AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 11, 2004, Vol.304


薄くスライスされた強誘電体(Ferroelectrics Sliced Thin)

薄過ぎて強誘電性の性質が不可能になる厚みというのは存在するのだろうか?Fong たち(p. 1650)は、一連の強誘電性プロブスカイト超薄膜のx-線回折の計測をした。 膜厚が薄くなるにつれて、遷移温度は劇的な低下を示したが、3格子単位程度の薄 膜においても観測可能であった。(hk,Ej)
Ferroelectricity in Ultrathin Perovskite Films
   Dillon D. Fong, G. Brian Stephenson, Stephen K. Streiffer, Jeffrey A. Eastman, Orlando Auciello, Paul H. Fuoss, and Carol Thompson
p. 1650-1653.

流転する触媒(Catalysis in Flux)

不均一系の触媒は、しばしば、金属酸化物担持体上に吸着されたナノスケールの金 属粒子からなっている。そのようなナノスケールの粒子は、その電子構造(「量子閉 じ込め」効果)と表面サイズ(「幾何学的」効果)の両方において、バルクの金属とは 異なっている可能性がある。まだあまり研究されていない効果には揺らぎの効果が ある --- 非常に小さい粒子の吸着する分子量は小さく、そのため、これを被覆する 分子の分子量1つの差が相対的に大きな統計的ゆらぎを引き起こすことにな る。Johanek たち (p.1639) は、そのような揺らぎがPd のナノ粒子による一酸化炭 素の酸化反応を変えてしまうことを示している。大きなナノ粒子(500nm)での反応 は、動力学的に安定な二つの異なる領域を示す(混合物が CO あるいは O が豊富に なるかどうかに応じ、ある与えられた CO 対 Oの圧力比において、二つの異なる反 応速度が知られている)。しかしながら、より小さなナノ粒子(~2nm)上では、吸着 された分子の表面における相対濃度の統計的な揺らぎが、二つの反応動力学領域を 規定する濃度差に比べて大きいため、双安定な領域は発生し得ない。(Wt,Ej)
Fluctuations and Bistabilities on Catalyst Nanoparticles
   V. Johánek, M. Laurin, A. W. Grant, B. Kasemo, C. R.Henry, and J. Libuda
p. 1639-1644.

酵素的な過酸化反応の基礎(The Basics of Enzymatic Peroxidation)

酵素のP450ファミリィはシクロヘキサンといった比較的不活性な基質に対して必要 な部分酸化を行うことが出来る。鉄−ポルフィリン中心核がどのようにしてこのよ うな反応を行い、そのタンパク質の残余の部分を酸化しないのかという疑問が生じ ていた。Greenたち(p. 1653)は拡張X線吸収スペクトルを用いて,活性化されたクロ ロペルオキシダーゼとその一電子還元生成物(CPO-ⅠとCPO-Ⅱの各々)の構造解析を 行った。CPO-Ⅱにおいて観測された結合距離からは、オキソ鉄(Ⅳ)化合物というより も水素化したフェリル化合物(FeⅣ-OH)であることを示している。予期された以上 に接近した軸のチオールリガンドによる強い電子供与性により酸素をより強い塩基 性へとしている。このような酸−塩基の化学では酸化還元電位を低下させ、アルカ ンの酸化を可能としている。(KU)
Oxoiron(IV) in Chloroperoxidase Compound II Is Basic: Implications for P450 Chemistry
   Michael T. Green, John H. Dawson, and Harry B. Gray
p. 1653-1656.

イオウのサイクル(Cycling Sulfur)

イオウの化学的サイクルは炭素や酸素、及び他の多くの重要な化合物のサイクルと 関連している。外生的なイオウサイクルは同位体組成に反映され、その記録は海洋 の生産性、栄養物の分布、レドックス条件、及び火山情報に関する価値ある情報を 含んでいる。Paytanたち(p. 1663)は耐性の高い硫酸塩無機物である重晶石を用い て、過去1億3千万年に渡る海洋のイオウ同位体組成の記録を再構築した。幾つか の大きな変化がその期間で起こっており、このことは黄鉄鉱埋没速度の変化を示し ており、白亜紀全体での同位体的に軽いイオウ成分は火山活動と水熱活動の増加を 反映しているものと思われる。(KU)
Seawater Sulfur Isotope Fluctuations in the Cretaceous
   Adina Paytan, Miriam Kastner, Douglas Campbell, and Mark H. Thiemens
p. 1663-1665.

ハワイ島での古代農業(Ancient Farming on Hawai'i)

ヨーロッパ人が原住民文化と接触する前の熱帯農業は、接触によってどのような影 響を受けたのだろうか?Vitousekたち(p. 1665)は気候パターンの特徴と、ほとんど の農業用水を天水に頼るハワイの農業複合体における土壌の肥沃度について述べて いる。彼らは、この土壌環境が農業への過剰依存を可能にさせたのか、そのメカニ ズムを解明し、また、このメカニズムがハワイ島の不均一な環境にどのように相互 作用したのか、その結果、ハワイ島での島毎に異なる農業形態へと発展し、これが 群島社会に反映されているかを示している。(Ej)  
Soils, Agriculture, and Society in Precontact Hawai`i
   P. M. Vitousek, T. N. Ladefoged, P. V. Kirch, A. S. Hartshorn, M. W. Graves, S. C. Hotchkiss, S. Tuljapurkar, and O. A. Chadwick
p. 1665-1669.

リン脂質生合成の細胞制御(Cellular Regulation of Phospholipid Biosynthesis)

細胞は、どのようにして細胞膜の脂質組成を恒常的に制御しているのだろうか?発 芽酵母Saccharomyces cerevisiaeにおけるリン脂質代謝は、転写因子Opi1pにより調 和的に抑制され、これが次いで、脂質前駆体としての細胞外イノシトールにより活 性化される。Loewenたち(p. 1644)はここで、増殖条件に対して、特に外来性イノ シトールの存在に対して非常に感受性が高い小胞体(ER)上に、ホスファチジン 酸(PA)のプールが存在することを示した。このPAは、可溶性の転写抑制因子Opi1p により直接的に結合される。この転写抑制因子Opi1pとERのPAとの結合によ り、Opi1pが核に移行したり転写を改変したりしないようにする。イノシトールが細 胞に添加されると、Opi1p-結合PAが代謝され、その結果ERからOpi1pが放出され、そ してOpi1pが核内に移行することが可能になる。(NF)
Phospholipid Metabolism Regulated by a Transcription Factor Sensing Phosphatidic Acid
   C. J. R. Loewen, M. L. Gaspar, S. A. Jesch, C. Delon, N. T. Ktistakis, S. A. Henry, and T. P. Levine
p. 1644-1647.

フェムトテスラ磁気抵抗センサー(Femtotesla Magnetoresistive Sensors)

フェムトテスラ(10-15 Tesla)の磁場を計測するには低ノイズで高感度 の超伝導量子干渉装置(SQUID)が必要となるが,これは液体ヘリウム環境でしか作動 しない。Pannetier たち(p. 1648)は、77ケルビンで作動する、“フラックス-場”変 換器と“磁気抵抗接合”を結合した装置を開発した。この変換器は狭いループ状狭窄 部を持ち,狭窄なループによって局部的に場を増幅し、その結果近接する磁気抵抗 接合器で検出される。この磁気抵抗接合器の理論的限界はサブフェムトテスラに達 するものと思われる。(Ej)
Femtotesla Magnetic Field Measurement with Magnetoresistive Sensors
   Myriam Pannetier, Claude Fermon, Gerald Le Goff, Juha Simola, and Emma Kerr
p. 1648-1650.

南半球気候の脈動(The Pulse of Southern Climate)

過去10万年間の極地や亜極地の記録では、南半球における気候変化は北半球に比 べ、およそ1500年から3000年先行して同じ現象を起こすことを示唆している。しか し、全世界的状況でこの違いを説明するには中緯度での記録が必要である。ニュー ジーランドは、こうした中緯度の記録を得るのにふさわしい場所である。しかし別 の研究から、ニュージーランドの気候は北極、あるいは南極の気候に似ているとい う対立した結論に達している。Carter と Gammonは(p.1659)は、ニュージーランド の南アルプスにある氷河から流出する堆積物の375万年間の海洋記録を示し、それは 少なくとも過去37万年間にわたる南極大陸の気候(ヴォストークの氷床コアに記録さ れている)と連動するこの地域の氷河の広がりを表わしている。その記録の古い時期 の部分は、ヴォストークの氷床コアの有する年代を超えた氷河の歴史を示してお り、深海の酸素同位体記録から推定される気候記録との類似.点、あるいは異なる点 も表わしている。(TO,Ej)
New Zealand Maritime Glaciation: Millennial-Scale Southern Climate Change Since 3.9 Ma
   Robert M. Carter and Paul Gammon
p. 1659-1662.

筋肉の制限(Muscular Restrictions)

後生動物において、homeoproteinsは多数の発生プロセスに関与する。Leeたち(p 1675;CirilloとZaretによる展望記事参照)は、homeoproteinのMsxファミリがアフリ カツメガエル胚形成時の筋原性遺伝子発現をどのように制御するかを記述してい る。Msx1 homeoproteinはH1bというリンカーヒストンに関連する。H1bは染色質線維 の構造構築に関与している。Msx1とH1bはMyoDという筋原性制御因子を抑制するが、 細胞培養とアフリカツメガエルの動物極キャップにおいて筋原性の分化を抑制でき る。(An)   
Msx1 Cooperates with Histone H1b for Inhibition of Transcription and Myogenesis
   Hansol Lee, Raymond Habas, and Cory Abate-Shen
p. 1675-1678.

キチンの分解と喘息の関係(Chitin Degradation and Asthma)

キチナーゼは、下等真核生物および原核生物において、寄生生物に対する防御を含 む複数の機能を有する。哺乳動物キチナーゼの同様の機能はまだ見いだされていな いが、ヒトにおける抗寄生生物免疫と喘息との間の強い類似性により、Zhuた ち(p.1678)は、喘息の病因におけるキチナーゼについて考えるに至った。酸性の 哺乳動物キチナーゼ(AMCase)は、喘息のヒト肺組織および誘発喘息のマウスモデ ルの両方において増加した。マウスモデルにおけるAMCaseの阻害は、Tヘルパー-2経 路に関与するサイトカイン、具体的にはインターロイキン-13に対するその作用によ り、炎症を減少させる。よって、AMCaseおよびその他のキチナーゼは、喘息やその 他のアレルギー症状において、利用価値のある治療対象となるだろう。(NF)
Acidic Mammalian Chitinase in Asthmatic Th2 Inflammation and IL-13 Pathway Activation
   Zhou Zhu, Tao Zheng, Robert J. Homer, Yoon-Keun Kim, Ning Yuan Chen, Lauren Cohn, Qutayba Hamid, and Jack A. Elias
p. 1678-1682.

静かに! イヌに聞かれるかもしれない(Shhh, the Dog May Be Listening)

幼い子供による早期の単語の学習は、ふつう努力なしに急速に進行し、しばしば単 語をたった一度聞くことによって進む。Kaminskiたちは、1匹のイヌの単語学習能力 についての証拠をもとに、ヒトの子供の言語能力というものが特殊なものか、一般 的な学習機構に基づくものかについて辛抱強い議論を行っている(p. 1682)。Ricoと 呼ばれる9歳のボーダー・コリーは、発音されたモノの名称によって、200種のモノ を取ってくることができ、新しいモノの名称と見慣れないモノとをかなり正確に、 その単語をたった一度聞いて4週間経過した後になっても、関係付けることができる のである。(KF)
Word Learning in a Domestic Dog: Evidence for "Fast Mapping"
   Juliane Kaminski, Josep Call, and Julia Fischer
p. 1682-1683.

全部親指じゃ不器用で困る(I'm All Thumbs)

四足動物の研究によって、脊椎動物の肢のパターン化に関与する要因のいくつかが 同定されてきている。肢の発生において主要な役割を果たしているSonic hedgehog ( Shh)は、親指と人差し指の違いのような、肢の非対称性を組織化する重要な機能 をもっている。Zakanyたちは、脊椎動物の肢の前側-後側極性を導き出す遺伝的カス ケードを調べた(p. 1669)。早期の後側Hox遺伝子発現がShh活性化の引き金となり、 これが次に、後側領域におけるHox遺伝子発現の第2フェーズを引き起こすのであ る。このように、Hox遺伝子は、肢の前側-後側非対称を確立するに際して、Shh情報 伝達の上流と下流で働くことにより、初期と後期の双方で役割を果たしているので ある。(KF)
A Dual Role for Hox Genes in Limb Anterior-Posterior Asymmetry
   József Zákány, Marie Kmita, and Denis Duboule
p. 1669-1672.

マントルにおける酸素の活性(Oxygen Activity in the Mantle)

マントルにおける酸素の量は、マントルの岩石組成、レオロジー、融解挙動に影響 するが、地殻状況や大気状況にも地質学的時間スケールで影響するかも知れな い。Williamsたち(p 1656)は、マントルのカンラン石からのスピネルにおける鉄の 同位元素量と相対的な酸素フュガシティーの相関を測定した。この相関により、鉄 同位元素の測定によってマントルにおける酸素の動きをもっと簡単に推測すること ができるかも知れない。(An,tk)  
Iron Isotope Fractionation and the Oxygen Fugacity of the Mantle
   Helen M. Williams, Catherine A. McCammon, Anne H. Peslier, Alex N. Halliday, Nadya Teutsch, Sylvain Levasseur, and Jean-Pierre Burg
p. 1656-1659.

カルシウムポンプによる出し入れ(The Push and Pull of a Calcium Pump)

物体を押し上げるのはエネルギーが必要なだけでなく、滑り落ちるのを防ぐための 歯止めが必要である。筋小胞体のアデノシン三リン酸(ATP)によって駆動されるカル シウムポンプにおいては、歯止めがちゃんとかかったことの実験的徴候は、一対の Ca2+イオンがそのタンパク質内に捉えられ、外部にあるカルシウムと交 換されなくなる、ということである。So/rensenたちは、そのカルシウムポンプの2 つの立体配置的状態の結晶構造について記述している(p. 1672)。1つは加水分解抵 抗性ATP類似体をもつものであり、もう1つはアデノシン二リン酸とアルミニウム フッ化物結合の双方をもつものである。これらの状態はそれぞれ、高エネルギーリ ン酸塩がATPから酵素へ伝達される直前と直後の反応中間体に相応するものである。 前者の状態では、カルシウムは吸蔵されないが、後者においては吸蔵されるのであ る。リン酸化によって引き起こされる構造変化は、細胞質領域の全体のコンパク ションとして始まるが、これは2つの膜貫通らせん体を引っ張ること で、Ca2+イオン-結合部位から細胞質へのドアを閉ざす。高エネルギー 高次構造が弛緩すると、イオンは筋小胞体の管腔へと遊離され、再度筋収縮の引き 金を引く必要があるまで、そこに貯えられることになる。(KF)
Phosphoryl Transfer and Calcium Ion Occlusion in the Calcium Pump
   Thomas Lykke-Møller Sørensen, Jesper Vuust Møller, and Poul Nissen
p. 1672-1675.

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