AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 9, 2007, Vol.318


早くなったイエローストーンの隆起(Speedier Yellowstone Uplift)

イエローストーンカルデラは、64万年前に起こった3回の巨大な噴火7万年前より以前に起こった非常に多くの小規模な噴火の名残である。この地域は、いまだに非常に活動的であり、地震が発生し、熱流量と地殻変動が著しい。Changたち (p.952) は、人工衛星レーダとGPS計測のデータから2004年から2006年の期間にカルデラの隆起が加速したことを報告している。最も高い隆起率は年間約7センチメートルであり、この率は1920年代から観測した隆起率の3倍以上になる。この隆起は、マグマが再び溜まり (magma recharge)そして流動性物質の再分布(fluidredistribution)が進行していることを反映しているのかもしれない。(TO,Ej,og)
Accelerated Uplift and Magmatic Intrusion of the Yellowstone Caldera, 2004 to 2006
p. 952-956.

宇宙線にエネルギーを与える(Energizing Cosmic Rays)

宇宙線は、宇宙の磁場で加速される高エネルギー粒子である。地球大気を貫通する宇宙線のごく一部は、数十EeV(1EeV は 1018eV である) を超えるような、途方もないエネルギーを有している。宇宙線は、宇宙を飛行する間に、非常に急速にエネルギーを失うであろうし、そのため、これらの高エネルギー粒子がその旅程を生き残るとは期待できないため、それらの存在は当惑させるものである。Pierre Auger Collaboration (p. 938; 表紙と Cho によるニュース解説を参照のこと) 、80個の最も高エネルギーの宇宙線を検知し、二つの探知技術を組み合わせてそれらの天空における方向を突き止めた。最も高エネルギーの宇宙線は、統計的には近傍の活発な銀河核が存在している天空の領域が源である。それらの活発な銀河核それ自体の分布は、超銀河面を含む銀河が密集する領域に重なっている。このため、宇宙線の膨大なエネルギーは、もし、それらがわれわれの銀河の 75 Mps より内部にある巨大な銀河ブラックホールの周りを加速されていると考えると、説明できるであろう。(Wt,nk)
Correlation of the Highest-Energy Cosmic Rays with Nearby Extragalactic Objects
p. 938-943.

朝のメタンの霞(Morning Methane Mist)

Huygens(ホイヘンス)プローブがTitan(タイタン)表面に着陸したとき、メタンの雲の中を下降し、メタンの霧に煙る湿地に降りた。表面には、より大きな河川のようなものがあることから、タイタンには嵐のような気候もあるらしい。そのためにはメタン大気の循環作用を考慮する必要がある。Adamkovics たち(p. 962, 10月11日、オンライン出版参照)は、地上の望遠鏡から、タイタンの地表に近い対流圏のメタンの赤外線吸収度が高い領域をマップ化した。これらの研究から、高度15キロメートル以下のメタンの雲や、5キロメートル以下のメタンの霧雨を確認した。これらの現象はタイタンの進行方向の半球の朝に特徴的に見られることから、昼間の温度勾配によって、相対湿度や風、地形の変化が生じているのであろう。このように、タイタン表面では朝の霧雨が広範に存在し、主にそれが大気のメタンを地表に戻す役割を担っているようだ。(Ej,hE,tk,nk)
Widespread Morning Drizzle on Titan
p. 962-965.

転位ループを供給する(Thrown for a Dislocation Loop)

空隙の動きや格子間原子の動きの理解は、材料の放射線損傷や材料に加えられた応力への力学的応答の研究に重要である(Wirthによる展望記事も参照)。Arakawa たち(p. 956) は、α鉄においては欠陥ループがゼロ応力条件下でも移動することを示した。動きは二重キンク(double kink)の形成によって生じ、二重キンクの数が変動することでループ欠陥に動きを生じさせる;ループの拡散速度はループサイズに依存する。これらの観察結果は、放射による欠陥や転位ループの移動と関係した多くの影響の直接的な確認に役立つ。以前のシミュレーションによる研究からは、面心立方金属では、小さな欠陥ループは1次元移動を起こせないと見られていた。Matsukawa と Zinkle (p. 959)は、金箔試料を透過型電子顕微鏡で観察し、この中の多くの欠陥や欠陥ループが1次元の振動性の動きを示すこと示した。プリズム型の高移動度空孔タイプの転位ループは自発的に積層欠陥型四面体に変換する。(Ej,hE,nk)
MATERIALS SCIENCE: How Does Radiation Damage Materials?
p. 923-924.
Observation of the One-Dimensional Diffusion of Nanometer-Sized Dislocation Loops
p. 956-959.
One-Dimensional Fast Migration of Vacancy Clusters in Metals
p. 959-962.

プリオン病の理解のための努力(Straining to Understand Prion Diseases)

哺乳類のプリオン病は感染性の致死性神経変性疾患である。プリオン病の病原性因子は核酸を持ってなく、代わりに、内在性糖タンパク質の1種であるプリオンタンパク質の病理学的構造伝播によって伝染すると考えられている。Collinge and Clarke (p. 930) は、プリオン株がどのように産生し、維持されるかなどのプリオン病のいくつかの側面を調べ、プリオンの伝播過程が有毒な中間体を作るプロセスをどのように含むかを説明するモデルを提案した。(Ej,hE,nk)
A General Model of Prion Strains and Their Pathogenicity
p. 930-936.

生死の分かれ目(Life and Death Decisions)

細胞内のタンパク質にミスフォールディングを引き起こすようなストレスを被った後で、細胞はどのようにしてその生死を決定しているのだろうか?Linたち(p.944)は、折り畳まれていないタンパク質応答に関するIRE1シグナル伝達のブランチが、小胞体(ER)中でのタンパク質のミスフォールディング後の細胞生存を促進する点で重要な役割を果たしていることを見出した。ヒト細胞では細胞生存を高めるために、長期のERタンパク質のミスフォールディング後にIRE1のシグナル伝達を遮断している。(KU)
IRE1 Signaling Affects Cell Fate During the Unfolded Protein Response
p. 944-949.

雑種は強いのか?(Hybrid Vigor?)

種と種の間の雑種は、一般的に雑種の子供たちの環境順応性が低く不適応性であると考えられている。しかしながら、Pfennig(p.965)はこの考え方に挑戦し、雌のスキアシガエルは、雑種交配により子供たちのより高い適応性をもたらすような或る生息環境において、別の種の雄とつがいを組む傾向が強いことを示している。その上、これらの雌は、雑種形成が有利かどうかを知らせる環境からの合図に基づいて同種の雄との交配か別種との交配かのいずれかを優先させていることが示された。(KU)
Facultative Mate Choice Drives Adaptive Hybridization
p. 965-967.

二重の義務を果たしている(Doing Double Duty)

細胞内の小胞輸送の間、活性部位へのRab GTP分解酵素の配送には、いわゆるGDI置換因子(GDF)によるグアニンヌクレオチド解離抑制因子(GDI)からの分解酵素の遊離が関与している。GDFの同定は困難であった。MachnerとIsberg(p.974,10月18日のオンライン出版)は、驚くことに二機能性のタンパク質においてこのような活性が存在するという証拠を提供している。このタンパク質は、細胞内病原体であるレジオネラ菌による複製空胞の形成と関係したグアニンヌクレオチド交換タンパク質である。(KU)
A Bifunctional Bacterial Protein Links GDI Displacement to Rab1 Activation
p. 974-977.

機能的な多様性に向けて(Toward Functional Diversity)

ポリケチドは構造的に多様な二次代謝産物であり、大きなモジュラーポリケチド合成酵素(PKS)によって作られる。合成の開始には、通常S−アシル基転移酵素の領域と脱炭酸酵素の領域が関与しているが、幾つかの反応経路にはこれらの領域が欠如し、その代わりにGCN5-関連-N-アセチル基転移酵素(GNAT)のスーパーファミリと相同性を持つ或る領域を含んでいる。Guたち(p.970)は構造学的な、生化学的かつ分子生物学的な手法を用いて、海洋のシアノバクテリアのPKS由来のGNAT領域の構造を解析した。この領域は機能的な多様性を示し、S-アシル基転移酵素として、かつ脱炭酸を触媒する機能獲得型として作用しており、このことはGNAT酵素のスーパーファミリの化学反応目録を大きく広げるものである。(KU)
GNAT-Like Strategy for Polyketide Chain Initiation
p. 970-974.

生き生きとした色彩でヒト脳の幹細胞を見る(Human Brain Stem Cells in Living Color)

哺乳類の成体の脳は、海馬や脳室下帯にある神経の幹細胞および前駆細胞から、新しいニューロンを生み出すことができる。Manganasたちはこのたび、ヒト脳にある神経の前駆細胞または幹細胞の生体内での検出、数量化を可能にする代謝性の生物マーカーについて記述している(p. 980; またMillerによるニュース記事参照のこと)。これは、正常なヒトの生理および病理の過程での神経発生の研究を可能にするにちがいない。(KF)
Magnetic Resonance Spectroscopy Identifies Neural Progenitor Cells in the Live Human Brain
p. 980-985.

シロアリの決定論(Termite Determinism)

シロアリは、生殖不能の労働者カストと生殖可能なカストいう二つの性からなる社会的な昆虫である。従来、カストの決定は子孫が育つ環境だけによって決定されると信じられてきた。しかしながら、Hayashiたちは、カストの決定には、X染色体に結びついたある遺伝的成分も関係していることを示している(p. 985; またWhitfieldによるニュース記事参照のこと)。つまり、遺伝と環境のブレンドがシロアリの表現型の可塑性を支配しているのである。(KF)
Sex-Linked Genetic Influence on Caste Determination in a Termite
p. 985-987.

脳における矛盾(Conflict on the Brain)

矛盾(conflict)の検出と解消に際しての前帯状皮質(ACC)と背外側前頭前野(DLPFC)の機能は、正確には何であろうか? Mansouriたちは、神経細胞記録と破壊-行動性研究(lesion-behavioral studies)という相補的なやり方を実施して、この問題に取り組んだ(p. 987、10月25日オンライン出版)。サルたちに矛盾レベルの調整された課題を実行させた。矛盾を経験した後、こうしたサルたちは、ヒトにおいて従来見られたのと同様な行動面での効果を示した。ACCにおける破壊があった後も行動の変化は持続するが、DLPFCに破壊があったときには、行動は障害を受けた。DLPFC中のニューロンは現在および過去に経験された矛盾レベルを表すもので、その表現がサルの行動と相関していたのである。(KF)
Mnemonic Function of the Dorsolateral Prefrontal Cortex in Conflict-Induced Behavioral Adjustment
p. 987-990.

最小の干渉(Minimal Interference)

光の波動と粒子の二重性は、良く知られた二重スリットをユニットとしてもつ装置で簡単に可視化できる。Akouryたち(p. 949)は、単純なH2分子が古典的振舞いと量子的振舞いとの境界を可視化するための最小構成の複合システムとして実質的に十分であることをイオンイメージング実験の中で示している。高エネルギー光子による二つの電子の放出は、イメージ化される電子がほとんどの運動量を運ぶとき強い干渉を示す角分布となる。しかしながら、もしその二つの電子が過剰なエネルギーをより等しく分けていたならば、それらの相互作用によって誘導される量子的非干渉 (非コヒーレンス)により、より古典的な等方性分布へとその干渉パターンを変換することになる。(hk)
The Simplest Double Slit: Interference and Entanglement in Double Photoionization of H2
p. 949-952.

修復へのバイパス(Bypass to Repair)

細胞分裂の準備の際に、ゲノムを複製する「忠実度の高い」DNAポリメラーゼと違って、DNA中の病変を乗り越えてコピーし「修復」する、いわゆる「バイパス」DNAポリメラーゼの1つのクラスが進化してきた。DNAポリメラーゼ?η(Polη )は、隣接した2つの損傷した塩基、たとえば、抗癌治療の間に形成された1,2-d(GpG)シスプラチン-誘発付加物(Pt-GG)、を乗り越えて複製することができる。Polη がそうした「路上の障害物」といかに交渉しているかを理解するため、Altたちは、Pt-GGを含むDNAに結び付いた酵母Polη の部分構造を決定した(p. 967)。1つのデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)がこの酵素に結合して、3'破壊(病変)塩基と効果的に塩基対を作ると、Pt-GGの3'Gを越えての相対的に効率的な伸長が可能になるらしい。その活性部位へ5'Gを移動させると、本来の鋳型の誤整列が生じ、これにより伸長が大きく妨げられ、dNTP-基質の相互作用がdATPおよびdCTPとのみ形成可能な一つの水素結合へと減少する。こうした相互作用が、第2のバイパス段階の際のPolη のこれら塩基との乱雑な結び付きを説明するものとなる。(KF)
Bypass of DNA Lesions Generated During Anticancer Treatment with Cisplatin by DNA Polymerase
p. 967-970.

制御因子の制御(Regulating the Regulators)

AMPA(alpha-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazoleproponic acid)受容体は、脳やその他中枢神経系のニューロンにおいて、神経伝達物質に対して興奮性反応を仲介している。Menuzたちは、補助的AMPA受容体サブユニットの存在あるいは非存在が、それら受容体の薬理学的性質に劇的効果をもたらすことを報告している(p. 815)。化合物CNQX(6-cyano-7-nitoquinoxaline-2,3-dione)は一般にAMPA受容体の競合的拮抗薬として作用している。しかしながら、TARPS(transmembrane AMPA receptor regulating proteins、すなわち膜貫通AMPA受容体制御タンパク質)として知られる補助的サブユニットの1つが含まれている受容体複合体においては、CNQXは実際に、その受容体の部分アゴニストとして機能している。この余分なサブユニットの存在によって、受容体リガンド結合領域における立体構造変化が受容体イオンチャネルの開口に結び付くことが助けられている可能性がある。(KF)
Rheb Activates mTOR by Antagonizing Its Endogenous Inhibitor, FKBP38
p. 977-980.
CELL SIGNALING: mTOR, Unleashed
p. 926-927.

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