AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 5 2010, Vol.327


恐竜の滅亡(The Fall of the Dinosaurs)

化石の記録によれば、恐竜が支配していた世界は6500万年前に突如として終焉を迎えた。この時、全ての非鳥類型恐竜と翼竜は消えうせたのだ。この大絶滅に関して、いくつかの仮説が提唱されてきた。例えば、巨大な小惑星の衝突や大規模に溶岩が流れる火山活動等である。Schulteたちは(p.1214)、イリジウムに富む堆積物や衝突放出物が存在し、地球規模に分布しているという事実が、どのように小惑星衝突説を証拠だてているかについて報告している。すなわち、メキシコのChicxulubに落下した一個の小惑星の衝突がこの大絶滅を引き起こしたのだ、という仮説である。この衝突によって、即座に破壊的な衝撃波、巨大な熱パルス、そして地球上を覆う津波が発生しただろう。更に、膨大な量の塵・瓦礫・ガスの放出によって、長期にわたる地表の温度低下・日照の低下そして、海洋の酸性化が引き起こされただろう。これらの事象は、プランクトンや藻類等の一次生産者を、それらに依存する種と同様に大量に絶滅させたであろう。(Uc,tk)
The Chicxulub Asteroid Impact and Mass Extinction at the Cretaceous-Paleogene Boundary
p. 1214-1218.

セストリンとその加齢への結果(Sestrin and the Cosequences of Aging)

タンパク質キナーゼTOR(target of rapamycin)は、増殖・代謝・加齢・免疫機能等の基本的な生物学的プロセスにキーとなる役割を果たしている。セストリンはストレスに応じて増加し、そしてTOR活性の制御に関係している。Leeたち(p. 1223;Topisirov and Sonenbergによる展望記事参照)は、セストリンの欠乏したショウジョウバエを解析した。セストリンはネガティブフィードバックループに関係しており、セストリンの量はTOR活性により制御され、同時に又、セストリンはTOR活性を抑制している。更に、セストリンを欠くショウジョウバエは脂肪の蓄積、筋変性、及び心臓異常を示し、これらは座りっぱなしの生活習慣の年寄りを悩ませている病状に類似している。(KU)
Sestrin as a Feedback Inhibitor of TOR That Prevents Age-Related Pathologies
p. 1223-1228.

地球磁場の初源(Early Origin of Earth's Magnetic Field)

地球磁場は、太陽からの恒星風と輻射からわれわれを保護している。若い地球大気と外気圏の理解に大きな影響があるため、地球形成の期間の中で、いつ大規模な磁場が確立されたかを知ることは重要である。Tarduno たち (p.1238; Jardine による展望記事を参照のこと) は、古いケイ酸塩の結晶を解析することにより、地球磁場は、34億年から34億5000万年前には存在していたことを示している。この年代は、地球磁場の強度に関する最も古い記録を、さらに 2億年、古い時代にまで遡るものである。その結果とその時代の太陽風内部の推定される状況とを組み合わせると、原始磁気圏の大きさは現在の典型的な大きさのおよそ半分であるが、およそ 3倍の広さのオーロラ帯を有していることが示唆される。より小さな磁気圏とより大きなオーロラ帯は、初期の大気から揮発性物質や水の損失を促進したであろう。(Wt,nk)
Geodynamo, Solar Wind, and Magnetopause 3.4 to 3.45 Billion Years Ago
p. 1238-1240.

スノーボール・アースの経年変化(Aging Snowball Earth)

地球の氷河周期は劇的に変わることがあり、ある時期には全地球が氷河に覆われていたらしい。その時代の多様な古気候代理指標、例えば化石、同位体記録などを関連付けることは、いわゆる「スノーボール・アース」として知られている時期付近に堆積した岩石の正確な年代推定の取得可能性に懸っている。Macdonald たち(p. 1241)は新しい高精度のU-Pb年代決定法をカナダのユーコンテリトリー州とノースウェストテリトリー州の新原生代地層に適用し、地球の他の地域の岩石中の炭素同位体の変動時期を計測し補正した。これらの岩石が堆積した過去の推定位置を想定すると、氷河は赤道近くの緯度まで伸びていたらしい。化石記録によるとある種の真核生物が生存し、そして多様化さえ遂げている時期がこのスノーボール時代と重なっている。これは、地球規模の氷河期を、生命が氷河の間の隙間のような生態学的環境下で生き延びたらしいことを意味している。(Ej,hE,nk)
Calibrating the Cryogenian
p. 1241-1243.

微細なことが実際は問題なのだ(Little Things Do Matter)

気相の硫酸は大気中の粒子生成に重要な働きをするが、その生成メカニズムは良く解っていなかった。実験室において水を伴った2成分の核生成実験を行うと、大気中で見つかる硫酸粒子の濃度に比べて何桁も低い。Sipila たち(p. 1243)は、気相中の硫酸の核生成速度は水の存在下において、実測される大気中の硫酸粒子濃度を十分説明できる速度で形成されることを示した。これらの粒子では、粒子1個当たり1〜2個の硫酸分子を含んでおり、その直径は1.5ナノメートルほどと小さく、以前の測定では検知することができなかった。(Ej,hE,KU)
The Role of Sulfuric Acid in Atmospheric Nucleation
p. 1243-1246.

点火準備よし(Ignition Set to Go)

National Ignition Facility (国立点火施設) の目標は、重水素と三重水素の混合燃料を含んだカプセルを爆縮し、核融合を発生させることである。192本の高輝度レーザー光を1cmスケールのキャビティーに集光する際の課題は、点対称な爆縮を作り出すことと、点火が起こるための必要な温度を実現することである(Norreysによる展望記事参照)。Glenzerらは(p.1228、1月28日号電子版)これらの状況を作り出すことに成功し、燃料で満たされたカプセルを点火する道を切り開いた。さらに、Liらは(p.1231、1月28日電子号版参照)荷電粒子を使って、爆縮しているカプセル内部の様子を測定し、解析する手法について報告している。実現した高温・高エネルギー状態は実験室レベルでの天体物理や極エネルギー過程をモデル化する際に活用できる。(NK,KU,nk)
Symmetric Inertial Confinement Fusion Implosions at Ultra-High Laser Energies
p. 1228-1231.
Charged-Particle Probing of X-ray-Driven Inertial-Fusion Implosions
p. 1231-1235.

泡だって暖かくなると厄介に(Bubble, Bubble, Warming and Trouble)

莫大な量のメタンが海洋の堆積層に蓄積しており、そのほとんどがクラスレート(Clathrate)の状態になっている。しかし、メタンはまた、最後の氷河後退期(deglaciation)の洪水で水没した永久凍土層にも捉えられている。そのため、気候温暖化が海水の温度を上昇させ、低温状態で海底の下に捉えられているメタンを放出することで、いっそう温暖化が進まるかもしれないという懸念がある。Shakhovaたち(p. 1246; Heimannによる展望記事参照)は、東シベリアの北極圏大陸棚における海底の海水の80%以上、及び海面の海水の50%以上が海底下の永久凍土層から放出されたメタンでまさに過飽和状態になっていること、そして今日では永久凍土層からの大気へのメタンの放出速度は、以前に地球全体の海洋から推定した放出速度と同じ程もあることを報告している。(TO,KU,kj)
Extensive Methane Venting to the Atmosphere from Sediments of the East Siberian Arctic Shelf
p. 1246-1250.

グリア細胞の機能の再点検(Reexamining Glial Function)

グリア細胞(神経膠細胞)は神経細胞の伝達において受動的な要素として考えられていたが、この20年間で能動的な機能要素としてその立場が向上してきた。すなわち、アストログリア細胞(星状膠細胞)はカルシウム増加を誘導されると、グルタミン酸や ATP、或いは D-セリンといった神経活性化物質、いわゆるグリオトランスミッターを放出し隣接するニューロンの活性を調節しているのだ。しかしながら、この新たに浮上してきた概念図を調べることは困難な課題であった。Agulhonたち(p. 1250; Kirchhoffによる展望記事参照)は以前解析された二つのマウスモデルを用いて、この問題を再点検した。アストロサイトに対し選択的にカルシウムレベルを高めても、シナプス活性の各種測定指標に変化はなかった。更に、細胞内カルシウムを増加することの出来ない変異マウスにおいて、すべてのシナプスの活性指標は野生型と同じレベルだった。アストロサイトのカルシウムシグナリング活性はグリオトランスミッターの遊離と関連は無く、そしてシナプス伝達や短期、及び長期のシナプス可塑性に影響を与えることは無かった。(KU,kj)
Hippocampal Short- and Long-Term Plasticity Are Not Modulated by Astrocyte Ca2+ Signaling
p. 1250-1254.

死骸を整理する仕組み(Corpse-Sorting Machinery)

アポトーシス死細胞に対する食作用は、細胞死プログラムに不可欠の要素であって、組織再構築や炎症の抑制、免疫応答の制御などにおいて決定的な役割を果たしている。細胞の死骸を処分するには、食細胞による死骸の飲み込みと、それに引き続く分解が行われることが必要である。このプロセスの際には、CED-1ファミリーの受容体が、細胞の死骸を認識する中心的な役割を演じ、食欲シグナルを伝達してアポトーシス細胞死骸を含む食胞の成熟を引き起こしている。レトロマーとは、酵母から哺乳類まで幅広く保存されている多サブユニットのタンパク質複合体で、エンドソームからトランスゴルジ網への膜貫通性積荷の逆行輸送を仲介するものである。CED-1タンパク質の再利用に失敗すると、このタンパク質はリソソームへ送られ、そこで分解されることになる。Chenたちは、線虫(Caenorhabditis elegans)のレトロマー複合体が、CED-1の食作用にとって必須であり、結果としてアポトーシス細胞の除去にとっても必須である、と報告している(p. 1261、2月4号電子版)。(KF,KU,Ej,kj)
Retromer Is Required for Apoptotic Cell Clearance by Phagocytic Receptor Recycling
p. 1261-1264.

クロスオーバーの管理(Managing Crossovers)

すべての有性真核生物においては、減数分裂と呼ばれる特別な型の細胞分裂によって、配偶子、或いは胞子が産生される。減数分裂の際に、染色体が適切に分離して娘細胞となるためには、相同染色体のどの対の間でも、DNAクロスオーバーが生じなければならない。相同染色体を一緒に保つのを助けるそれらクロスオーバーの位置と数は、慎重に制御されていて、部分的にはコンデシンI複合体によって制御されている。Youdsたちは、線虫(Caenorhabditis elegans)では、クロスオーバーが、抗-リコンビナーゼであるRTEL-1(テロメア伸長ヘリカーゼ-1の制御因子)によって第2レベルでも制御されていることを示している(p. 1254)。RTEL-1はクロスオーバーが互いに近すぎる場所で生じないよう防いでおり、相同染色体の対あたりにただ一度だけ生じることを保証しているのである。(KF)
RTEL-1 Enforces Meiotic Crossover Interference and Homeostasis
p. 1254-1258.

列に並ぶカルボキシソーム(Carboxysomes in a Row)

カルボキシソーム(carboxysome)とは、ラン藻において、炭素固定酵素を細胞質の他の部分から隔離している、小器官様のタンパク質性微小区画である。ラン藻による炭素固定は、世界的な炭素循環の主要な構成要素である。Savageたちはこのたび、カルボキシソームが、ラン藻の細胞骨格に関与するプロセスにおいて細胞質内に直線的に配列されることを示している(p. 1258)。この配列は、細胞分裂の際のカルボキシソームの分配において重要である。ラン藻の細胞骨格を阻害すると、カルボキシソームの分配が妨害され、炭素固定が障害を受けることになるからである。(KF,KU)
Spatially Ordered Dynamics of the Bacterial Carbon Fixation Machinery
p. 1258-1261.

水蒸気濃度が低下(Dropping a Notch)

2000年から2001年の間に、成層圏の水蒸気濃度は約10%も低下した。水蒸気は重要な温暖化ガスである。これによって、気候は影響を受け、地球温暖化の歩みは遅くなったのだろうか?Solomonたちは(p.1219,1月28日号電子版)データとモデルを結びつけることによって、以下のことを示している。成層圏の水蒸気濃度の低下は、約25%温暖化の進行を遅らせることによって、2000年からの地球の平均気温の定常化に寄与していた。更に、成層圏の水蒸気量は、より急速に温暖化が進んだ時期であった1980年から2000年にかけて増加していたらしい。このことは、成層圏の水蒸気濃度がいかに気候に対して重要であるか、ということを示している。(Uc,kj,nk)
Contributions of Stratospheric Water Vapor to Decadal Changes in the Rate of Global Warming
p. 1219-1223.

時折起こる海面上昇(Episodic Rise)

最終氷期最盛期の終わりから完新世の始まりの期間に、海面水位の上昇が時折加速することがあった。14,000年前の融解水の噴出(meltwater pulse 1A)の期間と、そしておそらくmeltwater pulse 1Bと呼ばれる11,300年前の融解水の噴出があった別の期間において最も速い速度の海面上昇が発生した。しかし、現存する記録からは、meltwater pulse 1Bの期間あるいはヤンガードライアス寒冷化現象(12,900年前から11,600年前)の期間における海面水位の変化を確実に精密な推定をするだけの十分な記録が現存していない。Bardたち(p. 1235, 1月14日号電子版)は、タヒチのサンゴ礁から採掘した3つのコアから、14,000年前から9,000年前にかけての海面水位の変化を良く定量化できるデータを報告している。以前にmeltwater pulse 1Bと識別した期間では、海面水位の上昇速度の顕著な変化は検出できなかったことから、そうした現象が起こったという可能性が低くなっている。さらに、ヤンガードライアス期の開始時で海面はさらに急激に上昇しているが、その後の寒冷化の期間では上昇が減速していた。これらの発見は、氷河後退の変動過程を理解する手がかりを与える。(TO)
Deglacial Meltwater Pulse 1B and Younger Dryas Sea Levels Revisited with Boreholes at Tahiti
p. 1235-1237.

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