AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


[インデックス] [前の号] [次の号]

Science January 27, 2006, Vol.311


冷凍形状(Frozen Forms)

水は凍るときに六角形の板状に、様々な方向に様々な速度で成長し、水と氷の境界に不純物が捕捉される。Devilleたちは(p. 515、Holloranによる展望も参照)、この効果を活かし、セラミック粒子の濃厚懸濁液から多孔性物質を生成し、さらに2番目の物質を充填して複合材料を作った。次にコロイド状の粒子を取り去ることで酸化アルミニウムなどの2番目の材料でできた多孔性構造体が生成される。著者等は、真珠母と骨組織を例に、このような複雑な構造体を複製する方法を示している。(Na)
Freezing as a Path to Build Complex Composites p. 515-518.
MATERIALS SCIENCE: Making Better Ceramic Composites with Ice p. 479-480.

バイオ燃料資源(Above-Ground Resources)

化石燃料の供給が確実に減少するにつれ、植物由来の材料を再生可能な代用品として用いる研究がさかんになっている(Kooninの論説を参照)。Ragauskas等は(p.484)、原料の供給を強化するための植物遺伝研究から植物資源を実用的な燃料やファインケミカル前駆物質へと分解するための酵素や他の触媒的手法にいたる、本分野の動向を概説している。大規模に燃料精製のインフラを変更することの経済的なチャレンジや利益についても言及されている。エタノールは再生可能な液体燃料として既に用いられているが、しかしトウモロコシとセルロースからの製造はエネルギーを多量に消費し、かつ、製造に関わる全プロセスで消費されるエネルギーは生成されるエネルギーより多い、という分析もある。Farrellたちは(p. 506)、関連する研究を厳格に分析した結果、生成されたエネルギーが消費されたエネルギーより少ない、という研究には不備があることを発見した。全ての研究は、トウモロコシからエタノールを製造する技術はガソリンに比べ石油の消費を大幅に減少することを示している。しかしながら、エタノール燃料により温室効果ガスの発生を大幅に減らすためには新しい製造手法が必要である。(Na,nk)
The Path Forward for Biofuels and Biomaterials p. 484-489.
Ethanol Can Contribute to Energy and Environmental Goals p. 506-508.

不均衡な超流動(Unbalanced Superfluidity)

フェルミオンの対形成は、金属における超伝導性やヘリウム−3の超流動性の中心をなすものである。これらにおいては両スピンの数はおおよそ等しい。特別の対形成状態は、中性子星中のクォーク物質の対形成や強く磁化した超伝導物質のような不均衡な両スピンの数に対して発生すると予想されている。しかしながら、このような系を実験的に実現することは困難である。混合原子スピン状態からなる冷たい原子雲が利用できると、分子の Bose-Einstein 凝縮物質と Bardeen-Cooper-Schrieffer 超流動との間のクロスオーバーを実験的に探索することが可能となる。二件の研究が、二つの異なるスピン状態が不均衡な分布状態にあるリチウム−6からなる、相互作用下のフェルミ気体の量子的特性と相転移について述べている(Choによる 2005年12月23日のニュース解説を参照のこと)。Zwierlein たち (p.492、2005年12月22日のオンライン出版)は、スピン数の不均衡の関数として凝縮部分と超流動状態を調べ、超流動状態は、分布の不均衡に対しては驚くほど変動が少ないことを見出した。 Partridgeたち (p.503、2005年12月22日のオンライン出版) は、混合スピン系の空間的な構造と分極について詳述している。(Wt)
Fermionic Superfluidity with Imbalanced Spin Populations p. 492-496.
Pairing and Phase Separation in a Polarized Fermi Gas p. 503-505.

左巻きに向きを変える(Tracking a Turn to the Left)

半導体の単層カーボンナノチューブ(SWNTs)は近赤外領域でのバンド-ギャツプ蛍光を示し、SWNTを取り巻く誘電環境によりバンド-ギャツプエネルギーが変化する。Hellerたち(p.508)は、このような環境の影響は非常に鋭敏で、SWNTを取り囲んでいるDNAが未変性のB型なのかどうか、或いは水銀やコバルトといった2価イオンの存在下でDNAが左巻きのZ型になる際のより低いバンド-ギャツプエネルギーにシフトしているかを識別できる事を示している。このようなエネルギーシフトは緩衝液中に存在する幾つかの異なるSWNT材料に関して知られており、全血のような高度に散乱性の媒体におけるマイクロモル濃度程度のHg+2を検知するのに利用される。(KU)
【訳注】全血(whole blood):全く分画されていない血液
Optical Detection of DNA Conformational Polymorphism on Single-Walled Carbon Nanotubes p. 508-511.

その場所はどれほどの高度だったの?(How High Was It?)

雨中の酸素の同位体比は、高度や温度が上昇するたびに減少する。これを利用して地質時代の、ある場所の高度を決めることができる。しかし、嵐の経路や季節的雨量変動は不確定要素となって加わる。Ghoshたち(p. 511; Poage and Chamberlainによる展望記事も参照)は、炭酸塩鉱物中の13C と 18O 同位体結合比の温度依存性を利用した温度計を開発した。この独立した温度の見積もり値は気温減率(高度に比例した温度の下降率)や、土壌中に生成する鉱物が生成された高度を推測するためのデータと関連づけられる。ボリビアの土壌炭酸塩分析の結果は、その高地が600万年前から 1000万年前の間に上昇したことを示している。(Ej,hE,og)
Rapid Uplift of the Altiplano Revealed Through 13C-18O Bonds in Paleosol Carbonates p. 511-515.
GEOCHEMISTRY: Rising Mountain Ranges p. 478-479.

海洋微生物の遺伝子生態学(Marine Microbial Gene Ecology)

外洋においては、大型プランクトン様生物についてだけでなく、微生物プランクトンについても、深度ごとの層構造が生じる。DeLongたち(p. 496)は、北太平洋亜熱帯循環(North Pacific Subtropical Gyre)の海柱における微生物をサンプリングし、ゲノム配列を決定した。ゲノム配列同定の目的は主要な環境特性を突き止めることにある。深度200メートルよりも上層では、特徴的な透光層の配列が、鉄を必要とする光合成微生物と移動性微生物に典型的なものであることが示され、そのほとんどが、Euryarchaeaを伴うProchlorococcus(それ自体も高-光耐性分類群と低-光耐性分類群に分類される)とPeligabacterであった。驚くべきことに、透光層微生物は、高い確率でウィルス感染しているという証拠が示された。深度200メートル以下では、Chloroflexi、SAR202、Planctomycetales、およびCrenarchaeaが見いだされ、線毛を生成し、そして多糖および抗生物質を合成する多数の"接着性"微生物であることを示唆する配列を伴っていた。(NF, og)
Community Genomics Among Stratified Microbial Assemblages in the Ocean's Interior p. 496-503.

海洋生物の分散パターン(Dispersal Patterns of Marine Population )

海洋生物の個体間の分散規模、つまり、集団間の関連性は、扱いが困難なことで有名である。Cowen たち(p. 522, Steneckによる展望記事、および、オンライン出版2005.12.15)は、複雑な海流が洗うカリブ海の沿岸魚類の幼魚の分散パターンを解析した。典型的な分散距離は、たった10キロから100キロメートルの間であり、分散の潜在力の鍵となる因子は幼魚の移動性である。これらロバストな(はっきりとわかる)集団間関連性レベルを正しく推定することは、海洋資源の空間的管理を行い、侵入種や海洋環境中の病気の拡大を理解する上で大きく関わっている 。(Ej,hE,NF)
Scaling of Connectivity in Marine Populations p. 522-527.
ECOLOGY: Staying Connected in a Turbulent World p. 480-481.

スズムシの声は結構大きい(The Not-So-Quiet Cricket)

われわれ自身の行動は、例えば大声で叫んだりしているあいだなど、しばしば強い感覚フィードバックを生成する。われわれは、われわれの聴覚伝導路の自己誘導性脱感受性をどのようにして防止し、そして自分で発生させた音と外部音とをどのようにして識別しているのだろうか?随伴発射と呼ばれる阻害性神経シグナルが脳内の運動野から感覚野へ送られ、それにより、われわれが知覚情報を生成するまさにその時に反応を抑制する。PouletとHedwig(p. 518)はモデルシステムとしてスズムシを使用して、外部情報から自己生成性感覚フィードバックを区別するために必要不可欠な随伴発射に関する細胞学的基礎を特定した。スズムシの随伴発射介在ニューロンは鳴き声パターン発生器により駆動され、そして単シナプス的に聴覚伝導路の中心的要素を阻害する。(NF)
The Cellular Basis of a Corollary Discharge p. 518-522.

既存の骨格に活性部位を組み込む(Working an Active Site into an Existing Scaffold)

工業的な化学反応を触媒する酵素を設計することは、タンパク質工学の一つの目標である。合理的な設計手法は進歩してきたが、構造と機能との相関関係があまりよく理解されていないため、その進歩も妨げられてきた。Parkたち(p. 535;Tawfikによる展望記事を参照)は、既存のタンパク質骨格の機能を変化させるための自然進化を模倣するという戦略を使用した。いくつかの活性部位ループを挿入し、欠失し、そして置換し、その後に点変異を生じさせることにより、彼らは、グリオキサラーゼIIのαβ/βαメタロヒドロラーゼ骨格中にβ-ラクタマーゼ活性を導入した。この方法をその他の骨格にまで拡張することにより、実際に応用することができる新しい酵素活性を生み出すことができるだろう。(NF)
Design and Evolution of New Catalytic Activity with an Existing Protein Scaffold p. 535-538.
BIOCHEMISTRY: Loop Grafting and the Origins of Enzyme Species p. 475-476.

森林の中の異なる樹木の保持(Maintaining Different Trees in the Forest)

熱帯森においては樹木種の高度の多様性が維持されていることを説明する存在頻度依存モデルでは、局地的に珍しい種は一般的な種に比べ高い生存能力を持つことを予想している。 Wills たち (p. 527; Pennisiによるニュース記事参照)は、旧大陸、新大陸の7箇所の熱帯森の場所における、50ヘクタールの広大なネットワークから得られた長期的調査結果を示した。すべての場所において、森が老いるに従って多種方向へと、種の補充が増す結果、多様性は増加する。限定的で一時的なかく乱が生じると、以前の多様性レベルに復元させる力を保持しているはずであり、選択過程は種間の差を増加させやすい。(Ej,hE,NF,nk)
Nonrandom Processes Maintain Diversity in Tropical Forests p. 527-531.

ウィルスでクーガーの秘密に迫る(Viruses Reveal the Secrets of the Cougar)

自然保護論者と研究科学者は、宿主個体群の動態的個体数統計学(demography)の変化を記録するために、病原体を遺伝子タグとして使用することができるか、という考えについて議論を繰り返してきたが、これまでのところ、具体的な系を用いて行われた事はない。Biekたち(p. 538)は、非病原性ネコ免疫不全ウィルス(FIV)と、その自然宿主であり20世紀前半の厳しい狩猟圧から回復したネコ個体群としてのクーガーの、空間的分布および時間的分布を特定した。FIV等の進化速度が早いRNAウィルスのおかげで、宿主個体数の変化が遅速であるにも関わらず、宿主個体数が生態学的な時間スケールでどのようになっているかについての知見が得られる。(NF)
A Virus Reveals Population Structure and Recent Demographic History of Its Carnivore Host p. 538-541.

後シナプス肥厚の構築(Building the Postsynaptic Density)

後シナプス肥厚(PSD)は、神経シナプスの後シナプス側にある大型で動的なタンパク質複合体であり、入力シグナルを細胞質標的へと伝達するための補助をする。Shankタンパク質はPSDの深いところに存在しており、複合体構造の組織化に関与していると考えられている。Baronたち(p. 531)は、Shankタンパク質のαモチーフドメイン構造を決定し、隣り合って並んでいるらせん状線維により構成された大型のシート構造を形成することを示した。Shankタンパク質のシート構造は、PSD複合体を構築するためのプラットフォームを形成することができる。(NF)
An Architectural Framework That May Lie at the Core of the Postsynaptic Density p. 531-535.

[インデックス] [前の号] [次の号]