AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 3, 2003, Vol.299


短信(Brevia)

地表下の生き物(Subsurface Life) 海洋掘削プログラム(ODP: ocean drilling program)の目的は、海盆(ocean basins)の歴 史や海床下の地殻の全体的な性質ついて調べることである。Cowenたち(p.120)は、ODPの 孔の中に液体サンプリング装置を用いて、海底の土中の生物生息地域(sub-sea-floor habitat)を調査した。採取された液体は海水とは異なっており、極端に高濃度のアンモニ アや低濃度硫酸塩という生物活動を示す間接的な証拠と同様に、水-岩石の相互作用の証 拠を示している。その液体より分離されたDNAは、系統的に硫酸塩の還元者(sulfate reducers)やアンモニアの生成者(ammonia generators)と関連している、地表下の多様な 微生物(バクテリアや始原細菌の両方)の生態系を明らかにした。発見された有機化合物は 、周囲の堆積物から来たというよりもむしろ地表下に特有な部分である。そして有機物の 収支は有機地球化学的に見ると従属栄養的な微生物(heterotrophic microorganisms)説を 支持している。この地表下の生態系は、熱水噴出孔系の周囲で見つかる生物群とは異なっ ているように見える。(TO)
Fluids from Aging Ocean Crust That Support Microbial Life
   James P. Cowen, Stephen J. Giovannoni, Fabien Kenig, H. Paul Johnson, David Butterfield, Michael S. Rappé, Michael Hutnak, and Phyllis Lam
p. 120-123.

火炎により始動された超新星(Flame-Triggered Supernova)

タイプIa 超新星は、白色矮星の熱核反応爆発の暴走の結果である。Gamezo たち (p.77; Branch による展望記事を参照のこと) は、熱核反応火炎の 不均一な膨張により爆発が開始するという3次元モデルを開発した。そのモデルは、典型 的なタイプIa 超新星により開放される全運動エネルギーを説明できる。そして、その火 炎は不安定化した白色矮星の中心における爆発(デトネーション)を始動させるに違いない ことを示している。(Wt)
Thermonuclear Supernovae: Simulations of the Deflagration Stage and Their Implications
   Vadim N. Gamezo, Alexei M. Khokhlov, Elaine S. Oran, Almadena Y. Chtchelkanova, and Robert O. Rosenberg
p. 77-81.
ASTROPHYSICS:
When a White Dwarf Explodes

   David Branch
p. 53-54.

長寿命相互作用(Long-Lived Interactions)

沈み込み現象は、地球の地殻に存在しやすいカリウムやバリウム(Ba)のような大きなイオ ンをマントルの中に輸送する有効な方法である。このマントルでは、高温・高圧により化 学反応と鉱物の相の構造的変換が発生する。Catlos と Sorensen (p.92) は、流体-岩石 の相互作用の時間的な広がりを評価するため、昔からある二つの沈み込み領域からの、雲 母グレーン中の明瞭にBaの豊富な領域の 40Ar-39Ar 年齢を測定した。結果は、流体-岩石 相互作用は、2500万年から6000万年の時間スケールに渡って沈み込み領域で発生している ことを示唆している。このように、鉱物の微視的な変化は、長期間にわたる地殻とマント ルの超巨視的な変化の追跡に用いることができる。(Wt)
Phengite-Based Chronology of K- and Ba-Rich Fluid Flow in Two Paleosubduction Zones
   E. J. Catlos and S. S. Sorensen
p. 92-95.

氷が溶け去っている(Melting Away)

南極大陸西部において氷床の退氷が最終氷期最盛期以来、現在も進行中らしい証拠がどん どん増えている。Stoneたち(p.99; Ackertによる展望記事参照)は、過去10000年間にわた って南極西部において広範囲の退氷が存在してきたことを示す地表露出の年代データを示 した。南極西部の氷床は、この時期に700メートル以上も薄くなり、その多くは最近数千 年間で薄くなっていた。こうした発見は、南極西部の退氷は北半球の氷床の消滅から 1000年間遅れているという説、そして南極は過去7000年間における海水面の変化を説明す るために必要な氷の融解水の少なくとも一部を供給しているという説を支持している 。(TO,Nk)
Holocene Deglaciation of Marie Byrd Land, West Antarctica
   John O. Stone, Gregory A. Balco, David E. Sugden, Marc W. Caffee, Louis C. Sass, III, Seth G. Cowdery, and Christine Siddoway
p. 99-102.
GLACIOLOGY:
An Ice Sheet Remembers

   Robert P. Ackert Jr.
p. 57-58.

より高次のダイアモンド構造を作る(Delineating Higher Diamondoids)

環を閉じたり籠を閉じたりすることは有機的合成におて常に挑戦的課題であり、そしてダ イアモンドを作り上げている炭素格子はそれら格子のサイズと対称性ゆえに特に困難な課 題である。しかしながら、このような化合物は石油中にあることが知られており、特にめ ずらしものでもない。これら最も単純な化合物であるアダマンタン (C10H16)、即ちトリシクロブタンのアミン誘導体は抗ウイルス特 性を持っている。アダマンテンは古くから合成されていたけれど、各々の高次のアダマン テンあるいは“ダイアモンド”は、まだまだ困難な合成のターゲットあるとして実験され てきた。Dahlたち(p. 96; Marchandによる展望を参照のこと)は今その原材料に立ちも どり、11個のアダマンタンユニットを含むC20以上の高次のダイアモンド構造 を持つ純粋な分画した。彼らはまたこれら[121312]ヘプタマンテンを含むいくつかの化合 物に対して結晶構造を確定した。(hk,KU)
Isolation and Structure of Higher Diamondoids, Nanometer-Sized Diamond Molecules
   J. E. Dahl, S. G. Liu, and R. M. K. Carlson
p. 96-99.
CHEMISTRY:
Diamondoid Hydrocarbons--Delving into Nature's Bounty

   Alan P. Marchand
p. 52-53.

酸化銅中の対構造(Pairing Up in Cuprates)

十分大きな磁場が印加された状態では金属中の超伝導状態は抑圧される。酸化銅 (Cuprate)はII型超伝導の代表的物質であるが、II型(第2種)超伝導においては、臨界磁 場Hc2によって、形成されるコヒーレント長(銅対のサイズ)が決まり、対形 成ポテンシャルが決まる。つまり、c2が大きいほど対ポテンシャルは強く 、かつ、コヒーレント長は小さくなる。Wang たち(p. 86)は、2種類のビスマス系高温超 伝導の上限臨界場について研究し、超伝導の開始によってホール濃度が増加し、対強度の 減少と超流動の増加のトレードオフとなることを示した。(Ej,hE)
Dependence of Upper Critical Field and Pairing Strength on Doping in Cuprates
   Yayu Wang, S. Ono, Y. Onose, G. Gu, Yoichi Ando, Y. Tokura, S. Uchida, and N. P. Ong
p. 86-89.

オランウータンの文化(Orangutan Culture)

文化を持っているということは、社会的に伝えられてきた行動に関して地理的な差異を持 つことであり、人間以外の動物では唯一チンパンジーにおいてのみ存在することが示され ている。Van Schaikたち(p.102;Vogelによるニュース解説参照)は、ボルネオとスマ トラでの6つの野生集団の研究に基づいてオランウータンの文化的変化を立証している 。木の葉をナプキンとして利用したり、或いは棒を用いてかき集めたりといった道具の利 用を含んだ挙動に関して地理的な差異を示しており、このような行動変化が社会的に伝え られてきたものとするとうなずけるようなパターンを持っている。人に類似な文化は今ま で推定されたよりも更に古く、少なくとも1400万年前(チンパンジーとオランウータンの 祖先が分岐したその時代)に遡ると著者たちは結論づけた。(KU)
Orangutan Cultures and the Evolution of Material Culture
   Carel P. van Schaik, Marc Ancrenaz, Gwendolyn Borgen, Birute Galdikas, Cheryl D. Knott, Ian Singleton, Akira Suzuki, Sri Suci Utami, and Michelle Merrill
p. 102-105.
ANIMAL BEHAVIOR:
Orangutans, Like Chimps, Heed the Cultural Call of the Collective

   Gretchen Vogel
p. 27-28.

家庭ほどいい場所はない(There’s No Place Like Home)

殆んどの海洋魚は幼生を産み、何日間も、何週間も、更に何ヶ月も費やして水流にまかせ て成長する。この漂流期間中に幼生はホームから離れてどれだけ遠くに旅しているのだろ うか?TaylorとHellberg(p.107;PalumbiとWarnerによる展望記事参照)は、カリブ海のサ ンゴ礁に棲む魚の幼生期間の直接的な測定と集団の分化に関する遺伝的推定とを組み合わ せて、海洋生物集団はその長い遠洋での幼生期間にもかかわらず、数万世代にわたって個 体数数統計的には閉じた状態を維持していることを示した。彼らのデーターは、更に近縁 交配が種種に色づいた集団の遺伝的分化を高めている可能性を示唆しており、このことは サンゴ礁で見られる明彩色魚の高度の多様性をもある面では説明するものであろう。(KU)
Genetic Evidence for Local Retention of Pelagic Larvae in a Caribbean Reef Fish
   Michael S. Taylor and Michael E. Hellberg
p. 107-109.
ECOLOGY:
Enhanced: Why Gobies Are Like Hobbits

   Stephen R. Palumbi and Robert R. Warner
p. 51-52.

注視と活性(Attention and Activity)

視野に写っているものの中から1つだけを注視するという能力は、引き続いて情報処理を 行う上で大切であるばかりか、これが無いと命取りになることがある。Bisley と Goldberg (p. 81;Yantisによる展望記事も参照)は、サルの脳(側頭頂間領域;lateral intraparietal area = LIP)の電気生理学的研究によって、ニューロンの活性は、識別課 題達成中の動物の注視と相関していることが分かった。 LIPのニューロンの活性の個々の 発火現象を観察するのではなく、全体としてみると、サルの注視の空間的座位の存在が最 もうまく説明できる。(Ej,hE)
Neuronal Activity in the Lateral Intraparietal Area and Spatial Attention
   James W. Bisley and Michael E. Goldberg
p. 81-86.
NEUROSCIENCE:
To See Is to Attend

   Steven Yantis
p. 54-56.

互いに粘着(Sticking Up for One Another)

もしも利他主義対立遺伝子が自分の近親を助けることによって自己のコピー作成を有利に 運ぶのならば、種の選択は生殖の利他主義に有利となりうる。一方、“緑髭 ”(green-beard)特性は、対立遺伝子を有する仲間の生物により容易に認識され、そし て関心のある個体の近親性にかかわらず、他の対立遺伝子よりもこの対立遺伝子を好む特 性であり、すなわち自己を直接認識し、自己をコピーするように働くという選択的な扱い を生み出すという特性である。このような利他行動を導き出す緑髭特性(緑髭効果)は複 雑過ぎて一つの遺伝子だけで実行するのは難しいと一般に考えられてきた。Quellerたち (p. 105;CrespiとSpringerによる展望記事を参照)はこのたび、社会性アメーバ Dictyostelium discoideumにおいて、一つの遺伝子が緑髭特性として働く例を見出した 。接触部位A(contact site A;csA)遺伝子は、細胞接着に関与する細胞膜タンパク質 (gp80)をコードする。粘菌アメーバが集合して子実体を形成する際に、野生型gp80を有 する細胞による“ホモフィリック”な認識が増進される。すなわち、gp80タンパク質を有 する野生型細胞は、互いに選択的に集合することを示す。(NF)
Single-Gene Greenbeard Effects in the Social Amoeba Dictyostelium discoideum
   David C. Queller, Eleonora Ponte, Salvatore Bozzaro, and Joan E. Strassmann
p. 105-106.
ECOLOGY:
Social Slime Molds Meet Their Match

   Bernard Crespi and Stevan Springer
p. 56-57.

母は何でも嗅ぎ付ける(Mother Nose Best)

嗅覚ニューロン数の変化、すなわち、神経芽細胞の嗅球への移動によって、臭いの識別能 力や臭いに関する記憶確定に影響が出る。メスのマウスを使った実験によってShingoたち (p. 117; Barinagaによるニュースも記事参照) は、プロラクチンホルモンが嗅細胞前駆 体の産生を増加させることを見つけた。このプロラクチンによる変化は妊娠中と交尾の後 に顕著であった。臭いの識別能力は交尾相手や仔を認識するのに役立っている。(Ej,hE)
Pregnancy-Stimulated Neurogenesis in the Adult Female Forebrain Mediated by Prolactin
   Tetsuro Shingo, Christopher Gregg, Emeka Enwere, Hirokazu Fujikawa, Rozina Hassam, Colleen Geary, James C. Cross, and Samuel Weiss
p. 117-120.
DEVELOPMENTAL BIOLOGY:
Newborn Neurons Search for Meaning

   Marcia Barinaga
p. 32-34.

リモデリングのシグナル(A Signal for Remodeling)

真核細胞において、DNAは、転写因子による接近を容易にするため、ヌクレオソームに巻 きついて、アデノシン三リン酸(ATP)-依存性クロマチンリモデリング複合体により形成 されるクロマチン構造を形成する。Shenたち(p. 112)およびStegerたち(p. 114)は両 方とも、クロマチンリモデリング複合体を、IP4、IP5、およびIP6といったイノシトール ポリホスフェートとして知られる小分子により制御することができ、セカンド-メッセン ジャーシグナル伝達と核活性との間のつながりをもたらすことを示す。(NF)
Modulation of ATP-Dependent Chromatin-Remodeling Complexes by Inositol Polyphosphates
   Xuetong Shen, Hua Xiao, Ryan Ranallo, Wei-Hua Wu, and Carl Wu
p. 112-114.
Regulation of Chromatin Remodeling by Inositol Polyphosphates
   David J. Steger, Elizabeth S. Haswell, Aimee L. Miller, Susan R. Wente, and Erin K. O'Shea
p. 114-116.

複雑な塑性流動(Complex Plastic Flow)

塑性流動において転位(dislocations)がいかにして凝集し、成長するかを理解することは 、材料科学においては、とくに金属疲労の解明にとって重要であり、地球科学においては 、地震のプロセスの解明のために重要である。WeissとMarsanは、粘塑性 (viscoplastic)流動状態にある単一氷結晶中の転位の位置を3次元でマップ化した(p. 89)。彼らの実験は、転位がフラクタル・パターンを示し、空間的、時間的に相関してい る、ということを示している。こうして彼らは、塑性流動が複雑、不均一かつ間欠性の現 象であり、特徴的な転位の雪崩れによって生じうることを確認したのである。(KF)
Three-Dimensional Mapping of Dislocation Avalanches: Clustering and Space/Time Coupling
   Jérôme Weiss and David Marsan
p. 89-92.

マメ科植物の長距離情報伝達(Long-Distance Legume Signaling)

植物の分裂組織は、幹細胞の貯蔵所としてはたらき、必要に応じて多様な器官や組織の発 生に寄与する。分裂組織の1つのタイプはマメ科植物の根に形成され、そこで、土壌中の 細菌からくる結節形成情報と相互作用して、窒素を固定する相利共生的な根粒を作り出す 。Searlesたちはこのたび、ダイズにおけるこうした原基中の細胞増殖が、その葉に発現 する受容体様のタンパク質リン酸化酵素、GmNARKによって制御されていることを発見した (p. 109)。GmNARKは、シロイヌナズナのシュート先端の分裂組織における細胞増殖を制御 し、そのシュートと花の発生に影響するCLAVATA1(CLV1)タンパク質に似ている。これら 2つのタンパク質が表す情報伝達系の興味深い違いは、CLV1がシュート先端の分裂組織内 という近距離ではたらくのに対し、GmNARKが葉から根に作用することである。ダイズには もう1つCLV1に似た遺伝子、GmCLV1があり、これはCLV1と同じように、シュートの頂端分 裂組織内で機能するものである。(KF)
Long-Distance Signaling in Nodulation Directed by a CLAVATA1-Like Receptor Kinase
   Iain R. Searle, Artem E. Men, Titeki S. Laniya, Diana M. Buzas, Inaki Iturbe-Ormaetxe, Bernard J. Carroll, and Peter M. Gresshoff
p. 109-112.

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