AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 25 2010, Vol.328


私にはダイサーは不要です(No Dicer for Me)

マイクロRNA(microRNAs (miRNAs))はほとんどの真核生物に見られる小さな非翻訳RNAである。このほとんどは核内の一次転写物から、ヌクレアーゼのDroshaを含むミクロなプロセッサー酵素複合体で処理されるが、少数はメッセンジャーRNAのスプライシング機構で生成される。すべてのpre-miRNAは続いて細胞質に搬出され、そこで第2のヌクレアーゼであるダイサーによって更に切断されて機能的に成熟したmiRNAになる。Cifuentes たち(p. 1694, および、5月6日号電子版参照)は、ダイサー変異体の魚においては、少なくとも1つのmiRNA、miR-451がpre-miR-451から形成されることを示した。pre-miR-451のプロセシングには、miRNA経路中のもうひとつのタンパク質Argonaute2の活性が必要となる。pre-miR-451のユニークな二次構造が非標準のプロセシング経路を決定していることから、他のmiRNAも同様に処理されている可能性がある。(Ej,hE,KU)
A Novel miRNA Processing Pathway Independent of Dicer Requires Argonaute2 Catalytic Activity
p. 1694-1698.

ウォーミングアップ(Warming Up)

過去50万年間に、我々の地球はほぼ10万年毎に氷期・退氷期のサイクルを経てきている。各サイクルは、長期かつ不規則な寒冷と氷床成長が起こる期間と、それに続く終結期(termination)と呼ばれる(急速な温暖化と氷床が融解する時代)期間からなる。この終結期は比較的短期の温暖期の前に起こる。しかし、氷期が終わる原因はなんだろうか? Dentonたちは(p.1652)この分野について考察し、地球がどうやって、そして何故最終氷期から抜け出たのかを説明できるある一連の事象を提案している。地球の両半球から得られた多数の情報をまとめることで、氷床の体積、太陽の放射エネルギー、大気中二酸化炭素濃度、海氷、卓越風のパターンといった様々な要因が因果関係でつながる統一的な説明が可能であることを示した。(Uc,KU,nk)
The Last Glacial Termination
p. 1652-1656.

白血球の抑制(Inhibiting Leukocytosis)

白血球数の増加をもたらす白血球増加症は、未知のメカニズムによってアテローム動脈硬化の病変形成を助け、それによる冠動脈心疾患をもたらす。Yvan-Charvet たち(p. 1689,5月20日号の電子版、およびHansson とBjorkholm による展望記事参照)は、アデノシン三リン酸-結合カセット輸送体である ABCA1 と ABCG1 が、アテローム動脈硬化に付随する白血球増加症の決定的な抑制因子であることを示した。血液産生の造血細胞中において、前述の2つの輸送体が欠乏するマウスにおいて、造血性幹細胞と多能性前駆細胞のレベルが増加しており、アテローム動脈硬化症を加速している。ABCA1 と ABGA1は、コレステロールを含むマクロファージ泡沫細胞から脂質が欠乏している高密度リポタンパク質(HDL)とアポリポタンパク質 A-1 へのコレステロールの流出を促進して、アテローム動脈硬化に対する防御活動を行う。ABCA と ABGA1 の欠損したマウスにおける白血球増加とアテローム動脈硬化は HDL 濃度を高めるとその傾向が逆転し改善された。このように、マクロファージ泡沫細胞の動脈硬化プラークにおけるコレステロールの減少によりアテローム動脈硬化を抑制すると言う既に知られたシグナル伝達が、またアテローム動脈硬化に付随した白血球増加をも減少させる(Ej,hE,KU,nk,kj)
ATP-Binding Cassette Transporters and HDL Suppress Hematopoietic Stem Cell Proliferation
p. 1689-1693.

まさに呼吸しているような(Just Breathe)

生体内の器官を模倣する人工システムを設計して生理応答を理解する方法は、現在の細胞モデルや動物テストに頼る方法に比べてより良い代替案であると思われる。Huh たち(p. 1662) は、ヒト肺の肺胞-毛細管の界面をモデル化したデバイスにおいて、細胞外基質と共に培養されたヒト上皮細胞と血管内皮細胞とを一緒にした組織-組織の界面を作った。このデバイスは、病原体に誘発される炎症反応やサイトカイン被爆応答などの生理的な器官レベルの機能を代替している。このデバイスの呼吸タイプの動作により、広く使われているナノ粒子の急性の肺細胞毒性や炎症誘発活性に影響を与えていることが分かった。(Ej,hE,KU)
Reconstituting Organ-Level Lung Functions on a Chip
p. 1662-1668.

瞬間撮影トモグラフィー(Temporal Tomography)

トモグラフィーは、3次元構造の可視化に広く用いられている技術である。それは、個別の観測点からの複数の二次元像を幾何的に再構築することで得られるものである。しかしながら、その応用分野は殆ど静止画に限定されている。Kwon と Zewailは(p.1688)超高速の電子顕微鏡を用いて、サブピコ秒の時間分解能を有するトモグラフィーを実現した。本手法の眼目は入射電子線に対するサンプルの傾斜角度を規則的に変化させることで、これによって、急速に熱した際のカーボンナノチューブが変形する反応を、詳細な時間的に連続する画像記録に構築することができた。(Uc,nk)
4D Electron Tomography
p. 1668-1673.

光の中で踊る(Dancing in the Light)

ほぼ 200年前、植物学者である Robert Brown は、液に浮かんだ花粉の粒子がランダムな挙動を示し、まるで生きているかのように顕微鏡下で微小振動することに気付いた。1905年に、Albert Einstein はこのブラウン運動を統計熱力学の見地から説明した。今回、Li たちは(p.1673,5月20日号電子版)、ブラウン運動の力学を探るために1個の光学的に捕捉されたシリカビーズを用い、粒子の予測される瞬間的な速度を計測して、1世紀前に予測された短い時間尺度での挙動を検証した。その技術は、物理学の基礎的原理の検証だけでなく、粒子を極低温に冷却するための実用的な意味も有している。(Sk)
Measurement of the Instantaneous Velocity of a Brownian Particle
p. 1673-1675.

一度に3個のフッ素を(Three Fluorines at Once)

トリフルオロメチル(CF3)基は、医薬品や農芸化学分野の化合物の設計においてますます重要となってきている。CF3は対象とする分子骨格内の電子密度の強力な吸引基であり、最近ではフッ素-炭化水素の相互作用が、小分子とタンパク質間のドッキングを支配しているより伝統的な親水性/疎水性の相互作用を明確に補完するものとして浮上してきた。Choたち(p. 1689)は、CF3を広範囲のアリール基質に付加する効率的な方法を報告している。注意深く最適化されたパラジウム触媒により、最も困難な還元的脱離反応のスピードアップが可能となったが、この還元的脱離反応はこの合成法の課題への一般解を実現すべく従来苦しんでいた課題である。(KU,nk,kj)
The Palladium-Catalyzed Trifluoromethylation of Aryl Chlorides
p. 1679-1681.

氷河期のメタンガス(Glacial Gas)

ダンスガード-オシュガーイベント(Dansgaard-Oeschger events)と呼ばれる一連の急激な、かつ大規模な温暖化の現象が最終氷期の寒冷な気候条件を遮った。そのイベントに伴って大気のメタンガス濃度が著しく増加したが、その原因はいまだ大きな推測の対象になっている。Bockたち(p.1686)は、 北グリーンランドアイスコアプロジェクトで回収されたメタン中の水素同位体組成の計測結果について報告している。2つのダンスガード-オシュガーイベントに伴う過剰な大気メタンは、海洋のメタンクラスレートに由来するのではなく、おそらく別の主要なメタン供給源である北の亜寒帯湿原からの増大した流れ(fluxes)に由来している。(TO,KU,nk)
Hydrogen Isotopes Preclude Marine Hydrate CH4 Emissions at the Onset of Dansgaard-Oeschger Events
p. 1686-1689.

細菌による干渉(Bacterial (Interferon)ce)

リステリア菌などの細胞内病原性微生物は宿主免疫細胞のサイトゾルで検出されるが、そこでそれらは、微生物の分泌系にしばしば依存する宿主応答を誘発している。Woodwardたちはこのたび、リステリア・モノサイトゲネス(L. monocytogenes)が環状ジアデノシンを産生し、それを宿主サイトゾル内へ遊離しており、それが宿主のⅠ型インターフェロンの産生を誘発していることを示している(p. 1703、5月27日号電子版)。細胞内病原体のいくつかは、このヌクレオチドを産生するタンパク質機構を含んでいて、これと同じ生得的免疫経路を活性化もしているので、サイトゾル性病原性微生物の宿主による検出には、共通した分子機構が存在している可能性がある。(KF)
c-di-AMP Secreted by Intracellular Listeria monocytogenes Activates a Host Type I Interferon Response
p. 1703-1705.

火星の北部平原上の水和した鉱物(Hydrated Minerals on Martian Northern Plains)

火星表面における水和した鉱物の存在は、火星の地殻が、かって液体の水による作用によって変性されたことを示している。この結論は、火星の古代の南部高地に対しては十分に確立されているが、北部低地の状況は明確ではない。この北部低地は、およそ30億年前の Hesperian 時代に溶岩の流れによって表面が再度形成されたと考えられている。Carter たち (p.1682) は、9つの北部平原のクレーターで水和した鉱物を検出したことを報告している。このクレーターは、古代の前Hesperian 時代の地殻を露出していると考えられている。その結果は、古代の火星の地殻変性の度合いが過去予想されていたよりも広範であったことを示唆している。(Wt)
Detection of Hydrated Silicates in Crustal Outcrops in the Northern Plains of Mars
p. 1682-1686.

中毒者は可塑性を失う(Addicts Lose Plasticity)

時折の薬剤使用から中毒へと移っていくことに関わる生物学的機構は何だろうか?ラットでは、ヒトの場合と同様、長期にわたる薬剤摂取の後で、薬剤摂取量が同じであっても、限られた一部のものだけしか中毒に似た行動を発達させることがない。Kasanetz たちは、中毒になったラットとならなかったラットの側坐核シナプスにおける、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)-依存性長期抑制(NMDA-LTD)を比較した(p. 1709)。最初、いったん薬剤の自己投与が学習され、確立されたが、まだ中毒類似の行動が出現する前ならば、すべてのラットでLTDが抑制された。これは、そのラットが後の段階で中毒になったかどうかには関わらない。しかしながら、2ヵ月後に、中毒のような行動が現れるときには、中毒になったラットでは、LTDが持続的に失われていた。これと対照的に、中毒にならず、制御された薬剤摂取を維持していたラットでは、正常なNMDA-LTDが再出現していたのである。(KF,nk,kj)
Transition to Addiction Is Associated with a Persistent Impairment in Synaptic Plasticity
p. 1709-1712.

石と意思(Between a Rock and a Hard Judgment)

一般的に言えば、われわれの感覚性経路や運動性経路は、後になって完全に働くようになるいわゆる高次の認知の仕組みよりも早く成熟する。こうした初期の体細胞性の、外部世界との情報交換チャネルは、他者の印象を形成し、他者に対してどう振舞うかを決定するための、より高次レベルの処理に影響を与え、埋め込まれている可能性がある。Ackermanたちは、触感に焦点を合わせることで、そうしたプロセスの存在の証拠を提供している(p. 1712)。Ackerman たちは被験者が手に触れる室内の物品の重さ、硬さ、ざらつきを変えることで、部屋の環境を触感で評価するというのとは無関係な、従業員や仕事応募者の強さ、生真面目さを評価するという領域において、被験者の社会的判断や行動に偏りをもたらすことができたのである。(KF,nk,kj)
Incidental Haptic Sensations Influence Social Judgments and Decisions
p. 1712-1715.

時間ゼロ点を決める(Defining Time-Zero)

高エネルギーの光子が原子に衝突し吸収された場合、励起が誘起され電子が放出される。この光電子放出あるいは光電効果は瞬時に起きると考えられており、このような高速現象を測定する際の「時間ゼロ点」とされてきた。Schultzeらは(p.1658;表紙;van der Hartの展望記事)は数十アト秒の時間スケールのパルス光からなる超高速分光を用いて、この仮説を直接確かめた。彼らはネオン原子を100eVの光子で励起し、2s軌道と2p軌道からの光電子放出に20アト秒程度の時間差があることを突き止めた。これらの結果は、超高速時間スケールの電子ダイナミクスをモデル化する際に重要な意味をもつであろう。(NK)
Delay in Photoemission
p. 1658-1662.

絡み合わないポリマーのダイナミクス(Tangle-Free Polymer Dynamics)

界面でのポリマー鎖のダイナミクスはバルクでのダイナミクスとは異なっているはずである。固い界面は一般に鎖運動をスローダウンさせる原因となるが、自由表面でのダイナミクスは一般にスピードアップされる。薄いポリマー膜に対して、ガラス転移温度(Tg)の低下があるべきであるという結果が出ているが、しかし広範囲の影響が様々なポリマー物質中で見出されている。今回 Yang たち(p. 1676)は、短い非絡み合いポリスチレンポリマーに対し粘性とガラス転移温度との間には直接相関があり、そしてガラス転移温度(Tg)の低下には表面の移動層が関係しており、この移動層が膜厚が薄くなるにつれてこの振舞いを支配しているいるということを示している。(hk,KU,nk)
Glass Transition Dynamics and Surface Layer Mobility in Unentangled Polystyrene Films
p. 1676-1679.

内向きと外向きに関するプラス電荷の影響(In, Out, Positive Charge About)

複数にまたがるへリックス-束(herix-bundle)膜タンパク質が彼らの標的膜に挿入されるそのメカニズムは完全には分かっていない。EmrEは4つの膜貫通へリックスを持った大腸菌の内膜タンパク質であり、二つの異なる形態(アミノ末端をサイトゾルの方に向けたものと、サイトゾルから離れた方向に向いたもの)をとる。Seppalaたち(p. 1698,5月27日号電子版;Tateによる展望記事参照)は、大腸菌における膜タンパク質構築のメカニズムを調べるためにEmrEの二つの形態的性質を研究した。EmrEの形態に関するプラスに帯電した残基の影響を系統的に調べることで、4ないし5個の膜貫通へリックスを有すEmrE構造体の膜配向がカルボキシル末端をも含んだ、タンパク質全体に渡って様々な場所にある単一のプラス帯電した残基によって制御されていることが明らかになった。このような全体的な膜タンパク質形態の制御は、複数にまたがる膜タンパク質がどのようにして膜タンパク質挿入機構によって操作されているのかに関する重要な疑問を投げかけている。(KU)
Control of Membrane Protein Topology by a Single C-Terminal Residue
p. 1698-1700.

ハミルトンの法則を破る(Greaking Hamilton's Rule)

ハミルトンの法則は、協調行為の進化が行為者と受益者との間の血縁関係、及び受益者の得る利益の程度と相関していることを述べている。しかしながら、この近似は数段階の単純化に依存しており、自然系では当てはまらないことも多い。Smithたち(p. 1700)は、動物だけでなく、総ての領域の生命体に適応可能な血縁選択による協調行為の進化に対する非付加モデル(non-additive model)を導いた。ミクソコッカス・ザンサス菌を調べた実験データでは、細胞間の非線形相互作用により、欺き行動の発生に対して、細菌の協調行為の抵抗力が驚くほどに高められていることがわかった。(KU,nk,kj)
A Generalization of Hamilton’s Rule for the Evolution of Microbial Cooperation
p. 1700-1703.

ガッツのある腸(A Gut Feeling)

哺乳類の腸には、非病原性の多数の共生微生物がコロニーを形成している。こうした微生物に対して、身体が不適当な免疫応答をしないよう、腸内の形質細胞は共生細菌に特異的な、大量の免疫グロブリンA(IgA)を産生している。IgA産生を微生物のコロニー形成と引き離すことの難しさのせいで、共生細菌がいかにして腸のIgA応答を形成しているかは、よくわかっていない。Hapfelmeierたちはこのたび、マウスにおける腸内細菌コロニー形成の可逆的システムを開発することによって、この問題に取り組む方法を発明した(p. 1705; またCeruttiによる展望記事参照のこと)。共生-特異的なIgA応答は、微生物のコロニー形成の存在なしに長期にわたって持続可能であったが、その誘発に際しては、高い微生物負荷の存在が必要であった。細菌への再曝露に際してのIgA応答は、古典的な免疫記憶応答に見られる相乗的なprime-boost効果とは似ておらず、むしろ腸内に現在ある細菌含有量に対応する相加作用を示すものであった。身体は、このように、腸内にある微生物種に合わせて常に共生-特異的免疫応答の強度を変えていて、これは病原性微生物の非存在下において持続する全身性の免疫応答とは、対照的なものである。(KF,nk,kj)
Reversible Microbial Colonization of Germ-Free Mice Reveals the Dynamics of IgA Immune Responses
p. 1705-1709.

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