AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 2 2009, Vol.323


金のナノ粒子をDNA上に綺麗に配列 (Gold Nanoparticles on a Roll)

ナノ粒子は、閉じ込め効果やお互いどうしの相互作用のためにバルクとは異なった光学・電気特性を示す。3次元構造骨格内にナノ粒子を自由に配置することができれば、その相互作用を調べたり制御したりする可能性が高まるであろう。Sharmaたち(p.112)は一本鎖のDNAに結合した金ナノ粒子を用いて、DNAネットワークを形成させ、様々な小管構造物を得ることに成功した。電子線トモグラフィーにより、ナノ粒子が様々な螺旋構造をとりながら小管表面に配列していることが明らかとなった。また、ナノ粒子の立体斥力のためにナノ粒子が小管の組織化過程において重要な役割を果たしていることが明らかになった。(NK,Ej)
Control of Self-Assembly of DNA Tubules Through Integration of Gold Nanoparticles
p. 112-116.

菌の侵入者を湾に閉じ込める(Keeping Fungal Invaders at Bay)

植物細胞は菌が侵入を試みた部位に対して、細胞自律的応答に動員をかけ、その結果ペルオキシソームの極性化を生じさせる。この極性化を生じさせるメカニズムは不明である。今回、Clayたち(p. 95, 12月18日、電子出版)とBednarekたち(p. 101, 12月18日電子出版)たちは、予備的侵入抵抗メカニズムが、協調的で感染誘発性による特異的グルコシノレイト分子の生合成によるものであることを示した。この分子が作られ細胞の外側に伝達されるのは、ペルオキシソームタンパク質(PEN2 と PEN3)の活動によってであり、基質としてミロシナーゼを使う生合成的反応を経由して生産される。Bednarekたちは、生成されたPEN2 の化合物は抗真菌性化合物として中心的役割を演ずるが、この合成ルートは生きた細胞中で以上のような方法でなされ、それもこのルートは感染に対する応答としてのみ起きる。Clayたちは、これらミロシナーゼや関連する分解生産物がどのようにシグナル分子としてシロイヌナズナ中で防御応答として作用するかを発見した。このようにして、代謝産物のファミリーは非宿主性の抵抗性経路を制御する。(Ej,hE)
Glucosinolate Metabolites Required for an Arabidopsis Innate Immune Response
p. 95-101.
A Glucosinolate Metabolism Pathway in Living Plant Cells Mediates Broad-Spectrum Antifungal Defense
p. 101-106.

超清浄・超微細(Ultra Clean, Ultra Small)

カーボンナノチューブには2種類あり、その一つは金属性で他方は絶縁性である。Deshpandeたち(p. 106)は今回、超清浄に保たれた個々の単壁カーボンナノチューブの輸送測定を実施した。合成されたナノチューブは見掛け上金属性と絶縁性の混合物であるが、実際、すべてのナノチューブは絶縁性であった。つまり、チューブの半径に依存するエネルギーギャップが存在していた。これはチューブの電子間の相関によるMott絶縁状態を表しているのであろう。(Ej)
Mott Insulating State in Ultraclean Carbon Nanotubes
p. 106-110.

さらなる危害(Adding Injury to Insult)

世界中のサンゴ礁は、海面温度の上昇、水質汚染そして乱開発という恐ろしい重圧を被っている。更に、サンゴの成育に対する新たな脅威として、海洋酸性化、即ち大気CO2の吸収量の増加が原因で起こる表面海水のpHの低下である。多くの調査により、近年の生育しているサンゴ礁の範囲や数の下落、そしてサンゴ種の多様性の減少も同様に立証されてきたが、サンゴの石灰化の速度にどのように影響しているのかを調べた調査は稀であった。De'athたち(p.116;Pennisiによるニュース記事参照)は、オーストラリアのグレートバリアリーフにある328の大規模なポルテス(Porites)サンゴの成長パターンを調べて、石灰化の速度は1990年以降15%近く下落し、これは過去400年間で前例の無い低い値であることを発見した。この継続的な下落の主な理由は、海水温度の上昇と海洋酸性化と思われる。(TO)
Declining Coral Calcification on the Great Barrier Reef
p. 116-119.
CORAL REEFS: Calcification Rates Drop in Australian Reefs
p. 27.

透明人間に至るねじれた経路(A Warped Route to Cloaking)

変換光学とメタ物質の力により、光に対して前例の無いような制御を与えることが可能となり、見えなくしたり、超レンズや透明マント(cloaking)ができるかもしれない。しかし、今まで提案されたほとんどの方法はマクスウェル方程式のユークリッド平面空間内での変換に基づくものであり、そのため上に述べたような効果が実現されるのは単色光に限定されていた。Leonhardtと Tyc (p. 110; および、11月20日号の電子版での Nicolet とZollaによる展望記事参照)は、歪曲空間、すなわち非ユークリッド空間における変換に基づく理論を述べている。この方法に依れば広い波長帯に対する応用が開ける可能性がある。さらに、広い波長に渡って見えなくするために必要な物質は、以前考えられていたほど特殊でもない。(Ej,nk)
Broadband Invisibility by Non-Euclidean Cloaking
p. 110-112.
PHYSICS: Cloaking with Curved Spaces
p. 46-47.

ターゲットに向かって(Right on Target)

膜への同時翻訳タンパク質ターゲティングは、シグナル識別粒子(SRP)とその受容体を含んでいる。SRPは非翻訳RNAをを含んでおり、SRPとその受容体の相互作用を触媒的に促進している。Bradshawたち(p.127)は、SRP・RNAが分泌と膜のタンパク質上のシグナル配列によってトリガーされる分子スイッチであることを示している。シグナル配列の結合に応答して活性化されると、SRPRNAはSRP受容体へのSRP結合の速度を大きく加速する。以前の研究ではこの効果が覆い隠されていたが、その理由は反応緩衝液中に含まれている界面活性化剤がSRP・RNAを恒常的に活性化するシグナルペプチドと同じ働きをしていたためである。このように、このシグナル配列がSRPタンパク質ターゲティングマシンを制御している。(KU)
Signal Sequences Activate the Catalytic Switch of SRP RNA
p. 127-130.

明るく光る花(Bright Shiny Flowers)

花の色に関する研究は、主に化学的な色素形成に集中している。Whitneyたち(p.130)は、チューリップの花弁表面の構造的特質により、どのようにして化学的な色素形成とは独立にイリデスン(iridescence:真珠光沢のように見る角度で色調が変わる)による色調が作るれるのかを研究している。花のイリデスンは昆虫には見える紫外域での信号となっているようだ。マルハナバチ(bumblebee)はイリデスンからの情報の使い方を学んでおり、それによって潜在的な食料源を同定している。このように、イリデスンは花と花粉媒介者の相互作用に寄与しているらしい。(KU,Ej,nk)
Floral Iridescence, Produced by Diffractive Optics, Acts As a Cue for Animal Pollinators
p. 130-133.

寿命がかなり短くなる(Life's Too Short)

デングウイルスやマラリヤ寄生虫といった病気の制圧は、ワクチンの欠如や薬剤耐性の進化によって阻まれている。より多くの寄生虫を蓄積している老いた蚊を除去するという制圧手法は、単に寄生虫の感染率を減らすというだけでなく、一方では若い成虫の蚊は繁殖可能であるため薬剤耐性の進化に関する淘汰圧をも減らすことになる。McMenimanたち(p.141;Read and Thomasによる展望記事参照)は、生物的 薬剤としてのボルバキア属(デングウイルスを媒介するネッタイシマカに寄生する細菌)中の蚊を短命にする系統の潜在的な価値を調べた。この細菌は、3年間の適応プログラムの後、デングウイルスを媒介するネッタイシマカのラボ集団の中で確立された。このボルバキアは蚊の産卵を抑えることはできないが、蚊の寿命を半減させた。この寿命ではホストとしての蚊の体内でデングウイルスの成熟に必要な日数に足りずウイルスの感染をかなり抑えることができるであろう。(KU)
Stable Introduction of a Life-Shortening Wolbachia Infection into the Mosquito Aedes aegypti
p. 141-144.
MICROBIOLOGY: Mosquitoes Cut Short
p. 51-52.

シャペロンによる神経変性(Chaperone to Neurodegeneration)

自己貪食一般は神経変性のプロセスにおいて役割を果たしていると知られているが、そうだとしても、シャペロンによって仲介される、特異的な細胞質タンパク質のレベルを選択的に制御している自己貪食が、細胞の生存と死においてどんな役割を果たしているのかは明瞭ではない。MEF2(筋細胞エンハンサー因子2)ファミリーのメンバーは、ニューロンの生存や分化、シナプス機能に関与している核の転写制御因子である。このたび、Yangたちは、ノックアウトマウスやトランスジェニックマウス、さらにはヒトの脳などから得られた試験管内および生体内でのデータを用いて、シャペロンによって仲介される自己貪食が、リソソームの分解のためのMEF2を直接標的にしていることを示している(p. 124)。このプロセスの間に、MEF2は核から細胞質に転位置される。このシャペロンによって仲介されるMEF2の自己貪食は、それが増加するとパーキンソン病を引き起こしうるシヌクレインのレベルに対して敏感である。つまり、シャペロンによって仲介される自己貪食は、神経細胞の生存機構の調節に直接的な役割を果たしており、神経細胞の生存率を下げることになるシヌクレインの変異体あるいは過剰発現によるプロセスに関与している可能性がある。(KF)
Regulation of Neuronal Survival Factor MEF2D by Chaperone-Mediated Autophagy
p. 124-127.

毒の交易(Trading Toxins)

ある種の細菌性ウイルス(ファージ)は、宿主のDNAをパッケージされた粒子の状態でかき集める。ChenとNovickは、この能力が病原性決定基をコードする細菌の遺伝子をも含んでおり、それによって別の病原菌種へと伝達されるということを示している(p. 139)。いくつかのプロファージ--自分自身のDNAを細菌染色体中に取り込み、そして宿主を殺すことなしに自分自身を複製させる--は、黄色ブドウ球菌からリステリア菌へと毒の遺伝子の伝達を仲介した。双方の病原体はウシ乳房炎において同時に発生することがあり、病原性決定要因のファージ伝達が生乳において生じているのが観察された。この獣医学的条件は抗生物質耐性に屈するものであり、ファージ治療には殺菌処理の代替的な方法を提供してきた。しかしながら、その方法は細菌の病原性因子の病原体への伝達を促進し、それによってヒトにリスクをもたらしかねないという、望ましくない副作用をもっている可能性がある。(KF)
Phage-Mediated Intergeneric Transfer of Toxin Genes
p. 139-141.

珍しい大気(Rare Air)

硫酸塩鉱物の酸素同位体組成は、地球上で生じた重要な様々の物理的、化学的、生物学的過程によって影響を受けている。そういうわけで、それは地質時代を通じての大きな環境条件を追跡するための価値ある鍵となっている。Baoたちは、「スノーボール・アース(雪玉の地球)」というエピソードの時期に相当する新原生代時代(Neoproterozoic era;およそ10億年前から5億4千万年前まで)の、極端な同位体分画の測定結果を報告している(p. 119)。硫酸塩およびそれを取り込んだ炭酸塩のホスト岩石において観察された一連の独特な酸素同位体の値は、例外的に高い二酸化炭素濃度をもった大気があったのか、或いは大気と生物圏の間で完全に独特な酸素の流動パターンがあったかのいずれかが存在した証拠を表している。(KF,KU,Ej)
Stretching the Envelope of Past Surface Environments: Neoproterozoic Glacial Lakes from Svalbard
p. 119-122.

同僚の支援(Peer Support)

大きな教室において、個々人が応答するシステムを利用できれば、一人の指導者と多くの学生の間の相互作用を強めることができる。Smith たち (p.122) は、授業時間中、さまざまな質問に応答できる「クリックツール」を用いている学生を調査した。各学生が回答した後、その質問に関し学生間で議論することを許し、再び同じ質問を繰り返すと、彼らの解答は改善された。この改善が、出来の良い学生の話の単なる受け売りか、個々の学生の理解度が高まったためなのかを区別するため、見かけは異なるが内容はよく似た第2の質問を行った。その結果、彼らは実際によく理解するようになったのであり、よく知っているように見える学生の話に従っただけではないことが分かった。(Wt,nk)
Why Peer Discussion Improves Student Performance on In-Class Concept Questions
p. 122-124.

DNA重合酵素の作用を見る (Viewing the Action of DNA Polymerase)

直接的なDNA配列決定法(Direct DNA sequencing methods)は、プライマー・テンプレートに沿ったDNAポリメラーゼ(重合酵素)の段階的作用の観察に基づくものである。直接法はヌクレオチド取り込みの動力学に関する情報を提供するが、単一分子を見る上で充分な蛍光シグナルが得られず、また蛍光標識の立体障害による動きの変化により往々にして制約される。Eidたちは、表面に繋ぎ止められた単一の重合酵素がプライマー・テンプレート上で作用する際に、ヌクレオチドの末端のリン酸に蛍光タグ付けされたヌクレオチドの取り込みをリアルタイムで観察できる方法を開発した(p. 133;11月20日の電子版)。この方法をゲノム科学に応用するには、重合酵素の反応化学の調整と光学的システムのさらなる改善が必要であるが、現状でも小さなウイルスや細菌のゲノムを配列決定する程度の能力はある。(KF,KU)
Real-Time DNA Sequencing from Single Polymerase Molecules
p. 133-138.

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