AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 17 2008, Vol.322


曲がりやすいダブルへリックス(Flexing Double Helix)

DNAの二本鎖は、一般に棒状の弾性体とみなされている。最近の実験観察から、このような考え方は過度に単純化しすぎていることが示されているが、しかしながら顕微鏡レベルで屈曲やねじれや伸縮の摂動を解明することが困難であった。Matthen−Fentたち(p.446)は、DNAダブルへリックスの末端に付着させた金のナノ結晶間の小角X−線散乱の干渉を用いて、屈曲しにくいほど短いDNAフラグメントの両端間の距離分布を直接測定した。その結果から、平均長さの周りの測定値の散らばりは理想的な棒状の弾性体にたいして予期される値よりもはるかに大きいことがわかった。かつ伸縮がダブルへリックスの少なくても2回転以上にわたって共同現象的に作用していることがが示された。この共同現象的な伸縮がDNA構造に沿ってのアロステリックな信号伝達を可能としているらしい。(KU,nk)
Remeasuring the Double Helix
p. 446-449.

スピンの波に乗る(Riding the Spin-Wave)

電子の電荷ではなくスピン特性を利用した研究が活発になっている。スピン密度波は磁気システムを伝播する偏極電子を励起することによって発生する。しかし、回路系内でスピン特性を知ることは非常に困難である。VlaminckとBailleulらは (p. 410; McMichael と Stilesの展望記事参照)は長年提唱されてきた効果すなわち、注入電流によって伝播するスピン波が周波数シフト(あるいはドップラーシフト)する現象を実験的に証明した。このようなシンプルな手法はスピントロニクスの発展に大きく貢献するであろう。(NK)
Current-Induced Spin-Wave Doppler Shift
p. 410-413.
PHYSICS: A New Spin on the Doppler Effect
p. 386-387.

ダブルの宇宙瓦礫(Double Cosmic Rubble)

これまで、小さな天体が相互の周りを軌道運動してる連星小惑星が、およそ70個見出されている。これらの連星小惑星の多くは、その弱い重力で一塊となった、瓦礫からなる壊れやすい天体であり、あるものは単一の天体の破壊によって形成された可能性があると示唆されている。Petit たち (p.432)は、冥王星より遠くにあるカイパーベルト中の不思議な連星系を追跡し、その連星系が100,000km以上離れた偏心軌道を回っていることを示している。それらの半径の2000倍にもなるこの大きな距離では、、他の天体の引力による崩壊に抗して、連星小惑星を作り、維持することは困難である。従って、その系は衝突により形成されたようで、そして、その壊れやすい存在から考えて、このような天体は初期の太陽系ではもっと一般的に起こっていたらしいことを示唆している。(Wt,KU)
The Extreme Kuiper Belt Binary 2001 QW322
p. 432-434.

ソルビトールからの燃料(Fuel from Sorbitol)

天然の石油を燃料や機能的な化合物に転換する化学インフラ設備は、そのほとんどを長鎖の炭化水素の分解や酸化反応に依存している。これと対照的に、基本的供給原料として炭水化物のバイオマスへの切り替えには、過度の酸素処理に由来するまったく異なる一連の処理設備が必要となる。Kunkesたち(p.417,9月18日のオンライン出版)は、グルコースやソルビトールといった大量の糖を燃料や化学製品に転換する2段階の処理方法を報告している。最初の反応器において、白金-レニウム触媒により水溶性の糖の原料をアルコールとカルボニル化合物に分解する。この分解物が、次に第2の反応器に送られ、そこではガソリン用の高度に枝分かれした化合物をつくるか、或いはディーゼルおよびジェット燃料混合物に用いられるより長鎖の、より線形の構造をもつた化合物を作るかで選択可能な異なる触媒系列を持つ一続きの反応設備からなる。(KU)
Catalytic Conversion of Biomass to Monofunctional Hydrocarbons and Targeted Liquid-Fuel Classes
p. 417-421.

遺伝子制御を調節する(Regulating Gene Regulation)

組織特異的な遺伝子発現は、ほ乳類全体に共通な高度に保存された一連の転写制御因子によって確立されている。しかしながら、転写制御因子の結合部位自体は進化の過程で劇的に変化した。このような変化は、エピジェネティクス、クロマチン、基本的な配列変化、環境および食事を含めた多様な因子の結果であろう。遺伝子発現を制御している環境因子と遺伝因子を分けるために、Wilsonたち(p.434,9月11日のオンライン出版;Coller and Kruglyakによる展望記事参照)は、ヒト(の)21番染色体のコピーを保有するマウスの肝臓における発現を研究した。これにより、同一の核内で同時にヒトとマウス配列の完全な相同染色体に関する転写制御の研究が可能となった。in vivoでのタンパク質-DNA結合、ヒストンのメチル化および転写に関して、DNA配列が環境よりもより重要な決定因子であった。(KU,SO)
Species-Specific Transcription in Mice Carrying Human Chromosome 21
p. 434-438.
STRONG>GENETICS: It's the Sequence, Stupid!
p. 380-381.

体内温度のイメージング(Imaging Internal Temperatures)

温度は通常、試料の表面で局所的に測定されるが、多くの臨床の場では、例えば体温上昇治療の間、組織内部の温度プロフィルを得ることが出来れば有用であろう。このようなプロフィルは通常の磁気共鳴イメージングにおいてコントラスト薬剤を用いて得られるが、しかし人体を通過する際に磁場が不均質になったり、乳房のような脂肪組織においてこの技術はまったく適していない。Galianaたち(p.421)は長距離での分子間のゼロとダブルの量子コヒーレンスを用い、温度に依存しない脂肪の化学シフトを基準にして、温度に依存する水の化学シフトを測定する方法を開発した。(KU,nk)
Accurate Temperature Imaging Based on Intermolecular Coherences in Magnetic Resonance
p. 421-424.

溶液の整列(Ordered Solution)

ブロック共重合体は化学的に異なる2つの共有結合重合体から構成されており、このブロックの濃度に依存して自発的に球や円筒が配列した形状に相分離する。この整列した一方の成分を溶解し、半導体製造用の鋳型としてメモリーチップのような電子部品を製造することが可能である。しかし、半導体産業では直線状のパターン形成には慣れているが、球状や円筒状のパターンを整列させると6角形状になりやすい。Tang たち(p. 429,9月25日電子出版参照)は2つのブロック共重合体を操作して、ポリスチレンブロックの間に水素結合を誘発させた。これが混ぜ合わされると重合体は正方形状に整列した。(Ej)
Evolution of Block Copolymer Lithography to Highly Ordered Square Arrays
p. 429-432.

確率的な変化(Stochastic Changes)

遺伝的にも環境的にも同一の細胞であっても、単一細胞のスイッチングが確率的に生じることで異なる表現型(phenotype)を持つことがある。その古典的な例が大腸菌のラクトースの代謝において、中間誘導物質の集合中に集団中の一部の細胞に誘発された表現型が見られる。Choiたち(p. 442)はこのスイッチングにおいて、lac遺伝子の発現を分子レベルで直接観察した。四量体のlacリプレッサーはループ状のDNA上の2つのオペレーターに結合しており、そのうちの1つのオペレーターがしばしば解離することが発現の基礎となっている。稀に、両オペレーターから完全に解離することがあり、このときは完全誘導となる大規模な発現が一気に生じる。このように、確率的に生じる分子の現象によって、個々の細胞の非誘発型表現型から誘発型表現型までが生じている。(Ej,hE)
A Stochastic Single-Molecule Event Triggers Phenotype Switching of a Bacterial Cell
p. 442-446.

重複された機能の洗い出し(Mapping Out Redundancy)

生きている生物はしばしば代償性のシグナル伝達メカニズムを持っているため、調節経路中のたった一つしかない重要な機能を喪失したとしても許容される。このため、潜在的な難関に際してもその経路の堅牢さを保っているが、逆に、経路の解明やマッピングを困難にしている。このような緩衝現象や機能的な重複を回避して研究するため、Bakalたち(p. 453)はショウジョウバエの培養組織における16,000以上の RNAiの組み合わせについて試験し、ショウジョウバエのJun NH-末端キナーゼ(JNK)の制御因子を同定した。キナーゼの同定に関する更なるphosphoproteomicデータと計算モデルによる解析により、同定された成分が制御ネットワーク中のどこにうまく当てはまるかが割り出された。このような手法は、細胞機能の調節についての治療上の決定的な標的を見出すのに役立つであろう。(Ej)
Phosphorylation Networks Regulating JNK Activity in Diverse Genetic Backgrounds
p. 453-456.

遺伝子と太り過ぎ(Genes and Weight Gain)

将来の個人の体重増加のリスクを増大させる因子には何があるのか?肥満体の人はドパミン報酬系が緩慢である場合、これを促進させる努力の中で、過食に陥るような低活性報酬回路を持っているのではないかという仮説がある。脳イメージング法を利用して、Stice たち(p. 449; および、表紙を参照)は、中性の液体飲料に対して美味なカロリーの多い飲料を摂取した場合、肥満体の人とそうでない人を区別する線条体活性化の関連を見つけた。この活性化の相違が、各個人のドパミンD2受容体遺伝子のA1対立遺伝子を保持しているかどうかで強調され、これに付随して線条体中のドパミンの伝達が減少する。この関連が、個人の1年後の体重増加を予測している。(Ej)
Relation Between Obesity and Blunted Striatal Response to Food Is Moderated by TaqIA A1 Allele
p. 449-452.

線虫の免疫防御(Nematode Immune Defenses)

われわれすべてと同様に、線虫Caenorhadbditis elegansも、細菌によって引き起こされる疾病や感染症に対して感受性がある。もちろんわれわれすべてと同様に、線虫も感染症に対する免疫防御を展開しなければならない。Styerたちはこのたび、線虫の自然免疫応答には、感覚ニューロンにおいてGタンパク質結合受容体であるnpr-1が発現する事が必要である、と示唆するデータを提示している(p. 460、9月18日オンライン出版)。この応答には、別のシグナル伝達関連分子、すなわちサイクリックGMP-ゲート・イオンチャネルおよび可溶性グアニル酸シクラーゼもまた必要である。当該の感覚ニューロンは、線虫全体を通じての免疫応答を制御するよう作用している。つまり、それらニューロンは、病原体からのシグナルを受け取り、次いで生物体全体にわたっての免疫応答を引き起こすことによって、線虫における自然免疫を制御しているらしい。(KF)
Innate Immunity in Caenorhabditis elegans Is Regulated by Neurons Expressing NPR-1/GPCR
p. 460-464.

変われば変わるほど?(Plus Ca Change?)

分子複合体あるいは生化学的経路におけるタンパク質あるいはRNAの機能は、互いに依存していて、そうした相互作用の現れは、遺伝学においては上位性(epistasis)として知られている。Roguevたちは分裂酵母における二重変異体の高処理スクリーン法を開発し、染色体機能に関与している550個の遺伝子中の相互作用に関する「上位性」マップを作り上げた(p. 405、9月25日オンライイン出版)。RNA干渉機構と転写開始と伸長の間の遷移や紡錘体チェックポイント経路、微小管安定性、DNA修復、さらには組換え機構などに関与している因子との間で相互作用が観察された。このマップにより、RNA干渉経路の新しい成分が同定できた。全体として、遺伝子の特異的サブセット間の遺伝子相互作用は、出芽酵母と分裂酵母の間で維持されており、また生化学的モジュールも一般に保存されていたが、それらの間のワイアリングはかなり違うらしい。(KF)
Conservation and Rewiring of Functional Modules Revealed by an Epistasis Map in Fission Yeast
p. 405-410.

すばらしい原子交換(Tip-Top Atomic Exchange)

原子間力顕微鏡(AFM)の先端を用いての原子および分子の操作と堆積は、幅広い実験において利用されている。Sugimotoたちは、基板と原子間力顕微鏡の先端尖部の間でのスズとケイ素原子を交換する、これまでのものとは少し違う技法を示している(p. 413)。この交換は制御可能かつ可逆的なものであり、著者たちは計算を用いて、この原子交換に関与している潜在的なメカニズムに関して記述している。(KF)
Complex Patterning by Vertical Interchange Atom Manipulation Using Atomic Force Microscopy
p. 413-417.

イオン性液体の層としての性質(Layering in Ionic Liquids)

イオン性液体は有機陽イオンおよび有機陰イオンによって構成され、うまく詰め込まない限り、室温近傍の条件下で溶媒を加える必要なしに液体を形成してしまいかねない。Mezgerたちは、高エネルギーX線反射を用いて、帯電したサファイア表面上で室温状態の一連のイオン性液体の構造を温度の関数として探求した(p. 424)。その液体のすべては、フッ化陰イオンであるトリス(ペンタフルオロエチル)三フッ化リン酸塩を含んでおり、すべてが、負に帯電したサファイア表面上に吸着される陽イオンと一緒になって強い表面の層形成を示した。この層化(距離に応じて指数関数的に減衰してバルクな液体になる)は、帯電した界面におけるイオン性液体に共通の特徴を表しているらしい。(KF,KU)
Molecular Layering of Fluorinated Ionic Liquids at a Charged Sapphire (0001) Surface
p. 424-428.

オンデマンド的アロステリックなネットワーク(Allosteric Networks On Demand)

タンパク質の機能は、アミノ酸同士の局所的な相互作用に依存するだけでなく、離れた部位の間の情報交換にも依存している。たとえば、あるタンパク質の活性が、遠く離れた表面へのリガンド結合によって制御されることもある。このことは、2つのタンパク質におけるアロステリックなネットワークが、一方のタンパク質の活性が他方の活性を制御するように結合しうる、という可能性を提起する。Leeたちはこのたび、そのようなキメラの作成について報告している(p. 438)。彼らは統計学的結合解析(SCA)を用いて、光センシングPer/Arnt/Sim (PAS)シグナル伝達領域とジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)におけるアロステリックなネットワークを同定した。その情報に基づき、彼らは、2つのネットワークをリンクすることを狙って、PAS-DHFRキメラを遺伝子工学的に作り上げた。最適化はしてないが、キメラの1つは穏やかな光依存的触媒活性を示し、結合された活性を有するタンパク質複合体を作り出す明瞭な概念を与えるものである。(KF,KU)
Surface Sites for Engineering Allosteric Control in Proteins
p. 438-442.

生物学的な操作に向けて(Toward Biological Manipulation )

細胞特有の機構になんら頼ることなく、生きた細胞内で情報を処理しすることができる分子サイズの機械を、もし作って、プログラムすることができたらどうなるだろうか? 医学における応用だけでも、莫大なものになりそうである。WinとSmolkeは、この方向への一歩を、基礎的なブール論理関数を遂行できるモジュラー・デバイスをRNAから構築することによって達成した(p. 456; またShapiroとGilによる展望記事参照のこと)。彼らは、センサーとして作用するRNAアプタマー(高親和性で特定の標的分子に結合するオリゴヌクレオチド分子)を、mRNA転写物を切断することで遺伝子発現を制御するリボザイム成分(触媒活性のあるRNA分子)と結合させて用いいている。このデバイスを、次いで、酵母細胞中で標的遺伝子の3'非翻訳領域に繋ぎ止め、発現させた。このRNA分子は明瞭なるステム・ループ構造(折り返しのRNA構)を形成しており、この構造によりリボザイムが、それ故に標的遺伝子の転写物が活性化されるかどうかが決まる。著者たちは、論理ゲート、たとえば、刺激がまったくないときや1つしか刺激がないときには転写活性は起こらないが、2つの刺激が存在するときに限って転写を活性化させる「AND」ゲートを作り上げた。この機械は細胞中に自然に生じる対応物をもつ分子から作られるので、著者たちは、それらを使って生命系を操作できる可能性があると提唱している。(KF,KU)
Higher-Order Cellular Information Processing with Synthetic RNA Devices
p. 456-460.
CELL BIOLOGY: RNA Computing in a Living Cell
p. 387-388.

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