AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 25, 2002, Vol.298


短信(Brevia)

温度循環を伴うような温度活性型化学反応を実行するには、2つの異なる温度の平面には さまれた液体に生じる定常対流(すなわち、レーリー・ベナール対流)は理想的である。 Krishnan たち(p. 793)は、35 マイクロリットルのサイズのレーリー・ベナール対流装 置を作り、反応流体の小体積部分を下部の変性領域(95℃)から、上部のアニーリング領 域(約60℃〜70℃)の間を連続的に移動させ、連続的にDNAのポリメラーゼ連鎖反応を増幅 させることに成功した。(Ej,hE)
PCR in a Rayleigh-Bénard Convection Cell
   Madhavi Krishnan, Victor M. Ugaz, and Mark A. Burns
p. 793.

アルミと銅のせん断力の不思議(Shear Surprise)

あ金属の弾性モジュールはそのサンプルが変形する張力のことであり、一般的には耐せん 断力をあらわす指標である。しかしながらOgataたちの第一義的な計算によると(p. 807)、原子結合性が異なることにより、銅より低い弾性モジュールを持つアルミニウムが 、銅よりも高い張力で変形する、つまり、耐せん断力が大きいことを示している。外部圧 力は常識的には無視できるといわれていたが、外部圧力による金属の硬化や軟化も結晶の 方向に対する力の与え方によっては影響があることも示している。(Na)
Ideal Pure Shear Strength of Aluminum and Copper
   Shigenobu Ogata, Ju Li, and Sidney Yip
p. 807-811.

地中海の大気汚染(Mediterranean Air Pollution)

大規模国際観測活動の1つであるオキシダントに関する地中海地方の集中的研究 、MINOS、が2001年実施され、人類の活動が及ぼす降雨、生態系、農業、飲料水供給への環 境ストレスについて研究された。大気による化学輸送モデルシミュレーションで、夏季の 対流圏のオゾンは地中海全域で増加しており、エアロゾル粒子の増加は太陽光の地表への 照射を減少させ、その結果降雨を減らす効果があることが分かった。また、これが周辺地 域へ放散することで気候に影響を及ぼしていることも分かった。Lelieveldたち(p. 794)は、北部クレタ島の海岸観測所と2機の航空観測機の測定によって広範囲のガス、エ アロゾル、照射量、その他気象パラメータを観測し、地中海地方の低部対流圏の大気汚染 は、特に夏季において、大気の品質や気候に強い影響を及ばしていること、また、自由対 流圏の汚染は、多くの場合、時たま成層圏にまで達するアジアからの上部対流圏汚染の大 陸間輸送によって決定的影響を受けていると結論付けた。(Ej,hE)
Global Air Pollution Crossroads over the Mediterranean
   J. Lelieveld, H. Berresheim, S. Borrmann, P. J. Crutzen, F. J. Dentener, H. Fischer, J. Feichter, P. J. Flatau, J. Heland, R. Holzinger, R. Korrmann, M. G. Lawrence, Z. Levin, K. M. Markowicz, N. Mihalopoulos, A. Minikin, V. Ramanathan, M. de Reus, G. J. Roelofs, H. A. Scheeren, J. Sciare, H. Schlager, M. Schultz, P. Siegmund, B. Steil, E. G. Stephanou, P. Stier, M. Traub, C. Warneke, J. Williams, and H. Ziereis
p. 794-799.

亜マンガン酸塩内の磁気の進展(Magnetic Evolution in Manganites)

与えられた磁場に応答して物質の抵抗値が急激に落ちるという大磁気抵抗効果は、現在記 憶要素の応用として開発中である。このような物質は複雑な状態図を持っているにもかか わらず、その結果を説明するために磁気ドメインのドメイン生成、成長、浸出に基づく解 明が進んでいる。しかしながら、これまでこのような説明は間接的な実験に頼るしかなか った。磁力顕微鏡を用いて、Zhangたち(p. 805)は、上記のシナリオを証明する直接的な 証拠を示した。しかしながら彼らは驚いたことに磁気ドメインが遷移領域条件からはるか に大きい温度で進展していることを発見している。(hk)
Direct Observation of Percolation in a Manganite Thin Film
   Liuwan Zhang, Casey Israel, Amlan Biswas, R. L. Greene, and Alex de Lozanne
p. 805-807.

2次効果(Second Time Around)

揮発性有機化合物が気相反応によって光化学的オキシダントサイクルに関わると大気中に 2次の有機エアロゾル粒子が生成される。これらのエアロゾルは健康には潜在的に負の影 響を与え、視界を低下させるモヤの原因となり、地球の放射バランスに影響を与える 。Jangたち(p. 814)は、大気中の有機エアロゾルに酸性の表面層が出来ると、2次の有機 エアロゾルが大量に増加すると報告している。彼らの実験的観察から、硫酸のような無機 酸は、大気中の有機カルボニル種の粒子相における不均質反応を触媒することが確認され た。これらの反応によって2次的な有機エアロゾルの量が大きく増加し、粒子が古くなる につれて有機層が安定化する。これらの反応を考慮しない気候モデルはエアロゾルによる 強制放射を過少推定することになるであろう。(Ej,hE)
Heterogeneous Atmospheric Aerosol Production by Acid-Catalyzed Particle-Phase Reactions
   Myoseon Jang, Nadine M. Czoschke, Sangdon Lee, and Richard M. Kamens
p. 814-817.

自動監視(Robotic Eyes)

風塵は、世界中の大洋の多くの領域において生物生産の制限因子となる養分、たとえば鉄 分のような鉱物を運んでいる場合が多くある。Bishopたち(p.817)は、新世代の自動海洋 観測センサーによって得られた観測結果を示している。彼らは、3000個の数年間機能しつ づける自律プロファイリング浮き(autonomous profiling floats)を北太平洋に配備した 。それらは2001年の4月から5月にかけてゴビ砂漠から太平洋を越えて塵を吹き飛ばす暴風 雨の直前に一斉に機能し観測した。彼らは、アジアの風塵中の鉄や他の微量要素による高 養分-低植物プランクトン(chlorophyll)の海水の肥沃化に対する生物的反応(biotic response)を示している海面と深度1000メートルの間でバイオマス変動を観測結果を紹介 している。(TO)
Robotic Observations of Dust Storm Enhancement of Carbon Biomass in the North Pacific
   James K. B. Bishop, Russ E. Davis, and Jeffrey T. Sherman
p. 817-821.
52.

高地だったが乾燥していたわけではない(High But Not Dry)

Nunez たち(p. 821; Dillehayによる展望記事も参照)によると、14,600年前、最初の人類 が中南部チリに現れたが、そのすぐ北側の高度4000メートルのアタカマ砂漠に人類が現れ るのは更に2000年遅れ、その後断続的に人類の居住が見られた。これらの場所でのほとん どの定住化は13,000年前の時期に集中しており、これは気候が乾燥から湿潤になった時期 に合致する。この居住地は9500年前に放棄されているがこれは乾燥状態が戻った時期であ る。(Ej,hE)
ARCHAEOLOGY:
Climate and Human Migrations

   Tom D. Dillehay
p. 764-765.
Human Occupations and Climate Change in the Puna de Atacama, Chile
   Lautaro Núñez, Martin Grosjean, and Isabel Cartajena
p. 821-824.

転写ネットワークとネットワーク間の関係(Transcriptional Networks and Their Relatives)

生細胞は、何千もの遺伝子の転写の制御が関与する遺伝子発現プログラムの産物である 。Leeたち(p. 799)は、免疫沈降およびマイクロアレイの研究を使用して、酵母 (Saccharomyces cerevisiae)における転写制御ネットワークの全体的解析を行った。観 察されたパターンは、モチーフとして特徴づけられ、それらのモチーフはその後、自動的 なプロセスにより、ネットワーク構造中に組み合わされた。このような転写制御は、相互 作用のネットワークの典型を示しており、そして同様のネットワークは、食物網と電子回 路などの一見すると無関係なシステムの根底に存在する。それらの基本的な設計の特徴を 調べるため、Miloたち(p. 824;OltvaiおよびBarabasiによる展望記事を参照)は、ネッ トワークの局所的組織化原理を見て、異なる相互作用物質がどのように結合されるかにつ いてのモチーフとして表現したが、このモチーフはランダムな頻度以上で生じた。食物網 において共通に使用されているモチーフは、情報-プロセッシング回路中に類似性が見ら れたものの、酵母由来の転写ネットワークおよび大腸菌(Escherichia coli)由来の転写 ネットワークまたは電子回路において共通に使用されていない特徴を有した。(NF)
SYSTEMS BIOLOGY:
Life's Complexity Pyramid

   Zoltán N. Oltvai and Albert-László Barabási
p. 763-764.
Network Motifs: Simple Building Blocks of Complex Networks
   R. Milo, S. Shen-Orr, S. Itzkovitz, N. Kashtan, D. Chklovskii, and U. Alon
p. 824-827.
Transcriptional Regulatory Networks in Saccharomyces cerevisiae
   Tong Ihn Lee, Nicola J. Rinaldi, François Robert, Duncan T. Odom, Ziv Bar-Joseph, Georg K. Gerber, Nancy M. Hannett, Christopher T. Harbison, Craig M. Thompson, Itamar Simon, Julia Zeitlinger, Ezra G. Jennings, Heather L. Murray, D. Benjamin Gordon, Bing Ren, John J. Wyrick, Jean-Bosco Tagne, Thomas L. Volkert, Ernest Fraenkel, David K. Gifford, and Richard A. Young
p. 799-804.

指のプログラミング(Digital Programming)

指の重複(多指)は、転写因子Gli3を欠失したマウスにおいて見られ、そしてマウスにお いて、本来は後肢芽において産生されるSonic Hedgehog(Shh)を前肢芽において異所的 に発現することにより、過多な指を誘導することができる。Gli3変異表現型は、異所性 Shh発現により引き起こされると、以前には考えられた。マウスの遺伝学的解析および分 子的解析を使用することにより、te Welscherたち(p. 827)は、四肢のパターン化にお けるShhとGli3との相関的メカニズムを調べている。Shh機能が消去された場合、指は著し く短くなり、一方Gli3機能が失われると、多指が引き起こされた。ShhおよびGli3の両方 を欠損したマウス胚は、多指であった。指は、2種の全く異なるメカニズムにより形成す ることができ、そのメカニズムの一つはSHH依存的なメカニズムであり、そしてもう一つ はSHH非依存性なメカニズムである(GLI3変異が代表的である)。このように、SHHの主要 な機能は、GLI3の抑制的な活性をうち消すことである。(NF)
Progression of Vertebrate Limb Development Through SHH-Mediated Counteraction of GLI3
   Pascal te Welscher, Aimée Zuniga, Sanne Kuijper, Thijs Drenth, Hans J. Goedemans, Frits Meijlink, and Rolf Zeller
p. 827-830.

寿命と生殖(Live Long and Reproduce)

インシュリンと他のインシュリン様成長因子は、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ とforkhead転写因子を含む経路によって、シグナル伝達する。この経路は、多くの生物体 において寿命と生殖の重要な制御因子である。Dillinたち(p. 830)は、線虫 (C.elegans)において、この経路で寿命を制御することは成人期だけに行われるが、生殖 の制御は発生期だけに行われることを明確にした。従って、寿命を延長すると生殖能力が 縮まるという長年にわたる考え方はきっと間違っている。(An)
Timing Requirements for Insulin/IGF-1 Signaling in C. elegans
   Andrew Dillin, Douglas K. Crawford, and Cynthia Kenyon
p. 830-834.

ミオシンAとトキソプラズマ(Power Gliding)

トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)の病理発生におけるミオシンAという運動性タンパク 質の役割がMeissnerたち(p. 837)によって研究された。彼らは、寄生虫の浸潤と成長に必 要な遺伝子の変異の存在下で寄生虫伝搬の可能性を維持するために、標的タンパク質の発 現を制御した。マウスのモデルにおいてミオシンAは、宿主細胞への浸潤の動力に必要で あり、病原因子であることを確認した。(An)
Role of Toxoplasma gondii Myosin A in Powering Parasite Gliding and Host Cell Invasion
   Markus Meissner, Dirk Schlüter, and Dominique Soldati
p. 837-840.

合成ホルモンによる骨の強化(Strong Bones via Tailored Hormones)

最近発表されたホルモン補充療法の危険性の点から、骨粗しょう症に対する別の予防処置 への関心が高まっている。細胞培養に関する以前の研究から、エストロゲンとアンドロゲ ンが生殖器への影響を内在したDNA-媒介メカニズムとは異なるメカニズムにより骨を保護 していることを示していた。Kousteniたち(p. 843;Millerによるニュース解説参照)は 、この「非遺伝子的」効果を見倣った合成化合物(エストレン:estren)が、性殖器に悪影 響を及ぼすことなくエストロゲンやアンドロゲン欠乏マウスにおいて骨の重さを増加させ ることを示している。(KU)
ENDOCRINOLOGY:
Divorcing Estrogen's Bright and Dark Sides

   Greg Miller
p. 723-724.
Reversal of Bone Loss in Mice by Nongenotropic Signaling of Sex Steroids
   S. Kousteni, J.-R. Chen, T. Bellido, L. Han, A. A. Ali, C. A. O'Brien, L. Plotkin, Q. Fu, A. T. Mancino, Y. Wen, A. M. Vertino, C. C. Powers, S. A. Stewart, R. Ebert, A. M. Parfitt, R. S. Weinstein, R. L. Jilka, and S. C. Manolagas
p. 843-846.

発作のより穏やかな治療(A Gentler Treatment for Stroke)

N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体は発作に重要な役割を果たしているが、受容体 を単純にブロッキングする方法は多くの好ましからざる副作用をもたらす。Aartsたち(p. 846)はNMDA受容体をブロッキングすることなく、虚血性脳障害を治療する新たな方法を示 唆している。著者たちは、NMDA受容体とシナプス後の密度タンパク質(postsynaptic density protein)PSD-95との相互作用を支配している分子領域に結合するペプチドを合 成した。通常のシナプス活性とその後のシナプス後カルシウム流入は無傷のままであるが 、有害な下流への神経毒性情報伝達の事象は抑制されている。(KU)
Treatment of Ischemic Brain Damage by Perturbing NMDA Receptor- PSD-95 Protein Interactions
   Michelle Aarts, Yitao Liu, Lidong Liu, Shintaro Besshoh, Mark Arundine, James W. Gurd, Yu-Tian Wang, Michael W. Salter, and Michael Tymianski
p. 846-850.

熱を取る(Taking the Heat)

多くの工業的化学反応は、酸化物表面上の小さな金属粒子による触媒作用を利用している 。しばしば、これらの触媒は、焼結、すなわち、高温で小さな粒子が大きなものに凝集し ていくに従い、より不活性なものとなる。しかしながら、焼結を予測する理論モデルは 、経験的なものか、あるいは、粒子エネルギーの単純化したモデルに基づくものである 。Campbell たち (p.811) は、酸化マグネシウム上の鉛粒子に対する熱量の測定データを 用いて、金属ナノ粒子のエネルギーに対するモデルを展開した。そして、彼らはこのモデ ルを、イオン散乱実験で測定された、酸化チタン上の金のナノ粒子の分布を再現すること に適用した。このモデルは、持続触媒の長期間にわたる焼結速度の予測に有用あることが と判るであろう。(Wt)
The Effect of Size-Dependent Nanoparticle Energetics on Catalyst Sintering
   Charles T. Campbell, Stephen C. Parker, and David E. Starr
p. 811-814.

サイクリックAMP情報伝達のβ-アレスチン制御 (beta-Arrestin Regulation of Cyclic AMP Signaling)

多様な細胞内情報伝達の空間的・時間的な制御の様子を分子レベルで理解することによっ て、このプロセスが如何に密接な関連をもって制御されているかが明らかになった。例え ば、細胞内第二メッセンジャーのアデノシン3',5'一リン酸 (cAMP)は、あるGタンパク質共 役型受容体の活性化に応答して合成され、cAMP微小領域(microdomain)は、cAMPがホスホジ エステラーゼ (PDEs)によって分解される場所と速度に応じて生産される。活性化β2-ア ドレナリン受容体によって生産されるcAMPシグナルは、サイトゾル分子であるβ−アレス チンがこの受容体と会合して別のアゴニスト刺激を受けないように受容体を脱感作すると 無くなってしまう。Perryたち(p.834)は、β−アレスチンがcAMPの生産速度を鈍らせる だけでなく、細胞膜の活性化受容体にPDEsを集めることによってcAMPの分解を促進するこ とを報告する。この協調的な活性によって、細胞表面でのcAMP依存的活性の程度をβ−ア レスチンが制限できるのかも知れない。(hE)
Targeting of Cyclic AMP Degradation to beta_2-Adrenergic Receptors by beta-Arrestins
    Stephen J. Perry, George S. Baillie, Trudy A. Kohout, Ian McPhee, Maria M. Magiera, Kok Long Ang, William E. Miller, Alison J. McLean, Marco Conti, Miles D. Houslay, Robert J. Lefkowitz
p. 834-836.

2時間時計をめぐって(Winding a Two-Hour Clock)

脊椎動物の体軸の骨格と筋肉に見られる繰り返し構造は、中胚葉節の体節性構造に由来し ている。Hes1などのNotch情報伝達分子からなるメッセンジャーRNA(mRNA)が体節の分節化 の際に2時間周期で振動していることは明らかになっていた。しかし、そのような振動の 分子機構は、知られていないままであった。Hirataたちは、このたび、血清処置後の培養 された細胞内におけるHes1 mRNAとタンパク質の振動を記述している(p. 840)。この振動 は、Hes1タンパク質の合成と分解を必要とするものであり、Hes1タンパク質によるHes1 mRNA合成の負の自己調節に頼っている。つまり、この作用は、Hes1が2時間周期の時計遺 伝子を代表しているものであることを示すものである。さらに、Hes1振動は多くの細胞型 で生じるので、この時計は体節の分節化だけでなく、いくつかの生物学的過程にも関わっ ている可能性がある。(KF)
Oscillatory Expression of the bHLH Factor Hes1 Regulated by a Negative Feedback Loop
   Hiromi Hirata, Shigeki Yoshiura, Toshiyuki Ohtsuka, Yasumasa Bessho, Takahiro Harada, Kenichi Yoshikawa, and Ryoichiro Kageyama
p. 840-843.

癌治療への余地を拓く(Making Space for Cancer Therapy)

抗腫瘍性免疫を引き起こすには、腫瘍抗原の「ワクチン接種」によって生体内のTリンパ 球を刺激するか、あるいは患者に腫瘍特異的T細胞を移入するか、どちらかによる。都合 のよい抗腫瘍性応答を生み出す際の限界がどちらの場合にもあって、それは、腫瘍抗原に 対する免疫寛容が広まってしまっているのを克服できないか、あるいは養子移入されるリ ンパ球がうまく移植できないためである。Dudleyたちは、このたび、拡張された自家由来 の腫瘍-反応性T細胞の移入に骨髄非破壊的前処置(nonmyeloablative conditioning)を結 びつけることで、他のやり方では通常の治療法では不十分な応答しか得られなかった転移 性黒色腫の患者を処置した(p. 850; また、9月20日号のCouzinによるニュース記事参照の こと)。何人かの患者は、抗腫瘍性応答の臨床的な徴候を示し、2人は非常に有意な癌の退 行を示したが、これは強い腫瘍反応性のあるリンパ球の持続と関連していた。自家移植し た腫瘍-反応性T細胞を用いるに際しては、関連する自己免疫疾患を生じる可能性もあるの でいくらか注意が必要だが、この結果は、ある種の癌の治療への免疫療法の利用における 勇気を与えてくれる1つの進展を表すものである。(KF)
Cancer Regression and Autoimmunity in Patients After Clonal Repopulation with Antitumor Lymphocytes
   Mark E. Dudley, John R. Wunderlich, Paul F. Robbins, James C. Yang, Patrick Hwu, Douglas J. Schwartzentruber, Suzanne L. Topalian, Richard Sherry, Nicholas P. Restifo, Amy M. Hubicki, Michael R. Robinson, Mark Raffeld, Paul Duray, Claudia A. Seipp, Linda Rogers-Freezer, Kathleen E. Morton, Sharon A. Mavroukakis, Donald E. White, and Steven A. Rosenberg
p. 850-854.

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