AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 23, 2007, Vol.315


食べ物の臭いを嗅ぐだけでお墓が近くなるよ(Smelling Their Way to an Early Grave)

動物が飢餓状態に近い状態で育てられると、自由に食べられる状態に比べて遥かに長生きする。ショウジョウバエ(fruit fly Drosophila)でさえ、低グルコースの餌、5%糖-酵母成分を与えられたハエは、15%糖-酵母成分を与えられたハエに比べて遥かに長生きする。このような食餌制限の効果は、ハエがもっと沢山食べられるようにした状態では簡単に元に戻ってしまう。Libert たち(p. 1133, 2月1日のオンライン出版、および、2月2日のLeslieによるニュース記事を参照)は、あまり予測されていなかった以下のような現象を見つけた:ハエの餌(酵母)に対する臭いを感じさせるだけで、ダイエット効果を弱め6〜18%も寿命を短くする。臭いの受容体を持たないショウジョウバエでは、臭いを嗅ぐことの出来る正常なショウジョウバエに比べて長寿となる。(Ej,hE)
Regulation of Drosophila Life Span by Olfaction and Food-Derived Odors
p. 1133-1137.

シートの最終的形状(The Shape of Sheets to Come)

机上で平坦な紙の両端をゆっくり押すと、紙の厚さや強度に依存するが、結局は周期的な曲がりを見せる。紙ではなくてアルミフォイルであっても同様な曲がり方を示すであろうが、局所的には皺ができるであろう。もし、このような物質が前もって変形していれば、変形や曲率は欠損部位の影響を受けるであろう。Klein たち(p. 1116)は、薄いシートを縮ませた場合の一般的記述法を提案したが、この形状は物質の静止状態と、物質にかけられるストレスの部位のみに依存する。理想的には、シートは曲げと伸張のエネルギーの競合の結果として安定な形状を保つよう変形する。著者たちは彼らの提案した概念を非線形の濃度勾配を有し、表面を横切って逆方向に膨潤する単量体ポリマーフィルムを使い、この様子を実演した。展望記事において、Kamienは、このような手法を使うことで、ポテトチップのような日常品にも応用できること、そして、もっと複雑な形状のデザインが可能であるかも示した。(Ej,hE)
Shaping of Elastic Sheets by Prescription of Non-Euclidean Metrics
p. 1116-1120.
MATERIALS SCIENCE: Better Geometry Through Chemistry
p. 1083-1084.

明るい中性子源に対する見通し(Outlook for Bright Neutron Source)

分光法と回折法に使われるエックス線源と光子源は、過去20年間で数桁レベルの輝度向上を実現している。しかし、構造研究のために必要な中性子源の輝度は、過去40年間でたった一桁レベルの輝度向上である。通常の中性子源技術(加速器を用いるスパレーション中性子源と原子炉を用いる核分裂反応器出力)が頭打ちという状況にあるので、Taylorたち(p. 1092)は慣性核融合エネルギー装置とハイパワーなレーザを交互に作用すれば、現在利用できるよりも3桁高い輝度の中性子源を提供出来る事を提案している。(hk,Ej,nk,KU)
A Route to the Brightest Possible Neutron Source?
p. 1092-1095.

古典的な準結晶的タイル張り(Classical Quasicrystalline Tilings)

10世紀から始まるイスラム建築は、ギリーと呼ばれる独特な星と線のパターンによって特徴付けられる。これらの模様は、直定規やコンパスのような単純な道具を使って作られる連続的な線が絡み合っていると考えられていた。LuとSteinhardt(p.1106;Bohannonによるニュース記事参照)は、13世紀初頭までに、熟練工が装飾された多角形のタイルからこうしたパターンを作り始めたことを明らかにした。このタイル張りは徐々に複雑さを増し、15世紀までにそのパターンは準結晶のようなデザインに発展した。回転対称性(rotational symmetry)は備えているが並進対称性(translational symmetry)は欠如しているのに空間を埋め尽くすようなパターンを記述するための数学的表現が完成する遥か以前にこのような模様が出現していたのである。(TO,Ej,nk)
Decagonal and Quasi-Crystalline Tilings in Medieval Islamic Architecture
p. 1106-1110.
MATHEMATICS: Quasi-Crystal Conundrum Opens a Tiling Can of Worms
p. 1066.

超新星の煙の輪(Supernova Smoke Rings)

17世紀の Keplerの超新星以来、超新星1987A は肉眼で見ることのできる最初の超新星であるが、これは特異な型のものである。その特徴は、この爆発が、二つの大質量の星の融合後、数万年たって起きたことを示唆している。しかしながら、天文学者たちはその詳細なモデルを明らかにできてはいない。Morris と Podsiadlowski (p.1103; Soker による展望記事を参照のこと) は、これらの特徴の多くを説明できるこのような星の融合に関する3次元のコンピュータシミュレーションを行なった。角運動量と二つの星からのガス降着の詳細なモデリングにより、二つの星が融合した後に二つの爆発が予測されている。一つはウエストのくびれた形状に物質が放出されるものであり、二つ目はガスの小さな噴出を発生する。ともに、爆発した星の残骸の周りの3個のリングを説明するものである---このうちの二つはウエストのくびれた爆発の投影されたものであり、内側の一つは第二の爆発によるものである。(Wt)
The Triple-Ring Nebula Around SN 1987A: Fingerprint of a Binary Merger
p. 1103-1106.
ASTRONOMY: Nebulae Around Evolved Stars
p. 1086-1087.

強力な粉末(Empowering Powder)

ゼオライトの構造解明と、これに関連する多孔性固体の中心的課題は、これら物質が極めて多結晶的な形態を有しており、きれいな単結晶のX線回折パターンを持たないことである。しかし、この物質が高い触媒作用を持つことから、その構造は熱心に探索されていた。Baerlocher たち(p. 1113;および、Giesによる展望記事も参照)は、この極めて取り扱いの困難なゼオライト構造解明のために、粉末回折と電子顕微鏡データの両方を併せるという、進歩した手法を提案した。この手法によって、炭化水素の分解と関連反応のための活性触媒である極めて複雑なIM-5ゼオライトを構成する10環のチャネルを有する系を解析した。(Ej,hE)
Structure of the Polycrystalline Zeolite Catalyst IM-5 Solved by Enhanced Charge Flipping
p. 1113-1116.
CHEMISTRY: Charge Flipping and Beyond
p. 1087-1088.

回折限界を越えて(Beyond the Diffraction Limit)

殆どの画像処理技術は回折限界により、物体に関する波長以下の情報は急激に減衰するエバネッセント波により失われる。この回折限界を越えたパターンを形成すべくたくさんの技術が提案され、そして幾つかの技術で実証されたが、それらは近接場で操作するものである。Leroseyたち(p.1120)は、時間反転ミラー--最初意図された焦点位置に置かれた点原からの信号を検知し、その後その信号を元に送り返す(時間反転反射)アンテナアレー--を用いて、レシーバーアレーに波長の1/30以下のマイクロ波を結像できる事を実証した。この技術は、テレコミニュケーションの応用において3倍近く伝送速度を高めるのに用いられた。(KU)
Focusing Beyond the Diffraction Limit with Far-Field Time Reversal
p. 1120-1122.

植物防御の協調性(Plant Defense Coordination)

植物は侵入者からの分子シグナルを認識し、ダメージを少なくするように植物自身の細胞応答を動員して病原体の攻撃に備える。Shenたち(p.1098、12月21日のオンライン出版;Danglによる展望記事参照)は、植物防御系の二つが遺伝子転写レベルでお互いに相互作用していることを示している。植物の病原体応答経路の一方の要素である大麦のうどん粉病A抵抗性タンパク質の研究において、著者たちはこれらのタンパク質がどのように核に局在化し、そこでもう一つの植物の病原体応答経路を調節している因子の転写を変化させている事を示している。病原体攻撃への植物応答は、このように協調的であり、攻撃に対して適切に対処すべく調節されている。(KU)
Nuclear Activity of MLA Immune Receptors Links Isolate-Specific and Basal Disease-Resistance Responses
p. 1098-1103.
PLANT SCIENCE: Nibbling at the Plant Cell Nucleus
p. 1088-1089.

クロビス文化の新たな年代(New Clovis Culture Dates)

新世界で最初に確立された文化は、狩猟用の明白な先のとがった石器形状に特徴付けられたクロビス文化(北アメリカで有史以前の最も古い文化;B.P11,500〜10,900年)であると長い間考えられてきた。WatersとStafford(p.1122;表紙とMannによる展望記事参照)は、幾つかのクロビスの遺跡において、一連の新たな放射性炭素年代を報告し、以前のかなりばらついていた年代を再評価した。これらの結果をまとめて、クロビス文化は僅か数百年存続しただけであり、以前考えられたよりもやや後に存在していた事を示している。この年代(B.P11,050年〜10,800年)はフォルサム文化(北アメリカに見られる洪積世後期の文化)やゴシェン文化(モンタナ州やワイオミング州で見出された文化)といった他の文化の年代に近く、クロビスの前に既に人が住んでおり、その後に新世界に出現した事を示している。(KU)
Redefining the Age of Clovis: Implications for the Peopling of the Americas
p. 1122-1126.

マイクロRNAのカスタマイズ(Customizing MicroRNAs)

マイクロRNA(miRNA)は遍在性の小さな非翻訳RNAであり、真核生物における遺伝子発現を制御する。 それを合成する際の中間物のもつ二重鎖という性質のせいで、miRNAはRNA編集の潜在的な標的になっている。Kawaharaたちはこのたび、哺乳類のあるmiRNAクラスターのメンバーが、それ自身の標的特異性を決定しているシード領域(seed region)において編集されていることを示している(p. 1137)。アデノシン塩基のイノシンへのこの編集は組織特異的なものであり、miRNAの潜在的な標的の範囲を変化させる。この編集されたmiRNAは、編集されていないものとは違って、プリン代謝に関わる酵素を抑圧するよう作用し、このmiRNAを発現するマウスは脳皮質内の尿酸のレベルを上昇させていた。(KF)
Redirection of Silencing Targets by Adenosine-to-Inosine Editing of miRNAs
p. 1137-1140.

マウスにおけるレット症候群の可逆性(Reversal of Rett Syndrome in Mice)

レット(Rett)症候群は、X連鎖遺伝子MECP2におけるある変異によって引き起こされる稀な遺伝病で、若い少女における精神遅滞や自閉症様の症状の原因となる。Guyたちは、MECP2遺伝子にその発現をブロックするある配列を挿入したマウスを作り出し、そのマウスがレット症候群の症状の多くを示すことを明らかにした(p. 1143、2月8日にオンライン出版; また2月9日のMillerによるニュース記事参照)。症状が出る前に、そうしたマウスにおけるMECP2を再活性化すると、病気は防げるようである。レット症候群を示す動物における再活性化は、若い成体のオスと成熟したメスの双方で病気を除去した。そうした遺伝的操作は、ヒトの患者では可能ではないが、明らかに可逆的なこの病気の性質は、治療が可能かもしれないことを示唆するものである。(KF)
Reversal of Neurological Defects in a Mouse Model of Rett Syndrome
p. 1143-1147.

余分なXの切り換え(Switching Off the Extra X)

DNA配列のメチル化は、典型的には、遺伝子発現の抑圧をもたらす。遺伝子量補償において、雌性細胞における2つのX染色体の発現は、雌性X染色体(Xi)の一方からの発現を失活することによって雄性細胞における単一のX染色体の発現まで減少させられる。それはCpG島(調節領域)でメチル化に関与すると考えられている。HellmanとChessは、ゲノム全体にわたるDNAメチル化の解析を用いて、活性なヒトX染色体(Xa)上の遺伝子の転写領域が、驚いたことに、メス、オス双方において過剰メチル化されていることを示している(p. 1141)。Xi上のそれに相当する領域は低メチル化されている。X不活性化に先立って、双方のX染色体はメチル化されており、これはメチル化がXiからは失われていることを示唆している。(KF)
Gene Body-Specific Methylation on the Active X Chromosome
p. 1141-1143.

微生物コミュニティーを評価する(Assessing Microbial Communities)

微生物の環境コミュニティー内での変動と進化の評価は、これまでに、難しいことがわかっている。Von Meringたちは、複雑な環境コミュニティーの系統発生的組成を定量的に評価する方法を記述している(p. 1126、2月1日にオンライン出版)。彼らの知見は、「あらゆるものが至る所にいる」という見方に挑むものである。そうではなくて、微生物の分類群は生息地に関する好みを持っており、時間を遥かに遡ってトレースできる。さらに、進化の速度は生息地が異なると違っていて、例えば、水面に近い水に生息する種は、土壌中のものよりかなり速く進化する。(KF)
Quantitative Phylogenetic Assessment of Microbial Communities in Diverse Environments
p. 1126-1130.

壊死性肺炎の脅威(Necrotizing Pneumonia Threat)

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は、病院の病棟を逃れて、コミュニティー内の他の健康な人々の中に重い病気を引き起こしている。更に、この細菌はいまや、Panton-Valentine leukocidin毒素と呼ばれる、単独で致死的な肺炎を引き起こしうる別の病原性の表現型と一緒になって、広まりつつある。しかし、Labandeira-Reyたちは、この病気の図式がさらに複雑であることを発見した(p. 1130、1月18日にオンライン出版; またKahlとPetersによる展望記事参照のこと)。マウスモデルにおける病理を特徴付けることで、彼らは、毒素成分を発現する2つの遺伝子を挿入すると、リプレッサの下方制御が引き起こされることを発見した。このリプレッサは、ある炎症性メディエーターと別の細胞壁にアンカーされるタンパク質の発現を制御している。こうした影響の組み合わせにより、危険な肺炎のリスクはつのっていくのである。(KF)
Staphylococcus aureus Panton-Valentine Leukocidin Causes Necrotizing Pneumonia
p. 1130-1133.
MICROBIOLOGY: Mayhem in the Lung
p. 1082-1083.

携帯型のプロトンプローブ(Portable Proton Probe)

核磁気共鳴分光器において高分解能を得るには極端に均一な磁場が必要で、注意深く作られた対称性のプローブ中に存在する僅かな不均一性を補正するために電磁気的な調整コイルがしばしば用いられている。ラボの外での大きな試料を研究するには、側面開放系のプローブが好ましいが、しかしながらこの構成では磁場を均一化するのに必要な調整電流は法外に大きくなる。Perloたち(p.1110、1月11日のオンライン出版)は、コイルの代わりに小さな永久磁石のアレーを用いる事で、この問題を克服した。彼らは携帯型の開放系のプローブを用いても十分なる分解能を達成し、水と原油の混合物成分と同様に酢酸やトルエンに関してよく似たプロトンのスペクトルを解像している。(KU,Ej)
Ex Situ NMR in Highly Homogeneous Fields: 1H Spectroscopy
p. 1110-1112.

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