AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 7, 2007, Vol.317


X線励起の初期過程(Initial Events in X-ray Excitation)

X線により原子スケールでの構造解析が可能である。しかし、X線の高いエネルギーは対象とする物質に化学的な損傷を引き起こすこともある。これまで、このようなダメージ過程を解析することは困難であった。その過程を誘起・解析できる十分に短いX線パルスを得ることができなかったからである。近年のレーザー誘起高調波発生技術により、フェムト秒(10-15秒)X線パルスが得られるようになった。Gagnonたち(p.1374)はこのX線パルスを利用して、窒素分子の光イオン化過程を調べることに成功した。高エネルギーX線パルスは、窒素分子から電子を放出すると同時にもう1つの電子を励起し、その後電子殻の再配列が生じていることが明らかとなった。筆者らは、特殊なイメージング手法を併用して、イオン化・壊裂過程をより詳細に解明している。(NK,nk)
Soft X-ray-Driven Femtosecond Molecular Dynamics
p. 1374-1378.

ヘリウム二重層における量子臨界点(Quantum Criticality in Helium Bilayers)

古典的な臨界点とは異なり、量子臨界点は絶対温度0度の極限で発生する。その臨界点では、系の二つの可能な基底状態が圧力や磁場のような系のある種のパラメータの関数として競合する。量子臨界点は、凝縮系物質の『標準理論』である、Landau Fermi 液体論に適合しない物質状態を理解するうえで鍵を握るものと考えられている。歴史的には、もっとも単純な Fermi 系である3He からなるバルク液体は、Landau の理論の発展に鍵となる役割を果たした。しかしながら、Neumannたち (p.1356, 7月26日にオンライン出版; Hooley と Mackenzie による展望記事を参照のこと) は、3He の二重層は、被覆率がある密度に到達すると、量子臨界の挙動を示すことを述べている。より複雑な物質にもこのような3He 類似の挙動が一般的に付随していることが見出せれば、量子臨界点を研究するためのより理論的に扱いやすい系を提供することになろう。(Wt,nk)
Bilayer 3He: A Simple Two-Dimensional Heavy-Fermion System with Quantum Criticality
p. 1356-1359.

土星のコアの回転を再評価(Reassessing Core Spinning)

土星の岩石コアの回転は厚い雲の層の下で隠されている。探査機カッシーニ(Cassini)による重力測定と探査機パイオニア(Pioneer)とボイジャー(Voyager)による電波掩蔽と粒子風のデータを結び付けて、AndersonとSchubert(p.1384;Podolakによる展望記事参照)は、土星のコアが、実際のコアの動きと直接結びついていない磁気と低周波の電波データでの周期性に基づいた以前の推定値から決定された速度よりも7分速く回転していると修正を加えている。高速に回転しているコアと関連して、土星の大気の風に関する我々の解釈も変える必要がある。赤道においては遥かに遅い東風の速度を必要とし、これは122kmから10kmへと赤道の膨らみの減少に対応するもので、かつより高緯度での風は木星と同じように東と西の双方に吹いている。このより速い回転は、土星中心での比較的小さなアイス-岩石-金属コアの存在を示している。(KU,nk)
Saturn's Gravitational Field, Internal Rotation, and Interior Structure
p. 1384-1387.

フレキシブルな力の発生(Flexible Force Generation)

コンパクトな動力源として、筋細胞は人工的なシステムよりも多くの利点を持っている。例えば、筋収縮が起きる際の得られる力やその頻度は広範囲に調節可能である。しかしながら、筋細胞の利点をデバイス中で十分に引き出すためには、筋組織の3次元的な特性を見習うことが必要である。Feinbergたち(p.1366)は、センチメートルサイズの大きさのポリジメチルシロキサン(PDMS)フィルム上に新生仔ラットの心室の心筋細胞を培養した。そのフィルムにはあらかじめマイクロ-コンタクト法による糖タンパク質フィブロネクチン(培養細胞の接着と伸展に寄与)のラインがパターニングされ、それにより筋組織の形状が制御され、さらにPDMSの厚みにより屈曲の強さが調節できる。このような方法で、らせん状の形状の郵便管(mailing tube)といった複雑な形の物を作ることが出来る。自発的に収縮したり、或いは外部の力で調節可能な小さなデバイスが泳いだり、歩いたり、或いは物を掴んだりすることが出来た。(KU)
Muscular Thin Films for Building Actuators and Powering Devices
p. 1366-1370.

鳥の祖先の体格の手がかり(Clues to Body Sizes of Bird Ancestors)

鳥類の初期における進化(始祖鳥が現れたジュラ紀以前)や飛翔(flight)に関係した変化について、保存された化石記録が乏しい。Turnerたち(p.1378)は、多くの原始形態の特徴が残されているモンゴル地方の白亜紀の恐竜について記述している。その恐竜は、系統発生的にはドロマエオサウルス(dromaeosaurid:始祖鳥や後の鳥類を含む単系統群原鳥類(clade Paraves)に属する)を根元とする位置にある。鳥類につながる系統においては、飛翔の進化に先だって恐竜の体格の縮小が起こったという考えを、その群(taxon)の小さな体格(70センチメートル)は支持している。最大の始祖鳥でも約65センチメートルだったのである。(TO,nk)
A Basal Dromaeosaurid and Size Evolution Preceding Avian Flight
p. 1378-1381.

煤のついた面における反射(Reflections on Sooty Surfaces)

カーボンブラック、あるいは“煤”は太陽光を超効率的に吸収することで気候を左右する。煤の影響の多くは大気中での存在に起因するのだが、雪と氷の上に堆積する煤もその表面反射率を劇的に変化させる結果、気候に大きな効果を及ぼし得る。McConnellたち(p. 1381、Alleyによる展望記事参照;8月9日にオンライン出版)は、グリーンランドからのアイスコア中のカーボンブラック濃度に基づいて、北アメリカでの215年間という長期のカーボンブラック放出の記録を発表している。カーボンブラックの堆積は1850年頃から1950年頃の間が最大であり、その期間の産業活動により産業化時代前より8倍、その表面での輻射強制力を増加させることになった。(hk,KU,nk)
20th-Century Industrial Black Carbon Emissions Altered Arctic Climate Forcing
p. 1381-1384.

必要な技能を身につける(Acquiring the Necessary Skills)

人間は社会的動物であり、主として言語の助けを借りて、知識や技能を、世代や種の境界を越えてこの上なく上手に伝達することができる。どのようにしてこれら社会的認知能力が生じたかを考察する方法の一つは、ヒト、サル、類人猿の子供において、これらの能力がどのように出現するかの時期の差を検出することにある。Herrmann たち(p. 1360) は、霊長類認知試験バッテリーと称する、おおよそ100人のヒトの子供、100のチンパンジーの子供、30のオランウータン子供の社会的、物理的認知性を評価できるテストを示した。2歳半のとき、ヒトの子供は身体的課題に対してチンバンジーと同様であるが、社会的課題に対してはヒトの方が遥かに出来が良い。電灯のスイッチを入れるのに、ヒトの大人の場合は頭でなく手を使う。大人が頭を使うのを見た後であっても、彼らの手が毛布を持つために塞がっていることを見た時には、子供は手を使う。しかし、大人が、手が空いていても頭を使うのを見た場合は、子供たちは、頭を使う何らかの理由があるのだろうと想像して、同じように頭を使う。Wood たち (p. 1402; Pennisiによるニュース記事も参照) は、観察できること以上の隠れた理由を想像する能力が類人猿に観察できるかどうかを評価した。チンパンジー、マカクサル、タマリンサルにもこの能力が見られることがわかった。このことから、このような認知能力が少なくとも4000万年前に生じたことが推察できる。(Ej,hE,nk)
Humans Have Evolved Specialized Skills of Social Cognition: The Cultural Intelligence Hypothesis
p. 1360-1366.
The Perception of Rational, Goal-Directed Action in Nonhuman Primates
p. 1402-1405.

気持ちの揺れを起こす分子的機構(The Molecular Machinery of Mood Swings)

気分や意欲のシグナル伝達分子として働く神経伝達物質のモノアミンの作用は、シプナス前神経終端から放出されたとき作用が始まり、細胞外間隙からナトリウム依存性原形質膜輸送体を経由して細胞質に戻ったとき、作用が止まる。Zhou たち(p. 1390, および、8月9日オンライン出版) は、哺乳類モノアミン輸送体の細菌性相同体 (LeuT) が、その基質(ロイシン)、および、ノルエピネフリン輸送 (抗うつ薬デシプラミン)の阻害剤とで作る複合体の結晶構造について報告した。セロトニン、ノルエピネフリン、およびドーパミン (hSERT, hNET, and hDAT)についての相同性モデルを基に、hSERTと hDATの変異体を作り、これらは、セロトニンやドパミンの取り込みによるデシプラミン阻害に対して予測される感受性を示すことを示した。(Ej,hE)
LeuT-Desipramine Structure Reveals How Antidepressants Block Neurotransmitter Reuptake
p. 1390-1393.

剥脱緑内障における遺伝的リスク(Genetic Risks in Exfoliation Glaucoma)

剥脱緑内障(XFG)とは、弾性のあるミクロフィブリル成分の異常な凝集(落屑症候群)が原因で生じる原繊維マトリックス産物の慢性的蓄積が関わった、視覚を脅かすありふれた病気である。Thorliefssonたちは、アイスランドとスウェーデンのコホートについてゲノム全体の関連研究を行ない、XFGが、エラスチン重合体線維の形成に関与しているリジル酸化酵素ファミリーのタンパク質のメンバーの1つ、LOXL1遺伝子の変動に付随したものであることを発見した(p. 1397、8月9日にオンライン出版; また、Marxによる8月10日のニュース記事参照のこと)。基質特異性に影響を与えるタンパク質領域における変化をもたらす、2つのよくある一塩基多型(SNP)が落屑症候群およびXFGと結びつくと同定された。この2つの一塩基多型の高リスクのハプロタイプのコピーを2つもつ人たちにもたらされるXFGへの危険は、低リスクのハプロタイプしかもたない人たちに比べて100倍以上である。(KF)
Common Sequence Variants in the LOXL1 Gene Confer Susceptibility to Exfoliation Glaucoma
p. 1397-1400.

頭部胴枯れ病の遺伝的手がかり(A Genetic Handle on Head Blight)

コムギやオオムギの頭部胴枯れ病の原因となる真菌性植物病原体であるfusariumgraminearumは、最近10年間における合衆国の農業で最大の経済的損失をもたらした。Cuomoたちは、F. graminearumのゲノムの配列決定を行ない、宿主と病原体の相互作用に関わる遺伝子を明らかにした(p. 1400)。ゲノム配列に加えて、第2の(別の)系統との配列比較を介して、1万以上の一塩基多型が同定された。これらデータは、ゲノム内で高度に可変性のある遺伝子の豊富な領域があって、そこに病原性と潜在的に結びついている遺伝子が潜んでいることを示唆するものである。(KF)
The Fusarium graminearum Genome Reveals a Link Between Localized Polymorphism and Pathogen Specialization
p. 1400-1402.

欠陥のある状態でのドーピング(Defective Doping)

デバイスのサイズがどんどん小さくなるに従い、電子特性を増強するドーパント原子の分布が重大な問題になる可能性が出てくる。ナノサイズのデバイスの個々のドーパント濃度が一定の濃度である保障がなくなってくるからである。Thompson たち(p. 1370)は3次元原子プローブトモグラフィーを利用して、物質の表面に現れる欠陥濃度だけでなく3次元的な欠陥の濃度分布をマップ化した。Cottlell雰囲気(atmosphere)は不均一性濃度の原因の一つであり、これは格子間欠陥(間隙転位)とこれに向かって拡散する小さな原子とから構成されており、ドーパントイオン注入後に欠陥の周囲に形成され、欠陥をその場にピン止めする。このように、アニーリング時間を十分取ったとしても、ドーパントがこれ以上均一化することはない。(Ej,KU)
【訳注】Cottrell atmospheresは、転位の周りに生じる不純物の雲のようなもので、格子間原子が転位の近傍に移動して転位に取り込まれると歪みの場が緩和される。この状態はエネルギー的に、転位にとっても格子間原子にとっても好ましい。(Ej)
Imaging of Arsenic Cottrell Atmospheres Around Silicon Defects by Three-Dimensional Atom Probe Tomography
p. 1370-1374.

ビタミンBを摂取する細胞(Cells Taking Their B)

原核生物および真核生物のアデノシン三リン酸(ATP)結合カセット(ABC)輸送体は、ATPを加水分解することで、薬剤の搬出からビタミンの移入までの非常に多様な基質輸送のための力を得ている。HvorupたちはビタミンBを隔離し、それを内膜輸送体BtuCDへと引き渡している周辺質ビタミン-結合タンパク質(BtuF)との複合体におけるビタミンB輸送体の構造を提示している(p.1387、8月2日にオンライン出版)。BtuCDの構造はそれ単独でも知られているので、その構造を比較することで、基質の送達によって、どのような立体構造変化が引き起こされ、それが究極的に内膜を横切るBの通過をもたらするかという、観察機会が提供される。(KF)
Asymmetry in the Structure of the ABC Transporter-Binding Protein Complex BtuCD-BtuF
p. 1387-1390.

過酸化水素と血圧(Hydrogen Peroxide and Blood Pressure)

サイクリック・グアノシン一リン酸(サイクリックGMP)依存タンパク質リン酸化酵素(PKG)は、血圧のコントロールに機能している。この酵素の制御はNOのシグナル伝達の結果起きるが、NOがサイクリックGMP(グアノシン 3',5'一リン酸)の形成を刺激する。サイクリックGMPはPKGに結合し、PKGを活性化するが、これにより血管弛緩(血管壁の平滑筋の張力の減少)を引き起こす。Burgoyneたちは、PKGの活性を制御する別の機構が存在している証拠、すなわちPKGのIαアイソフォームの存在の証拠を提示している(1393、8月23日にオンライン出版; またHartzellによる展望記事参照のこと)。このアイソフォームは細胞中のオキシダントの存在を直接感知するらしい。H2O2の存在下で、PKGIαはキナーゼ基質への親和性を増大させ、酵素活性の増加を示すジスルフィド-連結二量体を形成した。H2O2による心臓組織あるいは大動脈環の処置は、弛緩がその酵素二量体の形成と相関していて、その弛緩はサイクリックGMP濃度のNOに依存した変化とは独立に生み出されることを示した。著者たちは、細胞のH2O2産生を変化させる生理的薬剤が、そうした機構を通じて作用してPKGIαの活性をコントロールし、それによって血圧を制御している可能性があると提唱している。(KF)
Cysteine Redox Sensor in PKGIa Enables Oxidant-Induced Activation
p. 1393-1397.

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