AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 2, 2004, Vol.305


アフリカの先祖を発見(Finding African Ancestors )

ヨーロッパからアジアにかけて、100万年から50万年前の年代に見つかる原人の化石 証拠は、特に手斧のような特徴的な道具と関係付けることが出来る。しかし、アフ リ カにおけるこの期間の原人化石は、道具や他の動物の化石が豊富にあるにも拘わ らず特に少ない。この相違により、重要なこの期間における地域間の比較を行うこ とに制限を与えている。Pottsたち(p.75; Schwartzによる展望記事参照) は、ケニ アで発見されたおよそ93万年前の年代とされる原人について、その明らかに小さな 個体の頭蓋の化石について述べている。その化石は、アフリカのアシュール期の手 斧が最も多く見つかる遺跡の1つの近くから見つかった。その特徴には、ホモエレ クトスとの多くの類似点があるにしても、この時期の原人に幅広い多様性があるこ とを示唆している。(TO,Ej)
Small Mid-Pleistocene Hominin Associated with East African Acheulean Technology
   Richard Potts, Anna K. Behrensmeyer, Alan Deino, Peter Ditchfield, and Jennifer Clark
p. 75-78.

あらゆる角度から見た宇宙暴風雨(Space Weather from All Perspectives)

コロナからの質量放出(Coronal mass ejections CMEs) は太陽コロナからの非常に 高エネルギー性の磁化したガスの噴出であり、しばしば太陽フレアやフィラメント を伴う。この泡状の物体が太陽圏(heliosphere)に突っ込むと、地球磁場と電離層密 度をかき乱す。これらの乱れは衛星に被害を与え、電波交信を途絶させ、電力網に 損害を加え、高高度における宇宙船や飛行機中の人間を高い線量の放射線に曝す可 能性がある。Moran と Davila (p. 66, 2004年5月27日のオンラインにて発表され た; Raymond による展望記事を参照のこと) は、SOHO のデータの解析により、いく つかの CMEs の速度と三次元的形状を決定した。これらの結果は、太陽物理学者に はこれらの高エネルギー放出がどのように形成されたかをよりよく理解するのに有 効であろう。また、他の人にとっては、地球においては避けがたい宇宙暴風雨に対 しての準備を可能とするものであろう。(Wt,nk)
Three-Dimensional Polarimetric Imaging of Coronal Mass Ejections
   Thomas G. Moran and Joseph M. Davila
p. 66-70.

脂質は変化球投手(Lipids Throw a Curve)

原生動物、テトラヒメナの交配が行われているあいだ、直径約10μmの領域中の2 っ の細胞膜の間で数百の融合細孔が形成される。結合は、新規の脂質の合成に依存す ることが示された。Ostrowskiたち(p. 71)は飛行時間(TOF)型二次イオン質量分 析装置を用いて、これらの交配管(mating tube)を描写し、テトラヒメナの交配管 における脂質の分布が不均質であることを見いだした。融合領域は、曲率が大きな 脂質である2-アミノエチルホスホノリピドが豊富である。これらの結果から、融合 は脂質の分布により促進され、その結果様々な曲率の表面が形成される可能性があ ることが示唆された。(NF)
Mass Spectrometric Imaging of Highly Curved Membranes During Tetrahymena Mating
   Sara G. Ostrowski, Craig T. Van Bell, Nicholas Winograd, and Andrew G. Ewing
p. 71-73.

分泌性リソソームの役割(Secretory Lysosomes in Health and Disease)

リソソームは全ての哺乳動物細胞中に見いだされる膜結合型のオルガネラであり、 タンパク質や膜などの細胞内の廃棄物は、加水分解酵素やリパーゼによって破壊さ れるためにリソソームに運搬される。しかし、リソソームは、細胞内でゴミ箱以上 の役割を担っている。Stinchcombeたち(p. 55)は、廃棄物のための最終的な処分 場所としては定義することができない様々な細胞型において重要な特殊な型のリソ ソームの役割を精査した。特定の細胞型において、特に免疫系の細胞において、リ ソソームは、外部刺激に反応して調節性エクソサイトーシスにより放出される可能 性がある分泌性タンパク質を含有しており、それにより種々の細胞に幅広いエフェ クター機能をもたらしている。いくつかの 免疫系に関する遺伝子疾患では、この分 泌性リソソームの機能の欠損が関与している。分泌性リソソームに関する膜-トラ フィッキング経路とメラノサイトに関する膜-トラフィッキング経路との間の類似性 から、いくつかの珍しい遺伝子疾患において、免疫機能不全と白皮症とが関連して いることが意味される。(NF)
Linking Albinism and Immunity: The Secrets of Secretory Lysosomes
   Jane Stinchcombe, Giovanna Bossi, and Gillian M. Griffiths
p. 55-59.

捩じれをもった光ファイバ( Optical Fibers with a Twist )

光ファイバでの伝送レイトを上げるための一つの方法は、ファイバ内では異なった 偏向と波長を使って伝送し、ファイバ外でそれらを再結合して情報を再生させるこ とである。Koppたち(p. 74)は、周期的な捩れにより光ファイバにキラリティを導入 する簡単な技術を示している。捩れの周期に応じて、彼らは特別な波長の光をファ イバの外で結合し、伝送される光の偏向状態をも選択できる。(hk,Ej)
Chiral Fiber Gratings
   Victor I. Kopp, Victor M. Churikov, Jonathan Singer, Norman Chao, Daniel Neugroschl, and Azriel Z. Genack
p. 74-75.

細胞質分裂を分析(Dissecting Cytokinesis)

細胞分裂において、物理的に娘細胞に分かれるこのプロセスは細胞質分裂として知 られている。Skopたち(p. 61;2004年5月27日のオンラインで発表された表紙を参 照)は、ほ乳動物の細胞における細胞質分裂の細胞小器官残遺物である中央体のタン パク質分析と、引き続いての線虫C.elegansにおける相同遺伝子の機能的スクリーニ ングを結びつけることにより細胞質分裂における重要な成分を同定した。共通の成 分が細胞質分裂におけるくびれの形成や生殖系列、及び神経での多様な動的膜事象 にも含まれていた。(KU)
Dissection of the Mammalian Midbody Proteome Reveals Conserved Cytokinesis Mechanisms
   Ahna R. Skop, Hongbin Liu, John Yates, III, Barbara J. Meyer, and Rebecca Heald
p. 61-66.

古い火星の気候の再評価(Reassessing Ancient Martian Climate)

火星のマリネリス峡谷(Valles Marineris)にある台地や峡谷に存在する樹枝状 谷(Dendritic valleys)は、約29億年から34億年前の雨の多い気候の期間に造られ た。こうした河成地形に基づき、Mangoldたち(p.78;Kerrによるニュース記事参照) は、雨の多い期間が長く続いたこと、そして火星が寒冷と考えられた時期であるヘ スペリアン時代後期がより温暖な気温であるべきことを示唆している。(TO,tk)
Evidence for Precipitation on Mars from Dendritic Valleys in the Valles Marineris Area
   Nicolas Mangold, Cathy Quantin, Véronique Ansan, Christophe Delacourt, and Pascal Allemand
p. 78-81.

最高の記憶格納部位(Ultimate Memory Storage Sites)

宣言型記憶の形成には海馬を含む内側側頭葉の構造におけるシナプスの可塑性の変 化が関与する。しかし、海馬は長期記憶格納においては限られた時間で役目を果た す。結局、他の構造が独自に長時間経過した記憶の検索を支援するようにな る。Mavielたち(p. 96)は、最近の、或いは長時間経過した記憶テストが行なわれた マウスにおいて、活性依存的な遺伝子の脳イメージングと領域特異的なニューロン 不活性化とを結びつけた。特異的新皮質の連合野(前頭葉前部、前側帯状、頭頂、レ トロ板状筋)が、記憶固定時に、新皮質の再編成に関与する別の機能的なニューロン のメカニズムでもって長期の空間的記憶形成に介在していた。同定した領域を個々 に不活性化した時、長時間経過した記憶の検索の機能障害が発生したが、最近の記 憶の検索の障害は発生しなかった。 (An,Ej,hE)
Sites of Neocortical Reorganization Critical for Remote Spatial Memory
   Thibault Maviel, Thomas P. Durkin, Frédérique Menzaghi, and Bruno Bontempi
p. 96-99.

タンパク質のマイクロアレイを単純に(Protein Microarrays Made Simple)

タンパク質のマイクロアレイはタンパク質の機能研究に重要なツールであるが、マ イクロアレイの形成は難かしい技術的なチャレンジであり、その応用が限られてい た。Ramachandran たち(p. 86)は、タンパク質チップをもっと実用的にする方法を 記述している。著者たちは、抗原決定基をタグとした標的タンパク質をコードする 相補DNAをガラススライドに印刷した。このタンパク質を無細胞のシステムで発現さ せ、抗原決定基タグによってその場で固定化させた。29のDNA複製開始タンパク質の 間の相互作用がこの方法で分析された。 (An)
Self-Assembling Protein Microarrays
   Niroshan Ramachandran, Eugenie Hainsworth, Bhupinder Bhullar, Samuel Eisenstein, Benjamin Rosen, Albert Y. Lau, Johannes C. Walter, and Joshua LaBaer
p. 86-90.

生殖性種の分化の開始を理解(Understanding the Beginnings of Reproductive Isolation)

種分化の過程の中で、オスの雑種不稔性は種孤立化の最初のメカニズムと考えられ る。Sunたち(p. 81)は進化、発現パターン、ショウジョウバエの野生型機能の種分 化遺伝子で、雑種雄性不稔の原因であるOdysseus (Ods)について調べた。彼らによ ると、Odsは雑種では発現不良が生じており、正常なOdsは若いオスのハエでは精子 形成を増強していることを示した。精子形成は、他の発生過程に比べて、遺伝子発 現に対する遺伝子錯乱の影響がより敏感であるようだ。もし、そうであれば、精子 産生に関わるどの遺伝子も雑種不稔性に関与している可能性がある。(Ej,hE)
The Normal Function of a Speciation Gene, Odysseus, and Its Hybrid Sterility Effect
   Sha Sun, Chau-Ti Ting, and Chung-I Wu
p. 81-83.

融合せずに様々に発生(Diverse Development Without Fusion)

最近、骨髄由来細胞(BMDC)が、予想だにしなかった組織に作用するという驚くべ き傾向を示すことが示されている。そのような結果が異常な細胞融合に由来するも のなのかそれともその他のメカニズムに基づくものなのか、という点に関して、か なりの議論が集中した。Harrisたち(p. 90;Vogelによるニュース記事を参照)は ここで、cre/lox組換えシステムをss-ガラクトシダーゼと組み合わせて使用し、ト ランスジェニックマウス中での緑色蛍光タンパク質の発現を亢進させて、体内に存 在するレシピエント細胞と融合することなく組織中に組み込まれたドナー細胞を同 定した。これらのマウスにおいて、オスのドナー骨髄由来の未融合内皮細胞が、 肺、肝臓および皮膚において見いだされた。(NF)
Lack of a Fusion Requirement for Development of Bone Marrow-Derived Epithelia
   Robert G. Harris, Erica L. Herzog, Emanuela M. Bruscia, Joanna E. Grove, John S. Van Arnam, and Diane S. Krause
p. 90-93.

膜分裂とゴルジ分裂(Membrane Fission and Golgi Division)

細胞分裂の間に、ゴルジ複合体などの複製が1つしかない細胞小器官は、娘細胞それ ぞれに忠実に分配されなければいけない。Hidalgo Carcedoたちはこのたび、ゴルジ 細管を切断することでゴルジ分配において役割を果たしている、BARSと名付けられ たタンパク質について記述している(p. 93; また、Diao とLoweによる展望記事参照 のこと)。試験管内で、BARSは、遊離したゴルジ膜の分裂を促進することができ る。BARSタンパク質の活性は、無傷の細胞が有糸分裂に入るさいにおいても重要な ものである。(KF)
Mitotic Golgi Partitioning Is Driven by the Membrane-Fissioning Protein CtBP3/BARS
   Cristina Hidalgo Carcedo, Matteo Bonazzi, Stefania Spanò, Gabriele Turacchio, Antonino Colanzi, Alberto Luini, and Daniela Corda
p. 93-96.

文脈こそ重要(Context Is King)

発生中の軸索は、こっちにまたはあっちへ伸びろと告げてくれる一群の情報に遭遇 する。同じ情報伝達分子が、ある文脈(context)では「こっちに行け」と言い、別の 文脈では「あっちへ行け」と告げる場合もある。Changたちはこのたび、こうした見 かけ上は冗長で矛盾した指示をする分子の複雑さのある面について解明した(p. 103)。線虫における受容体タンパクの1つ、チロシン脱リン酸酵素 CRL-1を同定でき たことで、解明の鍵が得られたのである。ある文脈では、CRL-1と軸索-誘導分子 netrinとの協力によって誘引が生じ、別の文脈では、成長する軸索の先端同士の反 発が生じるのである。(KF,hE)  
Inhibition of Netrin-Mediated Axon Attraction by a Receptor Protein Tyrosine Phosphatase
   Chieh Chang, Timothy W. Yu, Cornelia I. Bargmann, and Marc Tessier-Lavigne
p. 103-106.

デジタル世界における進化(Evolution in a Digital World)

自然界に見られる種の多様性のパターンの根底にある要因は、生態学の主要な焦点 であり続けている。何が、生産性の勾配にそった、種の多様性の原因となっている のか、またどのような進化のプロセスが、観察されるパターンを生み出すのに関 わっているのだろうか? Chowたちは、デジタル生命体のイン・シリコでの進化 を、生産性の関数として、均質な環境における機能的に異なった種の出現と維持に 適用した(p. 84)。種の多様性のピークを導く適応放散は、資源の流れの中間段階で 生じ、自然界の生態系で観察されるパターンと同様のものであった。(KF,hE)  
Adaptive Radiation from Resource Competition in Digital Organisms
   Stephanie S. Chow, Claus O. Wilke, Charles Ofria, Richard E. Lenski, and Christoph Adami
p. 84-86.

ニューロン活性の変動(The Ups and Downs of Neural Activity)

ニューロンは、電位または神経伝達物質によって開閉されるイオン選択性チャネル の一過性の開閉によって引き起こされる膜電位の変化を介して機能している。主に K+やNa+、Ca2+などの多様なイオンはその電気 化学的勾配を下って受動的に移動し、それらをもとに戻すにはエネルギーが必要に なる。Kasischkeたちは、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NADH) の還 元型の2-光子イメージングを用いて、ニューロンの活動中における空間的、時間的 イベントを調べた(p. 99; また、PellerinとMagistrettiによる展望記事参照のこ と)。ミトコンドリアの酸化的代謝によって引き起こされる、樹状突起におけるNADH の初期の消費に続いて、星状細胞における解糖性(非酸化的)代謝が生じる。この後 者のプロセスは乳酸を生み出し、これが星状細胞から汲み出されてニューロンに運 ばれ、そこにおいてミトコンドリア内で「燃焼」されうるのである。(KF)  
Neural Activity Triggers Neuronal Oxidative Metabolism Followed by Astrocytic Glycolysis
   Karl A. Kasischke, Harshad D. Vishwasrao, Patricia J. Fisher, Warren R. Zipfel, and Watt W. Webb
p. 99-103.

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