AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 29, 2008, Vol.319


青い光は特別(A Blue-Emission Special)

トランス-スチルベン(trans-stilbene)の蛍光は住環境のプローブとして利用できる。溶液状態では励起エネルギーが与えられると急速にcisの異性体構造に変換し、弱い蛍光しか発しない。しかし、閉じられた環境では異性化を抑えることができ蛍光の観察はもっと容易である。Debler たち(p. 1232; Armitage and Bergetによる展望記事参照) は、スチルベン−抗体複合体からの強い青色の発光を再検査したが、これは当初、励起状態のスチルベンとトリプトファン残基の間に形成された複合体からの蛍光であると報告されていたものだ。励起状態の複合体は電荷移動によって陰イオン性スチルベンと陽イオン性トリプトファンを形成する。このとき、電荷の再結合を生じ、青色の強い発光が観察される。(Ej,hE)
Deeply Inverted Electron-Hole Recombination in a Luminescent Antibody-Stilbene Complex
p. 1232-1235.
CHEMISTRY: An Enlightening Structure-Function Relationship
p. 1195-1196.

非対称性の説明(Asymmetric Explanations)

"ガンマ線バースト (gamma-ray bursts GRBs)" として知られている激烈な爆発は、ある星の死と崩壊の後に起こる超新星爆発に付随している可能性がある。もし、これらの爆発が非対称で、火球から出現する強いジェットとともにあり、また、そのジェットが我々への視線上にあるならば、GRB 事象の幾つかは説明可能である。Maeda たち (p.1220, 1月31日にオンライン出版) は、放射の進展の後期におけるいくつかのそのような事象のスペクトルを考察した。この時期は、膨張のため放出された物質の密度が低下し、可視領域の光子が脱出する。この方法は、爆発の遠い側を一瞥することが可能である。これらの結果の解析は、爆発は多くの GRBs では非対称であることを示している。(Wt)
Asphericity in Supernova Explosions from Late-Time Spectroscopy
p. 1220-1223.

バイオ燃料生産における炭素の負債(Incurring Carbon Debts in Biofuel Production)

バイオ燃料は潜在的にはCO2放出を減少させ得るが、バイオ燃料の生産に土地を転換したためにどの程度のCO2が放出されたか、燃料生産に要する2次効果も考える必要がある。Fargioneたち(p. 1235, および、2月7日、オンライン出版も参照) は、多様な炭素に富む土地を転換してバイオ燃料としての穀物の生産に切り替えた場合の炭素のバランスを調べ、土地の転換によって生じた炭素の負債量は、化石燃料をバイオ燃料に切り替えることで減少する温室効果ガスの年間減少量の420倍も大きいことを見つけた。廃棄されるバイオマスから生産されるバイオ燃料や、放棄された農業用地から生産されるバイオ燃料は、このような炭素の負債は生じない。Searchinger たち(p. 1238; および、2月7日オンライン出版)は、トウモロコシによるエタノール生産に伴う温室効果ガスの放出をモデル化した。これによると、一般的に言われているように、温室効果ガスが約20%減少するのではなく、最初の30年間は温室効果ガスの放出は2倍となり、これを取り戻すには160年以上必要であると見積もられる。(Ej,hE)
Land Clearing and the Biofuel Carbon Debt
p. 1235-1238.
Use of U.S. Croplands for Biofuels Increases Greenhouse Gases Through Emissions from Land-Use Change
p. 1238-1240.

電流を原子で眺める (An Atomic View of Current Flow)

極低温原子雲の磁気特性を利用して、僅かな磁界の変化を検出できる微小磁針を作ることができる。導線を電流が流れる時、電子の散乱は通常近距離に限定されており、長距離秩序は必ずしも生じない。しかし、Aignerたち(p.1226)は、低温原子磁気測定を用いて多結晶金ワイヤー内の電流について調べ、驚くべき結果を報告している。秩序電流揺らぎがワイヤー軸に対して45度の角度で生じているという。彼らは、欠陥近傍で発生する電子の散乱に起因すると解釈している。(NK)
Long-Range Order in Electronic Transport Through Disordered Metal Films
p. 1226-1229.

タイトな圧縮をイメージ化する(Imaging a Tight Squeeze)

核融合制御方式の一つは、高エネルギーレーザを使って小さな水素カプセルを核融合反応が起きる密度と温度に圧縮することである。最適な圧縮を達成するためには、局所的な場の核融合プラズマへの影響を理解することと同様に、爆縮中の物質の形状と分布を測定することが必要となる。Ryggたち(p.1223; Norreysによる展望記事参照)は陽子線(プロトンビーム)を用いて、核融合ターゲットの爆縮イメージを創り出し、圧縮時に時間関数としての密度分布と電磁場の分布の詳細なマップを作った。このマップはプラズマ中に、フィラメント状のガスと強い放射状電場とからなる異常な構造を示しており、この電場が爆縮ダイナミクスに明らかな影響を及ぼしている。(hk,KU,nk)
Proton Radiography of Inertial Fusion Implosions
p. 1223-1225.
PHYSICS: Complexity in Fusion Plasmas
p. 1193-1194.

エキソソーム組立て経路(Exosome Assembly Pathway)

エキソソームはエンドサイトーシスに起源を持つ小胞であるが、多胞エンドソームが細胞膜と融合した後、細胞外環境に放出される。Trajkovic たち(p. 1244; および、Marsh and van Meerによる展望記事参照)は、エキソソームの積荷は脂質ラフト成分とともに、エンドソーム膜上ではっきりした微小領域に分離されることを発見した。これらの微小領域のエンドソームの管腔への伝達は、分解性経路に含まれる既知の小胞内発芽 ESCRT(輸送に必要なエンドソームのソーティング複合体)の機能には依存してなく、セラミドを必要とする。エキソソームはセラミド中で富化しており、エキソソームの生成には中性のスフィンゴミエリン分解酵素(sphingomyelinases)の抑制作用に敏感である。巨大な単層リポソーム中で、スフィンゴミエリン分解酵素を加えると、脂質ラフトをリポソームへと内向きの発芽を誘発する。このように、脂質ラフトはエンドソームの限界膜内で、積荷を横に分離するための収集装置として作用し、これら微小領域内でのスフィンゴミエリンからのセラミドの生成は、膜が発芽して多胞エンドソームになるトリガーとなるらしい。(Ej,hE)
Ceramide Triggers Budding of Exosome Vesicles into Multivesicular Endosomes
p. 1244-1247.
CELL BIOLOGY: No ESCRTs for Exosomes
p. 1191-1192.
   

合成された細菌染色体(Synthetic Bacterial Chromosomes)

合成によって新規なゲノムを合成できると言うことは生物の理解ための強力な道具であるとともに、医療用や環境のためにゲノムを設計できることにも用途がつながる。Gibson たち(p.1215, Endyによる展望記事参照) は、5から7キロベースのカセットを開始点として、マイコプラズマ・ゲニタリウム(Mycoplasma genitalium)の完全な 580,076-塩基対のゲノムを構築した。合成されたゲノムは遺伝子間に、短い“透かし”の配列が含まれていた。このような構築の一部はin vitroで実行することも可能であるが、もっと大きな断片は(すなわち、1/4のゲノムが半分とか全体の大きさに組み立てられる)、酵母中で組みかえられた。(Ej,hE)
Complete Chemical Synthesis, Assembly, and Cloning of a Mycoplasma genitalium Genome
p. 1215-1220.
GENOMICS: Reconstruction of the Genomes
p. 1196-1197.

極性化した成長パターンの説明(Explaining Polarized Growth Patterns)

ある種の細胞が極性化した方法で成長するというこの能力は、長年にわたって研究されてきたが、特に植物細胞系において、このプロセスに関与しているメカニズムは不明であった。Takedaたち(p.1241)は、一般的に研究されているモデル植物、シロイヌナズナにおいて、極性化する細胞形態の発生を制御しているポジティブフィードバック機構の発見に関して報告している。このポジティブフィードバック系は、根毛細胞においてのCa2+と活性酸素種の局所的な相互作用 によって作られ、極性化した細胞伸張の間、空間的に制限された部位での活動的な成長維持の基本である。(KU)
Local Positive Feedback Regulation Determines Cell Shape in Root Hair Cells
p. 1241-1244.

コウモリの低速飛行計画(Bat Flight Plan)

最近の研究により、コウモリの羽が低速度において非常に高い揚力係数を生み出していることが見出された。しかしながら、この過剰な揚力を説明する空気力学的メカニズムは曖昧であった。Muijresたち(p.1250)は、活動的に飛行しているコウモリの羽の表面上の空気流を可視化して測定した。観測された主要な揚力向上のメカニズムは前縁渦流であり、この渦流が羽を下に羽ばたいている間ずっと羽に付着したままである。同じような非定常のメカニズムが昆虫における高い揚力の原因である。(KU)
Leading-Edge Vortex Improves Lift in Slow-Flying Bats
p. 1250-1253.

記憶の崩壊(Memory Breakdown)

記憶の再統合(reconsolidation)という現象は、長期記憶は時とともにより安定し、動揺に対する抵抗を増す、という伝統的な見方に対する疑問を人々に抱かせる。再統合は、記憶の変化が連続的なプロセスであり、その変化が想起体験そのものによって引き起こされる、ということを指し示すものである。しかしながら、この現象の根底にある細胞での事象とその機構はこれまで明確ではなかった。Leeたちは、文脈的な恐怖記憶の形成に関与していると考えられる海馬シナプスにおけるシナプス後タンパク質の分解の証拠を提示している(p. 1253;2月7日オンライン出版)。この分解を遮断すると、想起によって引き起こされるもとの記憶の再編成が遮断されることになった。つまり、再統合は、新しいタンパク質合成によって新しい要素が取り込まれる際の、もとの記憶の崩壊のようなものなのである。(KF)
Synaptic Protein Degradation Underlies Destabilization of Retrieved Fear Memory
p. 1253-1256.

生きている脳の機能解明(Dissecting Function in the Living Brain)

脳は、非常に近接した相互接続した多くの細胞型によって構成されているので、どれか1つのクラスの機能を正確に決定するのもたやすいことではない。機能障害(lesions)や薬理学的抑制などの既存の方法は、比較的荒っぽいもので、その影響は、ある1つの細胞型の寄与を除くために用いるには信頼できない。特定細胞を標的にする遺伝的アプローチでさえ、1つの受容体サブタイプを抑制するのに用いられてきただけで、その欠陥は発生の間を通じてしばしば存在しており、それが解釈を困惑させている。Nakashibaたちは、破傷風毒素ベースの三重-トランスジェニックマウスを作成したが、それは海馬にある1つの細胞型、CA3錐体細胞のすべてのシナプス活動の可逆的抑制を可能にするものであった(p. 1260;1月24日オンライン出版)。CA3海馬細胞がサイレンスされても、そのマウスは空間的課題を学習することは可能だったが、ある種の記憶の想起や、急速な学習課題の実行はできなくなった。(KF)
Transgenic Inhibition of Synaptic Transmission Reveals Role of CA3 Output in Hippocampal Learning
p. 1260-1264.

グラフェンをナノリボンに切る(Cutting Graphene into Nanoribbons)

グラフェン(グラファイトの一つ一つの層に対応)において、電子は既に二次元に閉じ込められており、そして このグラフェンの狭いリボンは付加的な量子-閉じ込め特性を示すはずである。Liたち(p.1229;1月24日のオンライン出版)は化学的な方法により、幅10ナノメートル以下のグラフェンのリボンを作った。剥ぎ取られたグラファイトを、3%の水素を含むアルゴン雰囲気下で1,000℃、1分間加熱し、次にポリマー含有の溶媒中に分散し、超音波処理を行った。原子間力顕微鏡による構造解析により、ナノリボンは滑らかなエッジを持っている。電子輸送測定から、試験されたナノリボンの総ては半導体的挙動を示し、電界効果トランジスタにおいて高いオン-オフ比(107)を示した。(KU)
Chemically Derived, Ultrasmooth Graphene Nanoribbon Semiconductors
p. 1229-1232.

形を作り上げる(Shaping Up)

ある小器官の特徴的な形状は、いかにして生み出され、維持されるのだろうか?DP1-Yop1ファミリーとreticulonの内在性膜タンパク質が、小胞体の管状構造の形状形成に関与しているとされてきている。Huたちはこのたび、これらタンパク質があれば試験管内で小胞体の管を生み出すのに十分であることを示している(p. 1247)。これら「形態形成」タンパク質は膜平面中にオリゴマーを形成し、それが細い管の形成に帰結するのである。(KF)
Membrane Proteins of the Endoplasmic Reticulum Induce High-Curvature Tubules
p. 1247-1250.

ショウジョウバエと蚊と、CO2の感知(Fruit Flies, Mosquitoes, and CO2 Sensations)

多くの昆虫は、二酸化炭素(CO2)を感じるためのニューロンをもっている。ショウジョウバエはCO2を嫌って逃げるが、触覚にそれを感じるニューロンをもっている。しかしながら、蚊はCO2に惹きつけられ、上顎にあるpalpsにそれを感じるニューロンをもっている。Cayirliogluたちは、ショウジョウバエ・ゲノム中のあるミクロRNAを変異させると、上顎の触髭(palps)にCO2を感じる新しい種類のニューロンが生み出されることを発見した(p. 1256)。こうした嗅覚受容神経はまた、ショウジョウバエの触髭に正常に発現される2つの嗅覚受容体を発現しており、それらは、正常な触髭標的糸球体と、触覚にあるCO2ニューロンからの投射(projection)を受取る糸球体の、双方に投射している。つまり、ショウジョウバエのCO2感知システムの構造は、ショウジョウバエと蚊とのハイブリッドに似た配置に切り替わる。(KF)
Hybrid Neurons in a MicroRNA Mutant Are Putative Evolutionary Intermediates in Insect CO2 Sensory Systems
p. 1256-1260.

小さな脳幹核の可視化(Imaging Small Brainstem Nuclei)

ドーパミン機能の報酬予測誤差理論は、ヒト以外の霊長類で十分に確立されている。非常に小さな脳領域、腹側被蓋野における血中酸素レベル依存(BOLD)の応答を確認するために、新たに開発された洗練された脳イメージング技術を用いて、D'Ardenneたちは、ヒト中脳のドーパミン作動性核の可視化に成功した(p.1264)。報酬予測誤差の理論と整合してはいたが、中脳のドーパミン作動性核におけるBOLD応答は、腹側線条体において観察されたそれとは異なっていた。腹側被蓋野におけるBOLD応答は、正の報酬予測誤差を反映していたが、負の報酬予測誤差は反映していなかった。腹側線条体では、どちらも観察されていたのだが。(KF)
BOLD Responses Reflecting Dopaminergic Signals in the Human Ventral Tegmental Area
p. 1264-1267.

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