AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 27, 2005, Vol.308


ボソンピークとガラス形成(Boson Peaks and Glass Formation)

ボソンピークと呼ばれる広帯域低周波モード(20〜50波数あるいは4〜12ミリエレク トロンボルトの間)におけるガラスの振動スペクトル特性の由来は論争の火種に なっていた。その多くは、結晶におけるフォノンモード(phonon modes)に似た集 団運動モード(collective modes)を用いて説明している。Greavesたち(p. 1299) は高分解能の非弾性中性子散乱を用いて、ゼオライトYの細孔構造物質を変化させて アモルファス化する際のその低周波での減衰特性を調べた。彼らは結晶状態を不安 定にする振動を同定し、更にボソンピークをある範囲のサイズをもつゼオライト構 造内の環と環との間の振動の結合に起因するとしている。(hk)
Identifying Vibrations That Destabilize Crystals and Characterize the Glassy State
p. 1299-1302.

照明についての最新のハイライト(Lighting's Latest Leitmotif)

従来の白熱電球や蛍光灯は、発光ダイオード(固体発光)のような照明技術の進歩に よって置き換えられていくであろう。Schubert と Kim (p. 1274; Millsによる政 策記事も参照)は、固体発光照明法の原理と応用についてレビューした。固体発光素 子は高効率であるため、発展途上国で一般的に利用されている非高率で二酸化炭素 発生源である燃焼による照明に代わって、太陽光発電によるエネルギー供給が可能 で、一気に白色光の恩恵に浴することができる。固体発光素子だけが高エネルギー 効率の発光法ではないが、この発光特性はカスタマイズできることも特徴である: 例えば,ちょうど太陽のスペクトル分布が、日中変化するように、屋内照明もスペク トル分布が変化するようにプログラム化可能である(Ej)。
Solid-State Light Sources Getting Smart
p. 1274-1278.
Enhanced: ENVIRONMENT:
The Specter of Fuel-Based Lighting

p. 1263-1264.

氷の王国(An Icy Realm)

アマルティア(Amalthea)は木星の衛星群の中でも小さい方で、木星に近い軌道を持 ち、イオ(Io)よりも内側にある。ガリレオ宇宙探査機がアマルティアの近くを通り 過ぎた際、電波のドップラーデータを利用して,質量推定を行った。ボイジャーとガ リレオの両探査機の観測から以前得られたアルマティアのサイズデータ推定値を利 用して,Anderson たち(p. 1291) は、その密度が1立方メートル当たり1000キログ ラム以下であると算出した。この推定値から,この衛星は、ほとんど多孔性の氷で出 来ていることが予想される。この結果は、アマルティアが、どこか遠くで生成し、 それが後で木星に捕らえられたという説に矛盾しない。(Ej, tk, nk)
Amalthea's Density Is Less Than That of Water
p. 1291-1293.

非対称の超新星 (Asymmetrical Supernovae)

恒星がその核燃料を使い果たすと、重力は残存する恒星物質の崩壊を引き起こし、 超新星爆発を誘発する。これらの事象のうちの幾つかは非常に明るいガンマ線バー ストと関連しており、このバースト自体は、異常な、そして、いまだ十分に解明さ れていない高エネルギー天文現象である。しかしながら、ガンマ線バーストは非対 称なジェット状の強い爆発となるはずであるが、これまで、超新星のほとんどは球 状の爆発と考えられてきた。Mazzali たち (p.1284) は、すぱると Keck 望遠鏡を 用いた最近の超新星観測について報告している。この観測では、恒星物質のスペク トル線は異常な二重ピーク構造を示しており、このことは非球状の爆発を暗示して いる。この結果は、ガンマ線バーストが超新星のなかで発生しているが、それらが 不適切な方向を指していると、地球上ではそれらは見えない可能性があることを示 唆している。(Wt)
An Asymmetric Energetic Type Ic Supernova Viewed Off-Axis, and a Link to Gamma Ray Bursts
p. 1284-1287.

オイルの直接的な年代を定める(Direct Oil Dating)

一般に石油鉱床は、石油根源岩から生成されたオイルが比較的不浸透性の岩の下と いった地質的なトラップの真下か、あるいはその中に集積する時に形成される。石 油の移動は普通、石油根源岩が堆積した後から長期に渡って起こり、そして移動の タイミングを確定することや石油根源岩を特定することは、将来の石油探査のため に重要である。しかし、ほとんどの同位体年代測定方法は、オイルではなくむしろ 岩の過去の年代を定めている。SelbyとCreaser(p.1293; Schaeferによる展望記事参 照)はオイルの中には、有機物に富む根源岩由来のレニウムとオスミウムが、石油の 過去の重要な直接的年代を定めるに十分なほどに存在することを示している。カナ ダの大きなオイルサンド鉱床のデータは、全て約1億1200万年前をしめす単一のアイ ソクロン (isochron;等年代線) 上にプロットされる。(TO, nk)
Direct Radiometric Dating of Hydrocarbon Deposits Using Rhenium-Osmium Isotopes
p. 1293-1295.
GEOCHEMISTRY:
When Do Rocks Become Oil?

p. 1267-1268.

タイミング発光(Timing Light Emission)

フォトニックバンドギャップ工学の目標の1つは光励起状態からの自発減衰率の制 御である。実際,高精度の3次元(3D)バンドギャップを製作することは、極めて困難 な課題である。そこで、厳密に3次元バンドギャップを作る代わりに、2次元バンド ギャップと高誘電体物質の組合わせを作ることが提案されていた。Fujita たち(p. 1296)は、このような試作品をつくり、埋め込まれたエミッタの自発発光が抑制され ることを示した。同時に、系に蓄積されたエネルギーが再配分され、結晶構造中に 特別に設計された格子欠陥からの発光が確認された。(Ej)
Simultaneous Inhibition and Redistribution of Spontaneous Light Emission in Photonic Crystals
p. 1296-1298.

ゆっくりと滑る積層ドメイン(Stalking Stacking Domains)

異なる格子空間を持つ基板上に金属の膜を形成すると、ドメインの組織構造が形成 されるが、この組織構造を形成するメカニズムに関して多々論議されている。El Gabalyたち(p.1303)は、ルテニウム基板上にヘテロエピタキシャルの銅薄膜に関す る実時間での微視的なドメイン構造を報告している。彼らは明暗場の低速電子線顕 微鏡画像を結びつけて、この薄膜の積層ドメインと回転ドメインの双方をマップ化 し、秒スケールでの時間的成長を追跡した。回転ドメイン内にある積層ドメイン間 の境界は速く、かつ滑らかに動くが、回転ドメイン境界では動きが鈍る。かくし て、積層ドメインの動きは回転ドメインの配向と境界に依存するが、一方繊条の転 位は滑り原子面における効果的な障壁となる。(KU)
The Importance of Threading Dislocations on the Motion of Domain Boundaries in Thin Films
p. 1303-1305.

植物の生命は高速か低速か(Plant Life in the Fast and Slow Lanes)

植物の運動は、巻きヒゲがゆっくりと巻き付くようなものから、ハエジゴク(Venus flytrap)の迅速なバネ状のものまで、スピードは様々である。Skotheimと Mahadevan(p. 1308;表紙を参照)は、植物の運動の多様性を解析し、そして順応 可能な様々な運動およびある速度での様々な運動に対する指針となるある種の原則 を見いだした。これらの運動の多くは、膨圧の変化に依存しており、解析により、 動水力によって駆動される機械的システム設計への見通しをもたらすものであ る。(NF)
Physical Limits and Design Principles for Plant and Fungal Movements
p. 1308-1310.

ボトムアップ型の漁のコントロール(Bottom-Up Fish Control)

特定の定住性底生魚の漁獲高は、植物プランクトンのボトムアップ型生産と関連し ている。WareとThomson(p. 1280、2005年4月21日にオンライン出版)は、大西洋北 東部:すなわちカリフォルニア南部からブリティッシュコロンビア中央部にかけて 伸びる沿岸湧昇流域(Coastal Upwelling Domain)、およびブリティッシュコロン ビア北部からアリューシャン列島にかけて伸びる沿岸下降流域における、2つの異な る海洋学的状況を探査した。この結果から、植物プランクトンと魚とのあいだの強 力な関係が、以前に報告されたものよりもずっと狭い空間的スケールでも適用され ること、そして長期に渡る動物プランクトン量の時系列データがあるブリティッ シュコロンビア沿岸に関しては、それが、植物プランクトンから動物プランクトン へ、次に動物プランクトンから魚へとつながる関係であることが明らかにされ た。(NF, nk)
Bottom-Up Ecosystem Trophic Dynamics Determine Fish Production in the Northeast Pacific
p. 1280-1284.

ミクログリア細胞に休みはない(No Rest for Microglial Cells)

脳の免疫監視細胞である定住ミクログリア細胞は、損傷または疾患に反応するまで は、静止性の休眠状態にあると考えられている。Nimmerjahnたち(p.1314、2005年4 月14日にオンライン出版)は、最大10時間のあいだ蛍光標識された生きているミク ログリアをin situで撮影し、そして正常な脳におけるいわゆる"休止期"ミクログリ アが、実際には全く休止状態になどなく、持続的にその微小環境を調査し続けてい ることを見いだした。ミクログリアは障害(血液-脳関門にレーザーで付けた傷)に 対して、脳のパトロール状態から損傷部位の遮蔽へとその行動をスイッチして極め て迅速に応答した。(NF)
Resting Microglial Cells Are Highly Dynamic Surveillants of Brain Parenchyma in Vivo
p. 1314-1318.

暴力が暴力を招く(Violence Begets Violence)

社会的な暴力を受けると、それによる、或いはその結果としての暴力行為の間の関 係は確認されているが、その因果関係を実証することは困難であっ た。Bingenheimerたち(p.1323;Holdenによる展望記事参照)は、シカゴの78地区 に住む1500人以上の若者たち(12〜15歳)の無作為的抽出実験を推定するために意 図された或る研究手法と解析方法を用いた。総ての複雑多岐な変数を取り除くこと は出来ないが、このデータは2回以上暴力を受けると、若者は2年以内に暴力や攻撃 的な行為を犯す傾向が倍加することを示唆している。(KU)
Firearm Violence Exposure and Serious Violent Behavior
p. 1323-1326.

タンパク質のトポロジー(Proteomic Topology)

生命体ないし細胞小器官のタンパク質組成の全体的な特徴づけは、ゲノムのコー ディング能力のおよそ70%を担っている可溶性タンパク質の分析技法に依存してい る。残りの30%は、グループとしての分析がより難しいことがわかっている。Daley たちは、トポロジーマーカー(周辺質のアルカリホスファターゼおよび細胞質の緑色 蛍光タンパク質)を用いて、大腸菌(Escherichia coli)における700もの内膜タンパ ク質のほとんどすべてのC末端の内側-外側の向きをはっきりとさせている(p. 1321)。こうした実験による決定と配列に基づいた予測アルゴリズムを結びつけるこ とで、それぞれのポリペプチドが何度膜を横切るのか、またどこにN末端およびC末 端があるのか、についてのよりよいデータベースが得られる。(KF)
Global Topology Analysis of the Escherichia coli Inner Membrane Proteome
p. 1321-1323.

回折ビームの揺らぎを調べる(Tracking Diffraction Beam Fluctuations)

シンクロトロンX線源を用いる利点は、強いX線ビームを試料のマイクロメータの範 囲にスポットを集光できることである。Mocutaたち(p.1287;2005年4月21日オンラ イン出版)は、連続的な相変化を行う温度近傍でFe3Al薄膜を調べた。 この物質内の相関距離は非常に大きく、秩序-無秩序転移に関する臨界揺動により、 回折ピークの時間依存性の強度の揺らぎが生じる。4ポイントでの秩序パラメータに 対する時間相関関数を用いた強度揺らぎの解析から、臨界秩序揺動が時間依存性の 動的な挙動に従っていることが明白である。(KU)
Scaling in the Time Domain: Universal Dynamics of Order Fluctuations in Fe3Al
p. 1287-1291.

ヒ素を好む嫌気性細菌(Arsenic-Loving Anaerobic Bacteria)

地表下の帯水層へのヒ素の混入は、部分的に微生物によるプロセスで仲介されてい る可能性がある。Oremlandたちは、超塩水(hypersaline)湖であるカリフォルニア州 のSearle's湖において、生物地球化学的なヒ素の完全なサイクルが生じていること を実証している(p. 1305)。この湖の生態系は水素や硫化水素などの無機ドナーに よって動かされており、それらが結びついて生態学的に存続可能なヒ素に基づく酸 化還元(redox)系を作っているのである。Halanaerobacterialファミリーに属する extremophile haloalkaliphilic細菌が単離され、この細菌はAs(V)状態にあるヒ酸 塩のオキシアニオン(oxyanion)を呼吸することによって、この極度に有毒な環境で 繁栄している。(KF)
A Microbial Arsenic Cycle in a Salt-Saturated, Extreme Environment
p. 1305-1308.

トウモロコシ作り(Making Maize)

固い粒の実るやせた野生の草であるブタモロコシ(teosinte)を大きくて生産的なト ウモロコシ植物に変えていくにあたって、古代の農夫は、手のひら1杯のトウモロ コシ植物に強制的に人為淘汰を施した。Wrightたちは、この順化プロセスの遺伝的 痕跡を求めて、ブタモロコシとトウモロコシのゲノムを解析した(p. 1310)。700以 上の遺伝子における一塩基多形性が、どの遺伝子が集団ボトルネック(population bottlenecks)だけをこうむったか、どれが人為淘汰と集団ボトルネックの双方に影 響を受けたか、についての手がかりを提供した。ある遺伝子グループが植物の成長 習性に影響を与えているが、このグループは農業経済的に重要な量的形質座位から 知られている同じ形質のいくつかと一致するものである。(KF)
The Effects of Artificial Selection on the Maize Genome
p. 1310-1314.

細部に宿る悪魔(The Devil Is in the Details)

タンパク質のリン酸化は、細胞機能の多くの側面を制御する主要な調節機構の1つで あり、プロティンキナーゼとして知られる酵素の触媒作用によって引き起こされ る。プロティンキナーゼの活性の変調は、かくして、治療の面で効果のある薬剤の 開発にとって多くの好機を提供することになる。しかし、プロティンキナーゼの触 媒作用部位は非常によく似ており、特異的な阻害剤を同定し、設計することは困難 なチャレンジであった。Cohenたちはキナーゼの触媒作用部位を注意深く分析 し、500近くものヒトのプロティンキナーゼの既知の配列を比較することによってこ の問題を克服した(p. 1318; またAhnとResingによる展望記事参照のこと)。彼らは プロティンキナーゼRSK1およびRSK2の触媒作用部位の二つの別々の特性を結びつけ て、試験管内および生体内でRSK酵素の活性を強力かつ選択的に遮断する低分子化合 物の阻害剤を設計した。(KF, hE)
Structural Bioinformatics-Based Design of Selective, Irreversible Kinase Inhibitors
p. 1318-1321.
CELL BIOLOGY:
Lessons in Rational Drug Design for Protein Kinases

p. 1266-1267.

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