AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 21 2008, Vol.322


火星の貯水(Martian Reservoirs)

火星上で見える水はほとんどが極冠内に捉えられている。低緯度ではかつて水が流れた という推測も成り立つし、実際その証拠も存在するが、水が大量に蓄えられているという 証拠は見つかってない。いくつかの中緯度地方に、大規模な一連の葉状の土地形状が 見つかっているが、 これに対する1つの仮説は、それらが石屑で覆われた氷河か、氷が詰まった岩石の集積ではないかというものだ。Holt たち (p. 1235)は、火星探査衛星を利用したレーダーで2か所を調べた。これらの地域は実際主として水の氷からできており、これが最近の岩屑で覆われており、こうなったのは火星軌道がもっと傾いていた時期に生じた現象であろう。この2か所が代表的なものであると考えられるなら、この地形は極以外で最大の火星の水を保持していることになる。(Ej,hE,nk)
Radar Sounding Evidence for Buried Glaciers in the Southern Mid-Latitudes of Mars
p. 1235-1238.

遠方の視覚(Visions from Afar)

時間的に長く経過した事象と、空間的に遠い事象は、心理的には似たように処理されるようだ。Liberman と Trope (p. 1201)は、遠くにある物、遠い将来の出来事、想像的(現実に対しての)事象などの記述に共有性があることを示す証拠をレビューした。空間的、時間的、心理的な色々な種類の距離はどのようにして、これらの出来事やものを、例えば「遠い昔、はるか遠くの場所で」というように、互いに強く結び付けるように仕向けるのだろうか? より遠くの対象はより抽象的な言葉で表現される結果、時間的にも空間的に近い対象物に比べると、遠くの対象物は少数のより一般的なカテゴリーに分類されてしまう。日常生活においては、直観や信念を取り込んだ、高度なつまり抽象的な思考は未来の事象の価値を高め、自己制御を促進し、直ぐに喜んだりしなくなるようだ。(Ej,hE,nk)
The Psychology of Transcending the Here and Now
p. 1201-1205.

大質量星と「魔法(MAGIC)」のかに星雲 (Massive Stars and MAGIC Crab Nebula)

活動的なパルサーはガンマ線を発生する可能性がある。ガンマ線は数箇所から放射されているのが観測されているが、多くの特別の発生源は同定されないままで残されている(Bignami による展望記事を参照のこと)。Abdo たち (p.1218, 10月16日にオンライン出版) は、最近になって活用され始められた Fermiガンマ線宇宙望遠鏡により、あるいは、宇宙に設置されたFermiガンマ線望遠鏡によりガンマ線パルサーを検出し、そして、その放射を中性子星と結びつけられることを報告している。他の多くの、いまだ同定されていないガンマ線パルサーは類似の放射源を有している可能性があり、これは考えられてきたものよりも多数の大質量星があることを暗示している。かに星雲のパルサーは、1054年の超新星爆発に伴って残存している中性子星である。それからのガンマ線は、およそ 5GeV までのエネルギーのものが宇宙において観測されている。地上に設置された望遠鏡による観測では、60GeV という通常の最小閾値以上のエネルギー範囲では、脈動性の放射の検出には失敗してきている。MAGIC チェレンコフ望遠鏡の閾値は、25GeVまで下げられてきており、MAGIC Collaboration グループ(p.1221, 10月16日にオンライン出版) は、かに星雲からの脈動性放射を検出している。その放射は、より低エネルギーのデータの外挿から予想されるものよりも低いエネルギー流束として観測された。これは、中性子星の他の部分の放射の位置と源泉のモデルに対する挑戦となるものである。(Wt,Ej)
ASTRONOMY: Gamma Rays and Neutron Stars
p. 1193-1194.
The Fermi Gamma-Ray Space Telescope Discovers the Pulsar in the Young Galactic Supernova Remnant CTA 1
p. 1218-1221.
Observation of Pulsed γ-Rays Above 25 GeV from the Crab Pulsar with MAGIC
p. 1221-1224.

Gタンパク質共役受容体の構造上の多様性(GPCR Structural Diversity)

Gタンパク質共役受容体(GPCR)は、細胞外のいろいろなシグナルに反応し、それぞれ異なるシグナル経路を活性化する。これらは重要な薬理学的な標的であるが、薬剤の設計に役立つような構造的情報は今のところロドプシンとアドレナリン受容体に限られており、異なるGPCR内でのリガンド結合の決定要因は解ってなかった。今回、Jaakolaたち(p. 1211,および、10月2日発行の電子版参照)は、ある拮抗物質と複合体を形成したヒトA2Aアデノシン受容体(この受容体はカフェインによってブロックされる)の構造を報告した。結合ポケットはロドプシンやアドレナリン受容体のものとは異なることから、このポケットは特定のアミノ酸側鎖による保存結合ポケットではなく、GPCR結合ポケットそのものが、その位置や方位に依存して変化すると思われる。(Ej,hE,KU)
The 2.6 Angstrom Crystal Structure of a Human A2A Adenosine Receptor Bound to an Antagonist
p. 1211-1217.

下からの光(Light from Below)

高輝度レーザーが持つ振動電場は最外殻の電子を原子あるいは分子から解離させることができる。解離した電子が分子に戻る際イオンコアと衝突し高エネルギーフォトンを放出する。この過程は、10-15秒の最短パルス光を発生させる技術に応用されている。2つの研究グループが、より強く拘束された電子(内殻電子)も高強度電場により同様の過程を経ると報告している(DoumyとDiMauroの展望記事参照)。Liたち(p.1207, 10月30日オンライン出版)は、N2O4分子の振動状態に依存して発光強度が異なることを報告している。同様に、McFarlandたち(p1232,10月30日オンライン出版)は、窒素分子の配向と電場の偏光方向に依存して発光スペクトルが変化することを報告している。いずれのケースも、最高占有分子軌道と2番目の占有準位にある電子が関与している。これらの発見は、これまで速すぎて観測することができなかった分子の振動や回転状態と電子状態の相互作用の研究を活発にするであろう。(NK)
CHEMISTRY: Interrogating Molecules
p. 1194-1195.
Time-Resolved Dynamics in N2O4 Probed Using High Harmonic Generation
p. 1207-1211.
High Harmonic Generation from Multiple Orbitals in N2
p. 1232-1235.

一雌多雄を促進するもの(Promoting Polyandry)

ほとんど全ての動物の雌は一頭以上の雄とつがいするが、この一雌多雄として知られて いる行動の進化上のドライバーは謎である。Priceたち(p.1241)は、 利己的な遺伝因子この因子はこれの欠損した雄よりも精子の授精力を強める--が、受精率の増加と関連していることを示している。これらのデータは 集団内部での利己的な遺伝因子の潜在的な影響を示すものであり、また一雌多雄の進化における一般的な説明を与えるものである。(KU,Ej)
Selfish Genetic Elements Promote Polyandry in a Fly
p. 1241-1243.

細胞内の形態形成をモデリングする(Modeling Subcellular Morphogenesis)

有糸分裂中の細胞内で、細胞内の構築、特に細胞の微小管の配列が再構築され、染色体の娘細胞への忠実なる分離を促進する。Athaleたち(p.1243,10月23日にオンライン出版)は、酵素ネットワークが染色体の周りでどのように自己組織化され、カエルの卵の抽出物からのオープンな細胞の細胞質中において、中心体によって核形成される微小管の確率的な挙動のその対象性に影響するかを報告している。理論的モデルにより、真の反応拡散機構が微小管の複雑な定常状態のパターンを酵素反応からどのようにして形成しているかを示している。確率論的な系(微小管の動き)と決定論的な制御性の勾配との結びつきが細胞内の形態形成にたいする全体的なメカニズムを与えているらしい。(KU)
Regulation of Microtubule Dynamics by Reaction Cascades Around Chromosomes
p. 1243-1247.

恐ろしい藻の制御(Dinospore Control)

有害な藻類の異常発生、すなわち赤潮、は農地からの窒素流出によって汚染された温暖な沿岸部において、ますます募る心配の的となっている。その異常発生は、一般に渦鞭毛藻類原虫によるものであるが、その中のいくつかの種は危険な毒素を産生する場合があり、甲殻類を扱う人たちにとって大きな問題になっている。1980年代には、赤潮は北フランスの河口域を席巻したが、ここ10年間、大部分が消失してしまった。Chambouvetたちは、そうした河口域の1つで藻類の推移をモニターし、毎夏、異なった渦鞭毛藻類種の大波が生じるのだが、それらが順繰りに各藻類に特化した寄生虫種の波状攻撃によって駆逐されていくことを観察した(p. 1254)。系統発生的分析によれば、そうした宿主と寄生種の関連は、それらの河口域において、ここ10年間で生じたことではあるのだが、いまや1年を通じてその環境で持続するものとなり、有毒な藻類の異常発生の形成を抑制するのを助けている。(KF,nk)
Control of Toxic Marine Dinoflagellate Blooms by Serial Parasitic Killers
p. 1254-1257.

Wntと脳の脈管構造(Wnts and the Brain Vasculature)

われわれの身体のすべての組織は脈管構造(vasculature)を共有しているが、異なった器官は、発生の際に異なった血管新生(vascularization)のモードを示すし、血管も同じようなものにはなっていない。たとえば、脳内の血管は血液脳関門という密封状態になっていて、正常な脳機能を可能にしつつも、潜在的な治療薬によるアクセスを制限している。このたびStenmanたちは、神経のWnt-シグナル、Wnt7aとWnt7bが、血管内皮細胞への規範的なWnt経路を介した直接的なシグナル伝達によって、中枢神経系の脈管構造の形成と分化を促進しているという、in vivoでの証拠を提示している(p. 1247; またLammertによる展望記事参照のこと)。(KF)
Canonical Wnt Signaling Regulates Organ-Specific Assembly and Differentiation of CNS Vasculature
p. 1247-1250.
DEVELOPMENTAL BIOLOGY: Brain Wnts for Blood Vessels
p. 1195-1196.

代謝に関する情報ハイウェイに即した駆動(A Drive Along the Metabolic Information Highway)

哺乳類の代謝制御には、多くの臓器および組織の間での情報交換が必要である。マウスモデルを研究して、Imaiたちは、肥満が神経によって仲介される肝臓から膵臓への代謝性シグナルのリレーを介して、膵β細胞の増殖を刺激することを発見した(p. 1250)。肥満によって誘発される、肝臓における細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK: extracellular regulated kinase)シグナル伝達の活性化こそが、この代謝性リレーの主要成分であると同定されたのである。インスリン-欠乏性(1型)糖尿病のマウスモデルでは、肝臓特異的なERKの活性化がβ細胞の質量増加と血清グルコース濃度のレベルの正常化をもたらした。つまり、臓器間での代謝に関する情報交換は、糖尿病にとって価値ある治療標的となりうる、ということなのである。(KF)
Genome of an Endosymbiont Coupling N2 Fixation to Cellulolysis Within Protist Cells in Termite Gut
p. 1108-1109.

昆虫の病原体には逃げ場なし(No Escape for Insect Pathogens)

昆虫は感染に対して、まずは食作用性の血液細胞を即時に非特異的に補充することによって応答し、それに続けて、いくらか特異性のある抗生物質として作用する小さなペプチド類を産生する。抗菌ペプチドの産生は何週間も持続しうるのだが、昆虫は、たとえあったにせよごく稀にしか、われわれが病院で見かけるような抗生物質耐性の問題には煩わされない。Haine たちは、昆虫における長期間のペプチド応答がもともとの細胞応答に抵抗したどんな細菌をも片付けてしまうので、それによって抵抗性のある生物の出現を阻止している、ということを提唱している(p. 1257; またSchneiderとChambersによる展望記事参照のこと)。つまり、自然環境での抗生物質の役割を生態学的に解析することは、治療上の抗生物質使用の再評価を促すわけである。(KF)
Antimicrobial Defense and Persistent Infection in Insects
p. 1257-1259.
MICROBIOLOGY: Rogue Insect Immunity
p. 1199-1200.

長く生き永らえている標準モデル(Long Live the Standard Model)

素粒子物理学の標準モデルは、我々が見ている宇宙を作り上げている観察される粒子ファミリーとそれらの相互作用を説明するために創り上げられた。その宇宙は、原子を形成する陽子と中性子、クォークを構成する粒子、および他の重粒子物質とからなる。格子量子色力学はその質量を決定するために用いられる数値的なアプローチである。しかしながら、それは余りにも計算に頼っているので省略と近似がなされ、その計算には不可避的にエラーが入り込む。Duerrたち(p. 1224;Kronfeldによる展望記事参照)は、粒子の質量を計算するためにいままでにない最大規模の計算努力をした結果の一つについて発表し、実験結果と良く一致することを見出した。このことは、標準モデルが粒子の質量に関する正しい記述であることを確認するものである。(hk,KU)
Ab Initio Determination of Light Hadron Masses
p. 1224-1227.
PHYSICS: The Weight of the World Is Quantum Chromodynamics
p. 1198-1199.

イメージングを促進する(Accelerated Imaging)

電子顕微法は物質や生物学的構造に関する分子レベルのイメージを得るために広範囲に用いられている。しかしながら、試料に衝突する電子パルスにおける空間電荷の問題により、同時に得られる時間分解能が制限される。Barwickたち(p.1227)は、一度に一個の電子を用いて基板を可視化する電子顕微鏡を作ることでこの問題を克服した。超高速の光パルスを用いて自由電子を発生させることで、彼らは金やグラファイトフィルムにおける実空間でのフェムト秒の構造の挙動をオングストロームでの空間分解能で測定している。この研究は、金基板の様々な領域での熱ストレス(先行するレーザパルスにより誘起された)への異なる応答を明らかにし、一方グラファイトフィルムはよりコヒーレントな応答を行い、それにより原子スケールでの特徴的なヤング率が導かれる。(KU)
4D Imaging of Transient Structures and Morphologies in Ultrafast Electron Microscopy
p. 1227-1231.

ムール貝の進化(Mussel-ing in on Evolution)

化石進化の道筋を同定することは、地質学的時間に渡るマクロ進化の過程の評価を助ける。しかしそうした分析には、幅広いさまざまな時間的スケールにわたっての、また異なる分類群の中でのパターンとその比率の折り合いをつけることが必要になる。層位学的にも系統発生的にもうまく解決ができ、また適切な形態学的可変性を捉え、特徴付けることを可能にするようなトレンドと試料を分析する適切な方法が必要である。Greyたちは、ある分類群によって示された進化のモードが地理的範囲の別の場所では違うことがありうるという問題意識と可能性を論じている(p. 1238、10月23日オンライン出版)。ムール貝の古代の親類についての化石記録における進化的変化のモードを探求することで、場所によっていかに進化のパターンが異なるかが明らかにされた。(KF)
Variation in Evolutionary Patterns Across the Geographic Range of a Fossil Bivalve
p. 1238-1241.

大学の挑戦(University Challenge)

科学研究の進め方の調査において、Joneたち(p.1259,10月9日のオンライン出版)は、30年に渡る400万を越える論文に関する共同研究の実態を解析した。合衆国において、チームワーク科学研究が様々な大学に所属する研究者から構成される度合いが増加しており、そしてこれらの「チーム」は同じ大学に所属するチームや単独の研究者たちよりもより高度なインパクトのある成果を出している。様々な大学に所属するチームは遥かに最も早く成果を出すタイプのオーサーシップ構造(aythorship structure)であった。このようなチームは、異なるステイタスランク(status ranking)の大学というよりも圧倒的にトップクラスの大学(ハーバード大学やスタンフォード大学等)で構成されている。複数の大学の共同研究により、エリート大学がより独占的に共同研究で結ばれ、ますます高度に引用されるようなアイデアの源となる。(KU)
Multi-University Research Teams: Shifting Impact, Geography, and Stratification in Science
p. 1259-1262.

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