AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 15, 2005, Vol.308


過去の海面レベル検出のための開放系の補正(Open Access to Sea Levels)

海水面レベルは10万年長の氷河期の周期の間に、100メートルを越える幅で変動して きた。しかし、数10メートルと小さいが着実な変動が数万年の時間スケールで発生 している。珊瑚礁は、海水面レベルを測る最も優れた絶対指標であるが、珊瑚はし ばしば死んだ後も海水と体内でウランの入れ替わりがある。そのため、珊瑚の生き ていた年代とその時の海水面レベルの変化を立証するために必要なウラン−トリウ ムによる放射性年代測定を難かしくしている。ThompsonとGoldstein (p.401;Hendersonによる展望記事参照)は、珊瑚中のウラン系列核種の開放系挙 動(open system behavior)を補正できる分析的手法を開発することで、この問題を 克服した。彼らは、以前は明確でなかった最終氷期の海面レベルのカーブを、変化 がはっきりと示された十分な時間的分解能があるカーブを作成した。(TO,Ej)
Open-System Coral Ages Reveal Persistent Suborbital Sea-Level Cycles
p. 401-404.
OCEAN SCIENCE:
Coral Clues to Rapid Sea-Level Change

p. 361-362.

ダムによるせき止めの解析(Damming Analysis)

大きな河川系の多くは広範囲にわたる生態系を支えているが、人間の必要性により 影響を受けている。Nilssonたち(p.405)は、ダムが世界の巨大な河川系をいかに 分断したかに関しての地球規模での総論を報告している。世界における大きな河川 系のほぼ半分が生態系を分断したり、或いは流れを減少したり、調節したりする巨 大なダムや迂回路を持っている。Syvitskiたち(p. 376)は海洋沿岸領域への堆積物 の移動に関して、例えばダムの建設といった人為的活動の影響を定量化する方法に 関して述べている。彼らは、人為的な活動が無視できる過去の時代と現在の間で、 堆積物の流れがどのように変化したかを解析した。多数の地球河川における彼らの 定量的な、かつ全体的な河川ごとの研究により、灌漑や農業といった人間活動が河 川の堆積物浸食を増加させたが、しかしながら海洋沿岸への堆積物の輸送量は人工 的な貯蔵庫の中に留まって減少したことが明らかになった。(KU)
Fragmentation and Flow Regulation of the World's Large River Systems
p. 405-408.
Impact of Humans on the Flux of Terrestrial Sediment to the Global Coastal Ocean
p. 376-380.

固体-液体の相転移の研究(Tracking a Solid-Liquid Transition)

超高速の励起による超高速の、或いは非熱的な結晶の融解に関して数多くの研究が なされている。励起パルスやプローブパルスを短くすることで、不規則化のプロセ スに関する更なるメカニズムの洞察が可能となるであろう。Lindenbergたち(p.392) は加速器に基づくサブ-100-フェムト秒のx線パルスを用いて、インジウムアンチモ ン結晶の光による融解を調べた。彼らは結晶の融解時に、(111)と(220)反射の回折 強度の減少をモデル化した。光学的励起後の短時間において、原子は初期条件で定 められた速度でもって障壁のないポテンシャル面に沿って動いているらしい。(KU)
Atomic-Scale Visualization of Inertial Dynamics
p. 392-395.

スピンのもつれの限界は?(Limits on Spin Entanglement?)

量子情報処理に対する多くのスキームは、スピン操作に基づいているが、スピン間 の相互作用は処理能力に対する限界を与えるものだろうか? Ro/nnow たち(p.389) は、ある解答を与える可能性のある固体系に注目している。彼らは、磁性絶縁体で ある LiHoF4 を量子臨界点に調整して、中性子散乱による分散関係を測 定し,アンサンブルの電子スピンと核スピンとの間に結合が存在していることを示し ている。彼らは、このような結合がスピン励起のもつれの距離を越えており、量子 情報処理に限界を与える可能性があることを示唆している。(Wt)
Quantum Phase Transition of a Magnet in a Spin Bath
p. 389-392.

テトラサイクリンの新しい設計(Tetracyclines from Scratch)

服用している薬に細菌が耐性を持つたびに、製薬化学者たちは抗生物質の構造を変 え続ける努力をしてきた。肺炎を含む幅広い感染症治療に使われているテトラサイ クリンに関しては、誘導体を効率よく合成する経路の開発は難しいことが解ってい る。Charest たち(p. 395; およびKhosla と Tangによる展望記事も参照)は、幅広 い構造改変体を培地で細菌テストするに充分な量だけ作る戦略を見つけた。そのす べてが6-デオキシテトラサイクリン(6-deoxytetracyclines)である。テトラサイク リンは、A環からD環という4個の縮合炭素環を持っており、D環の改変体が、耐性 菌に特に有望であることがわかった。著者たちはまずAB断片を用意し、同じ反応を 利用して、様々に修飾したD環を有する6個のうちの一つを結合させた。その過程でC 環が合成され る。安息香酸から始まる全経路は、14ステップから成っており、収率は7%であっ た。(Ej,hE)
A Convergent Enantioselective Route to Structurally Diverse 6-Deoxytetracycline Antibiotics
p. 395-398.
CHEMISTRY:
A New Route to Designer Antibiotics

p. 367-368.

今際の息切れ(Last Gasps)

ペルム紀末期の絶滅の原因は未だはっきりとしない。酸素レベルは、ペルミ紀初期 には極端に多かったが、地球全体の気候が温暖化した頃辺りに著しく低下していっ た。Huey とWard (p. 398; Kerrによるニュース記事参照)は、低酸素レベルで起こ りうる影響に関しての生理学的モデルを提示し、海水面上あるいはその付近でしか 生物は住めなかったことを示している。(TO)
Hypoxia, Global Warming, and Terrestrial Late Permian Extinctions
p. 398-401.

補体で見えなくなる(Blinded by a Complement)

加齢に伴う黄斑変性(AMD)は先進国における失明の主要な原因であり、網膜におけ る光感受性細胞の損傷により特徴づけられる。遺伝的因子と環境的因子の両方がこ の症状に関与していると考えられている。しかし、その分子的な病因は未だ明らか になっていない。3つの研究グループ[Kleinたち(p. 385)、表紙を参照;Edwards たち(p. 421);およびHainesたち(p. 419)--すべて、2005年3月3日にオンライ ンで出版]は、ゲノムにおける配列-特異的な変異体を同定し、これがAMDを発症す る個体のリスクを3倍〜7倍増大させ、そして老人におけるAMD発生率ののうちの 20〜60%の説明となりうることを明らかにした(Daigerによる展望記事を参照)。 染色体1q32に位置する推定原因遺伝子は炎症に関与するタンパク質、補体因子 H(complementfactor H)をコードしている。この知見は、より初期にAMDを検出す ることを可能にする前駆症状試験(presymptomatic tests)の開発のための扉を開 くものであり、結果として、よりよい治療に導くことができる。(NF)
Complement Factor H Polymorphism in Age-Related Macular Degeneration
p. 385-389.
Complement Factor H Polymorphism and Age-Related Macular Degeneration
p. 421-424.
Complement Factor H Variant Increases the Risk of Age-Related Macular Degeneration
p. 419-421.
GENETICS:
Was the Human Genome Project Worth the Effort?

p. 362-364.

さあ、ご一緒に(Let's Get Together)

精子と卵子の受精とか、個々の前駆細胞から成熟した筋繊維を形成するといったな どの正常な発生期間における非常に様々な環境の中で細胞融合は行われる。細胞融 合は、又、幹細胞が関与する実験の解釈を複雑なものにしている。Chenと Olson(p.369)は、細胞融合の仕組みと細胞融合が通常見られる様々な環境につい て概説し、そして異常な細胞融合を取り巻く環境のいくつかについてのコメントを 付している。(NF)
Unveiling the Mechanisms of Cell-Cell Fusion
p. 369-373.

ずっとディフェンス(Keeping Up Defenses)

哺乳動物の皮膚にせよ昆虫の角質にせよ、動物の保護バリアは乾燥の防止と創傷か らの保護の役割を果たしている。保存された先天性免疫系は、脊椎動物および無脊 椎動物の両方において機能しており、表皮の創傷により侵入する感染性微生物と闘 う。しかしながら、無菌性の損傷反応に関するメカニズムについては、ほとんど知 られていない(Hardenによる展望記事を参照)。Maceたち(p. 381)はここで、転 写因子グレイニーヘッド(grainyhead)により媒介され、そして表皮における無菌 性の損傷を感知する、ショウジョウバエにおける創傷反応経路について記載する。 グレイニーヘッドにより媒介される反応は、角質バリアを固定するための架橋分子 をもたらす。Tingたち(p. 411)による補足的な研究では、この種のバリア損傷反 応経路が保存的であることが示唆される--マウスグレイニーヘッドのオルソログに 変異を有するマウスは、表皮の損傷修復の欠損を示した。(NF,hE)
CELL BIOLOGY:
Of Grainy Heads and Broken Skins

p. 364-365.
An Epidermal Barrier Wound Repair Pathway in Drosophila Is Mediated by grainy head
p. 381-385.
A Homolog of Drosophila grainy head Is Essential for Epidermal Integrity in Mice
p. 411-413.

マラリア膜タンパク質の構造(Malaria Membrane Protein Structure)

頂端膜抗原1(AMA1)は、マラリアの原因となるマラリア病原虫(Plasmodium parasite)における内在性の膜タンパク質の1つであり、現在では、ヒトにおける もっとも重篤なマラリア病態の原因種である熱帯熱マラリア病原虫P. falciparumに 対して臨床的に試されているものである。AMA1は宿主細胞への侵入の際に必須のも のであるが、その分子的機能は未知のままである。Pizarroたちは、三日熱マラリア 病原虫P. vivaxから得られたAMA1の3領域からなる外質領域の結晶構造を1.8オング ストロームの分解能で明らかにした(p. 408;2005年2月24日にオンライン出版)。領 域IとIIはPANモチーフに属しているが、これは受容体結合において機能するタンパ ク質折りたたみ構造である。(KF)
Crystal Structure of the Malaria Vaccine Candidate Apical Membrane Antigen 1
p. 408-411.

単純な時計の製作(The Making of a Simple Timepiece)

ラン藻類は、他の生命体において見出されているものとは違った概日性時計のもと で働いている。それは、周期性の転写や翻訳によってではなく、核となる時計タン パク質(core clock protein)の周期的リン酸化によって駆動されている。Nakajima たちはこのたび、この発振器が試験管内で、たった3つの時計タンパク質と1つのリ ン酸源、アデノシン三リン酸によって再構築できることを示している(p. 414)。こ のことは、この単純な生物における生物学的時間測定が、遺伝子やタンパク質の発 現の制御に起源をもつのではなく、ほとんどエネルギーを必要としない機構を用い た3つのタンパク質からなる複合体のダイナミクスによる、とする考えを支持するも のである。(KF)
Reconstitution of Circadian Oscillation of Cyanobacterial KaiC Phosphorylation in Vitro
p. 414-415.

ボールから目を離すな(Keep Your Eyes on the Ball)

正常な条件のもとでは、我々は一般に、複数の入力経路(視覚や音)からくる刺激が いかにして単一の知覚表象に統合されるかを意識して気づくことはない。この種の 処理の存在は、錯覚を引き起こす刺激が提示されたとき(たとえば、関連する別の語 を聞きながらある単語を話すような場合のMcGurk効果の際)に明らかにな る。Indovinaたちはこの方法を取り入れて、視覚系と前庭系の間の相互作用を探求 した(p. 416)。我々の視覚処理センターは、すべての種類のタスクにおいてすばら しい働きを示すが、物体の加速を見積もる際には、そんなにうまく働くわけではな い。しかし我々の前庭系は、年齢の若いうちに重力に対処するすべを学習する。行 動に関するデータと脳イメージングデータからは、被験者が落下するボールの衝突 までの時間を見積もるに際して、前庭系は物体の運動が重力によっていかに影響さ れるかについての内部モデルに頼り、その情報を視覚処理センターに渡している、 ということが示唆される。(KF)
Representation of Visual Gravitational Motion in the Human Vestibular Cortex
p. 416-419.

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