AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 15, 2008, Vol.321


雲の変化(Cloud transition)

エアロゾルは雲粒の数、サイズ、サイズ分布に影響を与え、その結果、雲が大気におけるエネルギーと水の流れと分布を変化させる過程に関与し、最終的には気候に大きな影響をおよぼすことになる。エアロゾルが雲に影響を与える過程にはミクロ物理的および放射的過程があり、その結果は周囲の状況によって加熱になったり逆に冷却になったりする。Korenらは(p946)アマゾンに着目し、これら正反対の効果の間でスムーズな転移が起きる事、エアロゾルの光学特性と雲の割合との間に働くフィードバックが大気中のエネルギー分布を変える事を明らかにした。(NK,nk)
Smoke Invigoration Versus Inhibition of Clouds over the Amazon
p. 946-949.

海洋を窒息させる(Suffocating the Oceans)

過去60年間で世界の多くの沿岸域では、溶存酸素(水中に溶解している酸素)濃度が生命に危険となるレベルに減少し、リストに上がっている低酸素領域の数と広さが1995年における46ヵ所から400ヵ所以上に増えている。溶存酸素の損失は、有機性廃棄物と肥料が川へ流出するときの栄養素の放出と関係づけられる。低酸素は沿岸海域と河口の生態系への大いなる脅威となり、またこのことは海底酸素の減少によって、海底の生物と魚の滅亡へと急速に向かわせることになる。溶存酸素の問題は人間が海洋をどこまで利用できるかの決め手になるだろうとDiaz とRosenberg (p. 926)がレビューしている。(hk,Ej,nk)
Spreading Dead Zones and Consequences for Marine Ecosystems
p. 926-929.

嵐からオーロラへ(From Storm to Aurora)

オーロラ爆発の出現、また宇宙空間でそれらに対応して起こる磁気圏サブストームは、どこで発生するのだろうか? このサブストームは、地球の磁気圏に蓄えられた太陽風からのエネルギーを開放するものである。Angelopoulos たち (p.931,7月24日にオンライン出版; 表紙を参照のこと; Petrukovich による展望記事を参照のこと) は衛星と地表での一連のネットワークを用いて、サブストームの時間的発展を詳細に計測し、その源を同定した。地球の磁気圏尾部における磁気的リコネクションがその事象の始まりであり、1.5分後のオーロラの発生の引き金となっている。(Wt,nk)
Tail Reconnection Triggering Substorm Onset
p. 931-935.
PLANETARY SCIENCE: The Elusive Onset of Geomagnetic Substorms
p. 920-921.

小さな柱とブロック(Small Pillars and Blocks)

ブロック共重合体は、電子対を共有することで互いに結合する化学的に異なった単量体(ポリマー)から作られており、規則正しく並んだパターンとして相分離(phase-segregate)し、そして自己組織化プロセスによってナノメートル規模で半導体微細加工用のリソグラフィーパターンを形成するための有効なツールを提供する。しかし、重要な挑戦課題は、配列が不完全となる境界領域(boundary region)あるいは欠陥を形成による大きな間隔でパターンを作ることである(Segalmanによる展望記事参照)。Ruizたち(p.936) は、基体パターン(substrate pattern)の適切な選択により、ブロック共重合体の分解能(resolution)を4倍にし、実質的に欠陥の無い大きな領域のパターニングを可能とした。Bitaたち(p.939)は、ブロック共重合体の非主要成分を化学的に模造した柱状のまばらな配列(sparse array)を生成した。この柱状構造によって、基体(substrate)の均一性が失われ、自己組織化のための核形成(nucleation)の部位として振舞い、その結果大きなエリアをパターン化したテンプレートの生成を促進する。(TO,Ej,KU)
MATERIALS SCIENCE: Directing Self-Assembly Toward Perfection
p. 919-920.
Density Multiplication and Improved Lithography by Directed Block Copolymer Assembly
p. 936-939.
Graphoepitaxy of Self-Assembled Block Copolymers on Two-Dimensional Periodic Patterned Templates
p. 939-943.

太古の海洋化学の解明(Ironing Out Ancient Ocean Chemistry)

ほぼ10億年前から5億4千万年前まで続いた新原生代の時代は、驚くほどの生物の多様化と無酸素性大気から酸素大気への変化によって特徴付けられる。この時代、どのように海洋の化学が変化したのだろうか?Canfieldたち(p.949;7月17日のオンライン出版;Lyonsによる展望記事参照)によると、新原性代中期から後期のほとんどの期間、深海は二価の鉄に富み、それらの鉄分は時に硫化物系でそして最終的には酸化鉄状態になっていった。10億年以上もの間、鉄分に富んだ海洋化学条件への回帰が阻止されてきたのは、それに先行して長期間、海洋環境が硫化物系であったためであろう。(KU,nk)
Ferruginous Conditions Dominated Later Neoproterozoic Deep-Water Chemistry
p. 949-952.
OCEAN SCIENCE: Ironing Out Ocean Chemistry at the Dawn of Animal Life
p. 923-924.

CRISPRウイルス防御(CRISPR Virus Defenses)

真核生物と同様に、細菌もウイルスやトランスポゾンに対して自らを守る必要がある。原核生物においてある防御系が進化しており、そこでは病原種のフラグメントがCRISPR(cluster of regularly interspaced short palindromic repeats)として知られている特殊なゲノム領域に集められている。CRISPRは以前の感染に関する遺伝性の記憶とその後の感染を防ぐ手段を与えるものである。Brounsたち(p.960;Youngによる展望記事参照)は、大腸菌においてCRISPR領域が転写され、そしてCRISPR-関連(cas)遺伝子であるcasEが小さな、〜57塩基のCRISPR-RNAs(crRNAs)中の転写物の切断に必要であることを示している。casEを含んだcas遺伝子の複合体はカスケード複合体を形成し、これがcrRNAsを用いて侵入する病原種を標的にして感染を防いでいる。(KU)
Small CRISPR RNAs Guide Antiviral Defense in Prokaryotes
p. 960-964.
MOLECULAR BIOLOGY: Secret Weapon
p. 922-923.

ヒ素と古生命体(Arsenic and Old Organisms)

酸素のない状況下で、二酸化炭素の還元に亜ヒ酸塩の酸化を結び付ける、マット様形状を形成する紅色細菌とラン藻の組み合わせが、カリフォルニアのモノ湖(MonoLake)の塩水温泉(hot brine springs)で発見された。光合成の出現は、地球の進化の上で鍵となる出来事だったが、それは、この反応が水を解離して酸素を遊離させ、生命の多様化と我々の惑星の化学的特徴を促進したからである。しかし、光合成は無酸素性の条件下で進化しており、もう一つ別の経路が、光によって駆動される炭素固定は電子供与体としてのヒ素に基づく、というものであった。モノ湖の生物体についての一連の生化学的研究で、Kulpたちは、このシナリオが実際にその通りだったという系統発生上のヒントを確認した(p. 967)。ヒ素は、微生物によって仲介される複雑なレドックス変換経路に関与しており、その例は、他のほとんどの生命形態にとっては有毒であるメタロイドによって支えられた微生物コミュニティー全体にわたって発見されるようになってきている。(KF,KU,nk)
Arsenic(III) Fuels Anoxygenic Photosynthesis in Hot Spring Biofilms from Mono Lake, California
p. 967-970.

RNA干渉と植物防御(RNA Interference and Plant Defenses)

RNA干渉は植物や動物における自然免疫に重要なる役割を果たしている。特異的なマイクロRNAもまた、病原体-関連の分子パターン(PAMPs :pathogen-associated molecular patterns)を検知する経路に関与している。Navarroたち(p.964)は、シロイヌナズナの自然免疫におけるマイクロRNAの役割をより詳細に調べた。マイクロRNAはより広範囲にPAMPのセンシングに必要であることが見出された。病原菌は様々なエフェクターを進化させてホストに分泌され、色々な場所でマイクロRNAの経路を阻害する。カブラモザイクウイルス--このウイルスは低分子干渉RNA経路とマイクロRNA経路の双方の抑制因子を作る--の感染により、非病原性細菌の感染が促進されたが、これは農場で知られているウイルスと細菌の病原体の間のシナジー効果を説明するものである。(KU)
Suppression of the MicroRNA Pathway by Bacterial Effector Proteins
p. 964-967.

無意識の協力者(Unwitting Accomplices)

多くの寄生虫病は、感染した昆虫ベクターに咬まれることによって伝播される。咬まれた直後の初期段階での宿主応答が病気の経緯に影響しているらしい。Petersたちは生体内イメージングを用いて、通常マクロファージに感染する細胞内寄生虫リーシュマニアの感染直後のマウスにおける、初期イベントのダイナミクスを可視化した(p. 970; またJohnとHunterによる展望記事参照のこと)。予想外なことに、好中球(neutrophils)が虫に咬まれた部位における最初の主要な到達物の1つであり、寄生虫を貪食する様子が見えたが、しかしながら貪食された寄生中は元気で感染性を保持しており、感染を効率的に行っていた。好中球は宿主の寄生虫処理を助けるというより、この好中球の振る舞いは、感染症の初期のプロセスにおいて、寄生虫がこれらの生得的な免疫細胞を無意識の協力者にしていたのである。(KF,KU)
In Vivo Imaging Reveals an Essential Role for Neutrophils in Leishmaniasis Transmitted by Sand Flies
p. 970-974.
IMMUNOLOGY: Neutrophil Soldiers or Trojan Horses?
p. 917-918.

治療用T細胞をつなぎ止める(Tethering Therapeutic T Cells)

腫瘍に対するT細胞の頑強な応答を産生するという点において、癌の免疫療法にかなりの努力がなされてきている。しかしながら、T細胞の注意をその腫瘍標的に集中させることは難しい。というのも、免疫系による検出にとって、腫瘍細胞が正常なヒト細胞と区別できるほどじゅうぶんな特徴を提示しない、という理由もあるためである。Bargouたちは、この問題を、2つの異なる細胞表面タンパク質に同時に結合できるよう改変された二重特異性抗体を使って克服した(p. 974)。2つのうち1つは、キラーT細胞上の細胞表面タンパク質、もう1つは標的腫瘍細胞、この場合は非ホジキンリンパ腫B細胞上の細胞表面タンパク質である。T細胞をそれが意図する標的につなぎ止めることによって、改変されたその抗体はリンパ腫細胞の直接的な殺害に力をふるい、きわめて低用量であっても、既存の治療法では難治性を示した少数の患者において、測定可能なあるいは完璧な癌の退行を達成したのである。この治療の持続性については慎重な経過観察が必要だが、T細胞に基づく免疫療法が、クリニックにおける癌処置に有効な手段をまだもたらしうるという、患者に基づく新たな証拠を提供するものである。(KF)
Tumor Regression in Cancer Patients by Very Low Doses of a T Cell–Engaging Antibody
p. 974-977.

シナプスによるコード化の容量(Synaptic Coding Capacity)

感覚性刺激の表現に対しての単一興奮性シナプス事象の貢献は何だろうか? 試験管内の標本は、これまで、単一入力のコード化についての理論的限界を提供してきた。しかしながら、生体内で、刺激によって誘起される単位的なシナプス活動を生理的にそれと関連する刺激とともに分析することは、複雑な複数のシナプス応答と刺激の制御が貧弱にしかできないことのせいで、妨害され続けてきたのである。ほとんどシナプス入力のない、しかも数量的に制御しやすい前庭刺激を有するモデル系として小脳顆粒細胞を利用することで、Arenzたちは、広い範囲の刺激に対するリアルタイムの、生体内での単一シナプスにおける感覚のコード化を探求した(p.977)。単位的な方向-感受性シナプスは、音調の割合(tonic rate)について変調された頻度コードを用いて、運動速度を報じる。このシナプス信号の信頼性が、速度が電荷移動によって直線的に表現されることを保証している。現実的な速度の決定にとっては、ほんの100シナプスしか必要とされないが、これは感覚の処理を行う脳領域における多くのニューロンによって受け取られる入力の数にじゅうぶん収まっている。単一細胞による計算は、つまり、感覚性刺激特徴の微細なスケールでの再構築を容易に達成させうるものなのである。(KF)
The Contribution of Single Synapses to Sensory Representation in Vivo
p. 977-980.

表面構造の充填具合を調べる(Sending a Surface Structure Packing)

アルカン チオール分子の化学吸着によって金の表面に自己組織化した単分子層の構造は原理的にはかなり単純であり、金-イオウ結合がアルカン尾を形成し、異なる配向領域同士がその間に欠陥を有した状態で結合し合っている。しかし、詳細に見れば極めて複雑で、表面の層の金原子間の相互作用や、金-イオウ結合、尾のパッキングは、同様に複雑であるため、アルキル鎖が短いものと長いものでは構造は異なっている。Cossaro たち(p. 943)は、低入射角度の照射x線によるgrazing incidence x-線回折と分子動力学の研究によってヘキシルチオール(hexanethiol)の構造を高解像で決定し、これはメチルチオール(methylthiol)の構造とは異なることを示した。金の(111)表面上に自己組織化した長鎖アルキル-イオウでは、アルキル鎖の横方向のファンデアワールス力による自己組織化の整列度と、イオウ-金の相互作用による界面のAu原子の整列度の乱れが競合しているようだ。分子のイオウ原子は表面上の2つの異なる部位に結合し、第1層の表面金層は金の空位(これは部分的に異なる部位に再配置される)だけでなく、横方向に2つのイオウ原子と結合する金の吸着原子を持っている。(Ej,hE)
X-ray Diffraction and Computation Yield the Structure of Alkanethiols on Gold(111)
p. 943-946.

植物の病原体の基本(Nuts and Bolts of Plant Pathogen)

植物における酸化状態の変化は、植物における病原体への耐性を制御しているらしい。シロイヌナズナ NPR1はサリチル酸(SA)仲介の防御遺伝子の中心的制御因子あるが、このNPR1はSAの非存在下では不活性な多量体の状態で保持され、SAが放出されると、これが作用する核に輸送される前に単量体に変換される。Tada たち(p. 952; 7月17日オンライン出版参照)は、細胞質中でオリゴマーとしてNPR1が隔離されることを示した。ここでは、NPR1 Cys156残基でのS-ニトロシル化によりオリゴマー形成が促進される。逆に、SA誘発によるNPR1の単量化(monomerization)は、還元されたチオレドキシン(thioredoxin)によって触媒される。NPR1 Cys156 とthioredoxinsの両方に変異のある変異体は、NPR1-仲介遺伝子発現と耐病性の両方を損ない、植物免疫における病原体によって駆動される細胞のレドックス変化と遺伝子制御の未知の関係を解明する糸口を与えた。(Ej,hE)
Plant Immunity Requires Conformational Charges of NPR1 via S-Nitrosylation and Thioredoxins
p. 952-956.

遺伝子発現解析の改良(Improving Gene Expression Analysis)

遺伝子発現の複雑さとダイナミックスの解析は、その費用やマイクロアレイや他の手法の技術的限界によって制約されている。Sultan たち(p. 956, オンライン出版7月3日号参照)は、第2世代の配列決定手法であるショートリード・ハイスループット配列決定法を利用して、ヒトの胚性腎臓とB細胞系列に関する遺伝子発現とスプライシング・ジャンクションの検出を全体的デジタル解析で行った。これによってマイクロアレイ法によるよりも、25%も多い遺伝子を検出できた。(Ej,hE)
A Global View of Gene Activity and Alternative Splicing by Deep Sequencing of the Human Transcriptome
p. 956-960.

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