AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 12, 2004, Vol.306


地震に及ぼす潮汐力(Seismic Ebb and Flow)

太陽と月の引力による潮汐力は地球の地殻に少量の局所的な応力を生成するが、潮 汐力と地震との関係には明らかな相関が見えていなかった。Cochranた ち(p.1164,2004年10月21日のオンライン出版)は、強い潮がいくつかの浅い逆断層地 震のトリガーになっていたということを発見した。これらの地震を引き起こすきっ かけとなる応力を定量化できれば、地震核形成のより深い理解の助けとなるであろ う.(hk)
Earth Tides Can Trigger Shallow Thrust Fault Earthquakes
   Elizabeth S. Cochran, John E. Vidale, and Sachiko Tanaka
p. 1164-1166.

ストロンチウム ルテニウム酸塩におけるスピン三重項と量子臨界点(Spin Triplets and Quantum Criticality in Strontium Ruthenates)

超伝導体であるストロンチウム ルテニウム酸塩に関する初期の研究では、典型的な 反平行一重項ではなく、むしろ、スピンが平行な三重項をとおして、電子対形成は 進むと示唆されていた。しかしながら、超伝導挙動のこの風変わりな形態の確認 は、なかなか明確にできなかった。Nelson たち (p.1151; Rice による展望記事を 参照のこと) は、スピン三重項をとおして発生する対形成に対する決定的な証拠を 与えるものとして、ストロンチウム ルテニウム酸塩により形成された接合を横切 る、位相敏感な実験を行った。量子相転移は、温度ゼロにおいて、温度以外のある 外部パラメータにより促進され、このような条件下では風変わりな相に導くはずで あることを示唆している。磁場で調整されたストロンチウム ルテニウム酸塩におけ る量子臨界点近傍において、Grigera たち (p.1154) は、フェルミ表面におけるあ る不安定性によりもたらされる新しい相が形成される実験的な証拠を見出した。こ のクラスの相転位は、最初は、およそ半世紀も前に理論的に述べられていた。(Wt)
Odd-Parity Superconductivity in Sr2RuO4
   K. D. Nelson, Z. Q. Mao, Y. Maeno, and Y. Liu
p. 1151-1154.
PHYSICS:
Superfluid Helium-3 Has a Metallic Partner

   Maurice Rice
p. 1142-1143.
Disorder-Sensitive Phase Formation Linked to Metamagnetic Quantum Criticality
   S. A. Grigera, P. Gegenwart, R. A. Borzi, F. Weickert, A. J. Schofield, R. S. Perry, T. Tayama, T. Sakakibara, Y. Maeno, A. G. Green, and A. P. Mackenzie
p. 1154-1157.

単結晶のウニの棘(Single-Crystal Spines)

ウニの棘は大きな、高度にパターン化した炭酸カルシウムの単結晶から出来てい る。棘の再生の研究から、Politiたち(p. 1161)は、このような回旋状の結晶構造が アモルファスの前駆体相の析出により発生した証拠を提供している。ゆっくりとし た形質変化により、高度にパターン化したアモルファス構造が最初に析出したとき の形状を保存したまま方解石の単結晶へと変化した。(KU)
Sea Urchin Spine Calcite Forms via a Transient Amorphous Calcium Carbonate Phase
   Yael Politi, Talmon Arad, Eugenia Klein, Steve Weiner, and Lia Addadi
p. 1161-1164.

混合の滞留(Staying Mixed)

大気中における12Cと14Cの比率は、主に地球への宇宙線フ ラックスの作用による14Cの生成と大気と深海での間のCO2 の再分布により制御されている。深海では、14Cは実質的に時とともに 崩壊する(14Cの半減期は5370年)「古い」炭素を含んでおり、そのフ ラックスの大気中への戻りが抑制されると、大気中 の14C/12Cの比は増加するであろう。最終氷期極大期におけ る大気の14C/12C の上昇は深海でのより低下した空気の流 通速度と浅海での炭酸塩析出の減少に由来するものであろう。Broeckerたち(p. 1169;Adkins and Pasqueroによる展望記事参照)は浅海と深海の有孔虫 の14C/12C を調べ、西赤道太平洋における2km深さの水の放 射線炭素年代が現在よりも古くはなく、このことは海洋混合の減少 が14C/12C の観測された変動を起こす可能性は少ないこと を示している。(KU)
Ventilation of the Glacial Deep Pacific Ocean
   Wallace Broecker, Stephen Barker, Elizabeth Clark, Irka Hajdas, Georges Bonani, and Lowell Stott
p. 1169-1172.
OCEAN SCIENCE:
Enhanced: Deep Ocean Overturning--Then and Now

   Jess F. Adkins and Claudia Pasquero
p. 1143-1144.

貧困の撲滅と生物多様性の促進(Curbing Poverty and Promoting Biodiversity)

人の貧困と生物多様性の減少は、特に発展途上国においてはしばしば一致してい る。近年、生物多様性の保存と貧困の減少を一緒にして取り組むべきであるという 考え方が広まっている。Adamsたち(p. 1146)は、生物多様性の保存と貧困の減少に 対する政策に介在する今日的な重要課題をレビューしている。(KU)
Biodiversity Conservation and the Eradication of Poverty
   William. M. Adams, Ros Aveling, Dan Brockington, Barney Dickson, Jo Elliott, Jon Hutton, Dilys Roe, Bhaskar Vira, and William Wolmer
p. 1146-1149.

状況に応じて毒性を使い分け(Virulence in Context)

気管上皮細胞毒素(tracheal cytotoxin;TCT)は、百日咳(およびその他の感染 症)における細菌性毒性因子であるが、これは白血球浸潤を誘発し、そして繊毛上 皮の気道を分解する。しかしながら、TCTが関与する宿主と細菌の遭遇のすべての場 合が否定的なものであるというわけではない。Koropatnickたち(p. 1186;表紙を 参照)は、夜行性のヤリイカEuprymna colopesとその共生発光細菌Vibrio fischeri との間の関係において、TCTがリポ多糖(LPS)と相乗作用をして、良好な役割を果 たしていることを見いだした。このことと関連して、TCTはさらに、繊毛細胞のアポ トーシスと宿主細胞浸潤を開始する。しかしながら、これらの細胞応答は、ヤリイ カの幼若体が最初にV.fischeriに遭遇したときに引き起こされ、特殊化した光器官 の生成に際して正常な発生段階を構成しており、そしてその光器官により、入って くる共生生物を適応させることができる。(NF)
Microbial Factor-Mediated Development in a Host-Bacterial Mutualism
   Tanya A. Koropatnick, Jacquelyn T. Engle, Michael A. Apicella, Eric V. Stabb, William E. Goldman, and Margaret J. McFall-Ngai
p. 1186-1188.

ミトコンドリア--再び代謝性疾患の犯人に(Mitochondria--Culprits Again in Metabolic Disease)

高血圧および高レベルのコレステロールは、一般的な個体群において、特にインス リン耐性および糖尿病も含む一群の疾患である"代謝性症候群"を有する個体におい て、しばしば互いに関連しあっている。Wilsonたち(p. 1190、2004年10月21日にオ ンライン上で公開;Marxによる10月22日のニュース記事を参照)は、高血圧、コレ ステロールの上昇、および血清マグネシウムレベルの低下に関して高い確率で罹患 する大家族について研究したところ、原因となる変異が、ミトコンドリアゲノムに よりコードされるイソロイシントランスファーRNA遺伝子中に存在することを見いだ した。したがって、高血圧、コレステロールの上昇、およびマグネシウムの低血清 レベルという3種の代謝特性が連続的に発生することは、1つの原因となる理由--ミ トコンドリア機能不全から生じる可能性がある。ミトコンドリア機能不全がインス リン耐性および2型糖尿病に関係していることを示す過去の証拠と相まって、この知 見は、米国における成人の25%までもが罹患している可能性のある症状、即ち代謝 性症候群の多くの構成要素において、ミトコンドリアが中心的な役割を果たしてい るという興味深い可能性をもたらした。(NF)
A Cluster of Metabolic Defects Caused by Mutation in a Mitochondrial tRNA
   Frederick H. Wilson, Ali Hariri, Anita Farhi, Hongyu Zhao, Kitt Falk Petersen, Hakan R. Toka, Carol Nelson-Williams, Khalid M. Raja, Michael Kashgarian, Gerald I. Shulman, Steven J. Scheinman, and Richard P. Lifton
p. 1190-1194.

魚の供給減少が野生肉(bushmeat)の消費を促す(Dwindling Fish Promotes Bushmeat Consumption)

熱帯地方の多くの国々で、魚と陸生の野生動物は人間の一次と二次の動物性タンパ ク質源である。Brasharesたち(p. 1180)は西アフリカでの30年間に渡るデータを用 いて、地域的なスケールでの海洋収穫量と陸生野生動物の人消費量との間の直接的 な関連を示している。野生動物の減少の割合は、又、野生肉の狩猟と魚供給におけ る変動に関係している。12箇所の局在的なマーケットからの魚と野生肉における価 格と需要供給のデータ調査により、海洋生産量と陸生動物の保存を結びつけるメカ ニズムが明らかになった。巨大な、相当額の支援を受けたEUの外国船団の活動は西 アフリカの魚供給の減少に導き、結果として関連した陸生の野生動物の消費増大に 結びついている。(KU)
Bushmeat Hunting, Wildlife Declines, and Fish Supply in West Africa
   Justin S. Brashares, Peter Arcese, Moses K. Sam, Peter B. Coppolillo, A. R. E. Sinclair, and Andrew Balmford
p. 1180-1183.

可逆的な、オスの免疫的避妊法(Reversible Male Immunocontraceptive)

女性のための信頼できる避妊法は、何十年ものあいだ存在しているのにもかかわら ず、男性が利用できる選択肢は限られている。O'Randたち(p. 1189;Couzinによる ニュース記事を参照)はここで、精巣上体のタンパク質、Eppinに対する免疫応答に 基づく、非ヒト霊長類の避妊方法について報告している。このホルモンに依存しな い方法は抗-Eppin力価の高いサルにおいて有効であり、避妊に成功したサルの大多 数は正常な妊性に戻ることができた。(NF)
Reversible Immunocontraception in Male Monkeys Immunized with Eppin
   M. G. O'Rand, E. E. Widgren, P. Sivashanmugam, R. T. Richardson, S. H. Hall, F. S. French, C. A. VandeVoort, S. G. Ramachandra, V. Ramesh, and A. Jagannadha Rao
p. 1189-1190.
MEDICINE:
Sperm-Targeting Vaccine Blocks Male Fertility in Monkeys

   Jennifer Couzin
p. 1117.

そして絶滅(Going, Going, Gone)

生態学的な研究における2つの主要なテーマは、生態系における生物多様性の喪失の 動力学、特に侵襲性の種の作用に関するもの、そして生物多様性(種の豊富さとい う形での)と生態系の機能との間の関係である(Raffaelliによる展望記事を参 照)。ZavaletaとHulvey(p. 1175)は、種の喪失について観察された 順序がどの ようにして生態系の機能に影響を与えるのかを調べることにより、これらの2つの領 域のつながりを与えている。特有の機能的な集団の急速にそして早期での喪失を含 めて、種は草原の区画から特定の順序で失われた。喪失は、それがたとえ珍しい種 の喪失であっても、資源の取り込みと帰化種が侵入することを妨げる生態系の能力 に強く影響されていた。海底に棲む無脊椎動物種から得られたデータを使用し て、Solanたち(p. 1177)は、生物多様性の喪失がどのようにして海底堆積物の生 物攪拌、即ち海洋生態系を維持しているエネルギーと物質の流れに影響を与える生 物活動による堆積層の撹乱にインパクトを与えているかについてモデル化した。生 物多様性の喪失は、海底環境における酸素が溶存した堆積物の深度を減少させ、そ してエネルギー流動と物質流動を世界的スケールで変化させるようである。絶滅の リスクは、一般的に生物攪拌に影響を与える種の生物学的特性と相関しているた め、生物多様性の喪失の結果は、種が絶滅する順番および絶滅の究極的な原因の両 方に依存している。(NF)
ECOLOGY:
How Extinction Patterns Affect Ecosystems

   David Raffaelli
p. 1141-1142.
Realistic Species Losses Disproportionately Reduce Grassland Resistance to Biological Invaders
   Erika S. Zavaleta and Kristin B. Hulvey
p. 1175-1177.
Extinction and Ecosystem Function in the Marine Benthos
   Martin Solan, Bradley J. Cardinale, Amy L. Downing, Katharina A. M. Engelhardt, Jennifer L. Ruesink, and Diane S. Srivastava
p. 1177-1180.

新薬の発見に光を当てる(Illuminating Drug Discovery)

新薬発見において、プロファイル技術を利用することは薬剤の標的に対する作用だ けでなく、標的以外への作用測定に極めて重要である。転写プロファイル法や、プ ロテオミックプロファイル法などのハイスループット法で得られるデータでは、通 常、単一の薬剤濃度に対する応答細胞数として計測される。Perlman たち(p. 1194) は、自動化顕微鏡と画像解析、および、統計解析を組み合わせたハイスループット の細胞学的プロファイル法を開発し、この報告を行っている。広範な細胞の生物学 的機能をカバーする複数の蛍光プローブを利用し、彼らは培養した哺乳類細胞に対 する100種の薬剤の投与量依存性効果のプロファイルを測定した。彼らは既知のメカ ニズムの薬剤の分類に成功し、これによる不確かなメカニズムの薬剤の標的を推定 した。(Ej,hE) |
Multidimensional Drug Profiling By Automated Microscopy
   Zachary E. Perlman, Michael D. Slack, Yan Feng, Timothy J. Mitchison, Lani F. Wu, and Steven J. Altschuler
p. 1194-1198.

マグマの微量成分(Magma Tracers)

Berloたち(p. 1167, 2004年10月14日の オンライン出版) による、セントヘレン山 の1980年5月の大爆発直前に噴火した火山岩の分析と、6年後の分析によると、水と 岩石中の結晶から得られた融解包含物中のリチウム濃度と210Pb濃度か ら、マグマの動きと脱気の情報がわかる。このデータによると、より深部にマグマ 溜りがあり、ここでマグマが停滞脱気され、その後、より浅いマグマ溜りへ上昇す る。これらの新しい微量化学成分は、噴火予測に役立つかもしれない。(Ej,hE)
Geochemical Precursors to Volcanic Activity at Mount St. Helens, USA
   Kim Berlo, Jon Blundy, Simon Turner, Kathy Cashman, Chris Hawkesworth, and Stuart Black
p. 1167-1169.

遷移状態を迂回して(Skirting the Transition State)

化学反応速度論によると、一般的に化学反応は山の峠越えに例えられる遷移状態を 経由する単一の軌跡を辿る。従って、余分なエネルギーを加えると、この経路を もっと早く動くだけだと思われている。Townsend たち(p.1158, オンライン出版 2004年10月21日号) は理論的モデルに加えて、詳細な生成物エネルギー測定によっ て、ホルムアルデヒド (CH2O) が全く異なる2つの経路を通って H2 と COに分解することを示した。主要経路は、比較的小さな運動量の 低温H2を有する遷移状態を経由する(最低エネルギー状態)。これに代 る別の経路では、この最低エネルギー状態の配置には近づかないで、1つのH原子同 士がほとんど離れるくらいの高温H2を経由する。(Ej,hE)
The Roaming Atom: Straying from the Reaction Path in Formaldehyde Decomposition
   D. Townsend, S. A. Lahankar, S. K. Lee, S. D. Chambreau, A. G. Suits, X. Zhang, J. Rheinecker, L. B. Harding, and J. M. Bowman
p. 1158-1161.

貧者の家系図(Poor Man's Tree of Life)

DNA配列データは今までに無いスピードで蓄積されつつあるが、この配列データのほ とんどが切れ切れのデータである現状を考えると、地球上全生物種の系統樹を作る ことは複雑な仕事となる。Driskellたち(p. 1172; Crandallと Buhayによる展望記 事参照) は、バイオインフォマティック手法によって現状のデータから取り出した 配列を3つの生物領域に渡る広範囲のデータ集合を作った。データに含まれる多く の遺伝子情報は全ての種にわたって配列が決まってなかったり、遺伝子マトリック ス成分が疎であったりするが、それでも高価な配列決定を決断する際の補足となる 有用な系統樹データと成りうる。(Ej,hE)
Prospects for Building the Tree of Life from Large Sequence Databases
   Amy C. Driskell, Cécile Ané, J. Gordon Burleigh, Michelle M. McMahon, Brian C. O'Meara, and Michael J. Sanderson
p. 1172-1174.
EVOLUTION:
Genomic Databases and the Tree of Life

   Keith A. Crandall and Jennifer E. Buhay
p. 1144-1145.

活性酸素の致死プログラム(Reactive Oxygen Death Program)

活性酸素種 (ROS)は植物や動物の病気、ストレス、細胞死と深い関係があ る。Wagner たち(p. 1183)はシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)による実験 で、以前、ストレス反応は物理化学的損傷を引き起すが、これは、ROSの一種である シングレット酸素によって引き起こされると考えられていたが、葉緑体タンパク質 のEXECUTER1を必要とする活性追従の遺伝的プログラムの帰結であることを示した。 このEXECUTER1遺伝子が不活性であれば、通常はシングレット酸素による損傷から、 植物は充分保護される。(Ej,hE)
The Genetic Basis of Singlet Oxygen–Induced Stress Responses of Arabidopsis thaliana
   Daniela Wagner, Dominika Przybyla, Roel op den Camp, Chanhong Kim, Frank Landgraf, Keun Pyo Lee, Marco Würsch, Christophe Laloi, Mena Nater, Eva Hideg, and Klaus Apel
p. 1183-1185.

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