AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 5, 2003, Vol.302


大変複雑な断層線(Fault Lines More Complex)

断層面が地表に現れるとしばしば一本の線として見えるが、断層帯の実際の構造は もっと複雑である。断層帯の強度を確定するためと断層が起きることをより良く予 測するために細部構造が用いられる。Chavarriaたち(p. 1746)は、垂直に掘られた 穴から推測した、地雷波の散乱源と表面波を用いてParkfield近くのSan Andreas断 層の構造を確定した。San Andreas断層の他に、変化しやすい沈下をもつ4つの二次 断層があり、これらの構造は断層系の深くて古い部分に結合しているのかもしれな い。断層帯はおそらく多くの亀裂か、あるいは液体が点在しているものと思われ る。断層帯の強度を確定するためと断層が起きることをより良く予測する。(hk)
A Look Inside the San Andreas fault at Parkfield Through Vertical Seismic Profiling
   J. Andres Chavarria, Peter Malin, Rufus D. Catchings, and Eylon Shalev
p. 1746-1748.

新しいニューロンの誕生を阻止する炎症(Inflammation Prevents Generation of New Neurons)

正常な認識機能を行うためには、脳の中で新しいニューロンが誕生することが必要 とされる様であるが、どのように必要とされるのかはよく分かっていない。頭蓋放 射線治療の後、認識機能が低下する可能性があるが、これはおそらく、神経発生の 阻害によるものである。Monjeたち(p. 1760;KempermannとNeumannによる展望記事 を参照)はここで、脳の海馬領域における神経発生は、幹細胞または前駆細胞を取 り囲む領域での炎症により阻害される可能性があることを示した。そのような阻害 は、炎症が局所的放射線-誘導性組織損傷により生じるか、またはリポ多糖の導入に より生じるかにかかわらず、生じた。炎症を一般的な非ステロイド性抗-炎症薬であ るインドメタシンを用いて阻害することにより、部分的に神経発生を修復すること ができたが、これはおそらく、インターロイキン-6が活性化されたミクログリア細 胞から局所的に放出されることによると考えられる。(NF)
NEUROSCIENCE:
Microglia: The Enemy Within?

   Gerd Kempermann and Harald Neumann
p. 1689-1690.
Inflammatory Blockade Restores Adult Hippocampal Neurogenesis
   Michelle L. Monje, Hiroki Toda, and Theo D. Palmer
p. 1760-1765.

ワイヤー上のプロトン移動(Protons That Wire Ahead)

プロトン移動は酸塩基反応における基礎過程であり、また生体中の酵素やイオン チャネルでは“ワイヤー”に沿ってプロトン移動が生じることが知られている。プロ トン移動は非常に高速な現象であり、また周囲の溶媒分子の変動と混在するため に、その過程を実験的に測定することは困難であった。Tannerら は、(p.1736:Domcke, Sobolewskiの展望記事参照)7-hydroxyquinolineの水酸基ド ナーサイト(プロトン供与体)と窒素アクセプターサイト(受容体)をアンモニア 3分子で水素結合により橋架けした“ワイヤー”における光誘起プロトン移動につい て実験および理論的研究を行なった。彼らは、アンモニア分子に沿ってプロトン移 動が生じることを明らかにした。また、ポテンシャル障壁を越えてプロトン移動を 誘起させるためには、7-hydroxyquinolineの電子励起状態だけでなく、同時にアン モニアワイヤーの振動励起状態(~ 200 wavenumbers)を生じさせる事が必要であ り、その結果エノール型から蛍光性のケト異性体への構造変化が生じることも明ら かにした。今後の研究によりこの反応過程における中間状態も明らかになっていく だろう。(NK)
CHEMISTRY:
Unraveling the Molecular Mechanisms of Photoacidity

   Wolfgang Domcke and Andrzej L. Sobolewski
p. 1693-1694.
Probing the Threshold to H Atom Transfer Along a Hydrogen-Bonded Ammonia Wire
   Christian Tanner, Carine Manca, and Samuel Leutwyler
p. 1736-1739.

ヤルコフスキー効果による押し出し(A Nudge from Yarkovsky)

ヤルコフスキー効果(小惑星がその不規則な表面からの不均一な熱放射によりわずか づつ推し進められる)は、軌道のダイナミックなモデルにおいてしばしば使われ、特 に火星ー木星間にある主小惑星帯 (main-belt asteroids)にある小惑星を地球軌道 の近くに押し出している。Chesleyたち(p.1739)は、アレシボ天文台とゴールドス トーン天文台とを連動させた精密なレーダー観測を行い、近地球小惑星6489 Golevkaにおいてこの効果を検出した。Golevkaと他の小惑星におけるヤルコフス キー効果の継続的な検出は、それらの過去、現在そして未来の軌道の軌跡や形状、 密度や空隙率(porosity)などの特徴を正確にすることが出来る。(TO)
Direct Detection of the Yarkovsky Effect by Radar Ranging to Asteroid 6489 Golevka
   Steven R. Chesley, Steven J. Ostro, David Vokrouhlicky, David Capek, Jon D. Giorgini, Michael C. Nolan, Jean-Luc Margot, Alice A. Hine, Lance A. M. Benner, and Alan B. Chamberlin
p. 1739-1742.

甲殻類の祖先の柔らかな側面(The Soft Side of Ancient Ostracods)

ロブスターやカニを含む甲殻類は、カンブリア紀に起源をもっていると考えられて きたが、化石が乏しく、特に柔らかな部分(soft parts)を示す化石が乏し い。Siveterたち(p.1749; Stokstadによるニュース記事参照)は、古生代の期間に甲 殻類の存在を決定付ける4億2500万年前と年代測定された岩石から、すばらしく良く 保存された甲殻動物を報告する。彼らは、その化石を精密に分割して(sectioned)、 その精密な分析の詳細な図をつくった。この化石は活発に泳ぎ、そして砂の海底に 隠れる甲殻類と非常に類似しており、極端に進化が停止している一例である。(TO)
INVERTEBRATE PALEONTOLOGY:
Gutsy Fossil Sets Record for Staying the Course

   Erik Stokstad
p. 1645.
An Ostracode Crustacean with Soft Parts from the Lower Silurian
   David J. Siveter, Mark D. Sutton, Derek E. G. Briggs, and Derek J. Siveter
p. 1749-1751.

High and Dry(高く、そして、乾いて)

高層対流圏および低層成層圏は、極端に乾燥しており、この領域の大気の水分量の 何らかの変化は、オゾンの枯渇や成層圏の冷却に影響する可能性がある。巻雲は、 この領域の水分供給の決定的な要素であるが、この形成における水分の源泉あるい は吸い込みは、それらが含んでいる水の同位体組成を分析することにより決定でき る。しかしながら、詳細な決定は、これまでは成功してこなかった。Websterと Heymsfield (p. 1742; Rosenlof による展望記事を参照のこと) は、高層対流圏と 低層成層圏との間の領域で、亜熱帯地方の巻雲における水の同位体の出入りに関す る測定を報告している。彼らの測定は、対流過程により下から運び挙げられた氷の 結晶と、その場で形成された氷の結晶とを識別することが可能である。そして、二 つの競合する脱水化の理論、すなわち、それらの対流による説と、次第に上昇する という説との差異の解消にも寄与できる。(Wt)
ATMOSPHERIC SCIENCE:
How Water Enters the Stratosphere

   Karen H. Rosenlof
p. 1691-1692.
Water Isotope Ratios D/H, 18O/16O, 17O/16O in and out of Clouds Map Dehydration Pathways
   Christopher R. Webster and Andrew J. Heymsfield
p. 1742-1745.

花成時期の調節(Controlling When to Make Flowers)

植物における開花時期は、日長変化などの周囲環境のきっかけにより一部分が制御 されるが、植物は、自律性の制御経路の指示に基づいて開花を開始することもでき る。Heたち(p. 1751;BastowとDeanによる展望記事を参照)は、自律性経路 に関 する遺伝子の一つであるFLOWERING LOCUS D(FLD)が、哺乳動物ヒストン脱アセチ ル化酵素複合体中で見いだされたタンパク質のホモログであることを示した。FLD は、花成(floral transition)をブロックする転写因子をコードする FLOWERING LOCUS C(FLC)遺伝子周辺の染色質のアセチル化状態の制御を補助する。FLD-誘導 性のFLC脱アセチル化によりその発現が増加し、そして開花時期が著しく遅れ る。(NF)   
PLANT SCIENCES:
Deciding When to Flower

   Ruth Bastow and Caroline Dean
p. 1695-1696.
Regulation of Flowering Time by Histone Acetylation in Arabidopsis
   Yuehui He, Scott D. Michaels, and Richard M. Amasino
p. 1751-1754.

ショウジョウバエのタンパク質相互作用ネットワーク(The Drosophila Protein Interaction Network)

タンパク質-タンパク質相互作用を解析することは、遺伝子機能を理解するために極 めて重要である。Giotたち(p. 1727;表紙を参照)はここで、ショウジョウバエ Drosophila melanogasterに関するタンパク質-相互作用マップについて記載す る。7048種のタンパク質と20,405種の相互作用のドラフトマップを作成し、そして アルゴリズム法を使用して、擬陽性を探索し、4679種のタンパク質とそれらの4780 種の相互作用からなる高い信頼度を有するセットを作成した。タンパク質-タンパク 質相互作用マップを作成して、ヒト疾患オルソログを調べ、そして既知の代謝経路 を確認しそして拡張した。(NF)
A Protein Interaction Map of Drosophila melanogaster
   L. Giot, J. S. Bader, C. Brouwer, A. Chaudhuri, B. Kuang, Y. Li, Y. L. Hao, C. E. Ooi, B. Godwin, E. Vitols, G. Vijayadamodar, P. Pochart, H. Machineni, M. Welsh, Y. Kong, B. Zerhusen, R. Malcolm, Z. Varrone, A. Collis, M. Minto, S. Burgess, L. McDaniel, E. Stimpson, F. Spriggs, J. Williams, K. Neurath, N. Ioime, M. Agee, E. Voss, K. Furtak, R. Renzulli, N. Aanensen, S. Carrolla, E. Bickelhaupt, Y. Lazovatsky, A. DaSilva, J. Zhong, C. A. Stanyon, R. L. Finley Jr., K. P. White, M. Braverman, T. Jarvie, S. Gold, M. Leach, J. Knight, R. A. Shimkets, M. P. McKenna, J. Chant, and J. M. Rothberg
p. 1727-1736.

正確なる針の長さ(The Right Amount of Needling)

動物や昆虫、或いは植物細菌の病原体の多くは、彼らの真核生物の宿主細胞中に直 接エフェクタータンパク質を注入するさいにⅢ型の分泌物が用いられる。このエフェ クターは病原体に利するように宿主細胞を制御したり、再プログラム化する。その 注入に当たっての重要な細胞小器官はインジェクチソーム(injectisome)とか針複合 体(needle complex)と呼ばれている。Journetたち(p. 1757)は、ペスト菌のイン ジェクチソームの針の長さが、分泌器官それ自身が分泌しているタンパク質YscPの 残基の数に厳密に比例していることの証拠を与えている。このように、針の長さが 分子定規として働くタンパク質によって決定されている。(KU)    
The Needle Length of Bacterial Injectisomes Is Determined by a Molecular Ruler
   Laure Journet, Céline Agrain, Petr Broz, and Guy R. Cornelis
p. 1757-1760.

発生と加齢における活性酸素種(Reactive Oxygen Species in Development and Aging)

人間社会が高齢化しており、加齢に関する分子メカニズムを理解することには大き な関心がある。加齢に関連した作用物の一つが活性酸素種(ROS)である。Shibataた ち(p. 1779)は、ROSが線虫(C.elegans)の正常な発生に機能していることを示して いる。リポタンパク質の酸化を含む生殖系列の発生と低分子のGTP-結合タンパク質 であるRasの活性化を含む陰門発生の両者で、その特異的な役割が観察された。この in vivo でのモデルはROS信号伝達の研究に有益であり、アテローム性動脈硬化症の 発生において重要なるリポタンパク質の生物学を解明する上での一つの系を提供す るものである。(KU)
Redox Regulation of Germline and Vulval Development in Caenorhabditis elegans
   Yukimasa Shibata, Robyn Branicky, Irene Oviedo Landaverde, and Siegfried Hekimi
p. 1779-1782.

酵母における神経変性(Neurodegeneration in Yeast)

パーキンソン病やハンチントン病といった神経変性病の研究には、その病理学に関 与した細胞メカニズムを研究するための遺伝的に取り扱いやすいモデル系を作るこ とにより前進するであろう。OuteiroとLandquist(p.1772)は、パーキンソン病の病 理学に関与するタンパク質であるsynucleinを発現する表現型の酵母細胞に関して記 述している。Willinghamたち(p. 1769)は、発現したsynucleinの毒性を高めたり、 或いはハンチントン病の病理学に関与する変異性のhuntingtin fragmentの毒性を高 める一群の酵母遺伝子を同定している。この二つの報告は、共に酵母がこの種の病 気の分子病理学に関する洞察を与える上での好ましいモデルとなるという考え方を 支持するものである。(KU)
Yeast Genes That Enhance the Toxicity of a Mutant Huntingtin Fragment or alpha-Synuclein
   Stephen Willingham, Tiago Fleming Outeiro, Michael J. DeVit, Susan L. Lindquist, and Paul J. Muchowski
p. 1769-1772.
Yeast Cells Provide Insight into Alpha-Synuclein Biology and Pathobiology
   Tiago Fleming Outeiro and Susan Lindquist
p. 1772-1775.

細胞極性の移し変え(Smurfing Cell Polarity)

小さなグアノシン・トリフォスフォターゼ(GTPases)のRhoファミリーは、発生や腫 瘍の進行における細胞形態や運動性、極性、行動の制御にとって決定的な役割を果 たしている。しかし、さまざまなRho GTPasesの活性が、そうした過程を制御するた めにどのようにして空間的に協調しているのかは、ほとんど知られていない。Wang たちは、Smad情報伝達を変調するHECT領域E3ユビキチンリガーゼであるSmurf1の役 割を調べた(p. 1775; また、JaffeとHallによる展望記事参照のこと)。Smurf1の、 膜状仮足および糸状仮足への局在化には、タンパク質リン酸化酵素ζの活性が必要で あったが、これは細胞極性を確立するのに関与するエフェクターである。Smurf1 は、RhoAの局所におけるレベルを制御しているのである。このRhoAは、細胞の突出 部に蓄積すると、Smurf1発現を押さえることによって引き起こされる、変換された 表現型の抑制に結びつくものである。(KF)
CELL BIOLOGY:
Smurfing at the Leading Edge

   Aron B. Jaffe and Alan Hall
p. 1690-1691.
Regulation of Cell Polarity and Protrusion Formation by Targeting RhoA for Degradation
   Hong-Rui Wang, Yue Zhang, Barish Ozdamar, Abiodun A. Ogunjimi, Evguenia Alexandrova, Gerald H. Thomsen, and Jeffrey L. Wrana
p. 1775-1779.

空間と時間における記憶(Memory in Space and Time)

ショウジョウバエのキノコ体において、遺伝子rutabagaがコードするⅠ型アデニリル シクラーゼを発現させる、rutabaga変異ハエにおける短期記憶の欠損を救うことが できる。アデニリルシクラーゼの潜在的な発生上での役割を記憶形成における急性 の機能と区別するために、McGuireたちは、ショウジョウバエへの導入遺伝子の時間 的発現と空間的発現の双方を制御するシステムを開発した(p. 1765)。このシステム を用いると、成熟期におけるキノコ体でのrutabaga発現は、その他の点では rutabaga変異体であるハエに正常な記憶獲得を可能にした。この技法は、生物体の 生涯にわたって、いつどこで遺伝子生成物が必要になるかを研究するのに、より一 般的に有益なものとなるであろう。(KF)
Spatiotemporal Rescue of Memory Dysfunction in Drosophila
   Sean E. McGuire, Phuong T. Le, Alexander J. Osborn, Kunihiro Matsumoto, and Ronald L. Davis
p. 1765-1768.

順応がショウジョウバエの種の分化を導く(Adaptation Leads to Speciation in Fruit Flies)

分子過程と生態学的過程の相互作用は、生命体の種分化のプロセスを理解するため の鍵である。分子操作を利用して、Greenbergたちは、キイロショウジョウバエのあ る集団から得た性的隔離座位の対立遺伝子を別のキイロショウジョウバエ集団に導 入した(p. 1754)。その結果は、この性的隔離遺伝子が生態学的な順応のために進化 したものであり、種分化にとって重要な必須要素であるその性的な隔離がこの順応 の二次的な結果である、ということを示している。(KF)
Ecological Adaptation During Incipient Speciation Revealed by Precise Gene Replacement
   Anthony J. Greenberg, Jennifer R. Moran, Jerry A. Coyne, and Chung-I Wu
p. 1754-1757.

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