AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 3, 2004, Vol.305


プラグ・イン式のフォトニクスに(Plug-In Photonics)

フォトニック結晶はその構造の周期性によって光を閉じ込める。その結晶格子内の 特異的な位置に欠陥を作ると、光をその構造から外に導くことが出来る。このよう な能力により、結果的に空間的に光の波長サイズスケールの体積をもつ光デバイス につながっていた。しかしながら、今まで、より小さなデバイスが光学的に駆動さ れていた。オプトエレクトロニス技術へ実際に応用し、早く組込めるようにするに は電気的に駆動できるデバイスが必要とされる。Parkたち(p. 1444)は、キャリアを 電気的に注入できる欠陥モードのフォトニック結晶レーザを開発した。このデバイ スは閾値電流が低く、室温でパルスモードで動作する。(hk)
Electrically Driven Single-Cell Photonic Crystal Laser
   Hong-Gyu Park, Se-Heon Kim, Soon-Hong Kwon, Young-Gu Ju, Jin-Kyu Yang, Jong-Hwa Baek, Sung-Bock Kim, and Yong-Hee Lee
p. 1444-1447.

ダストの多い円盤における塊と隆起(Clumps and Bumps in a Dusty Disk)

若い星のまわりにおけるデブリ(debris)からなる円盤は、ダストとガスとが充満し ている。それらは、(βPic)の中の天体では、ダストが豊富で、比較的大きな円盤を 有していた時に創られたもので、よく研究されている。そして、このような円盤を 研究することによって、天文学者たちは太陽系外惑星の証拠を見出す可能性があ る。最近、画架座ベータ星の近くにある同年齢の若い星、顕微鏡座AU星の周りに 円盤が発見された。Keck II 10m 望遠鏡と補償光学系を用いて、Liu (p. 1442, 2004年8月12日に、オンライン上で発行された) は、顕微鏡座AU星の周りの内側円 盤に、こぶ状の高密度部分、円盤の厚さの非対称な変化、そして、円盤の折れ曲が りを見いだした。これら円盤の副次構造は、太陽系外惑星による円盤への影響とし て予想されていた効果と一致している。(Wt,nk)
Substructure in the Circumstellar Disk Around the Young Star AU Microscopii
   Michael C. Liu
p. 1442-1444.

きれいなナノチューブの糸(Neat Nanotube Fibers)

単層のカーボンナノチューブ(SWNTs)は、殆どの溶媒に不溶のため取り扱いが難し い。界面活性剤の添加によりSWNTの溶解性は向上するが、この界面活性剤がナノ チューブの優れた特性を損なう危険がある。Ericsonたち(p. 1447)は、SWNTが発煙 硫酸中では溶解するという彼らの以前の研究に立脚して、配向したナノチューブを ばらばらにすることなくSWNTを高度に配向したファイバーに紡ぐプロセスを開発し た。彼らは、超酸がどのようにしてナノチューブやナノチューブの束と相互作用し て可溶化しているのかを示している。(KU)
Macroscopic, Neat, Single-Walled Carbon Nanotube Fibers
   Lars M. Ericson, Hua Fan, Haiqing Peng, Virginia A. Davis, Wei Zhou, Joseph Sulpizio, Yuhuang Wang, Richard Booker, Juraj Vavro, Csaba Guthy, A. Nicholas G. Parra-Vasquez, Myung Jong Kim, Sivarajan Ramesh, Rajesh K. Saini, Carter Kittrell, Gerry Lavin, Howard Schmidt, W. Wade Adams, W. E. Billups, Matteo Pasquali, Wen-Fang Hwang, Robert H. Hauge, John E. Fischer, and Richard E. Smalley
p. 1447-1450.

化石骨は二足歩行説を支持する(Bone Supports Bipedal Contention)

最初期原人の候補の1つは、ケニアで2001年に発見されたオロリン・ツゲネンシス である。その化石にはいくつかの手足の骨の断片が含まれており、その中に三つの 大腿骨からの破片が数箇ある。これらの600万年前の化石は二足歩行していたと解釈 されていたが、長く議論の的となっていた。Galik たち(p. 1450)はコンピュータX 線断層撮影を用いて、最も完全な左大腿骨の内部構造を分析した。大腿骨の構造は そこに与えられる重みの負荷を反映しており、オロリンの大腿骨内部構造は人類の 骨と極めて一致しているがゴリラやチンパンジーの骨とは異なっていることから、 二足歩行をしていたことを確証するものである。(TO,bb,nk)
External and Internal Morphology of the BAR 1002'00 Orrorin tugenensis Femur
   K. Galik, B. Senut, M. Pickford, D. Gommery, J. Treil, A. J. Kuperavage, and R. B. Eckhardt
p. 1450-1453.

注目中のSlicerのステップ(Slicer Steps into the Limelight)

RNA干渉の間、Dicer (または外因的に供給される)によって生成される小さな干渉 性(si)RNAは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と会合し、その後に相同性の標 的RNAsに結合して、これらを切断し不活性化する。RISCの主要な構成員は一本鎖 siRNAとArgonaute (Ago)ファミリーの色々なタンパク質の任意の一つである。現在 にいたるまで、"Slicer"と呼ばれているRISCのヌクレアーゼが何であるかは不明な ままだった(SontheimerとCarthewの展望記事参照)。Songたち (p.1434, 7月29日 版、2004発行)はPyrococcus furiosusから得られたタンパク質Agoの構造を示してい る。これは4つのドメインから成っており,PAZとPIWIドメインはAgoを特徴づけして いる。PfAgo PIWIドメインはRNase Hに相同的であり、保存性の触媒残基を含んでい る。PAZドメインとPIWIドメインの並置によって、Agoが標的RNAsに会合して、切断 するメカニズムが説明できるかもしれない。Liu たち(p. 1437, オンライン出版 29 July 2004) によると、他のマウスAgosと異なり、Ago2のみがmRNAの切断-活性に関 与する(cleavage-competent) RISCを形成できることを示している。またRNAiには Ago2も生体内で必須であり、正常なマウスの成長には必要である。RNaseH-like PIWIドメイン中の保存性の触媒残基がRISCの切断活性には不可欠であることから、 どうもAgo2が捜し求めている"Slicer"ではないかと思われる。(Ej,hE)
MOLECULAR BIOLOGY:
Argonaute Journeys into the Heart of RISC

   Erik J. Sontheimer and Richard W. Carthew
p. 1409-1410.
Crystal Structure of Argonaute and Its Implications for RISC Slicer Activity
   Ji-Joon Song, Stephanie K. Smith, Gregory J. Hannon, and Leemor Joshua-Tor
p. 1434-1437.
Argonaute2 Is the Catalytic Engine of Mammalian RNAi
   Jidong Liu, Michelle A. Carmell, Fabiola V. Rivas, Carolyn G. Marsden, J. Michael Thomson, Ji-Joon Song, Scott M. Hammond, Leemor Joshua-Tor, and Gregory J. Hannon
p. 1437-1441.

メタンの逆方向生成(Methane Counter-Production)

無酸素堆積物(anoxic sediments)中で起こるメタンの嫌気性酸化(anaerobic oxidation)は、長い間硫酸塩還元細菌(sulfate-reducing bacteria)によるもとのさ れてきたが、メタンを酸化するものは何も見つかっていない。ごく最近、メタン生 成微生物(methanogens)自身がメタンを消費することができるということが示唆され ている。Hallamたち(p.1457)は、メタン発生機構(methanogenesis machinery)のほ とんどを備えるメタン酸化始原細菌(methane-oxidizing archaeans)を発見した。こ れらの有機体もまた、メタン発酵経路を逆行することでメタンを消費することを示 唆している。このプロセスは、無酸素堆積物中において発生した微生物共同体 中(microbial consortia)の硫酸還元細菌の活動と明らかに熱力学的に結びついてい る。(TO)
Reverse Methanogenesis: Testing the Hypothesis with Environmental Genomics
   Steven J. Hallam, Nik Putnam, Christina M. Preston, John C. Detter, Daniel Rokhsar, Paul M. Richardson, and Edward F. DeLong
p. 1457-1462.

分子の力で嘴をぐいっと変形(Molecular Beak Tweaking)

2つの研究グループが、嘴の多様性の分子的基礎に関して研究している(Pennisiに よるニュース記事を参照)。Abzhanovたち(p. 1462)は、鳥類の嘴を特徴づける分 子的現象を説明するため、Geospiza属、すなわち"ダーウィンフィンチ"を調べた。6 種のフィンチの間での嘴の形態と骨形成タンパク質4(bone morphogenic protein 4;Bmp4)との相関から、この因子の発現がこれらの種の間での嘴の形態の相違の原 因となっているという仮説が、支持される。Wuたち(p. 1465)は、ニワトリの嘴と アヒルの嘴の相違を観察し、細胞増殖とBmp4発現のそれぞれの分布領域に多様性が あることを示した。(NF)
DEVELOPMENTAL BIOLOGY:
Bonemaking Protein Shapes Beaks of Darwin's Finches

   Elizabeth Pennisi
p. 1383.
Bmp4 and Morphological Variation of Beaks in Darwin's Finches
   Arhat Abzhanov, Meredith Protas, B. Rosemary Grant, Peter R. Grant, and Clifford J. Tabin
p. 1462-1465.
Molecular Shaping of the Beak
   Ping Wu, Ting-Xin Jiang, Sanong Suksaweang, Randall Bruce Widelitz, and Cheng-Ming Chuong
p. 1465-1466.

細胞死の指令を送信(Sending a Cell-Death Sentence)

ガン細胞は、プログラム細胞死経路を免れているが故に増殖する。このような細胞 におけるアポトーシス経路を活性化する経路を見つけようと、多くの研究が行われ てきた(DenicourtとDowdyによる展望記事を参照)。細胞が生存するか死ぬかを決 定する重要な相互作用は、アポトーシスを制御するタンパク質中に見いだされる、 いわゆるBH3(BCL-2ホモロジー3)ドメインにより媒介される。このようなシグナル 伝達は、相互作用ドメインに似ているペプチドにより模倣され、あるいは妨害され るが、しかしそのような分子は作用が弱く、安定性に乏しく、かつ細胞への輸送が 十分でないため実験用試薬、又は治療用薬剤としては重大な欠点を有してい る。Walenskyたち(p. 1466)はここで、アポトーシスを促進するBH3ドメインが、 彼らが炭化水素ステープル(hydrocarbon staple)と呼んでいる化学的修飾により その天然のらせん形状を保持される場合、これらの欠点を克服できることを示し た。修飾ペプチドは、その標的に対する結合親和性が上昇し、プロテアーゼに対し てかなり耐性であり、そして細胞膜を透過できることが示された。動物における予 備的研究では、修飾ペプチドはマウスにおける移植腫瘍の増殖を低下させることが できることも示された。アポトーシスによる細胞死を媒介するシステインプロテ アーゼであるカスパーゼの活性は、アポトーシスタンパク質の阻害剤(IAPs)によ り抑制されている。Smacとして知られるタンパク質はIAPsに結合し、カスパーゼの 阻害剤を放出することにより、アポトーシスを促進する。Li たち(p. 1471) は、Smacペプチドの作用を、低分子膜透過性分子により、強力に模倣できることを 示した。この化合物を用いた研究により、腫瘍壊死因子(TNF)のアポトーシス作用 を可能にするためのタンパク質合成の阻害のための周知の要求性が、IAP-媒介性の カスパーゼの阻害が減少することを反映して いることが示された。この新規化合 物により、培養中のガン細胞がTNF-誘導性細胞死に対して感受性になった。(NF)
MEDICINE:
Targeting Apoptotic Pathways in Cancer Cells

   Catherine Denicourt and Steven F. Dowdy
p. 1411-1413.
Activation of Apoptosis in Vivo by a Hydrocarbon-Stapled BH3 Helix
   Loren D. Walensky, Andrew L. Kung, Iris Escher, Thomas J. Malia, Scott Barbuto, Renee D. Wright, Gerhard Wagner, Gregory L. Verdine, and Stanley J. Korsmeyer
p. 1466-1470.
A Small Molecule Smac Mimic Potentiates TRAIL- and TNFα-Mediated Cell Death
   Lin Li, Ranny Mathew Thomas, Hidetaka Suzuki, Jef K. De Brabander, Xiaodong Wang, and Patrick G. Harran
p. 1471-1474.

捕食への非戦的な対応(A Disarming Approach to Predation)

捕食はしばしば、進化を駆動する1つの重要な力であると考えられてきた。地球の 歴史におけるいくつかの時期に、捕食者とその獲物の双方の急速な進化が記録され ているようである。そうした時期の1つが、4億4千万年前から3億6千万年前にかけて の、古生代中期の海洋変革(Marine Revolution)である。捕食の増加が化石記録に直 接的に残されているかどうか、またそれがその海洋変革を駆り立てていたかどうか を確認するするために、BaumillerとGahnはウミユリの腕枝への損傷を検証した(p. 1453; またStokstadによるニュース記事参照のこと)。ウミユリはしばしば、攻撃者 に対して1つ以上の腕を犠牲にして、その後でそれらを再生する。損傷した腕をもつ ウミユリの分布は、この変革の時期に急に上昇し、捕食仮説を支持するものであ る。(KF,nk)
Testing Predator-Driven Evolution with Paleozoic Crinoid Arm Regeneration
   Tomasz K. Baumiller and Forest J. Gahn
p. 1453-1455.

膨れて成長する(A Swell Way to Grow)

封じ込めるための膜を獲得した初期の自己複製システムは、おそらく環境から生命 を守る能力を得たのだが、膜の獲得によって、その膜が複製の仕組みと同調して成 長し分割することも必要になった。RNAこそが初期の複製の仕組みの候補の1つであ り、ChenたちはRNAベースの複製の仕組みと脂肪酸ベースの小胞との関連を調べ た(p. 1474)。包み込まれたRNAは膜に対する圧を維持し続ける。この膨れた高浸透 圧性の小胞は、低い浸透圧をもった等張性の小胞の膜を取り込んで利用することに よって成長する。つまり、より効率的なRNAベースの複製の仕組み(正しくは、高浸 透圧を維持する複製の仕組みであれば何でも)が、効率の悪い小胞に包まれた複製の 仕組みに打ち勝って成長することになるわけである。(KF)
The Emergence of Competition Between Model Protocells
   Irene A. Chen, Richard W. Roberts, and Jack W. Szostak
p. 1474-1476.

小さな星粒(Tiny Star Grains)

ティーシィッツ隕石からの太陽系形成前の二つの粒子に関する高分解能の同位体解 析と微細構造解析により、この2個のコランダム構造のアルミナとアモルファスア ルミナが漸近巨星分岐星(asymptotic giant branch stars)から形成されたことを示 している。これらの粒子は星の周りの周星円盤中で凝結し、星間空間を漂い、太陽 系の形成を経ても、更なる変成作用を受けずに生き延びたのである。かくし て、Stroudたち(p.1455)が結論付けたように、これらの粒子がコランダム構造のア ルミナとアモルファスアルミナに関する観測結果を確証するものであり、そして星 と惑星系の形成に関するモデルを更に精緻にするような化学面での詳細を与えるも のである。(KU,Ej,nk,tk)
Polymorphism in Presolar Al2O3 Grains from Asymptotic Giant Branch Stars
   Rhonda M. Stroud, Larry R. Nittler, and Conel M. O'D. Alexander
p. 1455-1457.

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