AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 28, 2005, Vol.310


解明されつつある前立腺ガン遺伝学(Demystifying Prostate Cancer Genetics)

ヒトの白血病患者の遺伝子には、特徴的な遺伝子の再配列が見られ、この再配列の分析によって白血病のメカニズムの洞察が可能となるとともに、Gleevecのように有望な治療法の開発が促進される。より一般的な固形ガンにも遺伝子再配列は生じるが、これは驚くほど複雑であるだけでなく非特異的であると思われている。Tomlinsたち(p.644; および、Marxによるニュース記事も参照)は細胞遺伝学的複雑さを通じて再配列を分類して(sort)、腫瘍に高率で生じる再現性のある遺伝子再配列を見つける手法を開発した。この方法はCOPA (cancer outlier profile analysis;ガンの例外事象の解析)と呼ばれ、大多数のヒト前立腺腫瘍は染色体再配列が見られ、アンドロゲン調節された遺伝子のプロモータ シークエンスを特異的転写因子遺伝子に融合する。その結果、腫瘍中に転写因子遺伝子を過剰発現することになる。これらの事実からCOPAは、同様の細胞遺伝子学的複雑さを有する他の固形ガンにも再現性を以て応用できるだろう。(Ej,NF)
Recurrent Fusion of TMPRSS2 and ETS Transcription Factor Genes in Prostate Cancer
p. 644-648.

統計と量子気体を算出する(Counting Statistics and Quantum Gases)

およそ50年前、Hanbury Brown と Twiss は、古典的な熱的光源から放射される光子は相関を有しているが、光源がコヒーレントなもので置き換えられると、その相関は消失することを示した。彼らの実験は現代量子光学の誕生を刺激するものであった。Schellekens たち (p.648, 9月15日にオンラインで出版;Knight による展望記事を参照のこと) は極低温量子気体で類似の振る舞いを観測し、原子的な相関は原子の源の特性と共に変化することを示している。熱的光源に類縁の非縮退量子気体には相関が存在するが、その気体がさらに冷却されると、コヒーレントなアンサンブル(ボース-アインシュタイン凝縮物質)を形成し、その相関は消滅する。(Wt)
Hanbury Brown Twiss Effect for Ultracold Quantum Gases
p. 648-651.
PHYSICS:
The Observation of Matter Wave Fluctuations

p. 631-632.

光による光変調(Opto-Optical Modulation)

ファイバー光通信が限りなく進歩するには、光信号の変調周波数が増加できることが鍵であろう。現在の代表的電気光学変調器は100ギガヘルツ(GHz)以下で動作する。Carterたち(p.651)は数テラヘルツ(THz)で光応答する半導体量子井戸構造に関する量子光学効果について述べている。 その量子光学効果は、原子と分子の三準位システムに見られる効果に類似している。つまり、ポンプビームが2つのより低い準位の間で干渉性発振を誘起し、プローブビームが低い準位の1つと共鳴して上の準位へ遷移するさいに、プローブビームにとって電磁気-誘起による透明性を作り出している。変調プロセスを全て光学的に制御できれば、より高い周波数領域での通信が可能になるはずである。(hk)
Quantum Coherence in an Optical Modulator
p. 651-653.

マグマの活動が保持されている(Magmatic Activity Maintained)

海洋の地殻形成に関する単純な見方は、海嶺が広がるさいにマグマが上昇し、動き去るさいにマグマが冷却するというものである。冷却の過程で、磁性の鉱物が地球磁場の方向を保存し、海床を横切る対称的な磁気ストライプのパターンを作る。しかしながら、この単純なプロセスを評価するのは難しく、その理由は海洋地殻の殆どでジルコンというジルコニウムのケイ酸塩鉱物が欠如しているためである。ジルコンにはマグマの結晶化の年代を最も正確に決定できる十分な量のウランを含んでいる。Schwartzたち(p.654)は、ゆっくりと広がりつつある海嶺の一つ、南西インド洋海嶺に沿って形成された海洋地殻からのジルコンを分離・同定した。マグマの固体化とそれに伴う岩石磁化の固定化の遥か前に 、深部でかなりのマグマ固体化が既に地殻の個々の部分で始まっていた。(KU,tk,nk)
Dating the Growth of Oceanic Crust at a Slow-Spreading Ridge
p. 654-657.

北極の温暖化に関する重要な真実(Ground Truth About Arctic Warming)

温室ガスによる太陽輻射の吸収により、近未来の地球で起こる表面温暖化に最も深刻な影響をもたらす可能性があるが、特殊な地域では他のプロセスも同程度か、或いはそれ以上の影響をもたらす。Chapinたち(p.657,9月22日のオンライン出版;Foleyによる展望記事参照)は北極アラスカでのフィールドデータを解析して、夏場でのアルベド(albedo:太陽の入射光に対する反射光の比)の変化がそこでの温暖化傾向にどのように作用しているかを示している。現在では雪の無い季節が長く続く事で引き起こされ、将来的には潅木の茂る領域が広がることで引き起こされるこの反射率変化の影響は、温室ガスの増加によってもたらされるものと同程度の大きさのものである。この反射率の変化は表面の温度上昇を2〜7倍増幅させる可能性を持っている。(KU)
Role of Land-Surface Changes in Arctic Summer Warming
p. 657-660.
ATMOSPHERIC SCIENCE:
Tipping Points in the Tundra

p. 627-628.

溶融金属の微視的探査(Microscopy of Melting Metal)

固液界面の特性は、液相エピタキシャル成長、ぬれ、液相での合体、結晶成長、潤滑のようなプロセスの理解の鍵を握るものである。金属では、溶融が起こるのが高温であるため、この界面の詳細な研究は困難である。先端的な高分解能透過型電子顕微鏡を用いて、Oh たち (p.661, 10月6日にオンラインで出版)は、アルミナ基板に乗っているアルミニウムのぬれを研究し、秩序構造を有する固体に隣接した液体原子が結晶性の秩序を有することを観察した。アルミナの成長は、固液界面に沿う微視的なコラムからの酸素の界面輸送によって促進された。(Wt)
Ordered Liquid Aluminum at the Interface with Sapphire
p. 661-663.

細菌の毒性とコレラ感受性の阻害(Inhibiting Bacterial Virulence and Cholera Susceptibility)

細菌の病原性の遺伝子生成物は創薬のターゲットとしては忘れられていた。というのも、毒性の不活性化では殺菌作用や増殖阻害作用は生み出されないためである。Hungたち(p. 670、10月13日にオンラインで出版)は、コレラ毒素の遺伝子(ctxA)の発現を妨害する分子について化学物質ライブラリをスクリーニングし、ビブリオコレラ(Vibrio cholera)における病原性遺伝子制御の阻害剤、4-[N-(1,8-ナフタルイミド)]-n-酪酸を同定した。この化合物はvirstatinと呼ばれ、転写因子、ToxT、すなわちctxA活性化因子の活性に影響を及ぼす。ToxT活性は、V. choleraと大腸菌(Escherichia coli)の双方でvirstatinにより阻害される。予想されたとおり、virstatinは細菌の増殖には影響を与えなかったが、それにもかかわらず、マウスにおいてV.choleraの腸内定着に対して劇的な作用を有していた。(NF)
Small-Molecule Inhibitor of Vibrio cholerae Virulence and Intestinal Colonization
p. 670-674.

ジャストサイズ(Just the Right Size)

昆虫の最終的なサイズは、2種のパラメータ:その成長速度およびその成長期間の長さにより調節される。主要なステロイドホルモンであるエクジソンは、成長期間の長さを調節する発生タイマーとして機能する。Colombaniたち(p.667;King-JonesとThummelによる展望記事を参照)はここで、ショウジョウバエの前胸腺由来のエクジソンが、インスリン/インスリン様成長因子のシグナル伝達を阻害することにより、動物が成長する速度も制御することを示した。この機能により、生物の最終的なサイズがどのようにして決定されているのかを理解するための概念的枠組みが得られ、そしてステロイドホルモンとインスリンシグナル伝達との間の関連性を明らかにしている。(NF)
Antagonistic Actions of Ecdysone and Insulins Determine Final Size in Drosophila
p. 667-670.
DEVELOPMENTAL BIOLOGY:
Enhanced: Less Steroids Make Bigger Flies

p. 630-631.

針の先(The Tip of the Needle)

III型分泌装置は、細菌の細胞質から標的となる真核生物宿主細胞の細胞質へとタンパク質を輸送するために働き、そのような分泌装置には十分に明らかにされた針状構造が含まれている。その針の先端は、まだ十分に特徴が明らかになっていないが、細菌-細胞相互作用において中心的な機能を果たすことが示されている。Muellerたち(p. 674)はここで、エルシニアのIII型分泌装置の針が、タンパク質輸送に関与する"輸送体"の一つである重要な防御抗原性タンパク質、LcrVから構成される特徴的な構造を先端に持っている、という証拠を示した。(NF)
The V-Antigen of Yersinia Forms a Distinct Structure at the Tip of Injectisome Needles
p. 674-676.

食欲と適応性の脳(Appetite and the Adaptive Brain)

食欲とエネルギーバランスは脳の視床下部領域で制御されている。今回は、裏付けとなる神経回路を規定する点について、際立った進展があった。2件の研究により、これらの摂食行動回路が厳密には"生得性"のものではなく、むしろ成体においても著しい柔軟性を示す、という新しい概念が強調されている。Luquetたち(p.683)は、成体マウスにおいて食物摂取の制御に必ず必要とされる特定のニューロンを新生児マウスにおいて取り除いても、新生児マウスにおいては障害を起こさないことを示しており、このことから、摂食行動回路は、生後間もなくのあいだは変化に対して容易に適応できることを示唆している。Kokoevaたち(p. 679;Vogelによるニュース記事を参照)は、成体マウスにおいて持続的な体重減少を引き起こす神経栄養性因子が、視床下部ニューロンの増殖を刺激することで、その作用を行っているという、驚くべき観察を行った。この神経発生の薬理学的阻害には、神経栄養性因子が長期的な体重減少を引き起こす能力が含まれていた。従って、視床下部の柔軟性により、体重制御に対して、別の潜在的に重要な複雑な階層が存在することが明らかになった。(NF)
NPY/AgRP Neurons Are Essential for Feeding in Adult Mice but Can Be Ablated in Neonates
p. 683-685.
Neurogenesis in the Hypothalamus of Adult Mice: Potential Role in Energy Balance
p. 679-683.

コウモリ再び(Bats Again)

新たに発生する病気についての野生動物の宿主を同定する試みは、野生動物の糞便や、交易、さらには最近市場で感染の流行を示している家畜についての分析に頼ってきた。Liたちは、中国の野生のコウモリを彼らの調査の標的に定め、いくつかの遺伝的に多様なコロナウイルスを発見した(p. 676、9月29日にオンライン出版;また9月30日のNormileによるニュース記事とDobsonによる展望記事)。そのうちの1つは重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスと非常に類似しているものである。こうした発見は、コウモリがこのウイルスの野生の保有宿主(レゼルボア)であることを意味するものである。(KF)
Bats Are Natural Reservoirs of SARS-Like Coronaviruses
p. 676-679.
VIROLOGY:
What Links Bats to Emerging Infectious Diseases?

p. 628-629.

配列が構造を定める(Sequence Sets Structure)

タンパク質のアミノ酸配列によってその3次元構造が決定される、とAnfinsenが明らかにした1973年以来、特定の配列にとって最低のエネルギーをとる高次構造を決定することによってタンパク質折り畳みを予測することが課題となってきた。この問題の解決には、高分子の相互作用のエネルギー特性についての定量的モデルだけでなく、立体配置についての膨大な空間に関する探索方法が必要である。レビュー論文において、Schueler-Furmanたちは、高分解能での予測と設計が、生物学や医学に重要な貢献が可能な段階にまで到達しつつある、ということを示唆している(p.638)。(KF、NF)
Progress in Modeling of Protein Structures and Interactions
p. 638-642.

制御するものを制御するのは誰か(Who Regulates the Regulators?)

植物では、茎頂分裂組織(成長点)は茎端にある一群の幹細胞であって、成長力のある地上植物の多様に分化する組織を産生するものである。ReddyとMeyerowitzは、シロイヌナズナの成長点が分化の経路へと頻繁に分岐するにも関わらず、どのようにして特定のサイズを維持しているかを分析している(p. 663、 10月6日のオンライン出版; また表紙参照のこと)。この結果は、CLAVATA3遺伝子産物とその結果生じるシグナル伝達ネットワークが、細胞増殖に対する影響と分化の際の細胞の運命に対する影響の双方によって成長点における細胞数を制御している、ということを示唆するものである。(KF, NF)
Stem-Cell Homeostasis and Growth Dynamics Can Be Uncoupled in the Arabidopsis Shoot Apex
p. 663-667.

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