AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 14, 2006, Vol.312


捕まえて、反応し、放つ(Catch, React, Release)

酵素は、特異的反応経路を促進するように基質を方向付けることによって驚くべき選択性を発揮する。近年、化学者たちは、溶液中で有機部分と金属部分から組み立てた比較的簡単な中空構造を用いて、これと同様の効果を達成しようとしてきた。しかしながら、この合成ホストは反応物に結合するのと同じくらい生成物にも結合するために、触媒作用が阻害されることが多い。Yoshizawa たち(p. 251)は、椀状の形をしたパラジウムとトリアジンベースのホストを用いると、水中でアントラセンとフタルイミドとのディールス・アルダー反応を触媒できることを見出した。この反応では、生成物の幾何学的特徴のためにホストと両立できなくなるためである。これと関連するかご型のホスト構造を用いると、同じ試薬を用いて異なる反応を化学量論的に進行することができ、アントラセン構造の末端位置でなく、真ん中の位置で異常なディールス・アルダー付加物を生じる。(Ej,hE)
Diels-Alder in Aqueous Molecular Hosts: Unusual Regioselectivity and Efficient Catalysis p. 251-254.

酸化亜鉛ナノワイヤアレイによるピエゾ微小発電機(Sending Charges Their Separate Ways)

体内に移植される様々な装置は電力を必要とする。通常、その電力は電池により供給されるが、体の組織が提供する電力または燃料源を活用する方法がいくつも試みられている。WangとSongは(p. 242参照)、埋め込まれた酸化亜鉛のナノワイヤの導電原子間力微小チップによる変移量の力学的エネルギーを電気的エネルギーに変換する方法を研究している。チップによりナノワイヤを曲げることで発生する歪場がこの極性物質の反対の極に電荷を分けて蓄積する。チップとナノワイヤは修正ショットキー障壁を形成し、チップの極性が一方から他方へと変わるにつれて、蓄積された電荷が電流として放出されるのである。(NA)
Piezoelectric Nanogenerators Based on Zinc Oxide Nanowire Arrays p. 242-246.

ナノ構造金属を焼きなましで硬化し、鍛造で柔らかくする(Ductility Through Deformation)

伝統的な金属加工では、適切な焼きなまし温度と時間により必要な強度と可塑性を達成することが可能である。一方、ナノ構造金属では非常に高い硬度をもつが、可塑性と成型性が少なく、その結果応用可能性が狭めらている。X. Huangたちは(p. 249)、伝統的な方法と逆のプロセスにより、可塑性アルミニウムのナノ構造を作れることを示している。まず熱処理により変形とその相互作用が減少し、結果として強度が強化され、可塑性が減少する。その後、圧力を加える鍛造段階で変形が復元されると考えられる。その結果、強度が減少し、可塑性が増加する。この発見により、アルミニウムのナノ構造材料などの研究で、変形は焼きなましのためでなく最適化のために用いることができることを示している。(Na)
Hardening by Annealing and Softening by Deformation in Nanostructured Metals p. 249-251.

陽極の代用物(Anode Alternatives)

天然ガスを利用する固体酸化物燃料電池が実現するためには、炭素の析出やイオウによる劣化を回避するための、より優れた陽極材料が求められる。Y.-H.Huangたち(p. 254)は、層状ダブルペロブスカイトSrMg[1- x]Mn[x]MoO[6-δ] を陽極とし、650℃から1000℃で利用することを報告している。活性化Mo(VI)-Mo(V)共役はMg と Mn陽イオンと対になり、燃料では還元されなくなる。Mg陽イオンはイオウによる劣化に耐性が強いように見え、HSの50ppm存在下での200時間の操業でも安定であった。(Ej,hE,nk)
Double Perovskites as Anode Materials for Solid-Oxide Fuel Cells p. 254-257.

マウスにはもう一つの胸腺(An Extra Thymus in Mice)

胸腺は心臓のすぐ上に存在し、そして一生の間に遭遇する多数の病原体から生体を守るT細胞を発生させるためのゆりかごとして機能する。胸腺は唯一の器官であると考えられてきたが、Terszowskiたち(p. 284、3月2日にオンラインで発行;von Boehmerによる展望記事を参照)は、マウスがしばしば、より小型で頸部に位置する第二の胸腺を有していることを見いだした。この"頸部"胸腺は、明瞭な胸腺細胞区画間の境界線や胸腺上皮マーカー、そして胸腺細胞を発生させることを含む、より大型の胸部器官を規定する古典的な特徴のすべてを示す。さらに、このより小型の頸部胸腺由来のT細胞は、機能的にも適格な能力を有しているようであり、そしてこの頸部胸腺を移植することで無胸腺成体レシピエントを生存させることができる。(NF)
Evidence for a Functional Second Thymus in Mice p. 284-287.
IMMUNOLOGY: Thoracic Thymus, Exclusive No Longer p. 206-207.

アルカンを引っ掻き回す(Alkane Shuffle)

石油資源の先行きが懸念されている今日、輸送車両の燃料として使えるよう、変換可能な炭化水素原料が注目さえている。オレフィンメタセシスは炭素-炭素2重結合のどちら側の分子の断片でも交換するが、これは効率的に、かつ、広く利用される化学的プロセスとして確立している。しかし、飽和炭化水素の類似形質転換法に有効な触媒はほとんど知られていない。C-C 単結合の周りに再配置を可能にする技術は、石油以外の原料に由来する、より軽いアルカン(メタンからヘキサン)からの燃料合成に有用であろう。Goldman たち(p.257; Serviceによるニュース記事参照)は、2つの触媒を併用してアルカンメタセシス(alkane metathesis)を達成した。分子イリジウム触媒によって、まずアルカンを脱水素化してオレフィンを形成し、これを既に確立しているオレフィンメタセシス触媒で結合再配列する。イリジウム複合体は次に再配列された生成物を再水素化する。このようにして、2つのヘキサン等価物質はデカンとエタンに転換され、同時にオレフィンの段階で異性化から生じる少量の他のアルカンも得られる。(Ej,hE)
Catalytic Alkane Metathesis by Tandem Alkane Dehydrogenation-Olefin Metathesis p. 257-261.

胆汁の蓄積と肝臓再生(Bile Buildup and Liver Regeneration)

成長因子やサイトカインを含む多数の分泌性因子は、肝細胞増殖の制御に関与している。W. Huangたち(p. 233;Vogelによるニュース記事を参照)は、胆汁酸が、マウスにおいて、肝臓再生のための必須の刺激因子であることを報告した。胆汁酸が増加すると再生が刺激され、そして胆汁酸の増加には核内胆汁酸受容体FXRが必要とされる。著者たちは、FXRとおそらくはその他の核内受容体とが内在性代謝物レベルを検知して、肝臓の機能的能力を決定する、という肝臓サイズを決定するための恒常性機構を提案した。損傷の結果として肝臓機能が低下した場合、結果的に生じる胆汁酸の蓄積がFXRを活性化し、それがシグナル伝達経路を刺激して、肝臓を胆汁酸の毒性から保護し、そして過負荷に対処するために肝臓成長を促進するのである。(NF)
Nuclear Receptor-Dependent Bile Acid Signaling Is Required for Normal Liver Regeneration p. 233-236.

生化学的量子トンネル効果

酵素がプロトン移動を容易にするために量子トンネル効果を使うことを促進させていたかどうかは、重要な議論すべきトピックの1つである。Masgrauたち(p. 237; BenkovicとHammes-Schifferによる展望を参照)は、芳香族アミン脱水素酵素によるトリプタミン酸化に対しての反応経路を原子レベルで記述している。プロトン移動は距離0.6 オングストロームを越えるトンネル効果によって支配される反応で起きている。トンネル効果は、反応座標に沿った長い範囲の運動を必要としないが、プロトン-アクセプタ距離を減少させる短い範囲の運動によって促進される.(hk)
Atomic Description of an Enzyme Reaction Dominated by Proton Tunneling p. 237-241.
BIOCHEMISTRY: Enzyme Motions Inside and Out p. 208-209.

植物の水分バランスの制御(Controlling a Plant's Water Balance)

植物は、葉にある小さな孔である気孔を通して、自分の水分の多くを失う。それら気孔の開閉とそれによる植物の水分管理のかなりの部分は、少なくとも部分的にはホルモンであるアブシジン酸(ABA)の制御の下にある。Mishraたちはこのたび、気孔の孔の開閉におけるABA間のシグナル経路を解明した(p. 264)。この機構の理解は、水分の利用効率と乾燥への耐性を向上させた植物を生み出すのに用いられる可能性がある。(KF)
A Bifurcating Pathway Directs Abscisic Acid Effects on Stomatal Closure and Opening in Arabidopsis p. 264-266.

配偶子認識と生殖の成功(Gamete Recognition and Reproductive Success)

受精に際してある種が生殖に成功することを保証するには、卵と精子が適合しなければならない。ウニ(Strongylocentrotus franciscanus)を使ったフィールド研究で、Levitanと Ferrellは、種特異性に関与する、高度に多形性を有するバインディン配偶子認識タンパク質を形作る選択的因子を調べた(p. 267)。オスの生殖の成功率は、まれな遺伝子型のものに比較して、当たり前の遺伝子型のもので最大であった。しかしながら、当たり前の遺伝子型のメスは、まれな遺伝子型のメスの半分程度しか生殖の成功をしなかった。さらに、精子密度が低い場合には当たり前のバインディン対立遺伝子が選択されたが、精子密度が高い場合には、まれなバインディン対立遺伝子が選択された。放卵密度と遺伝子型頻度の間の相互作用は、異なった種が異なったレートで進化するのはなぜか、について洞察を提供するものである。(KF)
Selection on Gamete Recognition Proteins Depends on Sex, Density, and Genotype Frequency p. 267-269.

非リボソーム性ペプチド合成(Directing Nonribosomal Peptide Synthesis)

非リボソーム性ペプチド合成酵素(NRPSs)は、ペプチジル担体タンパク質(PCPs)がアシルアデニル酸形成(A)領域とペプチド結合形成(C)領域との間でペプチド中間物を伝達する組立ラインを介して作用する。Koglinたちはこのたび、成長中のペプチド鎖を保持する補助因子に対して、PCPがいかにして新たな方向付けをするかを示した(p. 273)。アポ(apo)およびホロ(holo-)PCPの双方は、2つの安定な高次構造に存在しており、それらのうち1つは共通な高次構造である。この二重の2状態平衡が補助因子の方向をもった移動を促進し、A領域およびC領域との特異的相互作用を調節している可能性がある。(KF)
Conformational Switches Modulate Protein Interactions in Peptide Antibiotic Synthetases p. 273-276.

肥満への遺伝の関係?(Genetic Link to Obesity?)

肥満はある程度遺伝によるものと考えられているが、関与しうる遺伝子は非常に多数あり、しかも各遺伝子は小さな効果しか及ぼさないため、肥満の原因となる遺伝子を見つけることは難しい。Herbertたち(p.279)は、86,000以上の遺伝子多型(geneticpolymorphisms)に対するマーカーが付けられた、よく特徴付けられた被験者のグループのゲノムをスキャンした。マーカーの1つが、肥満のインデクスである体重インデクスに関係付けられたものであった。大人や子供含む5つの完全に独立したグループに対する追試では、この関係が4つのグループで成立した。その遺伝子多形(polymorphism)は、全身の体脂肪代謝(global fat metabolism)に関係する遺伝子の上流(upstream)に位置しており、潜在的にその機能に影響を与えている。(TO)
A Common Genetic Variant Is Associated with Adult and Childhood Obesity p. 279-283.

.微粒子による影響(Particulate Impact)

エアロゾルは、主に雲の形成やエアロゾルと太陽放射との相互作用によって、気候に影響を及ぼす。人為的なエアロゾル放出は、かなりよく記録されているが、北方圏森林(boreal forests)から放出される生物によって生成される揮発性有機性炭素(BVOC :biogenicvolatile organic carbon )などの、自然によるエアロゾル放出についてはあまり知られていない。Tunvedたち(p.261)は、スカンジナビア北方圏森林が気候に関連するエアロゾルの天然の流れ(natural fluxes)をかなりの量で供給していることを示し、人為的なエアロゾル源がほとんどあるいはまったくない地域において、モノテルペン(monoterpenes)の放出量とガスー微粒子形成率とが直接の関係をもっていると提案している。(TO,nk)
High Natural Aerosol Loading over Boreal Forests p. 261-263.

分子の崩壊の道筋を選ぶ(Choosing the Path of Molecular Breakup)

分子には解離に至る多数の経路が存在しており、その断片が移動する道筋と方向を制御することにより、化学的素反応の結果の制御方法が与えられる可能性がある。Kling たち (p.246) は、数サイクルの光学的パルスの生成における最近の成果を用いている。そこでは、振幅、周波数、位相をすばらしい精度で制御することが可能である。彼らはそのパルスを、重水素分子の解離を調べることに適用し、そのパルス波形の操作が、イオン放射の方向に対して著しい依存性があることを示している。(Wt)
Control of Electron Localization in Molecular Dissociation p. 246-248.

遺伝子制御における染色体間および染色体内相互作用(Inter- and Intrachromosome Interactions in Gene Regulation)

染色体内ループを介して起きる染色体内の長い範囲の相互作用は、重要な遺伝子調節性相互作用を確立することがある。たとえば、マウスの第7番染色体上のインスリン様成長因子Igf2/H19座位にある刷り込み制御領域(ICR)は、遠くのエンハンサーをプロモーター領域に持ち込み、遺伝子転写を増加させるのに関与している。Lingたちはこのたび、染色体内相互作用だけでなく染色体間相互作用もIgf2/H19のICRによって仲介されていることを示している(p. 269; またSpilianakisとFlavellによる展望記事参照のこと)。母系のIgf2/H19のICRは、父系の第11番染色体上の特異的領域と相互作用する。この相互作用は、あるICR結合タンパク質を必要とし、第11番染色体上の相互作用する遺伝子の発現の制御において役割を果たすようである。(KF)
CTCF Mediates Interchromosomal Colocalization Between Igf2/H19 and Wsb1/Nf1 p. 269-272.
MOLECULAR BIOLOGY: Managing Associations Between Different Chromosomes p. 207-208.

非翻訳配列の機能の保存(Functional Conservation of Noncoding Sequ)

遺伝子配列は、発現パターンさえも、進化の歴史を通して保存されるが、制御配列の保存についてはあまり理解されていない。Fisherたちは、トランスポゾンをベースにした急速な遺伝子導入戦略をゼブラフィッシュに対して開発し、非翻訳配列の機能の保存を研究した(3月23日オンライン発行のp. 276)。このアッセイは従来観察されてきたモザイク現象の問題を回避するものであった。ヒトにおけるRET(神経冠障害に伴う遺伝子)の発現を制御する配列はまた、調節エレメント間での顕性配列保存を欠いていたにも関わらず、ゼブラフィッシュにおいても適切な組織特異的発現を示したのである。(KF)
Conservation of RET Regulatory Function from Human to Zebrafish Without Sequence Similarity p. 276-279.

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