AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 8, 2006, Vol.314


激変性の人食い(Cataclysmic Cannibals)

激変星は、小型の白色矮星がそれの伴星から物質を吸込むような連星系であり、吸い込み強度が不安定に変動する結果、突然明るくなる現象を伴うことが激変星の名前の由来である。理論的な研究によると、多くの高速回転している激変星の系において、物質供給側の星は、褐色矮星となるほどの水素を失ってしまうであろうと示唆されていいるが、今まで発見されたことはない。Littlefair たち (p.1578; Maxted による展望記事を参照のこと)は、短周期激変星の系である SDSS 103533.03+055158.4 の掩蔽(えんぺい)の時刻を正確に計測することにより、供給側の星が0.05 太陽質量の褐色矮星であることを示した。この褐色矮星は以前主系列にあった普通の星が質量を吸い取られてできた可能性が高い。その星の質量は、その軌道周期が示唆するものより僅かに大きく、このことは、褐色矮星の半径が現在の進化モデルでは過小に評価されている可能性を示唆している。(Wt,nk)
A Brown Dwarf Mass Donor in an Accreting Binary
p. 1578-1580.
ASTRONOMY: Enhanced: A Ghostly Star Revealed in Silhouette
p. 1550-1551.

今起こっている火星の変化 (Mars Changes in Real Time)

火星の希薄な大気は、宇宙から来る小物体に対してでさえも、表面を衝突から守るには無力である。Malinたち(p.1573; Kerrによるニュース記事参照)は、火星探査機Mars GlobalSurveyorが7年間時間を隔てて撮った画像の相違を調べることで、火星の表面にくぼみを作る新しい衝突クレータを見つけた。彼らが計測した衝突クレータ形成比率(impact cratering rate)は、月におけるその比率に相当する。さらに彼らは、2つのクレータの壁に最近起こった変化を見分け、それは最近水が少量流れた証拠として解釈している。(TO,tk,nk)
Present-Day Impact Cratering Rate and Contemporary Gully Activity on Mars
p. 1573-1577.

横から冷やす(Cooling on the Side)

量子系に基づくデバイスは、一般的に熱雑音が最小となる超低温でより良くその機能を発揮する。しかし、使われる冷却システムで最低温度は決まる。Valenzuela たち(p. 1589; および、 Chiorescuによる展望記事参照)は、qubitの実効温度をもっと低下させることが可能な、量子と原子光学用で開発されたサイドバンド冷却装置の利用を紹介している。現在研究中の2レベルの系はフラックスqubitと呼ばれるが、qubitの熱励起状態から基底状態へ向かう経過レベルとして使われている付加的なより高いレベルを有している。サイドバンド遷移を利用して、基底状態への状態密度を上昇させるため、彼らはqubitを3ミリケルビンに冷却させた。これは、系の存在する数百ミリケルビンよりかなり低い温度である。(Ej,hE)
Microwave-Induced Cooling of a Superconducting Qubit
p. 1589-1592.
PHYSICS: Microwave Cooling of an Artificial Atom
p. 1549-1550.

ヘリウムは燃える(Helium to Burn)

太陽のような恒星は燃えて3Heを生成し、寿命の終わりに膨張して赤色巨星となり、3Heは対流している外層に混入し、究極的に恒星風として失われる。しかし、ビッグバンの核生成から予想される3Heの量以上には星間空間中にほとんど見つからない。Eggletonたち(p.1580, および、オンライン出版、2006年10月26日号、そして、Podsiadlowskiと Justhamによる展望記事参照) は、赤色巨星を3次元でモデル化し、対流ゾーンの底部の乱流が3Heを恒星中心核境界の核反応層にまで押し下げ、そこで更4HeやHへと燃やしてしまうことを示した。この乱流は、各層の平均分子重量の値が段階的に切替わることで生じる流体力学的なレーリーテイラー不安定性に起因する。(Ej,hE,nk)
Deep Mixing of 3He: Reconciling Big Bang and Stellar Nucleosynthesis
p. 1580-1583.
ASTRONOMY: Big Bang Points to Stellar Mix-Up
p. 1551-1552.

ロボット、コンピュータ、そしてDNA(Robots, Computers, and DNA)

複雑なDNA対とDNA鎖の置換を利用した計算とロボット工学の考え方が、以下の2編の論文の主題である(Fontanaによる展望記事も参照)。Ding and Seeman (p. 1583)は、通常は溶液内で作動するDNA素子を取り上げ、格子上に装着し、これをカセット内に置くことで機能を保持できることを示した。この大きさでの特定素子の配置と操作が可能なことがナノスケールのロボット実現のカギである。Seelig たち(p. 1585)は、モジュール単位で、AND、OR、あるいはNOT演算子や増幅器、閾値設定のような論理回路を構成するために利用可能な一本鎖DNA分子の組を設計した。この素子は入力DNA鎖を、ゲート素子の露出している、あるいは、不対セグメントに結合させることで鎖を置換させ、作動する。(Ej,hE)
CHEMISTRY: Pulling Strings
p. 1552-1553.
Operation of a DNA Robot Arm Inserted into a 2D DNA Crystalline Substrate
p. 1583-1585.
Enzyme-Free Nucleic Acid Logic Circuits
p. 1585-1588.

予期された年代より新しい(Later Than Expected for a Date)

重要なアウストラピテクス類(南アフリカで発見された化石人類猿の総称で最古の直立猿人)、StW573が南アフリカのSterkfontei洞窟から発見された。元々は足の化石のみが発見されただけだったが、現在では骨格のほとんどが見つかっている。この原人は300万年前に生存していたと考えられていたが、磁気層位学的年代と宇宙線により生じる放射性同位元素26Alと10Beを用いた放射年代学に基づいた以前の研究では400万年前の古い年代とされていた。Walkerたち(p.1592)はより精度の高いU-Pb系を用いて、化石を保持していた洞窟の堆積物の年代を測定した。彼らの測定した年代では、この化石が220万年前位にできたものであることを示している。このことは、南アフリカのアウストラピテクス類が道具の開発以前ではなく、道具の開発以後に生きた原人である事を示唆している。(KU,ok,nk)
U-Pb Isotopic Age of the StW 573 Hominid from Sterkfontein, South Africa
p. 1592-1594.

競争から協力へ(From Competition to Cooperation)

協力の進化を理解す事は--遺伝子や細胞の間でも、或いは動物やヒトの社会内部であろうが--生物学における基本的な課題の一つである(Boydによる展望記事参照)。Nowak(p.1560)は、協力に関する5つの主要なメカニズムをレビューしている;同属選択、直接的相互利害関係、間接的な相互利害関係、ネットワークの相互関係、及びグループ選択の5つ。 Bowles(p.1569)は、更新世後期の時代にヒトの直面した生態学的挑戦が、資源に関する激烈なる競合や頻発したグループの消滅、及びグループ間の暴力に導いたと主張している。遺伝的な、気候学的な、考古学的な、民族誌学的な、そして実験的なデータを用いて、経済学に基づいた費用-利益モデルにおいてヒトの協力関係が考察された。利他的な行動に関する遺伝子を持ったグループのメンバーは、生殖の機会を抑制する事で犠牲を払って、食べ物や情報を分かち合う事で恩恵を得ている。結果として、彼ら相互の密接な関係と同じくグループの平均的な適応性を増している。利他的なヒトのグループは、日々の生存への挑戦に直面した時期には他のグループからの資源を奪うために協力して行動していたことであろう。(KU)
EVOLUTION: The Puzzle of Human Sociality
p. 1555-1556.
Five Rules for the Evolution of Cooperation
p. 1560-1563.
Group Competition, Reproductive Leveling, and the Evolution of Human Altruism
p. 1569-1572.

バイオ燃料に向けて(Toward Biofuels)

優れたバイオ燃料の実現には、エタノールやグルコースに強い耐性を持つ微生物系統を作ることが必要であり、更に代謝に関する全体的なセグメントの再プログラムが必要である。Alperたち(p.1565)は大規模な転写マシンのメンバーの一つを変え、それによりエタノールとグルコースへの耐性を得るに必要な多数の遺伝子レベルを同時に変えることが出来た。 今日まで、バイオ燃料は肥沃な土壌で成長する単作の農業で生産されている。これらのバイオ燃料は「炭素-増加」燃料であり、燃料の生産と使用により、化石燃料ほどではないが大気中の二酸化炭素を増すことになる。Tilmanたち(p.1598,表紙参照)は、複数の種による多作で作られたバイオ燃料が「炭素-減少」であり、肥沃な土地での食料生産と拮抗することなく持続可能な、環境に優しい方法で地球規模でのエネルギー需要に大きな役割を果たす可能性を見出した。(KU)
Engineering Yeast Transcription Machinery for Improved Ethanol Tolerance and Production
p. 1565-1568.
Carbon-Negative Biofuels from Low-Input High-Diversity Grassland Biomass
p. 1598-1600.

発生における神経伝達物質の効果のスイッチング(Switching Neurotransmitter Effects in Development)

神経伝達物質であるGABA(γ-アミノブチル酸)は、成人期では一般にニューロン活性に阻害効果を持つが、ニューロンの成長と神経回路が形成される初期発生の段階では、GABAは興奮性の効果を持つ。Liu等(p.1610)は、ニワトリのニューロンを用いて、この変化が細胞膜を介しての塩素イオン勾配の向きのスイツチによるものであること、そしてこのスイッチングは、発生におけるニコチン性のシグナル伝達の活性の変化により誘起されることを明らかにした。このスイッチの時点では、GABAの相対する活性が働くわけで、そのタイミングは重要な意味を持つ。これらの結果は、ニューロンの発生や脳の構造形成が何層ものシグナル伝達活性によって微調整されていることを反映している。(KU,ok,hg)
Sequential Interplay of Nicotinic and GABAergic Signaling Guides Neuronal Development
p. 1610-1613.

周期的変動からパターン化へ(From Oscillations to Patterning)

脊椎動物の初期発生の間、中胚葉組織のブロックである体節が、原体節性中胚葉(presomitic mesoderm)におけるリズム性の遺伝子発現の波に従った周期的な様式で、脊索の両側に敷設される。その体節が、引き続き、骨格筋や軸となる骨、真皮の一部を生じさせる。Dequeantたちは、長時間にわたって原体節性中胚葉に発現する遺伝子の系統的解析を行った(p.1595、11月9日にオンライン出版)。線維芽細胞の成長因子とノッチ経路の周期的変動がWnt経路の要素と交互に入れ替わっており、このことはこれら3つのシグナル伝達経路間の拮抗作用が、段階的な体節の産生をもたらしていることを示唆するものである。(KF,KU)
A Complex Oscillating Network of Signaling Genes Underlies the Mouse Segmentation Clock
p. 1595-1598.

死をもたらす二人組(A Deadly Duo)

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)とマラリアは、熱帯地域では一緒に生じる感染症として最も関心の高い2つの病気である。これら病原体間の同時感染の際の相互作用は良く理解されていないが、一方への感染は他方による感染の素因となっているらしい。Abu-Raddadたちは、アフリカの高リスク地域で、HIVとマラリア寄生虫の同時感染についてのヒト集団での結果を検討した(p. 1603)。著者たちは、1980年以降のケニヤのKisumuから得られたデータで彼らのモデルを検証して、何千人ものHIV感染症の伝播と、およそ百万人ものマラリア感染事例を説明出来るこれら病原体間の相乗作用を発見した。(KF)
Dual Infection with HIV and Malaria Fuels the Spread of Both Diseases in Sub-Saharan Africa
p. 1603-1606.

調節性のRNA(Regulatory RNAs)

多数の小さな調節性の非翻訳RNAは、標的となるRNAと塩基対形成してその翻訳を妨害し、そして(または)それらの安定性に影響を与えることによって作用しているが、そのようなRNAの全てがこういう方法で作用しているのではない。高度に保存された原核生物の6S RNAは大腸菌σ70-含有RNAポリメラーゼ(RNAP)と相互作用し、それを抑制している。6S RNAは、遺伝子プロモータの「開鎖複合体」を模倣する一本鎖RNAバルジ構造を含んでおり、このバルジ構造がRNAPに対してプロモータと競合することを示唆するものである。WassarmanとSaeckerは、このバルジがRNAPの活性部位と開鎖複合体と類似した様式で実際に結合し、これによってRNAPが正当な標的と結合することを妨げていることを示した(p. 1601)。ヌクレオチドの存在下で、RNAPは、6SRNA鋳型からの短かい-生成物(short-product)のRNAを合成し、この合成物がRNAP解離を引き起こし、定常期からの自然な成長の期間に、かつ栄養分が利用できる状態になった際に、転写の再スタートを自由にできるようにしているのである。(KF,KU)
【開鎖複合体】RNAPがDNAのオペレータ部に結合して転写を行う際の高次構造
Synthesis-Mediated Release of a Small RNA Inhibitor of RNA Polymerase
p. 1601-1603.

マスター制御因子を理解する(Understanding the Master Regulator)

細菌性病原体は急激で極端な環境変化に耐えつつ、遺伝子発現の適切な切り換えを保証しなければならない。PhoP制御タンパク質とPhoQ Mg2+センサーによって構成されている二成分の「マスター制御」シグナル伝達系が、病原菌にとって重要な病原性の制御因子になっている。Shinたちは、PhoPとPhoQの活性化の直後に、転写における初期のサージ(動揺)が生じ、それに続いて、標的遺伝子の転写レベルがより低い定常状態になることを発見した(p. 1607)。転写のサージは、また他の二成分系でも観察されており、生物体が新たな条件に置かれると、直ちに新しい表現型の確立を許す一般的な応答を表している可能性がある。(KF)
A Positive Feedback Loop Promotes Transcription Surge That Jump-Starts Salmonella Virulence Circuit
p. 1607-1609.

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