AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 29, 2006, Vol.313


甘い香りのコミュニケーション(Sweet Smell of Communication)

植物が放つ芳香は花粉媒介者である昆虫を呼び寄せるが、この芳香は他の植物とのコミュニケーションにも役立っている。Runyonたち(p. 1964;Pennisiによるニュース記事参照)は有害な草でもある寄生植物を研究し、植物マメダオシ(ネナシカズラ)がトマトからの揮発性の放出物に応答して、マメダオシの若木がすばやく位置を検知して、宿主植物にしがみつく事を見出した。マメダオシが、通常宿主として忌避している小麦は、明らかに忌避性のある一つの成分を含む揮発性の物質を放出している。植物の間のこのような相互作用における揮発性シグナルの作用は、草食性の昆虫とその昆虫の植物性の餌との間のシグナル伝達における揮発性成分の作用と似ている。(KU)
Volatile Chemical Cues Guide Host Location and Host Selection by Parasitic Plants p. 1964-1967.

酸化物界面の"場の効果"による変調(Field-Effect Modulation of Oxide Interfaces)

酸化物は絶縁体になりやすいが、2つの酸化物の間の界面領域は高移動度の、"電子閉じ込め状態"の2 次元電子ガスを保持しながら成長させることが出来、超伝導や磁性、及び強誘電性の振舞いといった一連の機能的な特性を示す。酸化物のヘテロ構造を用いて、Thielたち(p. 1942、8月24日のオンライン出版;Hwangによる展望記事参照)は、界面領域のコンダクタンスが電界を加えることによって5桁以上変調されることを示している。これらの酸化物の多様性とその動作を電界でスイッチ出来れば、潜在的な応用にとって良い前兆である。(hk)
Tunable Quasi-Two-Dimensional Electron Gases in Oxide Heterostructures p. 1942-1945.
APPLIED PHYSICS: Tuning Interface States p. 1895-1896.

脂質相の側面を見る(A Lateral Look at Lipid Phase)

脂質二重層の側面の不均一性を脂質ラフトといった構造と関連する100nm近傍の長さスケールで分析する事は困難である。走査プローブ方法は十分なる空間分解能を持っているが、組成に関する情報に乏しい。光学的な方法は空間分解能に限界があったり、或いは脂質成分の分布を乱すような色素グループを導入したりする。Kraftたち(p. 1948; Grovesによる展望記事参照)は高分解能の二次イオン質量分析プローブと同位体標識を用いて、DlPC(dilauroylphosphatidylcholine)とDSPC(distearoylphosphatidylcholine)の等モル量の混合物からなるシリコンウエハー上に保持された二重層を研究した。この二重層は、室温で液相とゲル相に相分離する。彼らは、トラップされた液相の小さな領域からのゲル相成分の変化を同定した。(KU)
Phase Separation of Lipid Membranes Analyzed with High-Resolution Secondary Ion Mass Spectrometry p. 1948-1951.
CHEMISTRY: Unveiling the Membrane Domains p. 1901-1902.

Mn()を調べる(Tracking Down Mn())

海洋の生化学における重要な微量元素であるマンガンは、酵素の中に直接取り込まれたり、様々な沈澱層や水層の化学に広く影響を及ぼしている。可溶性のMn()は重要なる中間体の化学種であるが、環境中では存在せず、その代わりにMn()やMn()が作られていると考えられてきた。Trouwborstたち(p. 1955; Johnsonによる展望記事参照)は、酸素濃度の低い黒海やチェサピーク湾(アメリカのバージニア州近傍の大西洋岸の湾)の地域でMn()の存在を報告している。配位子によりMn()が大きく安定化され、次いで全ての水層や水の多い沈澱層における低級酸化物のゾーンを安定化している。(KU)
Soluble Mn(III) in Suboxic Zones p. 1955-1957.
GEOCHEMISTRY: Manganese Redox Chemistry Revisited p. 1896-1897.

炭素-炭素一重結合の回転を計る(Clocking Spinning Carbons)

核磁気共鳴(NMR)分光法は分子の一重結合の回転速度の束縛状況の測定に用いられてきたが、NMRはマイクロ秒レベルの分解能という制限により、化学者たちは「NMR 時間スケール」という範囲で回転障壁を分類せざるを得なかった。Zheng たち (p.1951) は、このような NMR 実験に類似の二次元の赤外振動エコー分光法用いて、室温でのエタン誘導体のピコ秒レベルでの内部回転運動の測定が出来ること、そして、このような分子の低エネルギーの異性化反応の回転障壁を支配する弱い相互作用の解明に手がかりを与えることを示している。(Wt)
Ultrafast Carbon-Carbon Single-Bond Rotational Isomerization in Room-Temperature Solution p. 1951-1955.

速まった融解(Accelerated Melting)

地球上で2番目に大きな氷床、グリーンランド氷床はその質量を失いつつある。Chenたち(p. 1958, 8月10日のオンライン出版)は、Gravity Recovery and ClimateExperiment(GRACE)衛星ミッションから、グリーンランド氷床は2004年から融解が速まっていることを示す研究結果を報告している。氷床は年間240立方キロメートルの割合で消滅しつつあり、それはその前の5年間より3倍も速い割合である。これらの結果は、異なった手法で氷床の質量バランスを推定する他の最近の研究とも一致する。そして、グリーンランドにおける融解は、年間0.5mm以上の地球規模の海面上昇に充分な水を供給していることも示している。(TO)
Satellite Gravity Measurements Confirm Accelerated Melting of Greenland Ice Sheet p. 1958-1960.

生物学的関係をマップ化する(Mapping Biological Connectivity)

配列とかタンパク質構造データのような生物学的情報の包括的カタログは、生物学的研究では考えられないほどの有用性があるだろう。Lamb たち(p. 1929)は、この考え方を拡張し、RNA発現で定義される包括的細胞状態のカタログを作った。164個の低分子化合物が、完全なメッセンジャーRNA発現プロファイルに及ぼす影響を、樹立セルライン、主として乳がん上皮セルラインに注目して調べた。薬剤候補化合物(抗癌剤のgedunin、エストゲン、ヒストンデアセチラーゼやフェノチアジン 抗精神病) のゲノムへの影響や疾患状態(肥満、アルツハイマー病、および、デキサメタゾン-抵抗性急性リンパ性白血病)を、このデータと比較することで、作用の潜在的メカニズムを同定し、既知の薬剤の以前の適用性を確認し、さらに、既知の薬剤の新しい可能性を見つけることが可能となった。(Ej,hE)
The Connectivity Map: Using Gene-Expression Signatures to Connect Small Molecules, Genes, and Disease p. 1929-1935.

リボソームの、より詳しい構造(Ribosome Structure at Higher Resolution)

タンパク質の翻訳のメカニズムに対する推察が大きく進展したのは、最近のリボソームのサブユニットである50S と30Sの高解像の構造決定のお陰である。リボソーム全体の構造決定も大きく進展したが、リガンドと結合したリボソーム全体の高解像の構造に関しては解ってなかった。Selmer たち(p. 1935, 9月7日号、オンライン出版)は、Thermus thermophilus のリボソームがメッセンジャーRNA(mRNA)およびトランスファーRNA(tRNA)と複合体形成した構造を2.8オングストロームの解像度で構造解析した。その結果分かったのは、mRNA と tRNAのリガンドと、リボソームとの間に生ずる相互作用の詳細であり、タンパク質や金属イオンがサブユニット間架橋を形成するときの役割である。(Ej,hE)
Structure of the 70S Ribosome Complexed with mRNA and tRNA p. 1935-1942.

免疫細胞とガンの予後(Immune Cells and Cancer Prognosis)

マウスにおいては免疫系は発生中の腫瘍を認識し、その成長を制御するが、これが人間でも同じであるかどうかは良く解ってなかった。ガン患者の予後に及ぼす免疫応答の影響を研究するため、Galonたち(p. 1960; Couzinによるニュース記事も参照)は、ヒト大腸癌の腫瘍浸潤免疫細胞を遺伝子発現プロファイルと生体内(in situ)免疫組織化学法によって解析した。3つの独立した患者集団において、腫瘍内の免疫細胞の特性(型、密度、位置)は、腫瘍病理組織診断よりも、再発の予測と全体の患者生存率の予測に優れている。このように、個々の癌患者の免疫応答情報によって最適の治療を決定する助けとすることができる。(Ej,hE)
Type, Density, and Location of Immune Cells Within Human Colorectal Tumors Predict Clinical Outcome p. 1960-1964.

明らかにされたエキソン接合部複合体(Exon Junction Complex Revealed)

エキソン接合部複合体(EJC)は、新しくスプライスされたRNA上に構築され、メッセンジャーRNA機能の中心となるエフェクターである。Andersenたちは、RNAオリゴヌクレオチドに結合したコアEJC複合体の構造を2.3オングストロームの分解能で決定した(p. 1968,8月24日のオンライン出版)。このEJCコアは、アデノシン三リン酸(ATP)類似体に結び付いたDEAD-box RNAヘリカーゼeIF4AIIIと、3つの付加的タンパク質MLN51、MAGOHそしてY14とから構成されている。この複合体のRNAへの緊密な結合には、eIF4AIIIによるATP加水分解が抑制されることが必要である。この構造は、eIF4AIIIがどのように配列-独立的にRNA骨格に結合しているかを示し、また、そのタンパク質パートナーがRNA認識にどのように関与し、DEAD-boxヘリカーゼのATP加水分解をいかに制御しているかを示すものである。(KF,hE)
Structure of the Exon Junction Core Complex with a Trapped DEAD-Box ATPase Bound to RNA p. 1968-1972.

開始を停止(Stop to Start)

T細胞表面受容体CTLA-4は、免疫応答の勢いを削ぐのを助けるもので、そのタンパク質の欠乏は免疫活性化と自己免疫が制御されなくなる状態を導くことになる。この影響は、T細胞の活性化を下方制御するネガティブシグナルの損失に起因する。Schneiderたちは、T細胞が活性化している樹状細胞と相互作用するさまを、培養条件下とin vivoで追跡した(p. 1972,8月24日のオンライン出版; またMustelinによる展望記事参照のこと)。CTLA-4は、T細胞が樹状細胞から離れてT細胞の移動を刺激するらしく、それによってT細胞が活性化されたまま居残る可能性が減少する。この知見によって、CTLA-4は潜在的に重要な臨床の標的になったのである。(KF,hE)
Reversal of the TCR Stop Signal by CTLA-4 p. 1972-1975.
IMMUNOLOGY: Restless T Cells Sniff and Go p. 1902-1903.

筋肉を作る(Muscle Building)

ニューロンが筋肉を神経支配するさい、アグリンというタンパク質を分泌する。アグリンは筋肉上に神経伝達物質受容体をクラスター形成させ、神経接触点でシナプス形成を生じさせる。最近記述されたタンパク質Dok-7のように、シナプス発生にはある筋肉-特異的キナーゼが必要である。先天性筋無力症症候群(CMS)は、筋力低下をもたらす神経筋伝達における障害を受け継いだグループである。Beesonたちはこのたび、CMSの患者のあるグループがDok-7に変異をもっていたことを見出した(p. 1975、8月17日のオンライン出版)。そうした変異は、神経筋接合部に小さな異常なシナプス形成をもたらすことになるが、これがその病気の症状を説明する手助けになる。(KF)
Dok-7 Mutations Underlie a Neuromuscular Junction Synaptopathy p. 1975-1978.

濡れた表面を揺すって(Shaking a Wet Surface)

超高速赤外分光学は、バルクな水(bulk water)を特徴付けている定常的な水素結合再編成について、ますます詳細な図式を提供してくれている。McGuireとShenはこの方法を界面水に対しても拡張して適用し、和周波発生(sum frequency generation)分光法を用いて選択的に表面のOH伸縮を調べた(p. 1945)。親水性(シリカ)および疎水性(octadecyltrichlorosilane)の界面における水の振動に関するピコ秒以下の動力学は、バルクな水で記述された振る舞いと似ているが、疎水性の系におけるダングリングOHボンドは、励起後よりゆっくりと緩和していく。つまり、この動力学は主に、表面とバルクな水で異なる長距離の配列効果ではなく、局所性の水素結合相互作用に依存しているようだ。(KF)
Ultrafast Vibrational Dynamics at Water Interfaces p. 1945-1948.

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