AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 25, 2005, Vol.307


テラノサウルス・レックスの軟らかな組織(T.rex Gets Soft)

化石標本の中には驚くことに、動物や植物の軟らかな組織が化石化したものがあ る。しかしながら、通常は、特に数百万年前の化石において、この種のものは痕跡 としてか、或いは珪化木で見られるように無機質化した状態で保存されてい る。Schweitzerたち(p.1952;Stokstadによる展望記事参照)は、テラノサウルス・ レックスや他の恐竜の幾つかの骨の内部から取り出された軟らかな細胞組織の驚く べき保存状態に関して報告している。これらの中には軟らかくてしなやかな、かつ 半透明の血管や骨のコラーゲンと結びついた骨細胞が含まれている。(KU,Nk)
Soft-Tissue Vessels and Cellular Preservation in Tyrannosaurus rex
p. 1952-1955.

エピジェネティクス、分化、および、ガン(Epigenetics, Differentiation, and Cancer)

インシュリン様成長因子-2(IGF-2)をコードする遺伝子のインプリンティング機能喪 失(LOI, DNAメチル化の変化)は、ヒトの大腸ガン発生と相関しており、そのた め、ガンのスクリーニングのマーカーとして利用できる可能性がある。IGF-2発現が 緩やかに増加するこのエピジェネティックな変化がガン発生と因果関係を持つかど うか決定するために、Sakataniたち(p. 1976, published online 24 February 2004)はLOIのマウスモデルを作った。LOIマウスでは対照群に比べ2倍のガンが発生 し、正常腸管上皮は、より未分化状態にシフトしたが、この病理学的変化はLOIのヒ トにも見られた。従って、エピジェネティックな変化は、正常な組織の成熟状態を 変化させることで、ガン発生リスクに影響を与えると思われる。(Ej,hE)
【訳注】エピジェネティクスとはDNAの塩基配列の変化を伴わず、代々継承されてい く遺伝子発現の変化を研究する新しい学問領域である
Loss of Imprinting of Igf2 Alters Intestinal Maturation and Tumorigenesis in Mice
p. 1976-1978.

トゲウオの武装(Arming Sticklebacks)

1万年から2万年前の最終氷期の最後に淡水の川や湖で生活したトゲウオの平行進化 が世界中で見られる。淡水トゲウオに共通する変化は、海水種の重装備武装の喪失 である。単一の主要座位が、この武装表現型を制御している。Colosimoたち(p. 1928;およびGibsonによる展望記事参照)は、この変化を司る主要遺伝子は ectodysplasinであり、低武装種のほとんど全部が、この遺伝子を有する共通先祖を 持っていることを示した。しかし、単一の低武装種が世界中に移動したわけではな い。そうではなくて、最終氷期のずっと以前に生じた低武装のectodysplasin対立遺 伝子がひっそり隠れて低頻度で武装トゲウオ中に存在している。低武装種が世界中 で平行進化した理由は、海生種が淡水環境に取り込まれ、低武装の対立遺伝子が反 復して局所的選択を受けたためであろう。(Ej,hE)
Widespread Parallel Evolution in Sticklebacks by Repeated Fixation of Ectodysplasin Alleles
p. 1928-1933.
EVOLUTION:
The Synthesis and Evolution of a Supermodel

p. 1890-1891.

前進と後退 ( Leading and Lagging)

急速な気候変動が様々な海洋の循環状態間の変化により引き起こされるのかどう か、あるいは深海水の構成の生じる場所や強さの変化が気候によって引き起こされ るのか、について活発な議論がなされてきた。 Piotrowskiたち(p.1933;Kerrによるニュース記事参照)は、南東大西洋のケープ海盆 から採取した2つの地層コアから得た鉄とマンガンの酸化物のネオジウム(Nd)同位体 組成(深海水の循環の指標) を分析し、そして同じ地層コアから得られた海底の有孔 虫(benthic foraminfers) の炭素同位体組成(気候と全世界的な炭素サイクルの指 標)とそれらを比較した。彼らは、最終氷期と最終退氷期の期間に、海洋循環が強 くなる以前に世界的な炭素収支(carbon budget)が変化したことを発見した。一方が 他方に比べて進みすぎたり遅れたりするようなこのlead-lag関係は、最終氷期の時 代中に何度かあった急激な千年期の温暖化現象の期間においては観測されていな い。このことは、海洋循環がこれらの温暖化のトリガーとなる可能性があったこと を示している。(TO)
Temporal Relationships of Carbon Cycling and Ocean Circulation at Glacial Boundaries
p. 1933-1938.

高エネルギー天の川(High-Energy Milky Way)

われわれの銀河(天の川)は、パルサー、超新星、未知のソースによって生み出され た高エネルギー放射に満ちている。Aharonian たち (p.1938) は、ナミビアに配列 された4つの望遠鏡からなる High Energy Stereoscopic System (HESS)を用いて、 われわれの銀河の中心領域における最も高エネルギーのガンマ線放射(10の12乗eV より大きなエネルギー)を探索した。彼らは、8個の新しい高エネルギー源を見出し た。それらのあるものは、パルサー風による星雲や超新星の残骸に付随するもので ある。しかし、少なくとも2つの高エネルギー放射源は既知の電波やX線天体と一致 せずその正体は謎である。つきつめれば、これらの放射源を決定し、この高エネル ギー粒子発生のメカニズムを理解することは、地球に衝突する銀河宇宙線の源に関 するミステリーを解決するのに役立つであろう。(Wt,Nk)
A New Population of Very High Energy Gamma-Ray Sources in the Milky Way
p. 1938-1942.

検知用静電容量(A Capacity for Sensing)

電気的検知法はガス検知を劇的に簡単にすることができる。低消費電力用として、 比誘電率変化でガスを検知する化学コンデンサーは、導電性ポリマーの抵抗変化を 利用した化学抵抗ポリマーでできているセンサーより高い安定性を提供することが できる。しかしながら、化学コンデンサーの応答時間は遅い(応答して復帰する時 間は分のオーダである)。Snowたち(p. 1942)は電極の一つとして単層カーボンナノ チューブを用いることによって、普通の有機物蒸気に対する応答時間が数秒のオー ダへと速められることを示している。ナノチューブの表面から放射する漏れ電 界(fringing field)が表面に吸着したガス分子を分極し、コンデンサーの応答を速 める。デバイスに化学的選択性を付与するために使われる皮膜をより薄くすること ができ、このことが拡散限界を減少させ、かつ応答時間を改善している。(hk,Nk)
Chemical Detection with a Single-Walled Carbon Nanotube Capacitor
p. 1942-1945.

遠距離干渉(Remote Interference)

ボース-アインシュタイン凝縮(BEC)状態にある原子は総ての特性が同じ位相にあ る。二つの分離したBECsの位相差は、原子雲を衝突させ、それによる原子密度の干 渉パターンを作ることによって測定することが出来る。このような原子集合体の関 連した波長の利用は、既に高感度の干渉測定や計測学で実証されている。しかしな がら、今までは分離したBECsの衝突という破壊プロセスを用いていた。Sabaた ち(p.1945;Javanainenによる展望記事参照)は光散乱を用いて、個々のBECのわずか な原子を結合させ、干渉パターンが形成されることを示している。この全く非破壊 的な技術は、原子雲を破壊的に分離したり、衝突させる必要もなく、二つの空間的 に分離したBECs間の位相差を連続的に測定する方法を提供するものである。(KU)
Light Scattering to Determine the Relative Phase of Two Bose-Einstein Condensates
p. 1945-1948.
PHYSICS:
Bose-Einstein Condensates Interfere and Survive

p. 1883-1885.

5兆の個体を養う(Feeding the Five Trillion)

ヒトの体の中の真核生物細胞数よりも多くの原核生物細胞が腸内に存在している が、これが宿主に対してどんな寄与をしているかはほとんど何も分かっていな い。Sonnenburgたち(p. 1955)は、主要な腸内居住者であるバクテロイデス属細 菌(Bacteroides thetaiotaomicron)が、我々の食物中にある植物多糖類のような、 消化できない栄養物を、供給が無くなるまで摂食する役目を果たしていることを明 らかにしている。そして、この細菌は宿主のムコ多糖(mucopolysaccharide)分泌物 をエネルギー供給の補助剤に変えることができる。だから、細菌の組成は一定で あっても、その代謝活性はエネルギー供給に応じてシフトする。この柔軟な食料依 存性は生態系の安定や、機能多様性に寄与しているに違いない。(Ej,hE)
Glycan Foraging in Vivo by an Intestine-Adapted Bacterial Symbiont
p. 1955-1959.

立体配置によるシグナル伝達(Conformational Signaling)

細菌中では、core RNA ポリメラーゼ (RNAP)に結合するσ54因子は、特 定のプロモータを認識して、転写を開始するために必要とされる。他の σ54因子を含むホロ酵素(holoenzyme)と異なり、σ54-RNAPは ATP依存性の活性化タンパク質に結合するまで、転写的にはサイレントである。今 回、Rappasたち(p. 1972)は、ATP遷移状態類似体を含む、活性化タンパク質の [PspF[(1-275)]]の結合ドメインと複合体を形成しているσ54因子の構造 を20 オングストローム分解能で極低温電子(cryo-electron)顕微鏡を用いて構造 決定した。この結果と、apo PspFの1.8 オングストローム分解能の結晶構造も一緒 に考慮すると、この相同活性化因子 (NtrC1)の代替コンフォメーションと変異分析 の比較から、ヌクレオチドの加水分解によって、σ54因子と相互作用す る2つのループを解き放つコンフォメーションのシグナルを伝達しているよう だ。(Ej,hE)
Structural Insights into the Activity of Enhancer-Binding Proteins
p. 1972-1975.

頂点にあるイヌ類の重要性(Top Dog?)

生態学的コミュニティーにおける頂点にある捕食者の役割と、その結果として生じ る「栄養カスケード(trophic cascades)」の潜在的な偏在性から、世界が緑に覆わ れているのは、捕食者が草食動物を制限し、草食動物による制限から植物コミュニ ティーを保護しているからだとする考えが導かれてきた。Crollたちは、毛皮交易の ためにずいぶん前に北極キツネがもち込まれたアリューシャン諸島の7つの島とキツ ネがいない7つの島を調査した(p. 1959)。キツネは自然の海鳥を捕食しており、そ れによってもたらされる糞化石(guano)肥料を減らし、土壌肥沃度を変えて、植物コ ミュニティーに大きな変化をもたらしていた。キツネのいる島のいくつかの領域に 施肥すると、キツネのいない島における植生に似たような植生の変化が生じること になった。つまり、栄養性カスケードは、直接的な食物連鎖を超えるような効果を もたらす能力 をもっており、海洋の生態系と陸生の生態系の間には結びつきが存在しているので ある。(KF, Nk)
Introduced Predators Transform Subarctic Islands from Grassland to Tundra
p. 1959-1961.

遺伝子制御のモデル化(Modeling Gene Regulation)

遺伝子制御のモデリングは、システム生物学の基本的ゴールの1つである(Isaacsた ちの展望記事参照のこと)。Rosenfeldたちは、遺伝子ネットワークの分析におい て、モデリングと実験を併用している(p. 1962)。転写制御因子濃度と遺伝子因子産 生に関わる定量的機能は、遺伝子制御機能(GRF)と名付けられている。生化学的パラ メータとノイズ、それに細胞の状態がこのGRFに影響している。遺伝子発現における ノイズは、mRNAやタンパク質の豊富さ、それに環境条件などの要因における変動に よってもたらされる。Pedrazaとvan Oudenaardenはこのたび、遺伝子相互作用が単 一細胞内で制御され定量化されるネットワークをモデル化し検証した(p. 1965)。ノ イズ伝播の定量化は原核生物と真核生物における遺伝子ネットワークの複雑なダイ ナミクスの理解の助けになり、合成ネットワークを設計する助けにもなるであろ う。(KF)
MOLECULAR BIOLOGY:
Signal Processing in Single Cells

p. 1886-1888.
Gene Regulation at the Single-Cell Level
p. 1962-1965.
Noise Propagation in Gene Networks
p. 1965-1969.

生化学的前史(Biochemical Prehistory)

初期のRNAベースの生化学から、タンパク質ベースの生化学への移行には、アミノ酸 のための核酸コードを現実のアミノ酸に転換できる要素の集合が必要であった。ア ミノアシル転移RNA(aa-tRNA)合成酵素の集合が、アミノ酸をその同族のtRNAに付着 させ、このtRNAがリボソームによって利用されて、遺伝子コードをタンパク質に翻 訳するということを、正しくおこなっているのである。しかし、20種の基本アミノ 酸のいくつかは比較的後になってそうなったことを示す証拠があり、Sauerwaldたち は、システインがそうした後から加わったものの1つであることを示している(p. 1969)。システインのaa-tRNA合成酵素を欠く古細菌(Archaea)は、ホスホセリンが tRNAに付着し、続いて酵素学的に嫌気性のピリドキサールリン酸-依存的な反応に よってシステイニル-tRNAに転換される副経路(残存物らしい)に頼ってい る。(KF,hE)
RNA-Dependent Cysteine Biosynthesis in Archaea
p. 1969-1972.

温室状態のエルニーニョ(Hothouse EL Nino)

将来の温暖化がエルニーニョの頻度や激しさにどのような影響をもたらすのかに関 して、我々は正確に把握していない。しかしながら、過去においてエルニーニョが どのような振る舞いをしたかに関しては、地質学的記録体が解決のヒントを与えて くれる。RickabyとHalloran(p.1948)は幾つかの種のプランクトン有孔虫のMg/Caの 比を分析して、500万年〜250万年前の鮮新世時代の太平洋の水温躍層の位置を再構 築した。この時期は、気候は温暖で、CO2レベルも高かったときであ る。彼らは、水温躍層が今日の平均よりももっと傾斜していたことを見出した。現 在のラニーニャの時期に東赤道域の太平洋において、湧昇するより冷たい海水が観 測されているのと似ている。彼らは、このような状態がインド-太平洋の海盆におけ るラニーニャ様の中間状態の持続によって最もよく説明されると結論づけている。 この結果は、「温室的な」気候により永続的なエルニーニョ様の状態へと落ち込む 可能性は少ないことを示唆している。(KU,Nk)
Cool La Niña During the Warmth of the Pliocene?
p. 1948-1952.

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