AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 23, 2006, Vol.312


隠す技術の発展(Extending the Art of Concealment)

目に見えないものを作るとすれば、光をうまく迂回させ、その物体が存在しないかのように元の光と同じ方向に向けて発射しなければならない。光の性質を考えると、理想的な不可視物体を作ることは不可能である。ここに紹介する隠す技術では、入射する照射電波を吸収するようインピーダンスの整合を図り、反射信号を観測者に戻さないようにする。しかし「隠れた」物体の照射電波の反対側から見れば、その陰を利用して見ることができる。人工的に誘電的磁気的物性を調節可能な、現在は理論上の存在であるメタ物質を利用することで、Pendryたち(p. 1780, 2006年5月25日、オンライン出版)と、Leonhardt (p. 1777, 2006年5月25日、オンライン出版)は、理論的な研究からこのような物質を利用して電磁照射を対象物の回りに迂回させることが可能となり、物体からの散乱が全く無いように進行させられるであろうと述べている(Choによる5月26日のニュース記事も参照)。この進化した見えない技術は、反射も陰も両方とも無いであろう。(Ej,hE,nk)
Controlling Electromagnetic Fields p. 1780-1782.
Optical Conformal Mapping p. 1777-1780.

極限的エネルギー(Energy Extreme)

マイクロクエーサーは、クエーサーに似た、しかし、それよりは小さなスケールではあるが、双子の電波放射ジェットを有する二重星のシステムである。このジェットからの放射は、高磁場中を相対論的なスピードで運動する粒子から発生する。しかし、ジェットの成分やそれらがどのように形成されたかについては、ほとんど判っていない。Albert たち (p.1771, 5月18日にオンラインで出版された; Mirabel の展望記事を参照のこと) は、主要大気ガンマ線イメージングチェレンコフ望遠鏡(Major Atmospheric Gamma-ray Imaging Cherenkov (MAGIC) telescope) を用いて、あるマイクロクエーサーからの非常に高エネルギーなガンマ線(100GeV(ギガeV)以上の) に由来する月単位の変動を監視した。ガンマ線の変動の位相と、電波およびX線の位相との比較により、ガンマ線の放射ピークは、二つの星がもっとも近接したときとは一致しないことが示された。これは、放射プロセスにおいて軌道に関わるある強い変調が存在することを示している。この放射をさらに解析した結果、この現象は基本的にはハドロン的というよりはレプトン的な過程であるらしいと分かった。(Wt,nk)
Variable Very-High-Energy Gamma-Ray Emission from the Microquasar LS I +61 303 p. 1771-1773.
ASTRONOMY: Very Energetic γ-Rays from Microquasars and Binary Pulsars p. 1759-1760.

冷水レコーダー(Cold-Water Recorder)

リン酸は最終的に海洋の生物生産性の上限を与える、そして過去の生産性についての多くを理解するためには、リン(P)が海洋にどのように分布しているのかを知ることが必要である。残念なことに、海洋のリン酸含有量を推定する作業は、温度や炭酸イオン濃度(carbonate ion)などの他の要因によって影響を受ける間接的なプロキシ(代用物)に常に頼ってきた。そのため、その有効性はそれら固有の不確実性によってしばしば制限されている。Montagnaたち(p.1788;Boyleによる展望記事参照)は、冷水性サンゴDesmophyllum dianthusが周辺海水のP濃度に比例する量のPを自身の骨格の中に取り込んでいるという証拠を示している。このような直接的なプロキシは、海洋P含有量の長期間の変動をかなりしっかりと再現することができ、その残存時間や深海水量の源の変化を調べることができる。(TO,nk)
Phosphorus in Cold-Water Corals as a Proxy for Seawater Nutrient Chemistry p. 1788-1791.
OCEANOGRAPHY: A Direct Proxy for Oceanic Phosphorus? p. 1758-1759.

らせん状の腕の覆いを取り除く(Unmasking Spiral Arms)

天の川はらせん状の銀河であるが、その正確な形状、腕の数、その長さを識別することは困難であった。例えば、中性水素原子(HI)の21センチメートル超微細構造線の輝度は銀河の中心から離れた所で急激に減少し、空全体に大きなゆらぎを作っている。そのため、この背景輻射かららせん状の腕の信号を捕らえることは難しかった。Levineたち(p. 1773, 2006年6月1日、オンライン出版)は、以前探索された地図に非鮮鋭成分マスキング処理と似た技術を利用して、電波強度分布から大きなスケールの背景パターンを除去することで、細かく詳細な構造のみを残した。この地図は銀河中心から25キロパーセックの距離までの対数ラセン形状の構造を示している。(Ej,hE,nk)
The Spiral Structure of the Outer Milky Way in Hydrogen p. 1773-1777.

古代人の装飾づくり(Ancient Accessoring)

絵画とか他の記号的な表現形態が、5万年程前の初期現世人の多くの遺跡で発見されている。しかし、このような現代人の文化的振る舞いに関するより古い証拠物は乏しかった。Vanhaerenたち(p.1785;Balterによる展望記事参照)は、明らかに装身具として加工された数個の巻貝に関して記述しており、この貝は、以前に西アジアと北アフリカの内陸奥地の二箇所の遺跡で収集されたものである。両遺跡とも10万年前よりも古い年代を示しており、南アフリカでより大量に発見された、穴のあけられた類似の貝のものより2万5千年程古い。調査結果によると、この貝は古代人が穴をあけ、多分穴に糸を通して着飾ったのであろう。(KU,nk)
Middle Paleolithic Shell Beads in Israel and Algeria p. 1785-1788.

脂肪を取り除く(Phasing Out Fat)

TRB3として知られているタンパク質は、飢餓動物体内で合成される偽キナーゼ(キナーゼの活性に欠如したキナーゼ様タンパク質)である。TRB3はインスリンのシグナル伝達を変え、発生中の有糸分裂や形態形成を調整するショウジョウバエのタンパク質と関係している。Qiたち(P.1763;NellsとOlefskyによる展望記事参照)は、マウスにおいてTRB3の過剰発現が食餌-誘発性肥満への抵抗性を与える事を見出した。この効果はアセチル-コエンザイムAカルボキシラーゼ(ACC)活性の減少に由来しており、結果として脂肪酸の合成が減少した。TRB3は直接ACCと相互作用して、E3ユビキチンリガーゼのCOP1(constitutive photomorphogenic protein 1)によりその分解を促進する。脂質代謝に関するその制御を理解する事で、肥満コントロールに対する治療方法が大きく展開されるであろう。(KU)
TRB3 Links the E3 Ubiquitin Ligase COP1 to Lipid Metabolism p. 1763-1766.
CELL SIGNALING: A New Way to Burn Fat p. 1756-1758.

文化的変動の制限(Limits on Cultural Variation)

行動が主張された意図と常に一致しているとは限らない-故に「言っている事とやっている事が異なる」。人間性の幅の広さに関する公正さと罰に関するアセスメントにおける変動を評価するために、Henrichたち(p.1767;Bhattacharjeeによるニュース記事参照)は、三つの経済ゲーム、即ち根本原理ゲーム(the ultimatum game) 第三者罰ゲーム(third party punishment)及び独裁者ゲーム(and the dictator game)を採用し、かつ先進国で通常用いられている学生集団とは明らかに異なった15の小規模の社会の人々をサンプリングし、アンケートに基づく調査から現存する証拠に補足した。集団を通しての個人は不公平さが増すに連れて、罰を更に与える事を意図しがちになり(彼らが「罰への代償」を支払わなければならない時ですら)、このような罰を与える事への快感は利他的な行動と一緒になって変動する。(KU)
Costly Punishment Across Human Societies p. 1767-1770.

満頭に達する(Getting a headful)

二本鎖DNAウイルスは、コルクされたシャンパンよりも10倍高い内部圧で容積が満たされる迄、予め組み立てられたプロキャプシド内にウィルスゲノムを送り込む。このような内部「満頭」密度がどのようにして外側のパッケージング機構へシグナルを伝達しているのだろうか?Landerたち(p.1791;5月18日のオンライン出版)による感染性のP22ウイルス粒子の17オングストローム分解能の非対称性再構築から、ある洞察が得られている。DNAはP22の入り口周辺で強く巻かれており、これは単離されたP22の入り口とは異なる構造である。著者たちは、パッケージング密度が増すとDNAが入り口周辺で強く締められていると示唆している。満頭密度に達すると、高次構造上のスイッチがパッケージング終了のシグナルを送る。(KU,hE) 【訳注】満頭(heedful);ウイルスの頭部にDNAを充填する事
The Structure of an Infectious P22 Virion Shows the Signal for Headful DNA Packaging p. 1791-1795.

ハエと時差ぼけ(Flies and jetlag)

概日時計は、短期間、光に当てることで新しい位相にリセットされるが、このリセットの分子レベルの解明は未だに不明確であった。ショウジョウバエでは、光感受性タンパク質であるクリプトクロム(cryptochrome)は、光に反応してコンフォメーションを変化し、クロック成分のタンパク質であるTIMELESS(TIM)と結合する。この相互作用がトリガーとなってTIMを分解し、その結果クロックのリセットをする。この光誘発性リセット感受性の弱い変異体のハエをスクリーニングすることで、Kohたち(p. 1809)は、JETLAG(時差ぼけ)と呼ばれる遺伝子を同定した。この遺伝子は光を受けた後、TIMを分解するのに必要である。JETLAGはTIMと複合体を作って存在し、分解のためのタンパク質のタグ付けとなるユビキチン結合を増加させる。このように、JETLAGは、ユビキチン結合させるためにTIMを標的とするF-boxタンパク質である。その結果、光に反応して急激な分解をする。(Ej,hE)
JETLAG Resets the Drosophila Circadian Clock by Promoting Light-Induced Degradation of TIMELESS p. 1809-1812.

TopoIIβ が仕事を始める(TopoIIβ Gets to Work)

DNAトポイソメラーゼはDNA鎖の破損と再結合の触媒をすることで、DNAの位相構造を変化させコンフォメーション(高次構造)の変化を制御する。トポイソメラーゼ II(TopoII)は遺伝子プロモ−タ付近のDNAのコンフォメーションを変化させ、配列特異的な転写制御因子と、クロマチンの修飾と再構築因子に関与する。Juたち(p. 1798;Haince たちによる展望記事も参照)は、DNA TopoIIは、遺伝子がシグナル依存的に活性化されると、転写プロモータ領域でDNAの2本鎖を切断することを示した。その結果、DNA修復酵素が活性化され、ヒストン成分と局所クロマチン構造が交換される(Ej,hE)。
A Topoisomerase IIß-Mediated dsDNA Break Required for Regulated Transcription p. 1798-1802.
TRANSCRIPTION: Gene Expression Needs a Break to Unwind Before Carrying On p. 1752-1753.

海沿いへの移動(Moving to the Seaside)

ヒトは、有史以前の時代から海岸沿いに居住してきた。そうした居留地の最近のヒトによるインパクトは、歴史的な影響や有史以前の影響よりもずっとよく記録されている。Lotzeたちはヒトが占拠し始めてからの、北米やヨーロッパ、オーストラリアの12の河口域および海岸の生態系について、歴史的なベースラインの詳細を数量化した(p. 1806)。変化のパターンは、全ての地域で驚くほど類似していた。過剰な資源利用と生息地の喪失だけで、すべての種の減少と絶滅、及び結果としての多様性の変化や生態系の機能変化に関するおおよそ95%を説明することができる。そうしたヒトによるインパクトが抑えられたところでは、上部栄養段階の有意な回復が見られたが、このことは、目標のはっきりした管理をすれば、破滅的な傾向を逆転できることを示すものである。(KF)
Depletion, Degradation, and Recovery Potential of Estuaries and Coastal Seas p. 1806-1809.

フラクタルの芸当(Fractal Feat)

フラクタル構造では、所与の形状をもった単位が集まって、同じ形状のより大きな配列を構築している。数学的に記述された初期のフラクタル形状の中には、シェルピンスキーのガスケット(Sierpinski gasket)という、中心がうつろな正多角形によって構成されるものがある。Newkomeたちは、まずRuイオン含む溶液中で、続いてFeイオンを含む溶液中で2種のテルピリジル(terpyridyl)リガンドの構築ブロックを結びつけることで、六方晶系シェルピンスキー・ガスケットの分子バージョンを作成した(p. 1782、5月11日にオンライン出版)。このリガンドは2回対称軸と3回対称軸を交互に持っており、接合部で金属イオンと自己構築して、直径10ナノメートルの六方晶系のフラクタル構造を生み出しているが、この構造を著者たちは電子走査トンネル効果顕微鏡観察によって可視化した。(KF)
Nanoassembly of a Fractal Polymer: A Molecular "Sierpinski Hexagonal Gasket" p. 1782-1785.

はっきり違って、多様である(Distinct and Diverse)

カナダの太平洋沿岸から収集された自然なRNAウイルスのコミュニティーは、多様ではあるが、少数の型が優勢になっている。2つの局所的コミュニティーで、Culleyたちは、これまで水生環境では報告されてこなかったウイルスを発見した(p.1795)。1つのコミュニティーでは、確立されたRNAウイルスのファミリーのいかなるものにも似ていない、order Picornaviralesの遺伝子型が2つ豊富に存在しているのが発見されたが、これらはおそらく原生生物に感染するものである。もう1つのコミュニティーでは、植物に感染するTombusviridaeに関連した未知のウイルス・グループのメンバーにおそらく所属するだろう別の配列が支配していた。それ以外の配列は多様であったが、量は少なく、おそらく甲殻類に寄生するらしいcripavirusesに関する証拠を幾分持つものであった。2つのコミュニティーの試料は、少数の遺伝子型が優勢であるという特徴を共有していたが、互いによく似ているわけではなく、これは「繁栄か、さもなければ絶滅か(boom or bust)」という生態学的現象を示唆するものである。(KF)
Metagenomic Analysis of Coastal RNA Virus Communities p. 1795-1798.

Dok-7とシナプス形成(Dok-7 and Synapse Construction)

運動ニューロンと骨格筋の間のシナプスは、発生の間に、ニューロンがその筋肉と接触し、アグリンと呼ばれるタンパク質を分泌するとき形成される。アグリンは次に筋肉-特異的キナーゼMuSKのリン酸化を引き起こし、究極的には、神経が接触した部位の筋肉膜上にアセチルコリン受容体のクラスター形成をもたらす。Okadaたちはこのたび、アグリンへの要求をバイパスでき、ホスホチロシン結合領域を介してMuSKに結びついて活性化する、MuSK活性化に必要なタンパク質Dok-7について記述している(p. 1802)。Dok-7を欠く遺伝子組換えマウスは神経伝達物質受容体のクラスターを形成せず、また先天性筋無力症症候群の患者で発見されたDok-7の変異体は、正常な受容体クラスター形成と接合部形成を妨げた。つまり、Dok-7は神経筋接合部のシナプス後側形成にとって必要とされるMuSK結合タンパク質なのである。(KF)
The Muscle Protein Dok-7 Is Essential for Neuromuscular Synaptogenesis p. 1802-1805.

初期白亜紀のクモの巣とその餌食(Early Cretaceous Spider Web with Its Prey)

コガタコガネグモ(Orb-web Spider;Argiope minuta)の巣は、飛んでいる餌食を捕らえることができるような革新的進化を遂げたが、この巣の糸は、驚くほどの優れた機械的性質を持っている。クモの巣の設計が何度も進化したという見解と対照的に、我々は、糸のタンパク質の分布と系統からはクモの巣が少なくとも1億3600万年前の単一で古い起源を持つという説が支持されることを見つけた。更に、クモの糸の配列のデータベースを大きく拡大した結果、高効率の生物起源物質の合成に使えることになろう。(Ej,hE,nk)

クモの糸の遺伝子は、クモの単一起源説を支持する(Silk Genes Support the Single Origin of Orb Webs)

クモの糸は動物による構造物のすばらしい例の一つである。この糸のネットはフレームと放射状支持体から成り、その上にはねばねばした捕獲ラセンが重ねられている。このネットは大きな運動エネルギーをもって飛んでくる獲物の衝撃を吸収しなければならないので、考えられないほどの力学的性質を有している。クモの巣は2系統存在する。コガネグモ(Araneoide) と Deinopoidea である。どちらもほとんど同一の行動様式と巣の構造を持つが、餌食を粘着させるメカニズムは顕著な違いがある。この両者は、収束性進化の素晴らしい例と考えられる。(Ej,hE,nk)
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