AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 25, 2003, Vol.300


人食いに関する分子の記録(A Molecular Record of Cannibalism)

共通のヒトタンパク質である残基129の多形性が、誘発性,及び散発性のクロイツフェル ト‐ヤコブ病感染に対する強固な保護となっている。特定のニューギニアの部族を荒廃さ せている類似のプリオン病であるKuruは,死の儀式において死者の脳を身内の者が食べた 時に感染する。Kuruの流行は,パプア・ニューギニアの感染地域において、残基129の多形 性に関する顕著な選択効果を有していた。Meadたち(p. 640;Pennisiによる4月11日号の ニュース記事参照)は、世界的なプリオンタンパク質遺伝子のハプロタイプ多様性と対立 遺伝子のコーディングと非コーディングの多形性の頻度に関する解析を行い、この座位に おける安定化選択(balancing selection)がはるかに古く、そして地理的にも広範囲なも のであることを見出した。今日、あらゆる文化を通してタブーと見なされ ている人食いの風習が、有史以前のヒトにおいて広範囲に存在していたことが古典的,及 び分子論的人類学上の証拠から明らかである。自然界で発生したプリオンの共食いの繰り 返しが、動物におけるBSE(ウシ海綿状脳病;bovine spongiform encephalopathy) を流行 させたり、或いはkuruそれ自体を蔓延させたものと考えられる。(KU)
Balancing Selection at the Prion Protein Gene Consistent with Prehistoric Kurulike Epidemics
   Simon Mead, Michael P. H. Stumpf, Jerome Whitfield, Jonathan A. Beck, Mark Poulter, Tracy Campbell, James B. Uphill, David Goldstein, Michael Alpers, Elizabeth M. C. Fisher, John Collinge
p. 640-643.
Cannibalism and Prion Disease May Have Been Rampant in Ancient Humans
   Elizabeth Pennisi
p. 640-643.

有史以前の年代(A Date with Prehistory)

多くの重要なヒトの化石が特に南アフリカの洞窟から発見されてきた。洞窟は質が高い化 石の宝庫であることは判っていたが、これらの場所で化石に関する正確な年代を求めるこ とが課題となる。火山性地層があれば容易に年代判定が可能であるが、堆積物の多くは火 山性地層が欠けていても、明確な連続する層序(clear contiguous stratigraphy)を有し ている。Partridgeたち(p.607;Gibbonsによるニュース記事参照)は、宇宙線核種 (cosmogenic nuclides)を用いて,最近南アフリカの洞窟で発見された幾つかのヒトの化石 がある埋葬場所についての年代を測定した。骨格StW573を含むそれらの化石は、約400万 年前の年代であり、そして最初の分析ではそれらはアウストラロピテクスの種 (Australopithecus species)であることを示した。類似する東アフリカで見つかった同様 のヒトに加えて、これ らの化石はこれまで見つかったものの中で最も初期のものだろう。(TO)
Lower Pliocene Hominid Remains from Sterkfontein
   T. C. Partridge, D. E. Granger, M. W. Caffee, R. J. Clarke4
p. 607-612.

強誘電性遷移のx線速写(X-ray Snapshots of a Ferroelectric Transition)

超高速x線パルスは単結晶中の急速な構造遷移を観測するために用いられる。現在 Colletたち(p. 612; SidersとCavalleriによる展望記事参照)は有機結晶内で内部電荷移 動と、それに伴う常誘電性から強誘電性への遷移を観測するためにx線パルスの回折を用 いた。そして有機結晶は、電子励起の後、構造変化を受けた。彼らは100ピコ秒時間間隔 で、波長800ナノメートルの超短パルスレーザによって引き起こされた強誘電性遷移を観 測した。準安定性強誘電性相は一連のドナー・アクセプタ対の協調作用で形成される 。(hk)
Laser-Induced Ferroelectric Structural Order in an Organic Charge-Transfer Crystal
   Eric Collet, Marie-Helene Lemee-Cailleau, Marylise Buron-Le Cointe, Herve Cailleau, Michael Wulff, Tadeusz Luty, Shin-Ya Koshihara, Mathias Meyer, Loic Toupet, Philippe Rabiller, Simone Techert
p. 612-615.
Creating Transient Crystal Structures with Lightl
   Craig W. Siders and Andrea Cavalleri
p. 591-592.

標的粒子(Target Practices)

薬物送達において考えられているシステムの一つは、ジブロック共重合体から作られるミ セルである。三重ラベリングした共焦点顕微鏡を用いて、Savi たち (p.615; Hubbellに よる展望記事を参照のこと) は、色素でラベリングした poly(caprolactone)-poly(propylene oxide) は、ゴルジ体やミトコンドリアのような細 胞小器官(オルガネラ)を標的とするが、核は標的とならないことを見出した。彼らは、い かにそのミセルの取り込みが起こるのかについて、あるモデルを提案している。(Wt)
Micellar Nanocontainers Distribute to Defined Cytoplasmic Organelles
   Radoslav Savi, Laibin Luo, Adi Eisenberg, Dusica Maysinger
p. 615-618.
Enhancing Drug Function
   Jeffrey A. Hubbellr
p. 595-596.

ガラスからガラスへ(Glasses to Glasses)

ガラスはさまざまなメカニズムを通して形成されうる。高温、高濃度の状況では、典型的 な "斥力型ガラス" が形成されうるが、一方、低温においては、クラスターの形成が構成 粒子の運動を妨げるような "引力型ガラス" を形成することが可能である。粒子が斥力と 引力との両方を有する時は、異なるダイナミクスを有する二つのガラス状態が形成されう る。Chen たち (p.619) は、小角中性子散乱と光子相関法とを用いて、ひとつのガラス状 態が他の状態へ変換する、高濃度のコポリマーミセルの系における遷移を調べた。彼らは この系の相図を作成し、二つの異なるガラス状態の局所構造が同一であるような臨界点を 同定している。(Wt)
The Glass-to-Glass Transition and Its End Point in a Copolymer Micellar System
   Sow-Hsin Chen,Wei-Ren Chen, Francesco Mallamace
p. 619-622.

ジペプチドナノチューブの鋳型( Dipeptide Nanotube Templates)

ペプチドの多くは、溶液中でナノチューブへと自己集合することが知られている。非常に 短い芳香族ペプチドのアミロイド繊維を形成する可能性の研究において、Rechesと Gazitは(p. 625)、単純なジフェニルアラニンユニットからのナノチューブ形成を観測し ている。そのナノチューブは高度のアスペクト比を有しており、また、非常に強固である 。銀のナノワイヤー作るには、ナノチューブ内に銀を満たし,その後でペプチド骨格を酵 素分解させる。(KU)
Casting Metal Nanowires Within Discrete Self-Assembled Peptide Nanotubes
   Meital Reches and Ehud Gazit
p. 625-627.

氷に覆われたタイタンの表面(Icy Titan Surface)

土星のもっとも大きな月タイタンは窒素、メタン、そして一酸化炭素の厚い大気に包まれ ているため、その地表の様子がよくわからない。タイタンの地表は氷で覆われ、おそらく 謎の大気から降り注いだ有機堆積物の層に覆われている。Griffithたち(p.628)は、多重 分光器による観測を併用してタイタンの地表のスペクトルを導き出した。そのスペクトル は、地表に水氷が大きく露出していて、そのことはこの一風変わった衛星における大気プ ロセスや気象変化のモデルを洗練することに役立つであろう。(TO)
Evidence for the Exposure of Water Ice on Titan's Surface
   FrançCaitlin A. Griffith, Tobias Owen, Thomas R. Geballe, John Rayner, Pascal Rannou
p. 628-630.

ハミングバードと花の分布(Hummingbird Floral Arrangements)

ダーウィンによるガラパゴス島の探検以来、孤立した島では孤立生物系による特殊な進化 が観察しやすいことが知られている。St. Lucia島では、紫喉カリブ・ハミングバード (purple-throated carib hummingbird)で奇妙な性的二形性が生じている。大きいオスは 短くて真直ぐなくちばしをもっていて、メスは長くて曲がったくちばしをもっているのだ 。この特徴は、宿主植物であるHeliconia bihaiにおける条件による花の多形性と符合し ていて、この花ではそれぞれの形が、オスかメスのいずれかに好まれるのである。近縁種 であるHeliconia caribaeaの場合は、メスのハミングバードだけを扶養するようになって いる。TemelesとKressは、ドミニカにおける列島の北にある2島でこれら植物と受粉媒介 者との関係を調べた(p. 630; また表紙とAltshulerとClarkによる展望記事を参照のこと) 。そこに も同じ2つの種が存在していたが、そのパターンはちょうど逆であった。Heliconia caribaeaでは二形性が生じていたが、低い標高でハミングバードのオスとメスのどちらを も扶養していた。一方、Heliconia bihaiは高い標高で、オスだけを扶養していたのであ る。(KF)
Adaptation in a Plant-Hummingbird Association
    Ethan J. Temeles and W. John Kress
p. 630-633.
ECOLOGY AND EVOLUTION:
Darwin's Hummingbirds

   Douglas L. Altshuler and Christopher James Clark
p. 588-5894.

減数分裂第一中期における誤り(Missteps in the First Meiotic Metaphase)

ヒトの妊性および不妊性への洞察は、モデルシステムの細胞周期分裂に関与する事象と因 子をよりよく理解することにより得ることができる。Spruckたち(p. 647)は、サイクリ ンBおよびCdk1を含有する有糸核分裂細胞周期制御複合体と結合する因子であるマウス Cks2の役割を調べた。Cks2の標的化された分解により、減数分裂第Iでの配偶子形成がブ ロックされるため、両性ともに生存はしているものの不妊であるマウスが得られる 。Cks2は、相同染色体が分離しそしてほとんどのヒト異数性(染色体追加または染色体欠 失)のほとんどが生じる減数分裂第I中期/後期移行期に機能する。(NF)
Requirement of Cks2 for the First Metaphase/Anaphase Transition of Mammalian Meiosis
   Charles H. Spruck, Maria P. de Miguel, Adrian P. L. Smith, Aimee Ryan, Paula Stein, Richard M. Schultz, A. Jeannine Lincoln, Peter J. Donovan, Steven I. Reed
p. 647-650.

初期卵母細胞発生を妨害するもの(Interrupting Early Oocyte Development)

脊椎動物生殖細胞における遺伝物質は非常に凝縮されており、そのため多数のメカニズム が機能して雄性配偶子のDNAおよび雌性配偶子のDNAをリモデリングしそして脱凝縮しなけ ればならず、それにより脊椎動物は二倍体ゲノムを形成することができる。Burnsたち (p. 633)はここで、ヌクレオプラスミン2(Npm2)ヌル変異マウスの表現型がアフリカ ツメガエルNPM2を用いて行った以前のin vitro研究から予想されうるものとは異なること を示した。NPM2は、カエル抽出物中では精子DNAを脱凝縮するが、マウスにおいてNpm2を 排除する場合には得られたオスは正常なようでありそして正常な生殖能力を示すが、メス は低妊性または不妊性である。この生殖能力の低下は、卵母細胞の核および核小体構成に おける欠損および初期胚における核分裂停止の結果として、胚が失われ ることにより引き起こされる。NPM2は、受精後発生において機能する、ほんのいくつかの 卵母細胞由来遺伝子のうちの一つであることが示される。(NF)
Roles of NPM2 in Chromatin and Nucleolar Organization in Oocytes and Embryos
   Kathleen H. Burns, Maria M. Viveiros, Yongsheng Ren , Pei Wang, Francesco J. DeMayo, Donald E. Frail , John J. Eppig, Martin M. Matzuk
p. 633-636.

協同的な原繊維形成(Cooperative Fibril Formation)

多くの神経変性病は、ポリマー化したタンパク質からなる原繊維の神経細胞内への病理学 的な封入によって特徴付けられる。たとえば、τ原繊維はアルツハイマー病に特徴的な神 経原線維のもつれを構成するし、α-synuclein原繊維は、パーキンソン病の病理学的な証 拠であるLewy体の主要な成分である。Giassonたちはこのたび、α-synucleinがτタンパ ク質を誘発して原繊維を形成させ、しかも一緒に潜伏している場合には、これら2つのタ ンパク質がお互いの原繊維化を誘発する、ということを示している(p. 636)。(KF)
Initiation and Synergistic Fibrillization of Tau and Alpha-Synuclein
   Benoit I. Giasson, Mark S. Forman, Makoto Higuchi, Lawrence I. Golbe, Charles L. Graves, Paul T. Kotzbauer,1 John Q. Trojanowski, Virginia M.-Y. Lee
p. 636-640.

水素過酸化物の情報伝達の制御(Regulating Hydrogen Peroxide Signaling)

過酸化水素は、酸化ストレスの源であり、また情報伝達における二次メッセンジャーでも ある。2つの報告が、2-cys peroxiredoxins (Prxs)がいかにして過酸化水素の還元と過酸 化水素情報伝達の制御を行なえるかについての洞察を提示している(GeorgiouとMasipによ る展望記事参照のこと)。Wood たちは、真核性の2-cys Prxsには細菌性のPrxsには存在し ない構造上の特徴があり、これによって、過酸化システインが過剰酸化されてスルフィン 酸形になることによる不活性化に感受性が増すようになっている、ということを示してい る(p. 650)。彼らは、この不活性化の能力は2-Cys Prxsが水門として機能するように進化 してきたことを示唆している。2-Cys Prxsを不活性化して水門を開くのに十分なほど、過 酸化水素濃度の急増があるまで、情報伝達は遮断されているのである。システイン をスルフィン酸にする酸化は、細胞においては不可逆であると考えられていた。しかし 、Wooたちは、哺乳類の細胞では、peroxiredoxin Iのスルフィン形は急速に還元されて触 媒として活性なチオール形に戻っていくことを示している(p. 653)。この反応の可逆性は 、過酸化水素情報伝達の制御への関与の可能性と整合しているのである。(KF)
Peroxiredoxin Evolution and the Regulation of Hydrogen Peroxide Signaling
   Zachary A. Wood, Leslie B. Poole, P. Andrew Karpl
p. 650-653.
Reversing the Inactivation of Peroxiredoxins Caused by Cysteine Sulfinic Acid Formation
   Hyun Ae Woo, Ho Zoon Chae, Sung Chul Hwang, Kap-Seok Yang, Sang Won Kang, Kanghwa Kim , Sue Goo Rhee
p. 653-656.
An Overoxidation Journey with a Return Ticket
   Zachary George Georgiou and Lluis Masip
p. 592-594.

正方形を壊す(Breaking a Square Deal)

芳香族分子は、環内の通常のπ-結合系において、4n+2個の非局在化電子の相互作用によ って、余分の安定性を得ている。このことは本来、有機分子において知られていたが、全 て金属からなる芳香族系をも含む多くの異常なる芳香族系でが報告されている。しかしな がら、反芳香族の4n個の電子系における対応する不安定性に関する実験研究は、殆んど 有機分子に限られていた。Kuznetsovたち(p. 622)は反芳香族を示す全て金属からなる 芳香族化合物で、3個のLi+カチオンで安定化された Al44-テトラアニオンの合成を報告している。計算によると, Al42-への2個の電子の付加により,Al原子の正方形の配列が長方 形へと変化することが示されている。(KU)
All-Metal Antiaromatic Molecule: Rectangular Al44- in the Li3Al4- Anion
   Aleksey E. Kuznetsov, K. Alexander Birch, Alexander I. Boldyrev, Xi Li, Hua-Jin Zhai, Lai-Sheng Wang
p. 622-625.

長寿の標的遺伝子(Targets for Longevity)

インシュリンファミリーのペプチドホルモンに誘発される情報伝達経路機能の低下は、よ り効率的な食物の利用を促進し、ストレスへの抵抗性が増加し、寿命を延ばす。これらの 効果の原因となる、この情報伝達経路の究極的な標的である遺伝子を同定するために 、Leeたちは(p. 644)、ショウジョウバエと線虫のゲノムに保存されている転写制御因子 DAF-16/FOXOとの結合部位を研究した。彼等は次に、パントテン酸キナーゼ 、4-HPPD(4-hydroxyphenylpyruvate dioxygenase)、ABC輸送体、網膜芽細胞腫結合タン パク質2と類似のタンパク質などを含む、代謝と長寿に影響を与え、インシュリンファミ リーにより制御される遺伝子を同定した。(Na)
DAF-16 Target Genes That Control C. elegans Life-Span and Metabolism
   Siu Sylvia Lee, Scott Kennedy, Andrew C. Tolonen, Gary Ruvkun
p. 644-647.

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