AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 13, 2006, Vol.311


シリコンの波打つ薄膜(Silicon Does the Wave)

優れた電気特性を示す可とう性の材料は、センサーやペーパーライクディスプレー等の数多くの応用にとって関心が高い。この種の材料には有機物が一般的である。というのは、シリコンウェハーといった通常の半導体の基板は曲げるには厚く硬すぎるからである。Khangたち(p.208,2005年12月15日のオンライン出版)は、ポリ(ジメチルシロキサン)からなる延伸ラバーにシリコン単結晶のリボン薄膜を形成した。応力を開放すると、シリコンはウエーブ状の形状をとり、引っ張っても圧縮しても何等問題が生じない。このような材料を用いると、トランジスターやダイオード等の数多くの電子コンポーネントが出来る。(KU,Ej,nk)
A Stretchable Form of Single-Crystal Silicon for High-Performance Electronics on Rubber Substrates p. 208-212.

光エレクトロニクスにおけるプラズモン(Plasmons in Optoelectronics)

未来のエレクトロニクス技術は、ナノスケールの電子回路と光回路のサイズとスピードとを結合したものとなるであろう。しかしながら、信号のスイッチングや増幅の役割を担う電子デバイスの長さのスケールは光の波長以下であり、信号の輸送や伝播に対しては、デバイスよりはるかに大きな導波管が必要である。Ozbay(p.189) は、表面における光吸収による電子の集団的励起である表面プラズモンを用いて、チップ上でエレクトロニクスとフォトニクスとを統合する可能性と問題点とを議論している。(Wt,nk)
Plasmonics: Merging Photonics and Electronics at Nanoscale Dimensions p. 189-193.

タイタンの雲(Titan’s Clouds)

土星の最も大きな第6衛星であるタイタンの厚くかすんだ大気に関する循環パターンのモデリングにより、Rannouたち(p.201,Lellouchによる展望記事参照)は、望遠鏡や衛星によって観測された様々なタイプの雲の形成を説明している。雲のミクロ物理学を含めた大気の大循環モデルでは、タイタンの窒素の豊富な大気中に見られるメタンやエタンの雲の分布を再現し、かつ恒久的な南極雲とより温暖な緯度で時々発生する雲の双方とも作り出している。(KU)
The Latitudinal Distribution of Clouds on Titan p. 201-205.
PLANETARY SCIENCE: Titan's Zoo of Clouds p. 186-187.

磁気論理ゲート(Magnetic Logic Gates)

量子セルオートマトン(QCA)に基づいたコンピュータ・アーキテクチャは、静電的なQCA(EQCA)か磁気的なQCA(MQCA)のいずれかで結合される一連の同一の、単純な、かつ双安定性のユニットから作られる。MQCAにおけるより高いカップリングエネルギーにより、高温での動作の可能性があるが、EQCAは低温でのみしか動作しない。Imreたち(p. 205; Cowburnによる展望参照)は、結合ナノマグネットシステムから3入力多論理ゲート(MQCA論理に関する構築ブロック)を作り、室温動作を実証している。彼らは、100MHzで動作するこのような1010個のゲートを持つチップが消費電力が0.1W以下であろうと見積もっている。(hk,Ej)
Majority Logic Gate for Magnetic Quantum-Dot Cellular Automata p. 205-208.
APPLIED PHYSICS: Where Have All the Transistors Gone? p. 183-184.

クリープに立ち向かう(Combating Creep)

セラミックスは粒界で変形し、高温での操作が必要なさいには、変形を防止するために不純物を意図的に付与しなければならない。Budanたち(p.212)はZ-コントラスト透過型電子顕微鏡を用いて、イットリウム(Y)原子が双結晶(bicrystal)アルミナの粒界の位置に浸透している事を見出した。Yイオンはアンドープの双結晶(bicrystal)におけるアルミニウムで生じるよりもより多くの結合とより強い結合を隣り合った原子と形成する。この種のより強い結合により、粒界すべりが抑制され、この事はYドーピングによるクリープ速度の顕著な低下を説明するものである。(KU, Ej)
Grain Boundary Strengthening in Alumina by Rare Earth Impurities p. 212-215.

反応のイメージング(Imaging Reactions)

数多くの高速化学反応に対し、個々の結合形成や結合切断がどのような反応次数で、そしてどのような反応速度でなされているかを、超短時間レーザパルスは正確に明らかにする。しかしながら、気相や液相における分子は絶えずランダムに動いており、そのため得られたデータはあらゆる配向に関する平均化したものであり、反応に関する空間的な特性に関しては何等の考察も与えない。Gessnerたち(p.219,2005年12月15日のオンライン出版)は、NOの二量体に関する光誘起による解離反応の研究でこの壁に取り組んだ。彼らは、放出された電子とイオン生成物の角度分布と同じく、イオン化による電子エネルギーを同時に測定した。フェムト秒の時間分解能を用いて、彼らは二量体の電荷分布に関する立体的な進化と、それに続くNOフラグメントを遊離する核の再配向を明らかにした。(KU,nk)
Femtosecond Multidimensional Imaging of a Molecular Dissociation p. 219-222.

Dicerを解剖する(Dissecting Dicer)

Dicerという酵素は二本鎖の (ds) RNAを切断することによって、約22ヌクレオチド(nt)長の小さな干渉性の(si) RNAを生成する。siRNAはRNA干渉(RNAi)の土台となるエフェクター分子である。MacRaeたち(p. 195)は、多鞭毛虫類のGiardia intestinalisという真核生物からの全長Dicerの構造を解明した。Giardia DicerはヒトDicerを極端に省略したDicerであり、2つのRNA分解酵素(RNase) IIIの領域とRNA結合PAZ領域から構成される。それにもかかわらず、このDicerはdsRNAを期待された25-ntのsiRNA断片に切断する。著者たちは、Giardia Dicerの構造が手斧(hatchet)のようなものと思っている。つまり、RNaseIII領域の間隔によってsiRNA 3'の特徴的オーバーハングが斧のブレード(刃身)のように機能する。また、長いαらせん状はハンドル(柄)のように機能し、ブレードのベースをRNA結合PAZ領域に接続する。RNaseIII領域の活性部位からPAZ領域のRNA結合ポケットまでの距離は65オングストロームで、A型dsRNAの約25塩基対に相当している。(An)
Structural Basis for Double-Stranded RNA Processing by Dicer p. 195-198.

時計を睨んでいる (Keeping an Eye on the Clock)

内因性の体内時計の一部として、PERとTIMという2つのタンパク質が細胞の原形質中でゆっくりと相互作用すると思われている。このプロセスは4〜6時間がかかり、その後二量体が細胞の核に入り、他の体内時計の成分と相互作用し、体内時計のフィードバックループの一つを終了させる。Meyerたち(p. 226; Dunlapによる展望記事参照)は、生きているショウジョウバエ細胞中でPERとTIMの両方にタグ標識をつけた。この標識は、2つのタンパク質が密に近づくと、蛍光信号を発生する。PERとTIMは予期されるように4〜6時間のあいだ相互作用したが、核に入る前に解離したのは予想外であった。核局在化の範囲はPERとTIMの原形質内濃度に依存していなかった。従って、体内時計に関する基本的な仮定を考え直す必要がある。(An)
PER-TIM Interactions in Living Drosophila Cells: An Interval Timer for the Circadian Clock p. 226-229.
PHYSIOLOGY: Enhanced: Running a Clock Requires Quality Time Together p. 184-186.

抑制型ニューロンを刺激する(An Exciting Inhibitory Neuron)

既に30年前に発見されたことであるが、軸索間細胞あるいはシャンデリア細胞(Chandelier cells)は、今まで知られている中で最も特異的な抑制型神経伝達物質のγ−アミノ酪酸(GABA)作動性の細胞であり、教科書では軸索への抑制をするために戦略的に配置されていることを図解するためによく用いられる。Szabadicsたち (p. 233)は、シナプス後細胞を抑制する代わりに、軸索軸策間細胞はシナプス後細胞を興奮させることができ、その結果前例の無い現象を皮質に生じる。単一のGABA作動性(GABAergic)細胞が皮質ネットワークを確実に活性化することが出来るのだ。(Ej,hE)
Excitatory Effect of GABAergic Axo-Axonic Cells in Cortical Microcircuits p. 233-235.

欠陥を持ったデング(Defective Dengue)

デングウイルスは熱帯地方全体に渡り、5000万人に感染していると見積もられているが、変異体ウイルスによって爆発的発症を引き起こすことがある。これにはいくつかのウイルス株が含まれており、逆説的であるが、欠陥を持つウイルス株が現在流行している。Aaskov たち(p. 236)は、この欠陥株は相補機能によって存続する---つまり、欠陥ウイルスは、同一細胞に感染する機能的ウイルスからタンパク質を失敬する。充分な数の宿主が異なる株のウイルスに複数の感染をしている場合、欠陥ウイルス株は存続し、病気の疫学に影響を及ぼす。例えば、ミャンマーでは、この変異体の伝播は、他の関連株を減退させている。(Ej,hE)
Long-Term Transmission of Defective RNA Viruses in Humans and Aedes Mosquitoes p. 236-238.

マグネトソーム(Magnetosome)をモニタリングする(Monitoring Magnetosomes)

マグネトソーム(Magnetosome)は、ある種の細菌に見つかる微小な膜であり、内部にマグネタイト(磁鉄鉱)を含んでいる。Komeiliたち(p. 242, 12月22日号、オンライン出版)は、このマグネトソームは、以前推察されていた個々の磁鉄鉱を含んだ小胞体ではなく、細菌の原形質膜から変形した陥入であるという証拠を示した。更に、マグネトソームはアクチン様の繊維状タンパク質の媒介によって細胞内に整列している。マグネトソームが組立てられていることや、細胞内に組織化されていることが、細胞小器官の少ない細菌と細胞小器官に富む真核生物をつなぐ飛び石の役目をしているのかも知れない。(Ej,hE)
Magnetosomes Are Cell Membrane Invaginations Organized by the Actin-Like Protein MamK p. 242-245.

ウイルス性感染中のタンパク質ネットワークの位相幾何学(Protein Network Topologies During Viral Infection)

ウイルス感染は宿主にも感染するウイルスにも劇的な変化を引起す。Uetzたち(p. 239, オンライン出版、12月8日 2005; Bakerと Chantによる展望記事も参照)は、 ウイルス性タンパク質のサブセットをyeast-two-hybrid法によって分析し、2つのヘルペスウイルス(herpesviruses)である、カポジ 肉腫に関連するヘルペスウイルと、水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus)とが、タンパク質相互作用ネットワークの幾何学的位相を共有していることを見つけた。この観察された位相は、今まで研究されてきた細胞ネットワークとは異なっている。ウイルス性ネットワークは、単一で強く結びついたモジュールに似ており、細胞ネットワークは個々の部分機能モジュールに分離した形で組織化されている。著者たちはシミュレーションによって、感染がウイルスタンパク質の相互作用ネットワークを変化させ、それが宿主細胞の(位相幾何学的)ネットワークにもっと類似したネットワーク形態に変化させるのだろう。(Ej,hE)
Herpesviral Protein Networks and Their Interaction with the Human Proteome p. 239-242.
SYSTEMS BIOLOGY: When Proteomes Collide p. 187-188.

反芻を繰り返して(Upon Reflection)

地球の上部マントルと下部マントルの界面である660キロメートルの深部で反射するSS地震波は地球全体で常に観測されているが、反射PP地震波は検出されなかったためマントル組成を考える上での大きな問題であった。Deuss たち(p. 198)は、このPP地震波を地域ごとに加算した地震データから検出した。この境界は極めて複雑で、地震波は時には複数の深度から反射し地球規模で平均化すると信号が互いに消しあってしまうのである。著者たちは、深さ660キロメートル近辺の温度と圧力で生じる鉱物の相変化をモデル化した。彼らの観察した構造は、深さ640キロと720キロの間に単一反射面と二重反射面があったが、これはマントル中のパイロライト(pyrolite)成分と一致し、相変化はマントル中のガーネット成分と一致していた。(Ej,hE,nk)
The Nature of the 660-Kilometer Discontinuity in Earth's Mantle from Global Seismic Observations of PP Precursors p. 198-201.

イオンの説明(Accounting for Ions)

溶液中におけるイオンの界面での分布は、電気化学や地球化学において、更に生体膜やタンパク質の相互作用の理解に重要な役割を果たしている。グイ-チャツプマン(Guoy-Chapman)理論のような古典的な記述は平均場のアプローチであり、詳細なる分子構造を無視したものである。Luoたち(p.216)はX-線反射を用いて、ニトロベンゼン中のテトラブチルアンモニウム(TBA)テトラフェニルボレート溶液(0.1〜1モル)と水溶液のTBAブロマイドの間の界面におけるイオン分布を測定した。彼らは、そのデータを記述する上でGuoy-Champan理論からの大きな乖離を見出したが、一方、動力学的な分子シミュレーションでは調整パラメータを用いることなく、ポアソンーボルツマンの方程式を用いて分布を予測する事が出来る単一イオンの平均的な力のポテンシャルを得る事が出来た。(KU)
The Nature of the 660-Kilometer Discontinuity in Earth's Mantle from Global Seismic Observations of PP Precursors p. 198-201.

病気への感受性(Particularities of Disease Susceptibility)

ある種の植物は特定の細菌による感染に感受性であるが、そうでないものもある。この違いは特定の細菌のエフェクター(effector)タンパク質に対する植物の防御機構の存否に依存する。シュードモナスとシロイヌナズナ(Pseudomonas and Arabidopsis)に関する研究で、Janjusevic たち(p. 222, 12月22日号オンライン出版)は、細菌のエフェクタータンパク質のある1つの領域の分子構造を解析した。この領域は真核生物のユビキチンリガーゼ複合体のU-boxタンパク質に類似していた。この細菌タンパク質は宿主細胞のE3ユビキチンリガーゼの模倣物として機能しているのだろう。また、植物の防御機構には、感染した細胞の制御された細胞死も含まれる。感受性の高い植物においては、このプロセスは細菌エフェクタータンパク質によって乱されるが、多分内在性ユビキチン結合経路が妨害されるためだろう。(Ej,hE)
A Bacterial Inhibitor of Host Programmed Cell Death Defenses Is an E3 Ubiquitin Ligase p. 222-226.

選択的スプライシングとPrader-Willi症候群(Alternative Splicing and Prader-Willi Syndrome)

染色体領域15q11-q13は、脳に特異的な低分子核小体RNA(nucleolar RNA=snoRNA)、HBII-52の47個の複製を含んでいる。Kisoreたち(p. 230,オンライン出版2005年12月15日)は、エキソンのサイレンサをマスクすることによって、このsnoRNAが、セロトニン受容体をコードする特定のpre-メッセンジャーRNAを選択的スプライシングを制御していることを示した。Prader-Willi症候群の患者は、このsnoRNAを発現しておらず、このセロトニン受容体の別のアイソフォームを発現している。以前は、なぜPrader-Willi刷り込み領域の欠損が発病させるのかが良く分かってなかった。なぜなら、その遺伝子のほとんどはタンパク質をコードしてなかったから。(Ej,hE)
The snoRNA HBII-52 Regulates Alternative Splicing of the Serotonin Receptor 2C p. 230-232.

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