし、それらは全部、太陽の原始惑星円盤の中で形成されたのであろうか? あるいは、それらは、太陽がおそらく形成されたであろうクラスターの中にある、他の星の原始惑星円盤の中で発生したものであろうか? Levison たち (p.187, 6月10日付け電子版) は詳細な数値シミュレーションを用いて、彗星のどれだけの割合が、一つの恒星系の外側重力圏から他の重力圏へと乗り移る可能性があるかを調べた。シミュレーション結果は、相当な数の彗星がこのメカニズムによって捕獲される可能性があることを示している。この結果は、なぜ、オールトの雲における天体の数が、モデルが予測する数よりも多いかを説明できる可能性がある。(Wt,tk,nk)
Capture of the Sun's Oort Cloud from Stars in Its Birth Cluster
p. 187-190.

BKチャネルの細胞質領域(BK Channel Cytoplasmic Domain)

BKチャネルは様々な細胞型の表面に見られるカリウムイオンチャネルであり、平滑筋の緊張や神経細胞の興奮性等、幾つかのキーとなる生理的プロセスの制御に必須のものである。BKチャネルは膜電位と細胞内Ca2+の双方により制御されている。このチャネルは、Ca2+感受性を与える複合的な膜ポア、複合的な膜電位センサー、及び大きな細胞質領域から構成されている。Yuanたち(p. 182,5月27日号電子版;Weyand and Iwataによる展望記事参照)は、ヒトBKチャネルの細胞質領域に関する結晶構造を決定した。4つの細胞質領域は、外周囲に4個のCa2+結合部位を持つ細胞内膜表面でゲート開閉の環を形成している。(KU,nk)
Structure of the Human BK Channel Ca2+-Activation Apparatus at 3.0 Å Resolution
p. 182-186.

乱流を解明する(Elucidating Turbulent Flow)

2つの流体を急速に混合する必要があるとき、乱流はしばしば有用である。しかし、多くの場合、乱流状態で流体の撹拌と反転を行えば装置やプロセスの効率を落としてしまう。流体が固体表面を通り過ぎる時、乱流の本体は表面境界に密集しているが、これらの内部の運動がこの境界から遠く離れた流れによってどの程度影響されるかは良く解ってない。Marusic たち(p. 193; および、Adrianによる展望記事参照)は風洞実験によって、内層の動きと大規模な外層の動きの非線形な関係を実証した。外部層からの大域的な情報だけを利用した単純なモデルでも実験的なデータを正確にマッピングした数学的な記述ができた。(Ej,hE,KU)
Predictive Model for Wall-Bounded Turbulent Flow
p. 193-196.

海盆の切り替え(Switching Basins)

海洋の底に存在する最も高密度の最深部の水の大半は、北大西洋と南極周辺という2つの地域からやってくる。過去に、他の地域は莫大な量の深層水を作り出すことが出来たのだろうか。数十年にわたり研究者達は、約23,000年前の最終氷期極大期以降の北太平洋での深層水の形成の証拠を探してきたが、わずかな成果しか挙げられなかった。Okazakiたちは(p.200)、北太平洋での公表されている観測に基づく証拠とモデルシミュレーションとを結びつけ、約17,500年から15,000年前の最終氷期末期の早い時期に、深層水が北太平洋で形成されたことを示唆している。北大西洋と北太平洋との間での深層水の形成の切り替わりは、熱輸送と気候に重大な影響を及ぼしたであろう。(Sk,KU,nk)
Deepwater Formation in the North Pacific During the Last Glacial Termination
p. 200-204.

ナノロッドポリマー(Nanorod Polymers)

ナノ粒子とコロイドは結晶化や融解現象をモデル化するために用いられてきた。Liuらは(p.197)ナノ粒子の重合反応について調べた。機能基を有する矢じり状のナノロッドはリンク可能部として作用し、溶媒に合った組み方で互いに結合する。これらの結果は、汎用的な化学重合プロセスとよく似ている。成長は速度論的に制御され、逐次的に成長する重合反応および枝分かれ反応の式で解釈できる。さらに、環状マクロ分子の形成のような異性化現象も観測されたという。(NK,KU,kj)
Step-Growth Polymerization of Inorganic Nanoparticles
p. 197-200.

地震のコントロール(Quake Control)

巨大地震は衝突する二つのプレート同士の境界で起こる。そこでは一つのプレートが、浅い角度でもう一つのプレートの下に沈み込んでいる。このような巨大衝上断層での地震は、プレートの境界に沿った断層において、大量の海水が移動することによって破壊的な津波を引き起こす。沈み込み領域の地震波速度構造の二つの関連する研究が、巨大衝上断層での地震に潜むメカニズムを明らかにしようとしている(Wangによる展望記事参照)。Kimuraたちは(p.210)フィリピン海洋プレートが日本列島下に斜めに沈みこんでいる箇所で、反射法地震探査画像と微小地震の位置を比較した。この再発する微小地震の発生箇所は、海洋側の沈込みプレートから大陸プレート下部に物質が移動し、付着する箇所と一致している。このことは以前、単に発掘された変成岩から推定されたプロセスである。Deanたちは(p. 207)、2004年と2005年のインドネシアのスマトラ地震発生箇所に近い海底堆積層中の膨張性構造を観察し、堆積物の性質が地層破断の大きさや、続いて起こる津波の大きさに影響を与えている可能性があることを示している。(Uc,KU,nk)
Seismic Evidence for Active Underplating Below the Megathrust Earthquake Zone in Japan
p. 210-212.
Contrasting Decollement and Prism Properties over the Sumatra 2004-2005 Earthquake Rupture Boundary
p. 207-210.

寄生のコストを棒引きにして(Offsetting the Cost of Parasitism)

ショウジョウバエは、他のほとんどの動物と同様に多様な生物による感染症に対して脆弱であり、同時感染の相互作用の結果、時には驚くほどの効果が表れる。Jaenike たち(p. 212)によると、時々ハエに見つかり、母から子供へと感染が伝わるスピロプラズマ細菌は、線形動物寄生虫 Howardula aoronymphium による被害から宿主を保護する。この寄生虫はメスのハエを不妊化させ、寿命を縮めるが、もし、ハエが実験的にスピロプラズマに感染すると、このハエの不妊は回避される。同様に、野生のショウジョウバエが寄生虫を持つ場合、スピロプラズマに感染した個体は卵巣中により多くの卵を生む。この細菌は成熟したメスの寄生虫を抑制するが、このことは、この細菌が生殖適応度に対する線形寄生虫の負荷を相殺するほどの利点を与えている。スピロプラズマは北アメリカのショウジョウバエに急速に伝播しているようだ。(Ej,hE,nk,kj)
Adaptation via Symbiosis: Recent Spread of a Drosophila Defensive Symbiont
p. 212-215.

ひずみのもとでの分離(Separating Under Strain)

銅酸化物高温超伝導体とペロブスカイトのような複合酸化物は、しばしばミクロな相分離を示す。そのミクロな相分離において、2つあるいはそれ以上の相がマクロなスケールで共存しているが、空間的にはミクロなスケールで分離されている。Laiたち(p. 190)は、技術応用の場面ではしばしば見出される組み合わせ、すなわち基板上に形成させて歪み応力をかけたマンガン酸化物薄膜(巨大磁気抵抗を示す)について研究した。薄膜の導伝領域と絶縁領域を識別するマイクロ波インピーダンス顕微鏡により、磁場の変化による相分離の可視化が可能となる。導伝領域のネットワークが観測され、その配向と特徴的長さスケールは、基板によるひずみがネットワーク形成に関与していることを示唆している。(hk,KU,Ej,nk)
Mesoscopic Percolating Resistance Network in a Strained Manganite Thin Film
p. 190-193.

配偶子同士が一緒になるには(Getting Gametes Together)

何十年にもわたる研究にもかかわらず、哺乳類における精子-卵認識の分子基盤は未解決のままである。排卵された卵を囲む透明帯(ZP: zona pellucida)中のグリカン・リガンドが精子表面の受容体に結合するというモデルが、広く奉じられてきた。より新しいモデルは、ZPタンパク質であるZP2の切断状態によって、zona matrixの構造が精子結合に対して許容的か非許容的かが決まる、ということを提案している。Gahlayたちは、内在性zonaタンパク質を切断しえない変異型のZP2、またはOグリカン付着部位を欠く変異型のZP3に置き換えることで、それぞれのモデルの予言を検証した(p. 216)。精子-卵認識は、受精後に遊離されるグリカン・リガンドではなく、ZP2の切断状態に依存していた。(KF,KU,kj)
Gamete Recognition in Mice Depends on the Cleavage Status of an Egg’s Zona Pellucida Protein
p. 216-219.

修復経路を正す(Righting Repair Pathways)

遺伝病であるファンコニ貧血(FA)は、DNA修復経路に関与している一連の遺伝子における変異によってもたらされるが、この経路はDNA二重らせんの2つの鎖の間での誤ったクロスリンクによって引き起こされる損傷の処理を助ける。そうしたクロスリンクによって生じるDNAの二重鎖切断は、エラーが生じないやり方で修復される場合もあるし、エラーが生じがちな修復経路によって修復される場合もある。Paceたちは、FA経路がエラーの生じない経路を介しての修復を駆動していることを示している(p. 219、6月10日号電子版)。FAのFANCC遺伝子は、エラーを生じがちな修復経路Ku70の構成要素との遺伝子相互作用を示し、Ku70の作用を抑制し、それによってエラーの生じない経路を促進しているのである。(KF)
Ku70 Corrupts DNA Repair in the Absence of the Fanconi Anemia Pathway
p. 219-223.

肝臓の問題を訂正する(Correcting a Liver Problem)

α1-アンチトリプシン(AT)欠乏の古典的タイプでは、ATの点変異が豊富に存在する肝臓由来の血漿糖タンパク質の折り畳みを変化させ、このタンパク質の細胞内凝集を引き起こす。AT欠乏は、幼児期のもっともありふれた肝疾患の遺伝的原因であり、成人期における硬変あるいは/および肝細胞癌をもたらしうるものでもある。カルバマゼピンは、自己貪食として知られる細胞内分解プロセスを増強する、ヒトにも十分使える薬剤である。このたび、Hidvegiたちは、AT欠乏のマウスモデルにおいて、カルバマゼピンが、ミスフォールドされ蓄積されたATの分解を増強することによって、肝疾患の重症度を軽減させることを明らかにした(p. 229、6月3日号電子版; またSifersによる展望記事参照のこと)。(KF,KU,kj)
An Autophagy-Enhancing Drug Promotes Degradation of Mutant α1-Antitrypsin Z and Reduces Hepatic Fibrosis
p. 229-232.

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