AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 4, 2003, Vol.300


ナノワイアの接近した領域(Close Quarters for Nanowires)

ナノメータ・スケールの半径をもつワイアを作ることはできるが、標準の製作手順では 損傷を与えるので、ワイア同士を接近させることは大変難しい。Meloshたち(p.112)は 、選択的にエッチング、ティルティングそして金属コーティングされるマスタースタンプ の成長を制御するために分子ビームエピタキシーを用いている。こうして出来たマスタ ーは最大アスペクト比が106にも及び、ワイアの中心間隔は8〜16ナノメート ルにすることも出来るだけでなく、平行ワイア列を交差させてサブストレート上に置くこ ともできる。(hk)
Ultrahigh-Density Nanowire Lattices and Circuits
   Nicholas A. Melosh, Akram Boukai, Frederic Diana, Brian Gerardot, Antonio Badolato, Pierre M. Petroff, and James R. Heath
p. 112-115.

完新世の高い湿潤(High Humidity in the Holocene)

熱帯地方や亜熱帯地方は、完新世の初期から中期までの間は今日よりも概して暖かかった 。そして水循環(hydrological cycle)において大きな振幅の変化に見舞われた。人類学的 に重要である地中海東部地域において、水象条件(hydrological conditions)はどんな様 子であったのだろうか?Arzたち(p.118)は、紅海北部から採取した2つの堆積コアに基づ き、完新世の海表面の性質と大陸の降水量を再現した。彼らは、局地的な降水量がかなり 増加した証拠を見つけ、そしてこの湿潤期は地中海地域東部から運ばれてきた水分と関係 しており、おそらく"地中海モンスーン"型循環と関係していると結論付けた。(TO)
Mediterranean Moisture Source for an Early-Holocene Humid Period in the Northern Red Sea
   Helge W. Arz, Frank Lamy, Jürgen Pätzold, Peter J. Müller, and Maarten Prins
p. 118-121.

おびただしい先史時代の植物(A Profusion of Prehistoric Plants)

熱帯雨林においては、植物は異常なほど多様性が豊かであるが、しかし、これがかなり最 近に(更新世あるいは中新世にて)発達したものかどうかは、議論がなされている。Wilf たち(p.122; Knapp と Mallet による展望記事を参照のこと) 5200万年前に遡る南アメリ カにある火山性の湖の堆積物から得られた一群の植物の化石について記述している。この 発生地は中緯度にあったが、地球の気候が異常に暖かった時代を刻印している。この収集 物は、南アメリカにおける植物の多様性が今日のものより同等かさらに激しかったことを 示している。そして、北米・中南米・西インド諸島の等の新熱帯区の多様性は、古くから のものであるという見解を支持している。(Wt)
ECOLOGY:
Refuting Refugia?

   Sandra Knapp and James Mallet
p. 71-72.
High Plant Diversity in Eocene South America: Evidence from Patagonia
   Peter Wilf, N. Rubén Cúneo, Kirk R. Johnson, Jason F. Hicks, Scott L. Wing, and John D. Obradovich
p. 122-125.

星くずを把える(Touching Stardust)

太陽系外に起源をもつ星からのナノダイヤモンドといった物質粒子は、隕石中に見い出さ れている。Messengerたち(p. 105; Tielensによる展望記事参照)は、成層圏から採集した 惑星間塵粒子の中に6種の星周辺のケイ酸塩粒子(結晶状とアモルファス状)を同定した 。4種の粒子の酸素同位体の分析から、これらが赤色巨星の分岐や漸近巨星の分岐、或い は金属-不足の星に由来することを示唆している。残り2種の粒子がどの星に由来するかは 、まだ同定されていない。このような稀有な試料に関する更なる研究と結びついた星の観 測は、太陽の特性や化学物質と関連して親星の特性や化学物質の解明に役立つであろう 。ナノダイヤモンドに比較してより脆いケイ酸塩粒子の存在は、惑星間塵粒子が短寿命の すい星のように、より始原的で攪乱の少ない太陽系の源に由来することを示唆している 。(KU,Tk)
PLANETARY SCIENCE:
Peering into Stardust

   A. G. G. M. Tielens
p. 68-71.
Samples of Stars Beyond the Solar System: Silicate Grains in Interplanetary Dust
   Scott Messenger, Lindsay P. Keller, Frank J. Stadermann, Robert M. Walker, and Ernst Zinner
p. 105-108.

塩基を加えるとゲートが閉じる(Add the Base, Close the Gate)

クロライドチャネルファミリーClCの仲間は細菌から動物に至る生物中に存在している 。ClCチャネルにおいて、イオン伝導とゲート開閉は密接に関連している。Dutzlerたち (p. 108)は、野生型と変異体大腸菌のClCの構造を比較し、グルタミン酸残基がゲートと して作用している事を見い出した。グルタミン酸がプロトン化してないときには、グルタ ミン酸側鎖はクロライドイオン結合部位をふさいでチャネルを閉じる。しかしながら、プ ロトン化した時には、その側鎖は結合部位から離れてチャネルが開く。このように細胞外 pHがゲート開閉を制御している。開口チャネルには一連の三つのクロライドイオンを含ん でおり、構造的には異なるカリウムチャネルにおけるイオン経路と似ていないこともない 。(KU)
Gating the Selectivity Filter in ClC Chloride Channels
   Raimund Dutzler, Ernest B. Campbell, and Roderick MacKinnon
p. 108-112.

ロサンジェルスの伏在断層(Blind Faults in Los Angeles)

伏在断層(blind thrust faults)は地中深く潜り地表に表れないために特定することが難 しい。Dolanたちは(p. 115)、ロサンジェルス市の下に位置するPuente Hills伏在断層の 試錐孔と地震データを研究し、過去11000年前から、この断層に沿ったモーメントマグニ チュードが7.2から7.5の4つの地震の証拠を発見した。伏在断層によりこのような大規模 な地震が発生することは、複雑な建造物の多い大都会における地震の被害評価に対する伏 在断層の重要性を示唆している。(Na)
Recognition of Paleoearthquakes on the Puente Hills Blind Thrust Fault, California
   James F. Dolan, Shari A. Christofferson, and John H. Shaw
p. 115-118.

カリスマの代償(The Cost of Charisma)

交尾の相手の選択は、しばしば物理的な手がかりによって影響される。これは将来のパ ートナーに対する一般的な精力の誇示にも用いられるわけだが、そのような二次性徴には コストがかかることもある。Faivreたちは、くちばしの呈色におけるカロテノイドの役割 と免疫応答との間のトレードオフ関係を発見した(p. 103)。オスのblackbirdでは、メス から好まれるのは明るいオレンジ色のくちばしだが、免疫系が活性化すると、ケラチンか らカロテノイドが枯渇することでくちばしの色の強さが弱まるのである。くちばしの呈色 は、zebra finch(キンカチョウ)においても第二次性徴であり、Blountたちは、食事に よってカロテノイドを補給することによって生み出されるより強い色が、メスによって好 ましいとして選択されることや免疫応答の増加と相関していることを観察した(p. 125; またPennisiによるニュース記事参照のこと)。(KF)
EVOLUTION:
Colorful Males Flaunt Their Health

   Elizabeth Pennisi
p. 29-31.
Carotenoid Modulation of Immune Function and Sexual Attractiveness in Zebra Finches
   Jonathan D. Blount, Neil B. Metcalfe, Tim R. Birkhead, and Peter F. Surai
p. 125-127.
Immune Activation Rapidly Mirrored in a Secondary Sexual Trait
   Bruno Faivre, Arnaud Grégoire, Marina Préault, Frank Cézilly, and Gabriele Sorci
p. 103.

アポトーシス信号の分離(Unmixing Apoptotic Signals)

BAXタンパク質およびBAKタンパク質は、アポトーシスすなわち細胞死に対する「ミトコン ドリアによる通路」を提供するものと言われてきたが、それは、ミトコンドリアに対する 影響を介して死を引き起こす刺激には、外側ミトコンドリア膜におけるこれらタンパク質 の一方または他方の作用が必要だからである。Scorranoたちは、これらタンパク質が、ア ポトーシス性信号によって小胞体(ER)からのCa2+遊離に影響し、その結果、細胞死を導く ことになるミトコンドリアにおけるCa2+の濃度変化を生じさせることになる本質的な通路 として、同じ役割をもっていることを示している(p. 135; またDemaurexとDistelhorstに よる展望記事参照のこと)。BAXとBAKの双方を欠く細胞は、ERにおけるCa2+の濃度を減少 させた。著者たちは、ミトコンドリアあるいはERにおけるCa2+制御を選択的に修復するこ とで、アポトーシス性の刺激における3種類の異なったクラスを区別した。アラキドン酸 あるいはC2-セラミドなどの刺激には、ERにおけるBAXないしBAKの作用が必要である。い わゆるBH3-onlyアポトーシスタンパク質では、死をもたらすために、BAXないしBAKがミト コンドリアで修復されていることが必要であった。最後に、内因性細胞性ストレス信号で は、両方の細胞小器官におけるBAX機能およびBAK機能が必要であった。(KF)
CELL BIOLOGY:
Apoptosis--the Calcium Connection

   Nicolas Demaurex and Clark Distelhorst
p. 65-67.
BAX and BAK Regulation of Endoplasmic Reticulum Ca2+: A Control Point for Apoptosis
   Luca Scorrano, Scott A. Oakes, Joseph T. Opferman, Emily H. Cheng, Mia D. Sorcinelli, Tullio Pozzan, and Stanley J. Korsmeyer
p. 135-139.

後戻りがない(No Backsliding)

熱ショックタンパク質(Hsp:heat shock proteins)がミトコンドリア内膜を通過するタン パク質移動(Translocation)を助けるメカニズムについて2つのモデルが存在する。一方は 、HspがATPを加水分解し、そして膜を通して活発にタンパク質を引き寄せるというもので あり、他方は、HspがATPを用いて言わば分子のツメ車装置(ラチェット)のように、移動 するペプチドが分子ラチェットのように抜け戻らない機構を備えるものである。Liuたち (p.139)は、実験により後者のモデルが適用可能であるという動かしがたい証拠を示した 。(TO)
Regulated Cycling of Mitochondrial Hsp70 at the Protein Import Channel
   Qinglian Liu, Patrick D'Silva, William Walter, Jaroslaw Marszalek, and Elizabeth A. Craig
p. 139-141.

融合へのちから加減(Forced to Close)

ショウジョウバエ(Drosophila)胚において生じる背部融合(Dorsal closure)は、脊椎 動物の発生や創傷治癒における動向と似ている。Hutsonたち(p. 145;Martinと Parkhurstによる展望記事を参照)は、背部融合の重要な形態形成プロセスを促進するた めに必要な様々な組織や構成要素の相対的な寄与について記載する。彼らはレーザー顕微 手術と数学的モデリング法を使用して、4種の細胞動向:羊漿膜収縮、細胞レベル以上の 巾着(purse-string)収縮、外側表皮伸長、そして糸状ジッパー化(filopodial zippering)から、力の寄与を測定した。このプロセスの強さは、これらの様々な関与す る力のバランスからくるものである。その後、定量的モデルを背部融合変異に対して使用 し、異なる力の構成成分がどのような影響を与えるかを明らかにした。(NF)
DEVELOPMENT:
Enhanced: May the Force Be with You

   Paul Martin and Susan M. Parkhurst
p. 63-65.
Forces for Morphogenesis Investigated with Laser Microsurgery and Quantitative Modeling
   M. Shane Hutson, Yoichiro Tokutake, Ming-Shien Chang, James W. Bloor, Stephanos Venakides, Daniel P. Kiehart, and Glenn S. Edwards
p. 145-149.

先端を後ろへ(Pushing Back the Edge)

Zichaたち(p. 142)は、2種類の明瞭に異なる色調の緑色蛍光タンパク質を融合したアク チンを発現し、細胞隆起の際の運動性細胞の最先端部でのアクチンの動力学をプローブし た。最近開発されたFLAP(フォトブリーチング後の蛍光位置決め)法により、一方の蛍光 分子を参照として使用することにより、同じ場所に位置しているもう一方の蛍光分子を 、フォトブリーチングの位置を決めた後に追跡することができる。アクチンは、膜状仮足 (lamellipodia)の基部から先端部まで、おそらくはポリマー化していないアクチンを前 方へ輸送する流体力学的流れにのって、5μm/秒を越えるスピードで迅速に移動したこと から、ポリマー化と流体力学的流れの両方により、最先端部を前方へ駆動するために必要 とされる力が与えられることが示される。(NF)
Rapid Actin Transport During Cell Protrusion
   Daniel Zicha, Ian M. Dobbie, Mark R. Holt, James Monypenny, Daniel Y. H. Soong, Colin Gray, and Graham A. Dunn
p. 142-145.

サイレンサを構築(Assembling a Silencer)

X染色体不活性化における全染色体の遺伝子発現抑制は、Xistという非コードRNAおよび X染色体における染色質の状態と密接な関係がある。Polycomb複合体(Pc)は、ヒストン H3のリジン27残基(H3 K27)にメチル化標識を添加することが最近示されたが、X不活性化 の制御に関与することが示唆されている。Plathたち(p. 131)は、胚性以外の組織および 胚性の組織において、Pc複合体とH3 K27メチル標識の一時的な存在がX不活性化の開始と 相関することを示している。Pc複合体もH3 K27メチル標識も、Xist RNAによってX染色体 に補充されるが、X染色体サイレンシングのためには十分条件ではない。著者は、Pc複合 体とH3 K27メチル標識は、X染色体とXistの初期会合を促進するか、あるいはサイレンシ ングを仲介するために補充された他の因子との会合を促進すると推測している。(An)
Role of Histone H3 Lysine 27 Methylation in X Inactivation
   Kathrin Plath, Jia Fang, Susanna K. Mlynarczyk-Evans, Ru Cao, Kathleen A. Worringer, Hengbin Wang, Cecile C. de la Cruz, Arie P. Otte, Barbara Panning, and Yi Zhang
p. 131-135.

読み取り遮断の対応(Coping with Reader's Block)

メッセンジャーRNA(mRNA)分子は、核酸配列の形で情報を運ぶが、リボゾームはこの情報 を読み取り、タンパク質を作成する。はっきりした開始と終止のシグナルはあるが、もし 終止シグナルのない欠損のmRNAをリボゾームがよみとろうとするとどうなるであろうか? Valleたち(p. 127;Mooreたちによる展望記事参照)は、低温電子顕微鏡観察を用い、リボ ゾームの救命因子の活動を観察していた。まずtmRNAは、リボゾームに転移RNA(tRNA)様な 領域をリボゾームに挿入する。それから、tmRNAが自分のmRNA様な読み枠に切り換える 。これによって、静止したリボゾームを開放することだけではなく、欠損のタンパク質に 短いペプチドを添加することでタンパク質を分解標的とする。(An)
STRUCTURAL BIOLOGY:
A Glimpse into tmRNA-Mediated Ribosome Rescue

   Sean D. Moore, Kathleen E. McGinness, and Robert T. Sauer
p. 72-73.
Visualizing tmRNA Entry into a Stalled Ribosome
   Mikel Valle, Reynald Gillet, Sukhjit Kaur, Anke Henne, V. Ramakrishnan, and Joachim Frank
p. 127-130.

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