AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 7, 2003, Vol.299


せっかちな地震(Impatient Earthquakes)

1992年のLanders地震や1999年のIzmit地震のような最近の幾つか大規模な地震は、断層に 沿ったねじれ波(S波:shear wave)速度よりも早い破壊伝播速度(rupture velocity)になる 、super-shearの存在を示している。Dunhamたち(p.1557)は、矩形の断層面付近の3次元媒 質における動弾性波伝播(elastodynamic wave propagation)の数値モデルを発展させてき た。彼らは、断層の強度が高いセクションは、S波よりも速い速度(super-shearの速度)で 破壊を進めることができることを発見した。硬い地殻壁(crustal barriers)は、破断の伝 播を止めるのではなくむしろ、より強い地面の動きを作り出すかもしれない。(TO,Nk)
A Supershear Transition Mechanism for Cracks
   Eric M. Dunham, Pascal Favreau, and J. M. Carlson
p. 1557-1559.

運動する木星(Jupiter in Motion)

Porco たち (p.1541; 表紙と Esposito による展望記事を参照のこと) による、木星へ飛 行した Cassini 宇宙探索機からの画像解析により、木星系の力学と複雑さに関する理解 はより精密なものとなった。木星大気中では、帯状流は安定で、渦は長い寿命を有する 。そして、対流モデルにより嵐や稲妻が観測されることを説明できる。大赤斑や極光の進 化と起源は、詳細に明らかにされた。木星により遮蔽されつつあるガリレオ衛星の時系列 像から、大気からの輻射が記録された。それらは、火山活動の活発な Io 上では一価にイ オン化した酸素を、また、氷で覆われた Europa 上では中性酸素の存在を示唆している 。木星のかすかな環の像とともに、Himalia、Metis、Adrastea のようなより小さな衛星 の観測によると、その環は、主には衛星から放出された衝突の破片から進化したものであ ることを立証している。(Wt)
PLANETARY SCIENCE:
Cassini Imaging at Jupiter

   Larry Esposito
p. 1529-1530.
Cassini Imaging of Jupiter's Atmosphere, Satellites, and Rings
   Carolyn C. Porco, Robert A. West, Alfred McEwen, Anthony D. Del Genio, Andrew P. Ingersoll, Peter Thomas, Steve Squyres, Luke Dones, Carl D. Murray, Torrence V. Johnson, Joseph A. Burns, Andre Brahic, Gerhard Neukum, Joseph Veverka, John M. Barbara, Tilmann Denk, Michael Evans, Joseph J. Ferrier, Paul Geissler, Paul Helfenstein, Thomas Roatsch, Henry Throop, Matthew Tiscareno, and Ashwin R. Vasavada
p. 1541-1547.

シングルマザーを労働人口に変化させた社会福祉システムの変化(When Moms Move from Welfare to Work)

1990年代の米国で、数十万人ものシングルマザーを労働人口への変化を支援する社会福祉 の劇的な変化が起きた。この社会的変化の効果を研究するために、Chase-Lansdaleたちは (p. 1548)、1999年と2001年の2回、ボストン、シカゴとサンアントニオの2000以上の低 収入家族のインタビューを行った。彼等は、働く母親が就学前児童や10才から14才の子供 達の成長過程にマイナス効果を及ぼすような証拠を見つけることは出来なかった。むしろ 、母親が働くことにより子供達の精神的な健康、認知力の発達、飲酒や薬物使用の改善な どとの関連性が見られた。(Na)
Mothers' Transitions from Welfare to Work and the Well-Being of Preschoolers and Adolescents
   P. Lindsay Chase-Lansdale, Robert A. Moffitt, Brenda J. Lohman, Andrew J. Cherlin, Rebekah Levine Coley, Laura D. Pittman, Jennifer Roff, and Elizabeth Votruba-Drzal
p. 1548-1552.

粉々に吹き飛ぶ(Blasted to Bits)

炭化ホウ素(B4C)は極めて高硬度の物質であり、武器の表装処理に利用されて きた。これによってかなりの物質について、その衝突に耐えられるが、十分高速な発射物 体が衝突すると、炭化ホウ素は予想よりもずっと小さな剪断応力で破壊される。Chen た ち(p. 1563) は、強度低下が生じるのは粒子間の特定結晶方位に沿って生じるナノスケ ールのアモルファス領域が原因であることを実証した。破壊された跡には熔融された証拠 は見つからなかったことから、これらは固相で生じているらしい。(Ej,hE)
Shock-Induced Localized Amorphization in Boron Carbide
   Mingwei Chen, James W. McCauley, and Kevin J. Hemker
p. 1563-1566.

障害を溶かしている?(Melting Out the Stops?)

海の棚氷(iceshelves)の崩解(disintegration)は、確実に海水面が上昇する原因となる内 陸の氷床の崩壊(collapse)を促進するが、本当に棚氷が陸地から海への氷の流れを阻止し ているかどうかについて明らかではなかった。De Angelis とSkvarca(p.1560)は、南極北 東部の半島に位置するLarsen棚氷の崩解が、以前に速く流れていた複数の氷の支流におい て、活発な氷の前進運動を作り出していたことを報告する。この発見は、棚氷は内陸の氷 の挙動に影響を与えないとする最近の理論的な結果とは矛盾する。しかし、ゆっくりと移 動する山麓氷河やそこにある多くの小規模な氷河は影響を受けていない。(TO)
Glacier Surge After Ice Shelf Collapse
   Hernán De Angelis and Pedro Skvarca
p. 1560-1562.

宇宙のヘリウムバランス(Cosmic Helium Balance)

星の寿命はどのくらい長いのかは、それのヘリウム量を重元素量で割った値で評価するこ とができる。Jimenez たち (p.1552) は、K型矮星に関するHipparcos からの改良された スペクトルデータと精密化された進化モデルを用いて、宇宙における重元素に対するヘリ ウムの生成率を決定した。彼らの生成率は、星の年齢とともに原始宇宙における初期ヘリ ウム量の評価に用いることができる。その初期ヘリウム量は、最初の星の生成率と分布に 制約を与えるものである。(Wt、Nk)
The Cosmic Production of Helium
   Raul Jimenez, Chris Flynn, James MacDonald, and Brad K. Gibson
p. 1552-1555.

成層圏の硫酸塩(Stratospheric Sulfates)

成層圏での高濃度の硫酸塩エアロゾルは、H2SO4分子の SO2への光分解に起因するものと信じられているが、しかしながらこの反応に 対する吸収断面積の推定値は非常に小さく、硫酸塩が存続できる反応経路とはなりえない ことを示している。Vaidaたち(p. 1566)はH2SO4の吸収断面積に 関する量子力学的計算(ab initio method)に基づいて、この分子の倍音振動励起による硫 酸分解への光化学反応機構を提案している。この方法から彼らが決定した吸収断面積はか なり大きな値となり、成層圏で観測されたSO2と硫酸塩エアロゾルの濃度が説 明できる。(KU)
Photolysis of Sulfuric Acid Vapor by Visible Solar Radiation
   V. Vaida, H. G. Kjaergaard, P. E. Hintze, and D. J. Donaldson
p. 1566-1568.

リスの追跡(Tracking Squirrels)

リスはほとんど世界中に分布している小型哺乳類であるため、生物の環境歴史を計る優れ た指標と思われる。Mercer と Roth (p. 1568) はリス科の包括的な、属レベルの分子的 系統発生を明らかにした。彼らは、リス属(Sciuridae)の分岐および多様化と、地質学的 記録に残されている多数の地質構造、海表面、古生物上のイベントの間に著しい経時的 、地理的対応が存在することを記述している。この発見によって、東南アジアや熱帯アメ リカのような複雑な生物地理学的歴史を有する新生代の環境の理解が深まるであろう 。(Ej,hE)
The Effects of Cenozoic Global Change on Squirrel Phylogeny
   John M. Mercer and V. Louise Roth
p. 1568-1572.

光を最大限に活用する(Making the Most of the Light)

植物は、変化する光の質への応答に際して、自分自身の光合成プロセスを、集光性複合体 のリン酸化状態の変化によって媒介される状態遷移を介して最適化する。Depegeたちはこ のたび、Clamydomomasにおけるこの調節性のリン酸化ステップに関与しているリン酸化酵 素を同定した(p. 1572; また、Allenによる展望記事参照のこと)。この核内遺伝子は、葉 緑体チラコイド内にあって、その相同物は他の植物ゲノムでも発見されている1つのタン パク質をコードしている。(KF)
BOTANY:
State Transitions--a Question of Balance

   John F. Allen
p. 1530-1532.
Role of Chloroplast Protein Kinase Stt7 in LHCII Phosphorylation and State Transition in Chlamydomonas
   Nathalie Depège, Stéphane Bellafiore, and Jean-David Rochaix
p. 1572-1575.

生得的免疫が重要である場合(When Innate Immunity Is Critical)

ウイルスが高等動物を感染する時、最初に生得的免疫応答に直面し、後により最適化した 適応応答に直面する。Karstたち(p 1575)は、ノーウォーク様カリチウイルス (Norwalk-like caliciviruses)が特に生得的免疫系の作用に感受的である証拠を提供して いる。このウイルスのクラスが流行性胃腸炎に関与し、公衆衛生に重大な影響を与えるの に、その影響がよく理解されていない。Norovirus属に属するネズミのウイルスは、1型イ ンターフェロン受容体と転写シグナルトランスデューサ活性化因子1(STAT 1)をコードす る生得的免疫応答遺伝子を欠乏したマウスに対して最も致死的であったことを発見した 。マウスのNorovirusモデルの紹介と、感染に応答する免疫応答の中では適応応答ではな くむしろ生得的応答が予想外にも厳しく要求されるという発見は、ヒトにおけるこのウイ ルスのクラスに対する研究と処置にもっと適切な方法を生み出すかもしれない。(An)
STAT1-Dependent Innate Immunity to a Norwalk-Like Virus
   Stephanie M. Karst, Christiane E. Wobus, Margarita Lay, John Davidson, and Herbert W. Virgin IV
p. 1575-1578.

視覚における変更遺伝子(Modifier_Gene in Sight)

一次先天性緑内障(PCG - Primary congenital glaucoma)は、幼児の失明を起こすため 、緑内障の中でも、最も悲惨な種類の一つである。PCG症例のほとんどは、CYP1B1という チトクロムp450タンパク質をコードする遺伝子の変異が原因となるが、この変異を持つ人 の全てに緑内障が発生するわけではない。ヒトの先天性緑内障に見られる眼球異常を示す CYP1B1欠失マウスを研究することによって、Libbyたち(p 1578; Alwardによる展望記事参 照)は、2つの異なっている緑内障マウスモデルにおいてチロシナーゼ遺伝子(Tyr)の存在 によって疾病表現型の重症度が減少し、またCYP1B1およびTyrの二重欠失マウスにLドーパ というチロシナーゼ産物を投与することによって重症度が減少したことを示した。(An)
BIOMEDICINE:
Enhanced: A New Angle on Ocular Development

   Wallace L. M. Alward
p. 1527-1528.
Modification of Ocular Defects in Mouse Developmental Glaucoma Models by Tyrosinase
   Richard T. Libby, Richard S. Smith, Olga V. Savinova, Adriana Zabaleta, Janice E. Martin, Frank J. Gonzalez, and Simon W. M. John
p. 1578-1581.

世界の胃から(Traveling on Our Stomachs)

ヒトの胃潰瘍および胃癌は、一般にHelicobacter pyloriというバクテリアにより引き起 こされ、このバクテリアは、ヒトとともに長い進化の歴史を有している。個体群遺伝学的 アプローチ(系統発生的アプローチではなく)を採用することにより、Falushたち(p. 1582;Sprattによる展望記事を参照)は、特異的なバクテリア個体群を同定し、そしてそ れぞれのバクテリア個体群に対して特定の単離菌を割り当てた。H. pyloriの個体群は 、特徴的な地理的分布を有している。これらの個体群の祖先の状態を再構築することによ り、 バクテリア単離菌の現在の分布を世界中のヒトの歴史上の移動との関係でマッピン グすることができる。(NF)
MICROBIOLOGY:
Stomachs Out of Africa

   Brian G. Spratt
p. 1528-1529.
Traces of Human Migrations in Helicobacter pylori Populations
   Daniel Falush, Thierry Wirth, Bodo Linz, Jonathan K. Pritchard, Matthew Stephens, Mark Kidd, Martin J. Blaser, David Y. Graham, Sylvie Vacher, Guillermo I. Perez-Perez, Yoshio Yamaoka, Francis Mégraud, Kristina Otto, Ulrike Reichard, Elena Katzowitsch, Xiaoyan Wang, Mark Achtman, and Sebastian Suerbaum
p. 1582-1585.

経験による裏付け(Guided by Experience)

ニューロン間の接触点であるシナプスは、2種類のインプットにより同時に刺激された後 により効果的に働く。この現象は、特定の種類の学習を裏打ちすると考えられている。組 織培養切片では、このような効率の向上は、あるタイプのグルタミン酸受容体、AMPA受容 体(AMPA-R)のシナプス中へのトラフィッキングの増大によるものである。この同一のメ カニズムが環境的インプットを受ける動物において機能するかどうかを試験するため 、Takahashiたち(p. 1585)は、ラットのバレル皮質中のニューロンに対して、組換え AMPA-RをSindbusウィルスベクターとともに注入した。彼らは、急速な経験-依存的成長を 示す期間の直後である生後15日に、バレル皮質中の正常なシナプスを、動物の顔面のヒゲ が存在する領域に対応するシナプスと比較した。無処置のヒゲを介する感覚的経験にさら されたシナプスは、AMPA-Rのトラフィッキングの増加を示したが、一方ヒゲからのインプ ットがないシナプスでは、増加しなかった。(NF)
Experience Strengthening Transmission by Driving AMPA Receptors into Synapses
   Takuya Takahashi, Karel Svoboda, and Roberto Malinow
p. 1585-1588.

動的に異なったもの(Dynamically Different)

化学反応を理解する伝統的な方法は、結合距離と結合角度に着目し、系の位置 エネルギーを極小にしていく経路を見出すことである。しかし、最近の研究で は、現実的な温度において、振動性および動力学的なエネルギーが十分大きな 役割を果たすことがあり、そうした固有反応座標系による反応経路が実際には 生じないことがあることが示唆されている。Ammalたちは、プロトン化ピナコ リルアルコール(Me3C-CHMe-OH2+)の脱水 反応を伴なう分子内転位に関する動力学シミュレーションを行なった(p.1555)。 反応の軌跡は、第三級カチオンを直接的に生成(協奏反応)する局所性極小経 路には従わず、代わりに、転位による第三級カチオン生成物を作る前に第二級 カチオンが生成される。メチル基の移動変化のこの性向が、動力学的な効果を 引き起こしたのである。それは、嵩高いオキシメチル基が移動し、その後に予 期される協奏反応経路を行なうという、似た反応である。(KF,KU)
Dynamics-Driven Reaction Pathway in an Intramolecular Rearrangement
   Salai Cheettu Ammal, Hiroshi Yamataka, Misako Aida, and Michel Dupuis
p. 1555-1557.

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