AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 11, 2006, Vol.313


淡水漁業が与える変化(Fishing for Change)

プロキロドゥス(Prochilodontidae)科の水底摂食魚は南アメリカの商業淡水漁業や自給淡水漁業の最も重要な構成要因であるが、乱獲やダムや土地利用の変化から減少しつつある。Taylor たち(p. 833) は、このようなプロキロドゥス種たった一種が、基本的な生態系レベルのプロセス、つまり、種の豊富な熱帯の生態系で炭素の生成と分解のプロセスを変える可能性があるかを実験的に示した。低い栄養段階での大量で多様な消費者の存在は、生態系機能の変化に対する保険とはなり得ない。このプロキロドゥス種がいなくなったとき、他の100種以上の魚のどれも、代わりにその機能を果たす役割には就けない。(Ej,hE,NF)
Loss of a Harvested Fish Species Disrupts Carbon Flow in a Diverse Tropical River p. 833-836.

雨が降ると(As the Rain Falls)

9500年前ごろ、東サハラは雨の多い時代に入り、広範囲にわたって人の住居地に適するようになった。KuperとKroepelin(p. 803,7月20日のオンライン出版)は、150箇所の旧石器時代の遺跡からほぼ500件の彼ら自身の放射性炭素年代推定と以前報告された年代推移とを結び付けて、過去10,000年に渡るこの地域の降水パターンと共に住居地の移動に関する詳細なる記録を作り上げた。降水が急激に増加すると、この地域全体に住居地が拡がり、5000年前までに北から南へと乾燥状態が拡がると住居地は消滅した。(KU)
Climate-Controlled Holocene Occupation in the Sahara: Motor of Africa's Evolution p. 803-807.

不可解なX線パルス(Puzzling X-ray Pulses)

超新星爆発の残滓である中性子星は、分(ふん)、あるいはそれより速い時間スケールで回転している。しかし、超新星の残滓である RCW103 は、ちょうど 2000年前に爆発したものであるが、De Luca たち (p.814) は、このガスの殻の中心に、6.67時間というはるかに長い周期の光度変化を示し、しかも、それより速い変動は見られない異常なX線源を見出した。この天体は、コンパクト天体と大きく偏心した低質量星とからなるX線二重星の系である可能性がある。あるいは、もし、その天体が単一の中性子星であるならば、おそらくは超新星の破片からなる円盤によって、急激に速度を落としつつある稀なマグネターであるのかも知れない。(Wt,nk)
A Long-Period, Violently Variable X-ray Source in a Young Supernova Remnant p. 814-817.

星が生まれる時(When a Star Is Born)

星がガスクラウドから凝縮するとき、重力以外の力はそれらの崩壊を阻止する。Girart たち (p.812; Crutcher による展望記事を参照のこと) は、形成されつつある星の周りの物質における砂時計状の形態を確認することで、磁気力はその崩壊を減速させるほどに十分強い可能性のあることを示している。サブミリ波の電波望遠鏡のアレイを用いて撮られた画像で、彼らは、中心星近傍のくびれにおいて、内側に向け締め付けられて整列した偏光ベクトルを見出している。この砂時計状の形態は、重力が最終的には他の力を圧倒するという星の形成理論からの予測を反映している。この偏光パターンは、この場合では、磁場がガスクラウドを支える上で乱流よりも重要であることを示している。(Wt)
Magnetic Fields in the Formation of Sun-Like Stars p. 812-814.
ASTRONOMY: Testing Star Formation Theory p. 771-772

南極の雪は同じ状況にある(Staying Even)

気候モデルによると、地球温暖化により南極内部の降雪量は増加するはずであると示唆されている。その理由は、より暖かな空気がより多くの水分を含み、より多くの雪を降らすからである。衛星観測を用いた研究や以前の気候学的データを用いた研究では、積雪量に正味の増加があったことを示唆していた。しかしながら、Monaghanたち(p. 827)の研究によると、過去50年間に統計学的に有意な増加が起こっていない事を示している。フィールド観測データとモデルシミュレーションを結び付けて、彼らは、南極の降雪量に関する50年間の長期にわたる地域的な変化の図を示している。調査した16地域における積雪量に関する10年間隔の変化が調べられたが、正味の増加と言う全体的な傾向は見出されなかった。年間変動と10年間の傾向は、推定された長期的傾向と同程度か、或いはより大きなものである。この発見は、南極内部の正味の降雪量の増加が地球規模での海面レベルの増加を緩和するであろうと言う説に一石投じるものである。(KU,nk)
Insignificant Change in Antarctic Snowfall Since the International Geophysical Year p. 827-831.

火山の動態観察からわかったこと(Caught in the Act)

エトナ山(Mount Etna)は世界で最も活動的な火山の一つであり、引き続きマグマは貫入してきており爆発性噴火も増加している。2002年の終わり頃、火柱とテフラ(火山灰など火山噴出物の総称)崩壊を伴なう大きな爆発性噴火があった。Pataneたち(p. 821; Foulgerによる展望記事参照)は、この2002年エトナ山噴火を高密度に張り巡らされた地震波センサーからのデータを利用して、噴火前から噴火中の三次元せん断波と圧力波の変化のマップ化を可能にした。異常な低速度地域が噴火直前に現れたが、これは多量のガスを含んだマグマが火山内部で上昇している姿を示唆しているようだ。(Ej,hE,nk)
Time-Resolved Seismic Tomography Detects Magma Intrusions at Mount Etna p. 821-823.
GEOPHYSICS: Toward "Supervolcano" Technology p. 768-769.

すばらしいネットワーク(Nailing Network)

個々人の間のネットワークが、彼らのグループとしての振舞い方に影響するのだろうか?Kearnsたち(p. 824)は、この問題をグラフー彩色問題(graph-coloring problem)によりアプローチした。個々人が一つの色、即ち個々人の選択が彼らのネットワークの隣のどれにも重なる事の無いように色を選択しなければならない。ネットワーク構造は解答の効率化に関して劇的な影響を持っていることが分かった。参加者により多くの情報を与えると、個々人やグループが解に到達する時間が長くなったり短くなったりするが、どちらに働くかはそのネットワーク構造によることも分かった。(KU,nk,NF)
An Experimental Study of the Coloring Problem on Human Subject Networks p. 824-827.

天然痘を追跡(Tracking Smallpox)

天然痘が1980年に撲滅されるまで、天然痘は世界中で流行していた。Espositoたち(p. 807、7月27日にオンライン出版)は、撲滅前に採取した45種類の天然痘単離株の配列解析を行い、わずかしか変異がないことを見いだした。しかしながら、系統発生的解析の結果、西アフリカ型、アジア型そして南アメリカ型に分けられる3種類の異なる分類群が存在することが示された。これらの分類群は、組換えおよびゲノム減少(genome reduction)により進化し、そしてこの3種類の分類群に分けられるという知見は、ビルレンス(ウイルスの病原性)の差異との関連を示唆している。いずれかが流行する可能性がある場合には、その出所を追跡することができるはずだ。(NF)
Genome Sequence Diversity and Clues to the Evolution of Variola (Smallpox) Virus p. 807-812.

イガイな防御策(Musseling Up Defenses)

侵入生物種(Invasive species)は、生態学的共同体の構成およびバランスを変化させるだけでなく、選択圧として作用する可能性もある。FreemanとByers(p. 831;Stokstadによるニュース記事を参照)は、普通種である大西洋ムラサキイガイ、Mytilus edulisが侵入種であるアジア浜ガニ、Hemigrapsus sanguineusの導入からわずか15年以内に、このカニに対して誘導的な形態学的防御手段を迅速に進化させたことについての証拠を提示した。この防御手段は、捕食動物の存在を示唆する水媒介性の手掛かりに曝露された場合に殻を厚くする、という現象であるが、ラボでの実験でもフィールドでの実験でも同様であった。(NF)
Divergent Induced Responses to an Invasive Predator in Marine Mussel Populations p. 831-833.

日の出、日没(Sunrise, Sunset)

天候状態あるいは1日の時間により方向性指示機能が変化して、ナビゲーション・エラーをしないように、渡り鳥のコンパス(羅針盤)システムは共通の基準システムに照らして調整されているに違いない。 Muheimたち(p. 837)はサバンナスズメの実験によって、日の出と日没時の偏光をヒントにして磁気コンパスを再調整していることを証明した。さらに加えて、この磁気コンパスの再調整は移動前と移動中に行われ、地平線近くの偏光パターン像が磁気コンパスの再調整に必要である。(hk)
Polarized Light Cues Underlie Compass Calibration in Migratory Songbirds p. 837-839.

免疫細胞におけるアクチンとコロニン(Actin and Coronin in Immune Cells)

アクチン(actin)細胞骨格は、細胞生物学および個体レベルの生物学に関する多くの側面を制御している。コロニン(coronin)は細胞骨格のダイナミクスの制御に関わってきた。Foegerたちは、このアクチン結合タンパク質coronin 1の生体内での機能の理解に焦点を合わせた(p. 839; またDustinによる展望記事参照のこと)。coronin 1はケモカインによって仲介される免疫細胞の遊走と、細胞骨格の変化の組織化のために必要とされている。(KF,NF)
Requirement for Coronin 1 in T Lymphocyte Trafficking and Cellular Homeostasis p. 839-842.
IMMUNOLOGY: When F-actin Becomes Too Much of a Good Thing p. 767-768.

植物の発生を制御するペプチド(Peptide Regulators of Plant Development)

細胞-細胞の情報交換は、組織的な組織形成を行なうために必須である。最近、植物発生におけるペプチドのある役割がはっきりわかってきた。シロイヌナズナの苗条の頂端分裂組織において、細胞運命の決定に、ある推定上のペプチド・リガンドをコードするCLAVATA3遺伝子と、ロイシンに富む反復配列受容体様キナーゼをコードするCLAVATA1遺伝子が関わっている。しかしながら、それら個々のシグナル伝達ペプチドの正確なアイデンティティーは、はっきりしないままである(SimonとStahlによる展望記事参照のこと)。2つの独立した研究グループ、Itoたち(p. 842)とKondoたち(p. 845)がこのたび、特異的な植物の成長点における発生の制御に関与するCLAVATA由来の12個のアミノ酸からなるペプチドを単離した。(KF,NF)
BOTANY: Plant Cells CLEave Their Way to Differentiation p. 773-774.
Dodeca-CLE Peptides as Suppressors of Plant Stem Cell Differentiation p. 842-845.
A Plant Peptide Encoded by CLV3 Identified by in Situ MALDI-TOF MS Analysis p. 845-848.

細菌による奇襲攻撃(Bacterial Sneak Attack)

大腸菌において、ゲノム・アイランドに機能的な非リボソーム性のペプチド・ポリケチド合成酵素(pks)の遺伝子クラスタが発見されたが、これは感染した宿主細胞DNAにDNAの二重鎖切断を引き起こし、次には有糸分裂を妨害する。Nougayredeたちは、このpksアイランドが、共生する大腸菌系統にひろく分布しており、プロバイオティック薬剤として利用されている系統においても発見されるということを見出した(p. 848; またHayashiによる展望記事参照のこと)。この遺伝毒性効果は細菌によって開拓され、細胞周期をブロックすることによって、腸管上皮の更新速度をゆっくりにしている。つまり、病原性と片利共生のこの関係は、想定されていたよりはずっと複雑である可能性がある。こうした知見は、大腸癌の発生における微生物の役割についての手掛かりを与えてくれるかもしれない。(KF,NF)
Escherichia coli Induces DNA Double-Strand Breaks in Eukaryotic Cells p. 848-851.
MICROBIOLOGY: Breaking the Barrier Between Commensalism and Pathogenicity p. 772-773.

メソポーラスなゲルマニウム(Mesoporous Germanium)

ナノメートルスケールの構造を作る物質や、同様にメソポーラスナ物質を作る方法は数多く存在する。しかしながら、単一の物質中にこの二つの特性を組み込む事は非常に困難である。ArmatasとKanatzidis(p. 817,7月20日のオンライン出版)は、技術的に関心の高い重要な半導体材料であるゲルマニウムを用いてこの課題を達成した。彼らは、骨格形成の鋳型となる液晶性の界面活性剤の存在下で、マイナスに帯電したGeチントルイオン(Zyntl ion)と4価のGeを結合させた。界面活性剤をイオン交換処理で除去し、その結果としてのメソポーラスなゲルマニウムが六方晶の孔の規則的配列とサイズ依存性の光学特性、及びフォトルミネセンスを示した。(KU)
Hexagonal Mesoporous Germanium p. 817-820.

ショウジョウバエと精神遅滞(Fruit Flies and Mental Retardation)

neurotrypsinとは、多領域ニューロトリプシン様セリンプロテアーゼであって、主として発生中と成体の神経系に発現する。ヒトのneurotrypsin遺伝子における変異は、非症候性の精神遅滞に関与するものである。neurotrypsin変異に付随する精神遅滞の病態生理学についてさらなる洞察を得るために、Didelotたちは、ショウジョウバエのneurotrypsin相同分子種であるTequila (Teq)を調査した(p. 851)。彼らが発見したのは、Teq変異体は長期記憶の特異的機能障害を有すること、またteqメッセンジャーRNAは間を空けた訓練の後の短い時間窓内で上方制御される、ということであった。Tequilaは、ショウジョウバエの記憶センターである成体のきのこ体において特異的に必要とされ、またteqの一過性サイレンシング後の長期記憶能力の機能障害は可逆的である。(KF,NF)
Tequila, a Neurotrypsin Ortholog, Regulates Long-Term Memory Formation in Drosophila p. 851-853.

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