AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


[インデックス] [前の号] [次の号]

Science February 9, 2007, Vol.315


非線形的に流れとともに起きること(Going Nonlinearly with the Flow)

非線形プロセスは、高度に複雑で予測できないプロセスであり、このことにより、時間的な可逆性をもたらす可能性があるとはとても思えない(Epsteinによる展望参照)。Fuerstmanたち(p. 828)はマイクロフルイディクスと関連する線形で滑らかな流れを研究し、液滴(ヘキサデカン中に懸濁された水溶性のインク滴)の動きにおいて非線形的な振舞いを示すシステムを作った。このシステムは時間に関して可逆性である。液体がT-接合部に向かって流れるとき、その液滴は、いずれかのブランチを選択する必要があり、この決定は液流と液滴生成速度における非線形性に依存している。二つの流れが再び合流したあと、液滴は特定の繰り返しパターンを形成したり、あるいは液流の逆転によってデコード可能なコード化をもたらす。PrakashとGershenfeld (p. 832)は、マイクロ流体システムにおける気泡の非線形性の振舞いを研究し、気泡論理を形成した。その気泡論理においては、気泡がデジタル計算において使われる“1”と“0”に対応する情報ビットを表現している。彼らは、より複雑な信号増幅や信号処理と同様にAND/OR/NOTゲートを含む一連の簡単なデバイスを作り出している。(hk,KU)
Coding/Decoding and Reversibility of Droplet Trains in Microfluidic Networks
p. 828-832.
Microfluidic Bubble Logic
p. 832-835.

全く同じ(All the Same)

タイプIa の超新星の光度は予測可能であるため、最も有用な宇宙論的な距離探査法の一つとなっている。これらの超新星の観測はダークエネルギーの存在を示唆しているが、不確実性は消え去らないし、距離の標識としてさらに活用するためには、これらの恒星爆発の物理に関するより高い知識が求められている。Mazzaliたち (p.825) は、様々なスペクトル線における超新星爆発の膨張状況をマッピングすることにより、全てのタイプIa の超新星は同じ質量の星の爆発から形成されること、そして、それらの放出物は総て同等の距離に到達することを示している。爆発のシミュレーションとある期間に渡り記録された光度変化の解析はこの発見を支持している。これらの結果は、タイプIa 超新星爆発を引き起こす星が単一のメカニズムで爆発したことを示唆しており、それらの宇宙論的な利用を支持している。(Wt,nk)
A Common Explosion Mechanism for Type Ia Supernovae
p. 825-828.

小さな沈降する驚くべきもの(Small Sinking Surprise)

大気中の二酸化炭素濃度は、海洋プランクトンの光合成生物が消費する量により、ある程度抑制されている。また、それらが海底に沈み、堆積されたままになってのみ“永遠”に二酸化炭素が隔離される。海表面から深海に炭素を運ぶ原因となる生物の種類は、沈降する間に微生物に食い尽くされないほど速く沈降する珪藻などの大型プランクトンであると一般に考えられていた。RichardsonとJackson(p. 838;Barberによる展望記事参照)はこの仮説を調べるために、広い地域で海洋一次生産を支配するピコプランクトンと呼ばれる微小な独立栄養生物(autotroph)もまた、凝集(aggregation)や取り込み(incorporation) のプロセスを通して、どのようにして炭素を運ぶことに貢献しているかを示した。 この発見は、深海への炭素の流れに対するピコプランクトンの寄与がかなり低く見積もられていたこと、そして”炭素ポンプ(carbon pump)”としての、こうした小さな光合成生物の重要性が見落とされていたことを示している。(TO,nk)
Small Phytoplankton and Carbon Export from the Surface Ocean
p. 838-840.

明らかになったウイルスの高次構造(Viral Prefusion Conformation Revealed)

ラブドウイルス(rhabdoviruses)は、狂犬病ウイルスのようなヒト病原体を含むが、細胞にはエンドサイトーシスを経由して侵入する。細胞性エンドソーム膜とのウイルス膜融合は膜貫通の ウイルス性糖タンパク質GのpH依存性の構造変化が引き金になる。Rocheたち(p. 843) は、融合Gタンパク質の融合前の構造を決定したが、これには水疱性口内炎ウイルスが使われた。融合後の構造と比較することで、これらの構造の間の構造的再編成が明らかになり、劇的な変化を示すが可逆的である経路がわかった。(Ej,hE)
Structure of the Prefusion Form of the Vesicular Stomatitis Virus Glycoprotein G
p. 843-848.

直接観察する(Directly Observed)

大気の深い対流によって地表から上層対流圏まで空気が運ばれているが、この量を計測することは困難であったため、この方面の知識は主としてモデルに基づくものであった。Bertram たち(p. 816; および、Jaegleによる展望記事参照)は、夏の米国やカナダ東部上空対流圏で生成されたトレースガスやエアロゾルを測定して、このプロセスのモデルに直接に観察上の制限を与える手段を提供した。運動状態が良く理解されていて、対流圏上空での滞留時間の計測に使える化学種の分布から、対流の重要な運動パラメータ、例えば夏の大陸上部対流圏のどのくらいの範囲を対流がかき乱すのか、対流の中に存在する境界層大気の割合はどのくらいか、上部対流圏が対流によって入れ替えられる率など、を彼らは求めた。これらの結果は、上層対流圏のオゾンを制御しているプロセスやオゾンの気候への影響に関する現在の我々の理解に対し大きな問題を投げかけている。(Ej,hE,nk)
Direct Measurements of the Convective Recycling of the Upper Troposphere
p. 816-820.

多様性を調べる(Documenting Diversity)

ヒトの遺伝的多様性には、コピー数の変化と同じように遺伝子内の個々の場所での多形性を含んでいる。Strangerたち(p.848)は、略15,000の転写物の遺伝子発現に関するこのような差の影響についての全-ゲノム調査を報告している。遺伝に関する複雑なパターン(例えば定量的な形質)を理解するには、二つのタイプの変化を調べる必要がある。(KU)
Relative Impact of Nucleotide and Copy Number Variation on Gene Expression Phenotypes
p. 848-853.

細菌の運動性(Make your Move)

細菌の自動運動性は病原発生や細菌の化学走性にとって重要である。滑走細菌ミキソコッカスザンサスにおける、いわゆるすべり運動は二つの異なるエンジンで動いている;S運動性(Ⅳ型線毛による運動)とメカニズム未知のA運動性。A運動性-特異的なタンパク質の局在化パターンを追跡する事で、Mignotたち(p.853;Kearnsによる展望記事参照)は、A運動性に関して最もよく知られている仮説、即ち方向付けられた粘液分泌説が間違っている事、そして細胞内のモーター結合接着複合体が運動のエネルギー源である事を発見した。このように、細菌と真核生物は、運動性に関して類似の一過性の接着に基づくメカニズムを利用しているらしい。(KU)
Evidence That Focal Adhesion Complexes Power Bacterial Gliding Motility
p. 853-856.

ビタミンAを取り込む受容体(A Receptor for Vitamin A Uptake)

ビタミンAは、視覚・生殖・免疫・組織再生・ニューロンのシグナル伝達における役割を含め多数の生物学的機能を持っている。ビタミンAのキャリアであるレチノール結合タンパク質(RBP)に対する細胞表面受容体の存在が30年以上前に提唱された。Kawaguchiたち(p。820;7月25日のオンライン出版)は、長い事探し求められていたRBP受容体の同定と解析に関して報告している。RBP受容体は頑強なRBP結合性とビタミンAの取り込み活性を持つマルチパス-膜貫通領域タンパク質であり、かつビタミンA取り込みに関して予期された細胞位置に局在化している。(KU)
A Membrane Receptor for Retinol Binding Protein Mediates Cellular Uptake of Vitamin A
p. 820-825.

細胞運命への死神(The Grim Reaper on Autopilot)

タンパク質BaxとBakは細胞死シグナルの鍵となるメディエーターであり、アポトーシスを促進するためミトコンドリアで機能している。細胞中におけるBaxとBakの制御に関する複数モードの証拠が存在している。幾つかの研究では、タンパク質のBcl-2ファミリーの他のメンバーがBaxとBakと相互作用し、両者を直接活性化しているということを提唱している--細胞の生存が細胞のデフォルト状態にあるというシナリオ。しかしながら、BaxとBakの活性化が生存促進性のタンパク質との相互作用によっても抑制され、この抑制の解放が細胞の運命を決定している可能性がある。Willisたち(p.856; Youleによる展望記事参照)は、BaxとBakのデフォルト状態が細胞死に導くという証拠を提供している。直接的なBaxとBakの活性化因子の欠如した細胞においてすら、細胞死経路の上流成分の過剰発現に応答してアポト-シスをこうむる。(KU)
Apoptosis Initiated When BH3 Ligands Engage Multiple Bcl-2 Homologs, Not Bax or Bak
p. 856-859.

2つの羽でもよいが、4つならもっとよい(Two Wings Good, Four Wings Better)

ある種の飛行する昆虫は、他のものが羽を4つもっているにもかかわらず、羽を2つしかもっていない。ありふれたイエバエは2つの羽をもっているが、後翅の痕跡(振り子型の平均棍)を安定な飛行を支援する神経中心への機械感覚性の入力源として利用している。Saneたちは、4つの羽をもつ蛾が、これと類似の飛行制御機構をもっているかを問うている(p. 863; またAlexanderによる展望記事参照のこと)。平均棍の代わりに、触角が、触覚の根元にある毛または剛毛を介して、そのふれを求心神経の信号に翻訳することで、機械感覚性入力を提供する平均棍のような機能を果たしている。(KF)
Antennal Mechanosensors Mediate Flight Control in Moths
p. 863-866.

ギャップを気にする(Mind the Gap)

DNA中のシクロブタン・ピリミジン二量体(CPD)の破壊は、紫外線への曝露によって誘発され、皮膚癌の主要な原因の1つである。細胞は、CPDのところに止まったRNAポリメラーゼIIを引き金に生じる転写-共役DNA修復の1つの経路、ヌクレオチド除去修復によってCPDに対処する。Bruecknerたちはこのたび、酵母のRNAポリメラーゼIIが、嵩高いCPDによって引き起こされるDNAの歪みのせいで止まらないが、CPDの第二のTの重合酵素活性部位への移動によってUのゆっくりした誤取り込みが可能になり、転写機構がゆっくり停止することを明らかにした(p. 859)。DNA修復の間に、そのCPDとmRNA、それにRNAポリメラーゼは、かくして一まとめに除去される可能性がある。(KF)
CPD Damage Recognition by Transcribing RNA Polymerase II
p. 859-862.

発生過程における細胞シグナル伝達経路の統合(Integrating Cell Signaling Pathways in Development)

発生の際に、線維芽細胞成長因子(FGF)受容体型チロシンキナーゼによるシグナル伝達は、トランスフォーミング成長因子(TGF)βとアクチビン様成長因子によって、中胚葉誘導を増強している。Cordenonsiたちは、ツメガエルの胚発生と生化学的解析を結びつけて、FGFシグナル伝達が癌抑制タンパク質p53のN末端領域のリン酸化を促進していることを示している(p. 840,1月18日にオンライン出版)。この修飾により、p53とTGFβ-活性化Smadの間の複合体形成が可能となり、この複合体が遺伝子発現を制御し、ツメガエルの中胚葉誘導を促進している。(KF)
Integration of TGF-ß and Ras/MAPK Signaling Through p53 Phosphorylation
p. 840-843.

鉄(V)オキソを捕獲する(Capturing an Iron(V) Oxo)

鉄(V)のオキソ・モチーフは長い間、酸化的な老廃物分解に用いられるある種のFe/HO系だけでなく、種々の酵素酸化反応における高度に反応的な中間物であると仮定されてきた。Tiago de Oliveiraたちは、この捉えどころのない化合物が、テトラアミドの配位したFe中心をm-クロロベンゾイック酸で処置することによって、低温で安定化しうることを発見した(p. 835,12月21日にオンライン出版)。この複合体は60℃で何時間も持続し、そして分光学的に特徴付けられ、密度関数理論計算によって分析された。理論と実験の双方は、低スピンの電子立体配置であることを支持している。この化合物は、同位体標識によって調べたところでは、明らかに酸素をトリフェニルフォスフィン(triphenylphosphine)へと伝達している。(KF)
Chemical and Spectroscopic Evidence for an FeV-Oxo Complex
p. 835-838.

[インデックス] [前の号] [次の号]