AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 13, 2002, Vol.298


短信(Brevia)

緑藻類Apicoplastの祖先(A Green Algal Apicoplast Ancestor) Apicoplastは、マラリアの寄生虫やその親戚の細胞小器官であるが、これはFunesたち(p. 2155)によって緑藻類の2次内部共生に起源をもち、その後、宿主の核に外側遺伝子導入 されたものであることが示された。(Ej,hE)
A Green Algal Apicoplast Ancestor
   Soledad Funes, Edgar Davidson, Adrián Reyes-Prieto, Susana Magallón, Pascal Herion, Michael P. King, and Diego González-Halphen
p. 2155.

衝突の手がかりをたずねて(On the Trail of an Impact)

爆発流星(bolide)が衝突したエネルギーの大きさは地球表面に残されたり、あるいは、埋 没したクレーターから推測されるだけではなく、遠くに飛び散った放出堆積物からも推測 可能である。Walkdenたち(p. 2185)はイギリス南西部の三畳紀の放出堆積物を見つけ、こ れがカナダ東北部のManicouaganクレーター(約2000キロメートルの距離)から飛来した もので、地球規模の影響を表しているのではないかと推測した。今後の研究で2億1400万 年前の放出物であることが確認されれば、これは2億2百万年前の種絶滅である三畳紀-ジ ュラ紀境界の直前のできごとと言うことになる。(Ej,Tk)
A Late Triassic Impact Ejecta Layer in Southwestern Britain
   Gordon Walkden, Julian Parker, and Simon Kelley
p. 2185-2188.

短寿命の太陽系トレイサー(Short-Lived Solar System Tracers)

初期太陽系中に存在していた短寿命の放射性核種は、現在はすでに消衰しているが、それ らの存在量は原始的な隕石中の鉱物中に残存している崩壊物質から推定することができる 。Marhas たち (p.2182) は、Murchison 隕石中のヒボナイトのグレイン中に、ベリリウ ム-10 の証拠を見い出したが、アルミニウム-26 およぴカルシウム-41 の証拠は見いだし 得なかった。10Be は、若い太陽からの輻射によってのみ生成されたものであ り、それゆえ、26Al と 41Ca が存在しないことは、他の隕石粒 にて見出されているこれら二つの核種は、原始太陽系星雲の外部にある星を源とする全く 異なる起源に由来するものであること示唆している。この源は、太陽系形成の引き金とな った可能性がある。(Wt,Tk,Nk)
Short-Lived Nuclides in Hibonite Grains from Murchison: Evidence for Solar System Evolution
   K. K. Marhas, J. N. Goswami, and A. M. Davis
p. 2182-2185.

増加する流量(Growing Flow)

ユーラシアからの河川流出量の大きな変化は北大西洋の深海形成に影響を与え、海洋の熱 塩(thermohaline)循環と地球規模での気候に影響を与える。Petersonたち(p. 2171;Stokstadによるニュース記事参照)は、1936年に比べ7%、ユーラシアから北極海への 河川流出量の増加を示す観測結果を報告している。この流出量の増加は、北大西洋振動や 大規模な大気変動と同じ様に地球規模での温暖化や地域的温暖化と相関している。この流 出量の増加が、予測されているような温度トレンドに従って継続するとすれば(気候変化 に関する政府間パネルの予測のような)、流出量は極めて大きくなり、今世紀末には北大 西洋の熱塩循環に影響を与えるであろう。(KU,Nk)
CLIMATE:
River Flow Could Derail Crucial Ocean Current

   Erik Stokstad
p. 2110.
Increasing River Discharge to the Arctic Ocean
   Bruce J. Peterson, Robert M. Holmes, James W. McClelland, Charles J. Vörösmarty, Richard B. Lammers, Alexander I. Shiklomanov, Igor A. Shiklomanov, and Stefan Rahmstorf
p. 2171-2173.

フェルミオンの超流動体?(A Superfluid of Fermions?)

強く相互作用している原子の凝縮クラウドからフェルミオンの超流動体を作ることは、極 低温気体における主要な関心事のひとつである。しかしながら、ボソンから形成される超 流動体を作る経路と同じ経路でフェルミオンからなるその超流動体に到達することは、こ れまで成功しなかった。光学トラップに閉じ込められた上向きスピンと下向きスピンを持 つリチウム-6 原子の混合物を用いて、O'Hara たち (p.2179; Pitaevskii と Stringari による展望記事を参照のこと) は、それのトラップから開放された後に原子クラウドが非 等方に膨張することを観測した。これは、超流動相開始のシグナルである可能性がある 。(Wt)
ULTRACOLD MATTER:
The Quest for Superfluidity in Fermi Gases

   Lev Pitaevskii and Sandro Stringari
p. 2144-2146.
Observation of a Strongly Interacting Degenerate Fermi Gas of Atoms
   K. M. O'Hara, S. L. Hemmer, M. E. Gehm, S. R. Granade, and J. E. Thomas
p. 2179-2182.

脊椎動物の起源に関するゲノムでの手掛かり(Genomic Clues into Chordate Origins)

発生学において広く研究されている無脊椎の脊索動物であるホヤのCiona intestinalisは 、後生動物と脊索動物の系統発生樹における重要なる分岐点を占めている。Dehalたち(p. 2157;表紙とpennisiによるニュース解説参照)は、Ciona intestinalisのドラフトゲノム 配列をつくり、その真性染色質領域を組み立てた。Cionaと同様のホヤ類は、脊椎動物の 系列において生じたゲノムスケールの膨張以前に明白に分岐したために、脊椎動物出現前 の脊索動物のゲノムを反映しているであろう。実際に、そのゲノムの多くは脊椎動物で見 いだされたものよりも無脊椎動物のタンパク質により強い類似性を示している。しかしな がら、Ciona遺伝子のほぼ六分の一は脊椎動物との対応遺伝子を持っている。加えるに 、セルロールの代謝に関与する遺伝子の存在で見られたような不思議な発見同様に Ciona-特異的遺伝子が同定された。(KU)
COMPARATIVE GENOMICS:
Tunicate Genome Shows a Little Backbone

   Elizabeth Pennisi
p. 2111-2112.
The Draft Genome of Ciona intestinalis: Insights into Chordate and Vertebrate Origins
   Paramvir Dehal, Yutaka Satou, Robert K. Campbell, Jarrod Chapman, Bernard Degnan, Anthony De Tomaso, Brad Davidson, Anna Di Gregorio, Maarten Gelpke, David M. Goodstein, Naoe Harafuji, Kenneth E. M. Hastings, Isaac Ho, Kohji Hotta, Wayne Huang, Takeshi Kawashima, Patrick Lemaire, Diego Martinez, Ian A. Meinertzhagen, Simona Necula, Masaru Nonaka, Nik Putnam, Sam Rash, Hidetoshi Saiga, Masanobu Satake, Astrid Terry, Lixy Yamada, Hong-Gang Wang, Satoko Awazu, Kaoru Azumi, Jeffrey Boore, Margherita Branno, Stephen Chin-bow, Rosaria DeSantis, Sharon Doyle, Pilar Francino, David N. Keys, Shinobu Haga, Hiroko Hayashi, Kyosuke Hino, Kaoru S. Imai, Kazuo Inaba, Shungo Kano, Kenji Kobayashi, Mari Kobayashi, Byung-In Lee, Kazuhiro W. Makabe, Chitra Manohar, Giorgio Matassi, Monica Medina, Yasuaki Mochizuki, Steve Mount, Tomomi Morishita, Sachiko Miura, Akie Nakayama, Satoko Nishizaka, Hisayo Nomoto, Fumiko Ohta, Kazuko Oishi, Isidore Rigoutsos, Masako Sano, Akane Sasaki, Yasunori Sasakura, Eiichi Shoguchi, Tadasu Shin-i, Antoinetta Spagnuolo, Didier Stainier, Miho M. Suzuki, Olivier Tassy, Naohito Takatori, Miki Tokuoka, Kasumi Yagi, Fumiko Yoshizaki, Shuichi Wada, Cindy Zhang, P. Douglas Hyatt, Frank Larimer, Chris Detter, Norman Doggett, Tijana Glavina, Trevor Hawkins, Paul Richardson, Susan Lucas, Yuji Kohara, Michael Levine, Nori Satoh, and Daniel S. Rokhsar
p. 2157-2167.

暴風雨気象(Stormy Weather)

全世界的気象モデルによれば、さらに極端な降雨量パターン(extreme precipitation patterns)に移行することを予測している。増大する暴風雨の変動がどのように草地生態 系(grassland ecosystem ecosystem)に影響を与えるかを理解する研究の中で、Knappたち (p.2202)は4年間にわたるフィールド調査を行い、そこで全降雨量を変えることなく、増 加する季節降雨量の変動を実験的に操作した。さらに極端な暴風雨パターンは、植物の種 の多様性を高めたが、優占植物品種(dominant plant forms)における水ストレスを増やし 、そして繁殖性や土壌CO2流量を減少することにより全体的な炭素サイクルが影響を受け た。(TO)
Rainfall Variability, Carbon Cycling, and Plant Species Diversity in a Mesic Grassland
   Alan K. Knapp, Philip A. Fay, John M. Blair, Scott L. Collins, Melinda D. Smith, Jonathan D. Carlisle, Christopher W. Harper, Brett T. Danner, Michelle S. Lett, and James K. McCarron
p. 2202-2205.

ゲームをする鳥(Game Birds)

繰り返し囚人ジレンマ(Iterated Prisoner's Dilemma)のゲームにおいて、短い目で見る と間近の報酬を選択して裏切るプレーヤーの方が良い目を見るが、長い目で見ると、より 協調的なプレーヤーの方が得をする。個人間での相互利益を組み込んだこのゲームを繰り 返すことで、無限に協調を持続させた方が有利であるという結論に導ける。しかし、遅延 割引(もし遅れると大きな報酬の価値が下がる)は、ヒト以外の動物においては協調するこ とを抑制するかもしれないと示唆されてきた。Stephensたち(p.2216; Mesterton-Gibbons とAdamsによる展望記事参照)は、実験的な研究により、アオカケスの対に対して、直ぐに 与える食べ物の報酬と、鳥には見ることが出来るが、何回かプレーするまで与えられない 報酬とを、同様に与えた。すると、アオカケスの間での安定した協調が見られ、割引が少 ない時や対戦者が相互利益戦略を採用した時に有利であった。(TO)
BEHAVIORAL ECOLOGY:
The Economics of Animal Cooperation

   Michael Mesterton-Gibbons and Eldridge S. Adams
p. 2146-2147.
Discounting and Reciprocity in an Iterated Prisoner's Dilemma
   D. W. Stephens, C. M. McLinn, and J. R. Stevens
p. 2216-2218.

脳の中の音楽(Music in the Brain)

音楽はあらゆる文化に存在するが、その多様性はきわめて大きい。認知科学では、訓練を 受けてない人でも、特異的な音楽構造が存在することを見つけている。ドーナツの表面に 音程を対応させると、長調と短調はドーナツ表面を取り巻く曲線で表すことができ、この 2つは互いに隣り合う形でドーナツ形状の表面を取り巻いている。メロディーを聞かせた とき、正しくない音符を見つけることを指示された試聴者の脳の活性と幾何学的位置の相 関は定説があるのだろうか?機能的磁気共鳴映像による研究で、Janataたち(p. 2167; Zatorre and Krumhanslによる展望記事も参照)は、色々な試聴実験を通じて、前頭葉前 部皮質のrostromedial 領域内で一貫した活性があることを見つけた。音程の違いは試聴 実験を通じて構造化されており、異なる部分領域は、ドーナツ形状の異なる音程表面を表 している。しかし、この構造は試聴や課題によって変化している。この動的組織化は音楽 構造の相対性を反映しているのかも知れない。そして、rostromedial前頭葉前部皮質での 表現は、異なる試聴実験の短期記憶相互作用だけでなく長期記憶相互作用の影響も受けて いるものと思われる。(Ej,hE)
NEUROSCIENCE:
Mental Models and Musical Minds

   Robert J. Zatorre and Carol L. Krumhansl
p. 2138-2139.
The Cortical Topography of Tonal Structures Underlying Western Music
   Petr Janata, Jeffrey L. Birk, John D. Van Horn, Marc Leman, Barbara Tillmann, and Jamshed J. Bharucha
p. 2167-2170.

酔いも覚める結果(Sobering Results)

アルコール酔いが、行為の速度低下および知覚判断の低下に加えて、ヒトの精神運動性活 動をどのように低下させているのか?脳波(EEG)の組み合わせおよび行動的研究により 、Ridderinkhofたち(p. 2209)は、活動モニタリングに決定的に関与する脳の領域であ る前頭帯状皮質(ACC)が、ほとんどの国における法的な自動車運転時の限界よりもずっ と少ない量のアルコールに対してさえも、機能低下の徴候を示すことを見出した。アルコ ールを摂取した被検体は、EEGシグナルの顕著な変化ならびに行動中の誤りの後の調整の 減退を示した。このように、アルコールは、認識調節の重要な構成部分を妨害している 。このことから、アルコールの影響下にある人々が、行動能力が低下していることを認識 できず、そしてそのような行動をしつこく繰り返す理由を説明するかもしれない。(NF)
Alcohol Consumption Impairs Detection of Performance Errors in Mediofrontal Cortex
   K. Richard Ridderinkhof, Yolande de Vlugt, Aldo Bramlage, Marcus Spaan, Martin Elton, Jan Snel, and Guido P. H. Band
p. 2209-2211.

傷心を癒す(Overcoming a Broken Heart)

ほ乳動物の心臓の損傷は、損傷を受けた心筋の再生を引き起こさず、線維性瘢痕形成を引 き起こす。Possたち(p. 2188;ScottとStainierによる展望記事を参照)は、ゼブラフィ ッシュの心臓が、まったく異なる様式で反応することを示す。心室の20%を外科的に除去 した後2ヵ月後に、ゼブラフィッシュの心臓は完全に回復したことが示され、これは一見 すると心筋細胞が活発に分裂したことによるようである。このように、ゼブラフィッシュ が、心筋再生の隠された分子メカニズムの詳細な遺伝子的解析を行う上で貴重なモデルシ ステムであることを示すことができる。(NF)
DEVELOPMENT:
Fishing Out a New Heart

   Ian C. Scott and Didier Y. R. Stainier
p. 2141-2142.
Heart Regeneration in Zebrafish
   Kenneth D. Poss, Lindsay G. Wilson, and Mark T. Keating
p. 2188-2190.

曇った朝に起きる(Waking Up on a Cloudy Morning)

哺乳類の概日時計を同期化する重大な要因として、いくつかの光受容器が提案されたが 、最も有利と思われるのは特定化した網膜神経節細胞におけるメラノプシン (melanopsin)である。メラノプシンの機能的な関連性を検査するために、Rubyたち(p 2211)とPandaたち(p 2213)がメラノプシン遺伝子が除去されたマウスを検査した結果は 、光が概日時計を同調化することはできるが、普段より効率が落ちたことであった。しか し低レベル光の場合には、メラノプシンのないマウスでは光が概日時計を同調化できなか った。従って、メラノプシンは唯一の同調化できる光受容器ではないが、低レベル光の同 調化の確保に特定化した光受容器のようである。(An)
Melanopsin (Opn4) Requirement for Normal Light-Induced Circadian Phase Shifting
   Satchidananda Panda, Trey K. Sato, Ana Maria Castrucci, Mark D. Rollag, Willem J. DeGrip, John B. Hogenesch, Ignacio Provencio, and Steve A. Kay
p. 2213-2216.
Role of Melanopsin in Circadian Responses to Light
   Norman F. Ruby, Thomas J. Brennan, Xinmin Xie, Vinh Cao, Paul Franken, H. Craig Heller, and Bruce F. O'Hara
p. 2211-2213.

抗体生成のための記憶補助(Aide-Memoire for Antibody Production)

感染排除の数年後にも、記憶リンパ球がまだ残っているのはなぜだろうか?B細胞の場合 には、抗原が何とかして存続するという説、または、B細胞が刺激が不要な長寿命の抗体 分泌形質細胞として発生するという説があった。Bernasconiたち(p. 2199)は、この説の 中間に当たる機構の証拠を提供している。この機構は、一つの病原体の抗原に限られてい ない非特異的刺激がB細胞の連続抗体生成を刺激するというものである。培養において 、ナイーブではないヒトの記憶B細胞は、DNAのCpG配列に応じて活発に分裂した。CpG配列 は、生得的免疫細胞への強力な信号である。T細胞サイトカインであるインターロイキン 15は、同様な応答を誘起したが、CpGのようにB細胞が形質細胞になることを誘発すること もできた。10年前以上にワクチンを受けた人における抗原特異性血漿B細胞の頻度と循環 抗体のレベルは、この実験から得た予想と一致した。(An)
Maintenance of Serological Memory by Polyclonal Activation of Human Memory B Cells
   Nadia L. Bernasconi, Elisabetta Traggiai, and Antonio Lanzavecchia
p. 2199-2202.

土壌の温度が上がると温暖化は緩和される(Warming Up, Cooling Down)

温暖な気候は植物の生長と炭素の貯蔵を刺激し、その結果空気中のCO2を取り 除くが、同時に土中の有機物の腐敗を促進し、大気中のCO2が増加させる可能 性がある。Melliloたちは(p. 2173)、マサチューセッツ州中緯度地方の土壌温度上昇の影 響を調査した。彼等は、より高い温度はより急速な有機物の腐敗を引き起こすが、植物へ の窒素供給量も増加し、生態系への炭素貯蔵量も増加させ、植物の生長は窒素量により制 限されるることを発見した。それゆえ、ある地域では温暖化は炭素貯蔵を増加させ、さら なる温暖化を妨げることもありうる。(Na)
Soil Warming and Carbon-Cycle Feedbacks to the Climate System
   J. M. Melillo, P. A. Steudler, J. D. Aber, K. Newkirk, H. Lux, F. P. Bowles, C. Catricala, A. Magill, T. Ahrens, and S. Morrisseau
p. 2173-2176.

ナノ金属の立方体(Metal Nanocubes)

金属のナノ粒子の形状制御は非常に困難な課題であった。SunとXia(p. 2176;Murphy による展望参照)は、丁度うまく覆うことができる配位子(the right capping ligand)を 用いて、ミニチュアのサイコロがつながったように見える、均一で大きさが制御可能な銀 のナノ立方体が成長することを見いだした。銀のナノ立方体は、均一な金のナノボックス を作るための犠牲鋳型として用いることも出来る。(KU)
MATERIALS SCIENCE:
Nanocubes and Nanoboxes

   Catherine J. Murphy
p. 2139-2141.
Shape-Controlled Synthesis of Gold and Silver Nanoparticles
   Yugang Sun and Younan Xia
p. 2176-2179.

エネルギーの坂を下って形状を作る(One Downhill Slide into Shape)

タンパク質が折り畳まれる(folding)ときのエネルギー曲面の理論によれば、全て単調下 降となる構造のタンパク質の折り畳みが存在する可能性がある。しかし、ほとんどの実験 では、タンパク質は、折り畳まれた状態から変性される(unfolding)とき、少なくとも1箇 所の自由エネルギー障壁を交差しなければならないことが示されている。Garcia-Miraた ち(p. 2191)は、実験的に単調下降したタンパク質を同定した。彼らはタンパク質の折り 畳みの異なる特徴を検出する複数の手法を用いて、大腸菌の2-oxoglutarate脱水素酵素多 酵素複合体(BBL)の末梢性サブユニット結合領域の変性をモニタリングした。BBLは低温で は定まった三次元構造を持つが、モニタリングする手法毎に異なった変性の遷移を示した 。これらのデータに統計メカニカルモデルによるグローバルなフィッティングを施した結 果、BBLが単調下降曲面をもつ折り畳みタンパク質であることが判明した。(Ej,hE)
Experimental Identification of Downhill Protein Folding
   Maria M. Garcia-Mira, Mourad Sadqi, Niels Fischer, Jose M. Sanchez-Ruiz, and Victor Muñoz
p. 2191-2195.

オゾンの消費(Ozone Consumption)

抗体は、体液免疫反応に際しての抗原結合における既知の役割に加えて、最近、一重項状 態の酸素(1O2*)による水の酸化において、触媒として働きうるこ とが明らかにされた。Wentworthたちは、この反応によって生成される過酸化水素が、殺 菌性活性にじゅうぶんなほどの量作り出されている、ということを確認した(p. 2195;ま たNathanによる展望記事および11月15日のMarxによるニュース記事参照のこと)。しかし 、さらに驚くべきことは、その反応から得られるもう1つの物質、つまり明らかにオゾン であるとみなせるものが、この作用を完了するために必要とされている、ということであ る。これと同じ物質は、ある抗体依存性の生体内モデルにおける炎症部位でも検出された 。抗体によって産み出される、オゾンなどのオキシダントは、このように、免疫防御に対 して、基本的な貢献をしている可能性がある。(KF)
IMMUNOLOGY:
Catalytic Antibody Bridges Innate and Adaptive Immunity

   Carl Nathan
p. 2143-2144.
Evidence for Antibody-Catalyzed Ozone Formation in Bacterial Killing and Inflammation
   Paul Wentworth Jr., Jonathan E. McDunn, Anita D. Wentworth, Cindy Takeuchi, Jorge Nieva, Teresa Jones, Cristina Bautista, Julie M. Ruedi, Abel Gutierrez, Kim D. Janda, Bernard M. Babior, Albert Eschenmoser, and Richard A. Lerner
p. 2195-2199.

スプライシングの複雑性(The Complexities of Splicing)

preメッセンジャーRNA(pre-mRNAs)のスプライシングによって、イントロン(非翻訳領域) の切除とエクソン(タンパク質コーディング配列)の接合が行なわれ、翻訳可能なmRNAが得 られることになる。この過程には、5つの大きなRNA-タンパク質複合体(U snRNPsと呼ばれ る)と、それに関連する多数の因子群とが必要である。Makarovたちは、2つの複合体を分 離した(p. 2205)。1つは、その反応の第1段階を実行する用意を整える新しい中間物で 、他方はポスト-スプライシングの再利用生成物(recycling product)であるらしい。彼ら はこれら複合体の特徴をを質量分析で明らかにし、タンパク質の補体を変えることで比較 分析を行なって、スプライセオソームにおける構造の組換えについての推論を導き出して いる。(KF)
Small Nuclear Ribonucleoprotein Remodeling During Catalytic Activation of the Spliceosome
   Evgeny M. Makarov, Olga V. Makarova, Henning Urlaub, Marc Gentzel, Cindy L. Will, Matthias Wilm, and Reinhard Lührmann
p. 2205-2208.

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