AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 28, 2006, Vol.312


深い水域のサンゴ(Corals in Deep Water)

熱帯の浅い水域のサンゴ礁は、数10年間の活発な研究のテーマとなっている。しかし、より高緯度に多い深い水域のサンゴ生態系についてはあまり良く知られていない。Robertsたち(p.543)は、近年の多くの探査が実施されている北大西洋に特に焦点を当てて、寒冷水域(coldwater)のサンゴの最新の調査を再検討した。浅い水域のサンゴ礁と同様に、深い水域のサンゴ礁は高度の多様な種の住む所となっている。これらの系の生態学について不明なところが多々あるが、開発や気候変化からの脅威に脆弱であることはすでに明らかである。(TO,Ej.nk)
Reefs of the Deep: The Biology and Geology of Cold-Water Coral Ecosystems p. 543-547.

周期的に脈動する(Periodic Pulsing)

パルサーは、強い磁場を有して回転する中性子星であり、天空をまたがって掃引する電波ビームを発生する。なぜ、ある中性子星は電波を放射し、他のものはそうではないのか? Kramer たち (p.549, 2月2日のオンライン出版;van den Heuvel による展望記事を参照のこと) は、B193124 というパルサーを発見した。これは、およそ一週間は通常状態に見えたが、その後、突然スイッチがオフになった。再びスイッチが入るまで一ヶ月間検知できないままであった。これらのオン・オフのサイクルは繰り返されている。すべてのパルサーは、それらがエネルギーを失うにつれて、よりゆっくりと回転するようになる。しかし、B193124の回転速度低下率は電波を放射している時の方が、していない時より50%も大きい。この振る舞いは、パルサーの回転減速時において粒子流や粒子風があることを示唆しており、この粒子流の大きさを測定することが可能である。(Wt,Ej,nk)
A Periodically Active Pulsar Giving Insight into Magnetospheric Physics p. 549-551.
ASTRONOMY: Pulsar Magnetospheres and Pulsar Death p. 539-540.

スピンに居座り方を教える(Teaching Spins to Stay)

量子ドットのスピン状態を操作できれば、量子情報処理へ向けてのひとつの道筋が与えられる。しかしながら、ある特別な状態(スピンアップ、或いはスピンダウンのいずれかに)に量子ドットを調整し、更にそのスピン状態を維持することは困難であった。その理由はドット内部での内部散乱やスピンフリップのプロセスが発生するためである。Atature たち (p.551) は、量子ドット上の電子スピンを4Kから20mKまでレーザー冷却し、その期待されるスピン状態を99.8%の忠実度で達成できることを示した。(Wt)
Quantum-Dot Spin-State Preparation with Near-Unity Fidelity p. 551-553.

超低速な地震波のケイ酸塩(A Super Seismically Slow Silicate)

コア-マントル境界に向かって見られる超低速の地震波速度は、一般的には融解したマントルが存在することが原因である。この領域の温度と圧力条件において安定して(stable)存在していることが最近判明した主な固体相は、ポストペロブスカイト(post-perovskite)と呼ばれるマグネシウムに富んだケイ酸塩(silicate)である。Maoたち(p.564)は、地震波速度の高圧実験により、鉄のコアに近いマントル領域において生成されたと考えられる鉄分に富んだポストペロブスカイトでの地震波速度が、超低速波の速度よりもさらに遅いことを示している。このことから、鉄分に富んだポストペロブスカイトを含む固体相の混合体は、融解したマントルの存在を求めることなしに地震波観測を説明できるだろう。(TO,Ej,tk)
Iron-Rich Post-Perovskite and the Origin of Ultralow-Velocity Zones p. 564-565.

昆虫の目をまねる(Imitating Insect Eyes)

ミツバチの目は何千もの集積された光学系を含んでおり、その各々は異なる方向を向いている。その各単位は、狭い範囲の入射角度光を集め、全体として広い角度の視野をカバーしている。ミクロ単位、あるいは、ナノ単位の加工技術を組合せて、Jeongたち(p. 557) は、昆虫の複眼に類似した光学的特性を示す光学系を合成した。この合成光学系と自然の複眼との詳細な比較がなされた。(Ej hE)
Biologically Inspired Artificial Compound Eyes p. 557-561.

もっと近くにあった彗星の貯蔵所(Closer Comet Cache)

彗星は原始的な汚れた雪玉であり、太陽系の外側に達するところから来ていると信じられている。しかし、Hsieh and Jewitt (p. 561, およびFitzsimmonsによる展望記事参照) は、新しいタイプの彗星が主小惑星帯中に存在すると提案している。主小惑星帯の調査で分かったことは、彗星の尾を持った3個の天体が存在し、これは氷からなる主小惑星が衝突の後で、活性化され彗星状の尾を持つようになったことを示唆している。これらの天体はもっと暖かい環境で形成されたと思われるので、主小惑星帯の彗星はその組成だけでなく軌道も、冷たいカイパーベルトや、オールト雲の彗星とは異なって当然であろう。この主小惑星帯の彗星は初期地球の水源となった可能性もある。(Ej,hE,nk,tk)
A Population of Comets in the Main Asteroid Belt p. 561-563.
PLANETARY SCIENCE: Ice Among the Rocks p. 535-536.

文明の再補正(Cultural Recalibration)

青銅器時代におけるクレタ、レバント(シリア、レバノン、イスラエル等の東部地中海付近の国々)、エジプト、及びその近辺諸国の初期地中海文明の主要な事象に関する比較には、比較のための正確な年代学が必要となる。きわめて重要な結接点の一つが、この地域全体に灰を降らしたサントリーニ(Santorini)の噴火の年代であるが、この年代推定には個々の地域でのより長期間の、かつより精度の高い年代学を強化する必要がある。Manningたち(p. 565)は、300年間に及ぶ多数の放射性炭素年代に関して報告しており(FriedrichたちによるBrebia,及び表紙参照)、より確かなサントリーニ噴火の年代と共に、エーゲ海の記録を100年ほど前にシフトさせている。このように、The major New Palace Crete Culture(主要新宮殿クレタ文明)がレバントの文明と同年代に興っており、今まで推定されてきたようなエジプト新王国時代(BC1570〜1085)とは異なっている。(KU,Ej,nk)
Chronology for the Aegean Late Bronze Age 1700-1400 B.C. p. 565-569.

ミトコンドリアDNAは当てにならない(Unreliable Mitochondrial DNA)

ミトコンドリア(mt)DNAの可変性は、mtDNAが進化においては本質的に中立である、という前提のもと、個体群サイズ、歴史、および多様性を推定するためにしばしば使用される。Bazinたち(p. 570;Eyre-Walkerによる展望記事を参照)は、幅広い動物種のあいだで、異系酵素(アロザイム)、核DNA、およびmtDNAにおける多型を比較した。種内でのアロザイムと核DNAの可変性は、予想された種の存在度と生態学的な可変性とに相関しているが、その一方でmtDNAの可変性に関して、幅広い分類群のあいだで本質的な相違は見られなかった。逆に、mtDNAは、有益な変異を回帰的に固定化し、そして連鎖する遺伝子座の可変性を失ってきた様に思われる。このように、mtDNAは決して中立的なマーカーではない;その多様性は予測不可能なものであり、そして個体群の歴史や人口統計学を反映していない可能性がある。(NF)
Population Size Does Not Influence Mitochondrial Genetic Diversity in Animals p. 570-572.
EVOLUTION: Enhanced: Size Does Not Matter for Mitochondrial DNA p. 537-538.

蚊の抵抗性(Mosquito Resistance)

野生の蚊ベクター中ではマラリア原虫に何が起こっているのか?Riehleたち(p.577)は、Mali(西アフリカの国)において感染した人々の血液を吸っている野生の蚊を調べ、昆虫が寄生虫に対して抵抗性を示す能力に影響を及ぼす4つの遺伝子を同定した。これらの遺伝子は、マラリア原虫のうち少なくとも3種の異なる種に対して作用する。これらの遺伝子の一つは、研究室では原虫のメラニン化を引き起こしたが、これはおそらく自然界のシステムの中ではほとんど作用を有さないだろう。しかしながら、その他の3つの遺伝子は、多数の植物および動物において見いだされているパターン-認識抵抗性遺伝子に非常に似ている。マラリアに感染した血液を吸わない限り、野生の蚊の多くはマラリアに感染していなかった。(NF)
Natural Malaria Infection in Anopheles gambiae Is Regulated by a Single Genomic Control Region p. 577-579.

真菌vs植物・動物(Fungi Versus Plants and Mammals)

イネイモチ病は、真菌であるMagnaporthe griseaにより引き起こされる経済的に重要な病気である。この真菌は、付着器(appressoria)と呼ばれる特殊な構造を伸ばすことにより葉に浸入する。Veneault-Fourreyたち(p. 580)は、浸入を行う際に、真菌は自食作用が関与するある種のプログラム細胞死を行うことを示した。このように、真菌病原体は、宿主への感染のあいだに細胞分化し,そしてリモデリングするために、細胞死を使用する可能性がある。真菌の毒性、日和見真菌病原体が哺乳動物中で成長する能力は、25℃で増殖するフィラメント状の偽菌糸形状から37℃での酵母形状へ、変化することと関連している。 植物の病原体、アグロバクテリウム(Agrobacteriumtumefaciens)をT-DNA挿入変異のためのツールとして使用して、Nemecekたち(p. 583)は、フィラメント形状の生物が侵入することを阻止する変異体を同定した。その中の一つは酵母形状を形成することができない変異であるが、細胞壁形成、胞子形成、および毒性因子の発現ができないことが示された。この機能欠損はヒスチジンキナーゼをコードする遺伝子に原因があり、このヒスチジンキナーゼが、二型性真菌のいくつかの種における形態学的切り替えおよび毒性についての包括的な制御因子である可能性がある。(NF)
Autophagic Fungal Cell Death Is Necessary for Infection by the Rice Blast Fungus p. 580-583.

電位依存性のプロトンチャネル(Voltage-Gated Proton Channel)

電位センサードメインは4つの膜貫通セグメント(S1〜S4)を含み、膜電位の変化を検知して、電位依存性のイオンチャネルにおける孔ドメイン(S5およびS6)のゲート開閉を調節する役割を果たしている。Sasakiたち(p. 589、3月23日にオンライン出版)は、電位依存性のプロトンの流れを媒介すると考えられる電位センサードメイン(VSD)を主として構成するタンパク質を同定した。プロトンの流れはpH-依存のゲート開閉を示しており、そして亜鉛イオン濃度に対して反応しやすい。これは、電位依存性のプロトンチャネルに特徴的な性質である。(NF)
A Voltage Sensor-Domain Protein Is a Voltage-Gated Proton Channel p. 589-592.

BoTox受容体(BoTox Receptor)

ボツリヌス神経毒A型(BoNT/A)は、ボツリヌス菌によって産生される7つの神経毒の1つである。BoNT/Aは細胞内では長い半減期を有し、皺の治療から慢性痛の治療まで広く用いられている。さらに、BoNT/Aは何ヶ月も持続する麻痺をもたらすことがある。BoNT/Aは、シナプス前終端にあるタンパク質SNAP-25を切断することで神経伝達をブロックすることが知られているが、この毒素がどのようにしてニューロンを選択的に認識し、入り込むかははっきりしていない。Dongたちはこのたび、BoNT/Aの細胞受容体のタンパク質成分を、シナプス小胞タンパク質SV2として同定した(p. 592、3月16日にオンライン出版; またMillerによる展望記事参照のこと)。BoNT/AはSV2アイソフォームに結合することによって再利用シナプス小胞を介してニューロンに入り込むので、SV2を欠く細胞と動物は中毒に対する抵抗性がある。(KF)
SV2 Is the Protein Receptor for Botulinum Neurotoxin A p. 592-596.
BIOPHYSICS: Lonely Voltage Sensor Seeks Protons for Permeation p. 534-535.

.精子形成オフと卵形成オンの切り替え(Switching Spermatogenesis Off and Oogenesis On)

雄性と雌性の生殖細胞は、別々の時期に減数分裂に入る。精子形成は胎性発生の間に減数分裂の結果として生じるが、卵形成は出生後減数分裂が引き起こされたときに結果として生じる。精巣によって産生された特徴付けられていない拡散性のシグナル分子によってブロックされない限り、生殖細胞はデフォルトで減数分裂に入り、卵形成を引き起こすと考えられてきた。Bowlesたちはこのたび、レチノイド代謝が雄性の胚における減数分裂を抑制することを示している(p. 596、3月30日にオンライン出版)。オスとメスの双方において、モルフォゲンレチノイン酸が減数分裂開始のために中腎の尿細管において産生されている。このモルフォゲンは卵巣においては分解されないが、精巣ではp450チトクロム酵素CYP26B1によって特異的に分解される。(KF)
Retinoid Signaling Determines Germ Cell Fate in Mice p. 596-600.

同時にスペクトルと構造を観る(Simultaneous Spectra and Structure)

単層カーボンナノチューブ(SWNTs)は半導体的構造と金属的な構造の混合物から形成されており、これは単一のグラフェンの閉鎖する際の無数の方法に起因している。光学的分光法により、溶液中での数多くのSWNTsの特性、例えばバンドギャツプの傾向が明らかになった。しかしながら、幾つかのタイプのSWNTsのイメージングではスペクトル線の重なりが生じる。Sfeirたち(p.554)は、電子線回折で構造決定された個々のSWNTsのレイリー散乱スペクトルに関して報告している。彼らは半導体性のSWNTsに見られるキラリティに関するバンドギャップエネルギーの変化を検証し、三角形のゆがみの影響に由来する金属的SWNTsのピークの分裂をも観測している。(KU)
Optical Spectroscopy of Individual Single-Walled Carbon Nanotubes of Defined Chiral Structure p. 554-556.

死とストレスを調節する(Modulating Death and Stress)

タンパク質BAXとBAKはアポトーシスのキーとなる制御装置であり、細胞死を導くミトコンドリアの効果を活性化させるには、一方あるいは他方が従事しないといけない。BAXおよびBAKを欠くノックアウトマウスの細胞を調べて、Hetzたちは、小胞体(ER)におけるミスフォールドタンパク質の蓄積に関わるストレスに細胞を順応させるという、これらタンパク質のもう1つの役割を発見した(p. 572)。折り畳まれていないタンパク質応答の保護作用は、BAX-BAKダブルノックアウト細胞では破壊されていたが、これは明らかに、小胞体のストレスセンサーとBAXまたはBAKの直接的相互作用の欠損によるものであった。つまり、BAXおよびBAKは、複数の細胞小器官において作用することで、細胞死の制御と共に、ストレスへの細胞応答をコーディネートしている可能性がある。(KF)
Proapoptotic BAX and BAK Modulate the Unfolded Protein Response by a Direct Interaction with IRE1 p. 572-576.

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